第一話 対神・人類存亡国家建国
「神を殺すのは誰だ!!!!!!!!!!」
一人の指揮官のような男が声を荒げてそう叫ぶ。
「「「我々だ!!!!!!!!!!」」」
人暦二一○○年八月二十六日、突如として起きた第三次世界大戦は三日という短い期間をもって終結した。どこの国か勝ったとか、負けたとかいう話もなく終結したのだ。
そもそもの始まりはユーラシア連邦国がアメリカ合衆国に向け大陸間核弾頭ミサイルを発射したことがきっかけに始まった戦争だ。それに対しアメリカは何の前触れもなく発射された核ミサイルを迎撃し、同じく核ミサイルを打ち返すことによって争いは激化していった。ユーラシア連邦国も同様に迎撃とアメリカへの核ミサイル発射を続けた。その際、アメリカと同盟関係を結んでいた日本は物資や資金を緊急で提供し、中華朝鮮連合国はユーラシア連邦国の後ろ盾となり、人類の歴史上、最も高い技術をもって起きてしまった戦争である。
もちろんすべてのミサイルを迎撃できたわけでもなく被害は甚大なものとなってしまっている。北、南アメリカ大陸は40%以上、ユーラシア連邦国は50%以上が壊滅し放射線によって汚染され、生物が立ち入ることのできない地になってしまった。さらに地球は大量の核爆発によって生じた雲によって世界中が覆われ放射性物質を含んだ雨が降り、世界中の気温が9%も下がってしまい大量の食糧が廃棄され、作物が育たない環境になってしまった。
しかし、これ以上戦争が続いていたら地球上の生命体はほとんどが絶滅していただろう。何故三日という短い時間で戦争が終結したのか。
神の介入によって終わらせられたのだ。
戦争が始まった二日目の正午、実際にはもう少し前だったかもしれない。その時、全人類の脳内に刺激が走った。シェルターで昼食をとっていた者、疲れ切った体を休めるために睡眠をとっていた者、ミサイルの発射ボタンを押そうとしていた者、そのすべての者の脳に言葉が侵入してきた。
『我は神、全人類を滅ぼすものなり』
一瞬の出来事であったが、それは確かに無限の時を感じさせるような、そんな刺激だった。それを聞き、神の天啓が下ったと感じ取るも者、何が起きたか理解できない者、敵国の新技術によってかく乱させられたと思う者、様々であった。しかし、時間が過ぎていくほどそれは明確に、ゆっくりとすべての者の心に刻まれていった。そんな出来事が軍内で共有されたり、家族で共有されたり、他人と共有することで確信へと変わっていく。しかしそんな言葉では戦争は終わることはなかったのだ。敵国の新兵器なのか、存在すら伝説上のいるかもわからない神なのか、いくら考えても争っている者たちにとっては飛んでくるミサイルを迎撃して打ち返すほうがよっぽど大切なことだった。
しかし、戦争終結の三日目事態は急変した。世界各国のトップが突如降り注いだ雷によって亡くなった。これにより世界各地は大混乱に陥る。昨日聞いた神のお告げは真実だったのではないか。そう信じる者が増えたのである。市民にとっては国のトップが勝手に戦争を始めたせいで神によって人類が滅ぼされるんだ、と思うものは少なくなかった。
そんな中、ある一人の男がそんな市民をまとめ上げクーデターを起こした。最初は日本で始まった。当然国のトップの連中が軒並み亡くなっているため、指揮系統は完全に崩壊していた。そんな中、日本政府はその男率いる【WKG】という数十万にも及ぶ市民によって結成された組織にに崩壊させられてしまったのだ。指揮系統が乱れているとはいえ、国一つの軍事力をもってしても鎮圧することはできなかった。圧倒的な"謎の兵器"によって一方的に殲滅されたのだった。通常時ならば同盟国や、近隣諸国が助けてくれたかもしれないが世界大戦の余波のせいでインフラが整わず、情報もうまく入手できなかったせいで日本は崩壊した。
日本という国はウーグによって統治されることになる。その後ウーグは世界各地に出向き、市民を扇動し国を落としていった。
戦争に加担した国ではトップはケジメをつける必要があると市民をあおり、混乱状態の国にはトップの無能さを語り、貧しい国には今より良い暮らしを保障した。
戦争が終結した八月二十九日から約一か月後の九月二十八日には一国を除くすべての国がウーグの統治下となった。WKGの技術力は世界で知られている技術のずっと先にあるといっても過言ではない力を保有していたのだ。戦争によって発生した食糧問題は人工食料を大量生産することで解決させていった。各国に支部を設置し日本には本部を置いた。この施設がすべて鉄の要塞とよばれるほど頑丈に巨大なものであった。戦後処理として、世界中の国民たちに無償で住居と食料を与えた。汚染された土地に住めなくなってしまった難民も本部である日本に招き入れた。人工島を作成し領土拡大と難民受け入れを図った。といっても世界中がウーグの領土であるためそれは建前のようなもの、ただ人々を救うためにその行動をとったのだ。世界各地に不足していたインフラも整え、戦争が起こる前よりも幸せな日常を暮らすことのできる人が増えたのだ。誰もがウーグに感謝してもし足りないほどの恩恵を受けた。
世界が少し落ち着き始めた日本時間十二月三十一日正午、ついにトップの男が動き出した。世界を統治する【WKG】という謎の組織のトップであり、この革命を引き起こした張本人として全人類が注目していた。憧れや、尊敬や、嫉妬、怒り、恐れ、様々な感情が向けられている中、全世界生中継で男の放送が始まったのだ。
「初めまして、全世界の同志の皆様。私が【WKG】通称ウーグの総司令官"无利弖シンヤ"です。」
各地ではちぎれんばかりの歓声と喝采が鳴り響いた。无利弖シンヤ、仕草、言動どれをとっても世界のトップに立つにふさわしい立ち回りで、冷静沈着、年は二十代半ばごろの紳士のような美しさを感じさせる。そんなシンヤに対し人々は徐々に心惹かれていく。こういう場合、求心力というのだろうか。その力が彼のために存在しているかのように思ってしまう、いや彼のために存在したと断言できる。現に戦争後の世界を少し強引だが平定させたのは彼の力あってこそである。放射線の影響下で引き起こされかけた飢饉を、食料供給ラインを確保し解決。戦地で家も家族も失ったものに住居を与え温かく迎え入れた。組織の概要は未だ知らされておらずただ人々を救うためだけに動いてきたWKG、そしてその総司令官であるシンヤ。"人類を滅ぼす"などと宣言したものよりよっぽど神のような存在だった。数々の人は彼に感謝し彼に心酔しているだろう。
「さて、いきなりですが今回のことの顛末と我々の目的をお話ししましょう。」
皆が息をのむ、彼の言葉を聞くためにすべての感覚を聴覚に集中させる。
「愚かなユーラシア連邦国がアメリカ合衆国に対し攻撃、応戦する形で世界中を巻き込んだひどい戦争がはじまりました。なぜこのような醜い争いを始めたのか.... 腐りきった首脳陣の考えることは我々には到底理解できない、するつもりもない。」
そうだそうだ!ふざけんなよあいつら!などと人々は国家上層部に対しての不満を声を荒げて、あるいは心の中で各々が叫ぶ。
「我々は必死に世界を駆け回りました、罪のない善良な人々を救いたい。その一心で」
彼の言葉に涙を流すものまで現れてくる。人を救うという言葉が人という身に生まれた者にとって、どれほど重く美しい言葉であるかを戦争を通じて実感しているからだ。
「しかし皆様、激しい戦火の中、とある言葉が聞こえてきませんでしたか?」
ざわめきが起きる。あの言葉だ、と口々にそういった。神と名乗るものによって宣言された"人類を滅ぼす"という言葉である。誰もが経験し、恐れ、不安を募らせたあの言葉のことだと確信する。
「神は我々人類を"滅ぼす"と言った。戦争を引き起こしこの美しい地球を汚した我々が許せないのだろう。現に空から舞い落ちた謎の雷によって、各国首脳人はことごとく死んでいった。あれは偶然にしてはできすぎているだろう?"神の雷だ"」
やはり、という思いがそれぞれの心に刻まれる。あの言葉からの雷、信じざるを得ない状況なのはわかっていた。だが自分たちのトップである彼の口からその言葉が出たのだ、奇跡を起こしてきた者の発言を信じないわけにはいかない。
「不思議に思わないか?もし我々を作ったのが神だとしたら、なぜ助けるのではなく滅ぼすのだ?今回の戦争が起きる前であっても貧困、飢餓は蔓延していた。その前の戦争であっても救いを求める者は大勢いただろう。しかし神は何もしてくれなかった。挙句の果てには我々人類を滅ぼすだと....?」
小さな、嘲るような笑みを浮かべる。
「救いを求めても応じてくれないのなら私たちで救いを生み出そう。それが私、私たちには出来ると確信している! 私は神を許せない、必死で生きようともがき、苦しんだ我々人類を滅ぼそうとしているのだ!」
賛同の声が多く響く。神の啓示が下り、戦争が終結してから多くの人々は信仰を捨てた。神など自分たちの作り上げた理想でしかなく、現実は違ったと気づいたからだ。中には信仰を続けている者達の国家がある。WKG設立の際、神を信仰し続けているものはことごとく排除した。それらの残党が作り上げた国家が【唯一神教国】である。大きな領土を持つわけではないがヨーロッパ大陸の端のアイルランドのあった場所に作り上げられている。神の啓示のまま人類は滅ぶべきだ、という人類にとっての危険思想を持つ国家だ。被害も少なくなく、戦争後の混乱期には各地で神を信じる者が大量殺戮を行ったことは周知の事実である。WKGはそれらを排除していった結果、逃げてきた信仰者が密かに国を作り上げていったというわけだ。
「つまり私が言いたいのは、我々人類が神を殺すしかないということだよ」
そんなことが本当にできるかどうか。そんな疑問よりも、この人なら本当にやってのけるかもしれない、どうやって神を殺すのか、神を殺したい、希望と興味と欲望の渦は混ざり合い、それぞれの音を奏で始めた。時は満ちたと言わんばかりの表情でシンヤは口を開いた。
「今この放送を聞いてくれている同志の諸君。忌まわしい神を殺し、人類の自由と尊厳を守ろうじゃないか!! 日本を本部として、世界各国支部からなる対神・人類存亡国家WKGの建国を宣言するっ!」
今ここに自分たちの進む道が示されたのだ。滅ぶか、存在し続けられるかの二択、生きとし生けるものならば死を選ぶほど無粋なものはいない。シンヤについていけば何でもできる気がしてしまう。
こうして愚かな神と愚かな人類との存亡をかけた戦いは幕を開けた。
ひえええええええええ
日常生活が忙しくてなかなか執筆できなくてすみません(-_-;)
多くはないですが沢山の方に見ていただいてるようでうれしいです(⌒∇⌒)
皆様の人生の大切な時間を無駄にしないよう、これからも執筆していきます!
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