表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/177

92:動く的を狙うのは難しいのよ

挿絵(By みてみん)


 警察の人間と聞いて、同僚はひどく怯えていた。

 彼女は以前、和泉達が話を聞きに来た時には、確か同席していなかったように思う。


「お聞きしたいのは、御堂さんのところに届いたという黒い葉書のことなんです」

 聡介の柔らかい物腰と口調に、彼女は少しだけ緊張を解いたようだった。


「ああ、黒猫のイラストが書いてあったやつですね」

「何て書いてあったか、ご覧になりましたか?」

「いえ、あの……ほら請求明細書みたいに、めくって剥がすタイプだったから中身はわかりませんでした。私が通信物を仕分けして各部署に届ける係だったんですが、その葉書が届くと御堂さん、いつも不機嫌になって。確か3回は届きました。3回目にもなるともう、中身を確かめもしないでシュレッダーにかけていましたよ」


「……そのことで御堂さんと何か、話をしましたか?」

「ええ。4回目にもなると、まるで私が差出主みたいに……怖い顔でどうしてこんなもの送ってくるのかって……私に言われても困るんですけど」

 思い出したら腹が立つのか、彼女は表情を歪めた。


 無理もない。

 御堂久美と言う人は、とにかく物の言い方が厳しかった。


「その場面をちょうど、うちのチームリーダーが見ていて。幸いにも面談の機会を与えてくださったんですよ。その時、彼女が詳しいことを少し話してくれたんです。脅迫状みたいな物が何度も届くんだって」

「脅迫状……?」

 聡介は携帯電話を取り出して、何か画像を彼女に見せていた。

「もしかして、こんなデザインでしたか?」

「ああ、そうです。宛名と差出人のところに、黒い猫のイラストが書いてあって。それでいて紙全体が真っ黒だからすごく印象に残っています」

 

「恐れ入りますが、この中で御堂久美さんと……いえ、大宮桃子さんと親しかった人からお話を聞けませんか?」


 ※※※※※※※※※


 見えない『何か』が確実にジャマをしている。


 和泉は苛立ちを覚えていた。

 ついでに肉体疲労も。


 捜査1課の部屋。自席でのデスクワークにそろそろ飽きたころ、和泉はぐったりとキーボードの上に額をくっつけた。意味をなさない文字列が画面に表示されていることだろう。


 今朝、庁舎が開く瞬間を狙って検察に向かった和泉だったが、長門に面会させろと言う要求はにべもなく却下された。元々検察に対して良い印象は抱いていなかったが、ますます悪化した。


 いったいどこから手をつけたらいいのか。

 1つハードルを飛び越えたかと思ったら、高くて分厚い壁がそびえ立っているようだ。


 こんな時、すぐ目の前をのんきにゆるキャラ親父が歩いているのを見ると、無性に腹が立つ。

 和泉はボールペンを手にとって長野に狙いを定めた。


「痛っ!!」

 ところが。和泉の投げたペンは真っ直ぐ入り口方向に飛んで行き、なぜか狙ったのとは違う人物に当たってしまった。


「……おい、彰彦……」

「そ、聡さんっ?! なんで、こんな時間に……?」

 今朝、和泉が出勤した時、父の姿は見えなかった。遅れてくるらしい、と誰かが言っていたような気もするが。

「その前に言うことがあるよな?」

「……ごめんなさい……」

「やーい、彰のバカー!!」

 怒り倍増。


 と、その時。

「彰ちゃん、いる?」

 制服姿の北条が姿を見せた。


 そう言えば毎週月曜日には定例会議がある。それに出席するためにやってきたのだろう。


 日頃なら『僕の周君は元気ですか?!』と、しばかれるのを覚悟の上で問い訊ねるところだが、今日はそんな元気もない。


 それに。

 実は未だに少し気にしている。

 自分が余計なことをしたせいで、周があのゴリラみたいな教官に酷い目にあわされていないかと。


 ここ何日か、周とは連絡すら取れていない。


「……何か?」

「今週の金曜日の夜は、絶対に予定を空けておいて」


 なんで?

 そう思ったが、この人の命令には逆らうまいと決めている。

「それと。それまでは、勝手に動き回らないで。守さんにもそう言っておいたから」


 何か考えているのであろう。

 少なからず疲れているのもあり、和泉は素直に承知した。


 それじゃ、と出て行こうとする北条に、長野が忍び寄っていく。

「ゆっきー、おはよ~」


 尾道の捜査本部が解散して以来、何となく2人の間を流れる空気が気まずいことを知っている和泉は、少しハラハラしながら様子を見ていた。

「のぅのぅ、今日の夜……なんか予定ある?」

「残業の予定がね」

 北条は捜査1課長に対し、やはり怒っているようだった。口調ですぐに分かる。


「……ゆっきー、ご機嫌ナナメじゃぁ……」

 くすん、と長野はポケットから別のぬいぐるみを取り出す。しかもそれは世羅高原のマスコットキャラクターせらやん、である。

 それを手にはめ、ばいばーい、と手を振る。


 和泉はぎょっとして辺りを見回した。

「やめろよ、バカ!!」


 その神経が信じられない。相手は仮にも上司であるが、思わず『バカ』と言ってしまった。しかし長野は気にしていない様子で、

「え、何が~?」

「そんなもんここで取り出すな!! 空気を読め!!」


 ほとんど問題視されなかったし、報道もされなかったが、捜査に関わった刑事達の間では秘かに話題になっている。

 被害者が夜中、せらやんの着ぐるみと一緒に歩いていたという目撃証言。

 あれはいったい何だったんだろうな? と。

 この部屋には尾道での事件に関わった刑事達も出入りする。


「別に、せらやんは何も悪いことしとらん」

 急に真剣な顔つきで長野はそう言った。


 和泉は何も言い返すことができなかった。



 ※※※※※※※※※


 ビアンカのおかげで思いがけない情報を得た。

 あの黒い葉書は複数の人物に送られている。


 他にも届いた人間はいるだろうか。その共通点は何だろう?


 聡介がジャケットを脱いで椅子の背もたれにかけ、パソコンの電源を入れた時、ふと和泉と目が合った。が、すぐに逸らされた。


 いきなりボールペンを投げつけてきたのは、おそらく自分に向かってではなく、長野課長に苛立っていたのだろう。原因は恐らく尾道の事件のことで。


 あんな形で捜査本部が解散したことに強く反発するかと思いきや、意外に大人しかったので、何か悪い物でも食べたのかと思ったのだが。


 その点は北条も然り、だ。

 あの人が何の目的で捜査本部に足を運んで来たのか知らないが、解散を告げられた直後、長野課長に対してひどく怒っているように見えた。


 彼らが何を思い、何を調べているのか。

 いずれ近い内に情報共有する必要があるだろう。


 と、その前に。


 聡介はシステムを作動し、過去の事件を検索し始めた。

 ビアンカの紹介で、大宮桃子と親しかったという女性から話を聞くことができた。その結果、判明したことがいくらかある。


 大宮家は坂町で居酒屋を経営している。

 彼女の母親は今から約10年前、閉店後に押し入った強盗によって殺害された。犯人は逃走しておりほぼ迷宮入り確定だ。形式的に捜査は継続されているだろうが。


 資料が見つかった。


 事件を担当した管轄は海田北署刑事課。

 捜査責任者は当時の刑事課長、長野謙真警部。


 長野……謙真……?


 同姓同名と言うことはあまり考えられない。あの長野課長だろう。

 別に何の不思議もないのだが、今の彼しか知らない聡介にしてみれば違和感たっぷり、である。


 その事件後、どうにか立ち直った父と娘。娘は昼間、市内にある大企業の支店で働きながら、夜は店を手伝っていた。


 そうして娘には恋人ができた。

 その出会いからきっかけまでについては、ビアンカの同僚から聞いている。


 結婚まで秒読みと言われていたが、事態は思いがけない展開を見せた。横から出てきた他の女性が彼氏を奪って婚約まで漕ぎつけたのだ。


 ショックを受けた娘は自ら命を絶った、と聞いた。


 その横から出てきた女性というのが、先日、帝釈峡で遺体となって発見された女性……御堂久美その人である。

挿絵(By みてみん)


えびっ!!


前のページに書いてあった『息子のことを良く言ってくれる女性は漏れなく既婚者。しかもたった2人、という事実。』


誰と誰のことエビ~?


挿絵(By みてみん)


それは周君のお姉さんの美咲さんと、聡さんのお嬢さんのさくらちゃん、だね。



挿絵(By みてみん)


どっちも似たようなタイプえびね。


挿絵(By みてみん)


僕、けっこう本気で好きになった女性にこそ、フラれる傾向にあるんだよね……。



挿絵(By みてみん)


切なすぎエビ……。



挿絵(By みてみん)


まぁ、今にして思えばどこまで本気だったのか謎だけどね。


挿絵(By みてみん)


どこまでもテキトーえび……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ