Trick or …
もうすぐ十月、街はハロウィン一色に染まっていた。
買い物に出かければカボチャや魔女が飾ってあるし、カボチャ味のプリンやクッキー、ケーキも見かける。本屋さんの文具コーナーにも、ハロウィングッズが溢れている。
一、二年生のときにはなかったように思うけれど、こども会のハロウィンイベントでの仮装は楽しかったし、町内を練り歩いていつも挨拶するおじいちゃん、おばあちゃんからお菓子を貰えるのは嬉しかった。
貰うお菓子は不公平がないようにみんな同じ物だったけど、たまに別の物が入っていたりして、友達とそれを確かめあったり、交換するのもまた楽しかった。
私は来年中学生になるし、そんな子供っぽいことはもうやるつもりはない。もちろん、参加する子もいるけど、妹や弟を押しつけられた子や変わり者だけだ。
でも、もしもカナコが仮装に参加するつもりなら、一緒に出るのもいいかもしれない。
私にとっては最後のハロウィンだし、今年になって転校してきたカナコとはまだ一度もこういうイベントをしていない。二人でなら、小さい子に混じって仮装してもそんなに恥ずかしくないんじゃないかしら。
カナコはすらりと背が高くて、髪の毛は明るい茶色。ハッと目を引く美人で、何をするにしても絵になるの。女の子の私から見ても思わず見とれちゃうくらい。
そんなカナコがいちばん打ち解けてくれているのが私だっていうことが、すごく嬉しい。私の自慢の親友なの。
ふたりきり、学校からの帰り道、私はドキドキしながらカナコに聞いてみた。
「ねぇ、カナコ。今度のこども会のハロウィンイベント、一緒に参加しない?」
「ハロウィン? どんなことするの?」
「あのね、仮装して歩くの。決まった家に行くと、お菓子が貰えるんだよ。カナコなら何着ても似合うし、一緒に行かない?」
「う〜ん、やっぱりやめとく」
「え、そう、なの……?」
そのときの私は、よほど残念そうな顔をしていたんだと思う。
だってカナコが、悪いことしちゃったなっていう笑顔で私を見ていたから。
私、本当はカナコとハロウィンの仮装がしたかったの。まさか、断られると思ってなかったからビックリしちゃった。涙が出そうになるのを必死で止めたのに、カナコには気づかれちゃったみたい。
「ごめんね、ユイ。でも、わたし、ハロウィンって苦手なの」
「え、どうして?」
「うん……昔ね、嫌なことがあったの。だからハロウィンは好きじゃないんだぁ」
「嫌なこと?」
「うん。特にね、仮装して誰かのおうちにお菓子を貰いに行くのがキライなの。あのね、これ、誰にも内緒にしてね?」
「う、うん! 当たり前だよ、友達だもん!」
さっきまでの悲しくて悔しい気持ちがまるで嘘みたいに、私は嬉しくなった。だって、カナコが私だけに秘密を教えてくれるんだもん。私だけに!
カナコは私の耳に顔を寄せて、そっとささやき声で言った。
「あのね、わたしのカボチャにね、お菓子と一緒に指が入ってたの」
「えっ」
「一本だけ。本物の指よ。ちょっと、気持ち悪いでしょう?」
私は何も言えなかった。
カナコは全然大したことないっていうみたいに笑ってた。
ハロウィンのカボチャのランタン。でも危ないから誰もろうそくは入れないの。
だってプラスチックでできてるから。取っ手がついてて、バケツみたいで。お菓子を入れてくれる。
その中に、お菓子じゃなくって、指が入ってたら……そう考えると、私もハロウィンのお菓子並びにはもう行きたくなくなった。
その後も、家に帰るまでカナコは色々おしゃべりをしていたけど、私はうまく答えられなかった。
本当はカナコに聞きたいことがあったんだけど、どうしても聞けなかったの。
『その指、どうしたの?』って。