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07

「それでなんの用なのだ?」

「え、顔が見たくなっただけだけど」


 この時点で目的は達成されているから玄関先で話すことにする。

 が、彼女は立ったまま呆れたといった感じの表情を浮かべていた。


「それならビデオ通話で良かっただろう」

「まあまあそう言わないで座ってよ」

「ここは私の家だが?」

「いいからほら」


 手を握って無理やり座らせる。

 そんなに身構えなくたって告白したりはしないから安心してほしい。


「はぁ……」

「ため息つかないでよ」

「いや、まさかここまで馬鹿だとは思わなかったのだ、本当に顔が見たいだけでわざわざ出てくるとは」

「しょうがないじゃん、直接話したくなったんだから」


 こちらの方が恋する乙女をやっていると思う。

 こういうのを彼女の方がやってくれたらめちゃくちゃ嬉しいだろうなと想像した。

 想像の中の彼女は実に柔らかい笑みを浮かべている、可愛らしく年相応のそれ。

 だいぶ僕の願望が詰め込まれている、けど犬夜くんの寝顔を見ていたときに浮かべた笑顔もあるからあまりに非現実的というわけでもない。


「……いつまで手を握っているつもりだ」

「帰るまでかな、嫌なら離すけど」

「癪だから離せ、かわりに私が握っておいてやる」

「それはなにか違うの?」


 僕としては嬉しさしかないけど。

 またこの前みたいになってくれないかなってわくわくしている。

 そうしたら今度こそ彼女をこちらに振り向かせられるようにもっと大胆にいくつもりだ。


「少し歩こう」

「わかった」


 それでも手繋ぎ状態は継続してくれた。

 彼女は歩くのが速いから結構合わせるのに苦労する――はずだったのに今日は比較的ゆっくりめにしてくれている。そのため、彼女との時間をゆっくり味わうことができそうだった。

 夜にこうして歩くのはあれ以来だからそわそわしているが、横を歩く彼女は至って平常でなにも起こりそうにない。まあこうして一緒にいられるだけで感謝しておけばいいだろう。


「犬夜の家の近くだな」

「寄っていく?」

「そうだな、それもいいかもしれない」


 寄ってみたら家の中に越智さんもいた。

 こちらを見て気まずそうな顔をしたから申し訳ないことをしたと思う。

 だから帰るって言ったらまさかの犬夜くんが付いてくるという結果に。


「今日は送らないのか?」

「泊まるんだよ」

「変なことするなよ」

「しない。それよりお前らの方が意外だな、こんな時間にふたりきりで」


 顔が見たかったから会いに行ったと説明したら笑われてしまった。

 やはりおかしな行為らしい、このことで彼女は責められないわけだ。


「犬夜くんはどうするの? 越智さんに告白されたんでしょ?」

「まだ保留中だ、だから一緒に過ごす時間を増やしている感じだな」

「すぐ受け入れるかと思ったけどね」

「簡単に決められるか、そんなの香のためにもならないだろ」


 越智さんを特別扱いしているわけじゃなくて来てくれる子全員に同じこと思っているんだろうな。


「なのにどうして別行動をしているのだ?」

「き、気分転換だ。つかさ、お前らはどうなんだよ?」

「私たちか? 名前呼びをし始めたぐらいだな、お前たちに比べれば牛歩みたいなものだ」

「ってことは、つまりそういうことなのか?」

「当然だ、そうでなければこんな時間に一緒に過ごしたりしない」


 ちょ、大胆さでも負けるとは。

 無表情で言い切ってしまうところがイケメンすぎる。

 仮に僕が女の子であったとしても間違いなく惚れていると思う。

 同性とか関係ない、魅力に惹きつけられてしまったら仕方がない話。

 犬夜くんはこちらの肩に手を置き、「頑張れよ」と口にして笑顔を浮かべる。

 なんか凄く恥ずかしくなった、本当に精神だけは彼女より女の子っぽい。


「帰る、また月曜日にな」

「ああ、香を楽しませてやれ」

「できる限りな」

「あ、じゃあね!」

「おう、じゃあな」


 そういえば今日は金曜日だったかと思い出した。

 それならこちらも誘ってみたりなんかしてもいいのでは?

 先程の発言を聞く限り、これはもう自惚れてもいいだろうから。


「めばえさんも来てよ、僕の家に」

「断る、逆にお前が来い」

「めばえさんがいいならいいけど」


 ついでにさん付けするなとも言ってくれたからこれでやっと犬夜くんの立ち位置までこれたわけだ。

 ここからはとにかくこちらも深めていくだけ、それすらできなかった状況から脱することができて本当に嬉しい。この貴重なチャンスを自らの手で駄目にしてしまわないよう頑張ろうと決めた。


「それなら家に行こう、着替えを取りに行かなければな」

「え、来てくれるの?」

「暇つぶしだ」


 暇つぶしなら遠慮なく利用してもらおう。

 犬夜くんが来てから終わっていた手繋ぎ状態も彼女によって再開された。

 ただなんだ、僕は結構手汗をかいているかも、かなり申し訳ない


「よし、こんなものかな」


 が、部屋の床に座ったまま彼女が動こうとしない。

 行かなくてもいいのかと聞いてみても本を読んだままで反応すらしない。

 仕方がないからこちらも床に座って本を読んでおくことにした。

 で、だいぶ時間が経過しても動こうとしないからやっとわかった。


「僕の家に泊まってくれるんだよね?」


 と。

 わざわざ聞いてしまうところが男らしくないか。


「いや、本を読み終えたかっただけだ」

「あ、そう……」


 かなり気持ち悪い発言をしてすみませんでした。

 本当にそれだけだったらしく、予定通り彼女の家に行くことに。

 もう手を繋いでくれたりはせず、そして家に着くまで無言だった。


「入れ」

「お邪魔します」


 リビングに行ったらりょうさんが寝ていた。

 なんでこんなところでと不思議に思っていたら側の床にらんちゃんが転がって寝ていると。


「らんを運んでくる、お前は姉を頼む」

「うん」


 謝ってから抱き上げ運ぶことに。

 2階へ上がったことは何度もあるから緊張したりはしない。

 おまけにもう寝るだけだからこういうことをして時間稼ぎをするのは大切だった。


「ん……なんだ? 動いてい……る、なんだお前、なんでここにいるんだ?」

「今日は泊まらせてもらうので」

「ふーん、で、なんであたしは運ばれてるんだ?」

「風邪を引いちゃうからですよ、寝ないということならリビングに戻しますけど」

「いやいい、部屋まで運んでくれ」


 2階に上がってすぐ側の部屋がりょうさんの部屋。

 大雑把そうなのに綺麗なのが面白い、お菓子とかも作れるし意外と女子力が高いし。


「ベッドに下ろしてくれ」

「はい」


 そのまま寝るだろうからと部屋から出ようとしたら呼び止められた。


「正輝はどこで寝るんだ?」

「あー、リビングの床とかですかね?」

「それならめばえの部屋で寝ればいい」

「え、さすがにそれは……」


 それは大胆と言うのは違う気がする。

 だからやはりリビングの床を借りるのがいいと思う。

 夜遅くまで会話できればそもそも寂しくも感じないから。


「邪魔するぞ」

「めばえ、正輝を部屋に寝かせろ」

「さすがにそれはできない」

「なんだよ、つまらないやつらだな」

「正輝行くぞ、もうここには用がないだろう」


 1階に移動した僕たち。


「え、また本を読むの?」

「ああ、続きが気になったのだ」


 あれだけ読んでいたのに!?

 まあいいか、こちらも万が一のときのために持ってきていた本を読んで過ごすことにした。

 が、なんのためにいるんだっけとしょうもないことが気になって集中できず。

 途中からはゆらりゆらりと揺れている彼女の尻尾を目で追いかけて。

 なんか催眠術にかかったときみたいなふわふわとした気持ちに包まれていた。


「…………」


 目で字を追う、ページを捲って字を追う、それを繰り返している彼女。

 いや、こうして見ていられるだけで結構楽しいことに気づいたため、声をかけて壊してはならないと判断した――風に考えておかないと寂しいからしょうがない。


「見すぎだ、なにか言いたいことがあるなら口で言えと言っただろう」

「見ているだけで楽しいからなにも言わなかっただけだよ」

「ふぅ、尻尾にでも触れて遊んでおけ」

「しないよ、最近は頻度がおかしいから」


 いまさらだが気軽に触れるべきではない。

 積極的だとか大胆にとか考えて事実を捻じ曲げてはいけない。

 彼女が許可してくれなければもうその全てがセクハラになってしまう行為。

 こうして許可を貰えても遠慮するべきなのだ、というか先程のあれで満足できているというかね。


「……見られながらは嫌だ」

「そっか、それなら見るのやめるよ」

「ああ、そうしてくれ」


 大丈夫、一緒にいられるだけで十分だ。




 早朝、なんとも言えない気温に包まれながら歩いていた。

 もちろんひとりだ、こんな時間から付き合わせるのは悪いし。

 それにこういう風にリセットしておけば虚しい気持ちにならなくて済む。

 さらに言えば犬夜くんから呼ばれているというのもあった。


「珍しいね、こんな時間に」

「ああ、悪いな」

「気にしないでよ、それで話って越智さんとのことだよね」


 飲み物を渡してくれたからお礼を言って貰うことにする。

 それでどうやら昨日また同じような流れになったようだ。

 つまり越智さんがまた告白したみたいだ、それでも答えられず保留にしてしまったと。

 泊めるぐらいだからそういう風に扱っていると思うんだけど、どうしてそこまで慎重にという疑問。


「だってよ、まだ早いだろ? お前とめばえとかとは違うんだ、俺と香はまだ出会ったばかりでそこまで焦る必要がないと思うんだよな俺は」

「じゃあそれを言ったらどう?」

「言ったが駄目だった、『取られちゃうからやだ』って聞いてくれないんだ」


 事実その通りだから好きになった側は相当焦る。

 追われる側の人間はわからないのだ、しかも早々ないことでもあるからなおさらのことだ。

 だからってそれでもなんて言えないから、話し合いが大切だね的なことを言っておいた。


「僕も追う側の人間だから越智さんの気持ちわかるけどね」

「だからって焦る必要ないだろ、泊めてる時点でわかってほしいがな」

「家に泊めたのは?」

「あいつだけだ」

「そういう風に言ってあげたらいいかもね」


 未経験者が経験者っぽい子にこういうこと言うっておかしいね。

 だけどこうして話を聞かせてくれるのならできる限りのことはしてあげたい。

 お礼もまだできていないから、役に立てるなんて自惚れてはいないけども。


「あいつはいい女だ」

「うん、いつも元気でこっちも元気になるよ」

「面倒くせえときもあるが、一緒にいて嫌だと思ったことはない」


 僕もないな、越智さんのことを嫌だと思ったことなんて。

 それどころか天使だって扱いをしていた、だっていつでも笑顔で接してくれるから。


「あいつの側にいたいと思う」

「うん」

「……なによりあいつが照れたときとか可愛くて――」


 ははは、普通に好きなんじゃん。

 素直になれていないだけだ、やっぱり彼はツンデレさんだ。


「なあ、俺ってもしかして香のこと好きなのか?」

「さあ、それは犬夜くんの中の気持ちとかと向き合えばわかるでしょ」

「……まあ焦らずにやるよ」


 こちらも同じで焦らずにゆっくりやっていきたいと思う。

 というか自分の気持ちはわかっているから振り向いてもらうだけだし。

 その振り向かせるというのが大変なんだけどね、本しか読まないからね彼女は。


「そういえば一緒に寝たの?」

「いや、俺がリビングで寝た、お前は?」

「僕もそうだよ」


 途中でお兄さんが下りてきたりして緊張したが乗り越えた。

 帰ったらめちゃくちゃ寝ようと思う、さすがに人の家で爆睡はできなかったから。


「そういえばしょうもない話だけどさ、俺は尻尾の方がいいと思うんだが」

「いきなりだね、つまりそれはともかさんと対立したいということだね」

「だってお前よ、めばえのあれをいつも見ているだろ? そうしているとな、わかるだろ?」

「耳があったら平等に愛すけどね」


 そうすれば尻尾よりかは気軽に触れた可能性がある。

 そこで遠慮するか堂々と触れるかは全てそのときの僕次第。

 つまり延々と叶わない世界の僕のことだ、考えても仕方がないことだった。

「お前はそういう奴だな……」と彼は微妙そうな顔をした。


「それを言ったら香にもわかっていないと言われたがな、そもそも香的にはどちらかに絞ろうとすること自体が有りえないみたいだ」

「でも、なんでも意見を合わせればいいってわけじゃないもんね」


 僕も片方じゃなくてどっちも好きでいいと考えている身だからわかる。

 争ったってしょうがない、意見が合わないならそういう子もいるんだなと考えておけばいい。


「ま、本当にどうでもいい話だから真剣に考えることの方が無意味だけどな。だが、あれだな、これがなかったら香は俺に興味すらなかっただろうから……いまは感謝しているぜ、お前にもな」

「引っ越してこられたのは君の両親と君自身の力だからね、寧ろわがままをぶつけてしまった悪い人間だよ僕は。それにともかさんの相手として最適だと考えて利用しようとしたんだ」


 だから感謝されるようなことではない。

 こちらが逆に感謝しなければならない、犬夜くんに彼女が好意を抱いてしまったら困るから。

 

「ともかか、あれから結構他のやつとも話せるようになっているみたいだな」

「それは君のおかげだね、犬夜くんと上手く話せれば他の子なんて怖くないし」

「は? はぁ、俺のイメージ悪すぎだろ……」

「違う違う、そんなことないよ、だって異性と上手く話せるのなら同性の子と話すのなんて余裕でしょって話だよ」


 まあそちらはそちらで色々あるんだろうけども。

 平気で悪口を言ったりする子たちだって見てきたことがある、だから相手次第で変わってしまうわけだから余裕は言い過ぎだった。


「役に立てたのならいいがな」

「大丈夫だよ、僕じゃなにもしてあげられなかったからね」


 手を握って見つめるだけ、あれじゃ余計に悪化してしまうだけ。

 その点彼の行動力の高さには彼女も驚いたと思う。

 ああいう子には引っ張ってくれる子が必要だろう、そしてそれが彼だったと。

 少し気になるのは――いや、まあ言ってきていないんだから考えるのはやめよう。


「あ、香からか、悪い、もう帰るわ」

「うん、仲良くね」

「そっちもな、……聞いてくれてさんきゅ」

「これを貰えたからいいよ、それじゃあね」


 こっちも帰って挨拶をしないと。

 連絡がきていないということはまだ寝ているのかな?

 そう焦ってもまだ時間はたっぷりあるから意味はない。


「どこに行っていたのだ」

「あれ、また外で待ってたんだ」

「答えろ」

「犬夜くんと会っていたんだよ、越智さんのことを相談されてね」

「そういう場合は私に言ってからにしろ、どうしてこそこそとひとりで行動する」


 そりゃ寝ている時間だったからだ。

 それにふたりきりでも話しかけてくれないのだからあまり変わらないし。


「ごめん、せめて連絡ぐらいしておくべきだったね」

「まあいい、中に入れ」

「うん」


 この距離感がもどかしい。

 なにがしたいのかはっきりしてもらいたい。

 だから腕を掴んで止めた、特にどうすればいいのかもわからないまま。


「なんだ?」

「だったらさ、ふたりきりのときに本を読むのやめてよ」

「いつでもしているというわけではないだろう?」

「そりゃそうだけどさ……」


 そもそもそれなら誘わなければ良かったのでは?

 そうすれば僕だっていちいち引っかかってうだうだ考えたりはしないのに。


「離せ」

「嫌だ」

「離せっ」

「嫌だっ」


 延々に続くかと思ったがりょうさんが来たことによって繋がりを絶たれた。


「しょうもない口争いしてないで朝飯を食え」

「は、はい……」


 だけど僕はいつまでも納得できなかった。

 だって普通の指摘でしょ、嫌なら一緒にいなければいいで終わる話なんだから。

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