夢は、縋り付くもの。
「また、お祈りかあ。」
流した汗も、費やした時間も、携帯に表示される一通の無慈悲なメールによって水の泡と化す。
絶賛就職活動中の小林 麗弥は、この「お祈りメール」の表示された画面を見て、深い深いため息をついた。
「お祈りメール」。
これは就職活動における用語の一つで、企業からの不採用通知の俗称である。
この通知は、「貴殿のご活躍をお祈りしております。」という無駄に丁寧な言葉で締めくくられていることから、「お祈りメール」。
就活生にとって「お祈りメール」とは、小学生の頃に流行った「不幸のメール」を受け取った時を遥かに超える絶望感と焦燥感を与えるのである。
—また1つ、持ち駒が減ってしまった。
「…それでも。」
彼女には、譲れない夢があった。
有名航空会社、ジャパン ナショナル エアライン(通称JNA)のキャビンアテンダントになること。
航空会社のキャビンアテンダントは、人気職業で倍率はかなり高い。
全国からハイスペックな人材が、数少ない席を手に入れるために戦うのだ。
キャビンアテンダントになるための教室に通っている人、海外留学経験者、外国語の堪能な者など、強力な武器を持った者がライバルとして現れる。
そんな戦場に、麗弥はほぼ丸腰で挑んでいる。
平凡な大学生の麗弥は、特に役立つ資格は持っていないし、裕福ではないため海外留学の経験も無い。
彼女の武器はただ一つ。 JNAのキャビンアテンダントへの、純粋で一途な憧れ。
たった、それだけ。
先程お祈りメールが送られてきた航空会社は、JNAではない。
第1志望ではなかったにしても、いざ不採用を突きつけられると、気分は落ち込む。
でも、JNAには絶対に受かりたい。
送られてきたお祈りメールをゴミ箱フォルダに移動させ、ふっと息をついて再び彼女は歩き出した。