93:事件勃発!!
sbnb様から再び、ダリアをバックにいただきましたよ~!!
いいですね~、ダリア。
タイトルぴったり!!
ありがとうございます(^^♪
ヒャッハー♪
あれ、どっかで見たことのある絵……って……あ、ワシか。
その時だった。ぬっ、と聡介の目の前にピンク色のぬいぐるみがあらわれる。
「聡ちゃ~ん、あんまり行きとうないけど、会議一緒に行こー?!」
もうそんな時間か。
モニターのスイッチを消して立ち上がる。
「あの、長野課長」
会議室は最上階にある。
エレベーターを待っている間、聡介は声をかけた。
「10年前、坂町の居酒屋で起きた強殺事件……覚えておられますか?」
モミじーがどうとかいう謎の歌を歌っていた長野だったが、なぜか急に黙りこんでしまう。悪いことを聞いたかと聡介は焦った。
迷宮入りしてしまった事件のことを訊ねるなんて。
彼にとっても汚点に違いない。
「えっと、あの……大宮桃子という女性に心当たりは……?」
エレベーターが到着する。
他に誰も乗っていない。
聡ちゃん、といつになく真面目な口調で課長はこちらを見つめる。
「彰の奴になんか聞いたん?」
「彰彦ですか? いえ、そう言う訳では……」
会議室のある最上階に到着する。
先に降りた長野は、突然振り返ると。
「……あのな、聡ちゃん。実はワシ……」
「何ですか?」
「昨日、賞味期限が1週間以上過ぎたプリンを食べてしもうたんよ!! 会議の途中でお腹が痛くなったらどうしょっかー?!」
わかった、もう何も聞かない。
こうなったら自分で確かめるしかない。
とはいっても、本業の傍ら時間を見つけて、となるが。
和泉達に、たまにはゆっくり休めと言いたいところだが、自分もそうは言っていられない事態になってきた。
会議の内容はいつもと変わらずたいした中身のないものだ。
欠伸が出そうになるのを何度も堪えて、無事に終了を迎えた。
それから会議が終わった後、聡介はビアンカから預かった、大宮桃子の遺品を鑑識課の部屋に運んだ。
「あ、お疲れ様です」
部屋にいたのは若い鑑識員が1人だけだ。
「すまないが、鑑定してもらいたいものがあるんだ」
胸のネームプレートに【古川】と書いてある若い男性はくすっ、と笑う。何だ?
「他の1課の刑事なんて、たいていが『おいこれ明日までに鑑定しとけ』って持ちこんでくるんですけどね。高岡警部って噂通りなんだと思って」
何と答えていいのかわからない。
こちらの心情を察してくれたのか、
「えーと、何すか、これ。チラシ……?」
古川は紙袋から中身を取り出して呟く。実は聡介はまだ、中身を確認していない。
何が入っているのかと顔を近付ける。
チラシが数枚、そして、スケジュール手帳。あとは化粧ポーチ。
チラシは『ラング・ド・シャ』という店名の猫カフェのものだ。可愛らしい子猫の写真が映っていて、連鎖的にさばのことを思い出してしまう。
「……どうかしたんすか?」
「いや、なんでもない。それじゃあ頼む……」
こんなに悲しい気持ちになるのなら、今度は絶対、捨て猫を見かけても拾ったりしない。
聡介は胸の内でそう決めた。
失ってしまう辛さと悲しみは、考えていた以上だった。
※※※※※※※※※
中間考査は昨日のうち、無事に終わった。
手ごたえはまぁまぁと言ったところだろうか。
やはり週末、寮に残って勉強していた甲斐があったというものだ。
今日は通常通りの座学と武術の授業がある。
そしてよりによって、ラストの授業が柔道だった。
元々得意でないことに加えて、あの教官の顔を見なければならないのかと思うと、それだけで憂鬱になってしまう。
グダグダ言っても仕方ない。
周は腹をくくって道着に着替え、道場に向かった。
いつものように一同が整列して当番の合図に合わせて挨拶をし、それから授業が始まる。
すると。どういう理由か知らないが富士原はやけにニヤニヤしていた。
対して学生達はどういう表情をしていたらいいのか戸惑っているが、ほとんど全員がひたすら無表情を貫いている。元々無表情な上村にしてみれば、いつも通り能面のような顔なのだが。
教官が笑っているからといって、同じように笑顔を見せれば良いという訳ではない。
むしろそれはリスクが高い。
特に富士原のような、その時の気分で【指導】と言う名の暴力を振るう相手には。
学生達は短い間にすっかり、この教官の肩書きを持った理不尽な先輩警官に対処する方法をそれぞれマスターしている。
すると。
「お前ら!!」
突然、富士原が大声を上げた。
「ええか、良く聞け。重大事件じゃ」
なんだなんだ、と学生達はざわめき出す。
「……この中に盗人がおる……」
囁き合いがどよめきに代わる。
「恐れ入ります、教官!! 詳しいご説明をお願いいたします!!」
挙手して発言したのは谷村だ。
何となく周はその一連の流れに【違和感】を覚えた。
上手く言葉で説明することはできないが、例えて言うなら『わざとらしさ』だろうか。まるで予め打ち合わせていたかのようだ。
そんなこちらの思惑に気付いているのかいないのか、
「備品の盗難が相次いで起きとるんじゃ。初めはパソコン室のマウス、他にトレーニングルームからダンベルが1つ紛失しとる」
そう言われてみれば。 備品の紛失については知っている。
自習室や図書室、寮の廊下などの共用部分に掲示板があり、そこに張り紙がしてあるからだ。
以下の物が紛失しているため、発見次第連絡されたし……。
周も一通り目を通したことがある。
しかしパソコン室のマウスと言えば、今時いっそレアとも言えるボール式のものだ。それはそれでかえって希少価値がつくのかもしれないが。
いずれにしろ、この学校の備品は何もかもが古い。
そうは言っても、たかが備品と言う訳にはいかない。この学校に置いてある物はすべて税金で賄われているのだ。
「その上、盗品がネットオークションで転売していることが発覚した!! お前ら、そう言うのをなんて言うか知っとるか?」
「故買です」
端的に上村が答えると、富士原の機嫌が悪くなった。
仲間達の視線が刺さる。空気を読め、と。
恐らくこの教官は自分がその名称を披露することで、学生達からの称賛を受けたかったに違いない。
まるで子供のようだが、頭の悪い、粗暴なこの人物なら納得できる。
「教官!!」
再び、谷村が挙手。
「恐れ入りますが他にも幾らか紛失しているものがあります。クラブ活動で使用しているバレーボール及び、将棋の駒です」
しん、と場が静まり返る。
そんなものを盗んでどうしようというのだろう?
仮に盗難が本当だったとして、犯人に一体どんなメリットがあるというのか。
周が頭の中であれこれ考えていると、
「今ならまだ、間に合うど。犯人は速やかに名乗り出てこい」
富士原が怒鳴った。
しかし、当然だが名乗り出る者などいない。
約1分経過した頃だろうか。
「ええかお前ら?! 今日から毎日、犯人が名乗り出るまで毎朝起床は午前5時じゃ!! 早朝のランニングも校庭10週から15週に増やす!! 週末までに名乗り出る者が出んかったら、土日の外出は一切禁止じゃ!!」
誰もがはっきりと、冗談じゃない……と顔に書いていた。
誰か知らないが一刻も早く名乗り出ろ、と全員が胸の内で念じているに違いなかった。