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72:犬は猫が苦手のよう

挿絵(By みてみん)


そう、そしてこれがもう一枚の……さば&和泉(*^^)v


ここにパトカーが何台かやってきて、連れて行かれる犯人……。

そこまで辿りつくのに、あと何文字かかるんだろう?(笑)

 北条はホワイトボードに貼りつけられている、被害者の写真を見つめて訊ねた。

「そう言えばこの被害者の家にも、黒い葉書が届いていたのよね?」

「ほうじゃ。それで聡ちゃんのところに……あ、これワシが話してもええんかのぅ?」

 長野は困った顔をする。

「そこまで言いかけたのなら、全部話してよ」

「刑事部長から聞いたんじゃけどな……」


 県警幹部の1人である山西宏一という警務部長の母親、山西信子が刑事部長のところを訪ねてきたのはつい先日のことだ。高岡聡介を呼び出せ、とたいへんな剣幕だったそうである。


 その用向きは「こんなものを送って来たのはお前だろう」というクレームだったと。


【こんなもの】

 それが黒い葉書だった。


 聡介の家庭事情を知っており、かつ彼の人格特性をよく知っている北条にしてみれば、バカバカしいという感想しか出てこない。


「念のために訊くけど、葉書にリターンアドレスは?」

 まさか、相馬が経営する猫カフェの住所が記載されていた訳はあるまい。

「書いてあったら苦労はせんわい」

 ごもっとも。


「そっちの2件は知らんが、どうもこの尾道の事件に関しては……葉書は直接、ガイシャ宅のポストに投函されたようなんよ。消印がなかったし、もちろん切手も貼ってなかった」

「犯人が届けたのかしら?」

 わからない、と言うように長野は首を振る。


「しかしまぁ、あれじゃ。黒い子猫に猫カフェに、猫の手。まさに【にゃんにゃん尽くし】じゃのぅ。誕生日が昭和22年2月22日じゃったとか。どう思う? ひじりん」

「……私には何とも」


 昭和22年生まれなら、もう70代だ。

 平成なら……まだ9歳ではないか。

「あるいはのぅ、あれじゃ。人間よりも猫が好き。いっそにゃんこの方が信じられる、っていうやつかもしれんのぅ」


 その説には少なからず賛同する。

 思えば相馬要と言う男は、自分と冴子以外の人物にあまり心を開いている様子が見られなかった。


 それどころか、本当のところは、自分のことも心底から信頼してくれていた訳ではないのかもしれない。


 北条はぎゅっ、と拳を握った。

 それからスマホを取り出し、部下の1人に連絡する。


「あ、黄島? アタシよ。今から言う場所に向かって確認して欲しいことがあるの」

『どこですか?』

「広島市中区八丁堀○丁目○○カドヤビル3F、ラング・ド・シャって言う店」

『お菓子屋ですか?』

「猫カフェよ」


 すると、

『……俺、猫が苦手なんですけど……』

 思いがけない返答に北条はどう切り返そうかと一瞬悩んだが、

「いいから四の五の言わずにとっとと行け!!」


『え~っ?! た、隊長が一緒に行ってくれるんなら……』

「バカ言ってんじゃないわよ、アタシ今、尾道なんだから!! 1人じゃ不安だって言うんなら、赤でも黒でも青でも、誰かについてきてもらえばいいでしょ?!」

 部下の名前は赤城、黒崎、青木……と、面倒なので時々色の部分だけで呼ぶこともある。


『え~でも、赤城さんは筋トレ中だし、黒崎さんと青木さんは……』

「黄島」

『……はぃ……わかりましたぁ』

 不承不承、と言った感じでようやく部下は了解の返事を寄越した。


 まったく。

 一瞬だけ、可愛いと思ってしまったのはここだけの話だ。

「いい? 確認して欲しいのは……」


 相馬の匂い。

 彼には独特の【匂い】がある。

 黄島ほど鼻が効かない自分でもわかるほどの。

 

 それは彼が好んでつける、ややマイナーな香水の香りだ。

 ほとんど外見に気を遣わなかった彼が、唯一といっていい、身を飾るもの。


 その匂いが強く残っていればきっと、彼はしょっちゅうその店に出ているに違いない。

 店を訪ねて行けば会える可能性もある。


挿絵(By みてみん)


 黄島を説得、というか命令を下したあと、北条は長野捜査1課長の方を向いた。

「ねぇ、謙ちゃん。アタシも現場を見ておきたいわ」

「ワシも一緒に行く~、ひじりんはどうする?」

「私はいったん本部に戻ります。それでは北条警視、また……」


 忍者のような男は煙に巻かれて姿を消した、訳ではなく、普通にドアから外に出て行った。


 ※※※


 現場である祇園橋東詰。

 倉庫の建ち並ぶ埠頭には昼間の現在ほとんど人気がない。駅から少し離れた場所であり、刑事ドラマや特撮ヒーローの撮影場所としては最適なのではないだろうか。


 かくいうドラマの中ではさらわれたヒロインがこういう場所で、悪役にいたぶられようとするその瞬間にヒーローが登場し、形勢逆転して救出されると言うのがお約束だが。

 現実には、被害者は殺害されてしまった。


 死体検案書は読んだ。

 全身に擦過傷、及び打撲痕あり。致命傷となったのは後頭部に加えられた鈍器のようなものによる脳挫傷。


 相手は子供だ。

 たとえどんなに、褒められたところではないクソガキだったとしても。


 北条は握った拳を震わせた。

 仮に誰が犯人であろうと、許せるはずもない。


「のぅ、ゆっきー。今回の事件、その……例のマルAやマルBの仕業じゃ思うとるんか?」

 いつになく真剣な表情で長野が訊ねてくる。

「……今のところは、そうね」


 潮風が頬を撫でる。

 長野はいつの間にかすぐ目の下に立って、こちらを見上げていた。


「そのマルBって……ゆっきーの友達なんじゃろ?」

 日頃はふざけた表情しか見せないこの課長が、今は真剣な眼差しで問いかけてくる。


「……え?」

 なぜだ? そのことは一言だって口にしていないのに。


「ワシが何年刑事をやっとると思うんじゃ。何か隠しごとをしとるとか、言いにくいことがあるとか……顔色だけですぐにわかるんじゃ。ただ、もしかしてと思ってカマをかけただけなんじゃが、当たりじゃったか」

 北条としては苦笑するしかない。

「かなわないわね、謙ちゃんには」

「ゆっきー、自覚ないんかもしれんけど……意外とわかりやすく顔に出とるけぇの」

 迂闊と言うかなんというか、少し悔しい気がしていた。


「そうは言っても、学生時代の話よ」

「……無理せんでも……」

「アタシ、後ろは振り返らない主義なの」


 その時だ、背後から聞き慣れた声が複数したのは。


「あれ、北条警視? ジジぃ……っと、課長まで」

 和泉と聡介のコンビだった。


「どうしたんです?」

「どうもこうも……現場を見に来たのよ」

 北条は聡介の顔を見た。上辺は平静を装っているが、どことなく落ち着きがないのが心拍数でわかる。


 彼の過去については知っている。誰かに聞いたというよりも、今後、和泉の相棒になるのだと言う刑事について自分なりに調べたからだ。


 この人なら任せても大丈夫、という確信がどうしても欲しかったから。

 そして間違いはなかった。


 今回の被害者は彼にとって、まったく赤の他人と言う訳ではないだろう。

 いろいろとやりづらいに違いない。


「我々も現場百篇、ですよ。それと……せらやんのアリバイを確認しようかと」

「ああ、例の着ぐるみね……」

「アリバイってなんじゃ?」

「会議の時に聞いただろ。ガイシャがせらやんと一緒に歩いているところを見たっていう、目撃証言が出たのを」


「せらやんは犯人じゃないど!?」

 ゆるキャラ大好きオヤジはムキになっている。

「……誰がそんなこと言ったんだよ。その目撃情報が確かなら、中の人が怪しいってことになるだろうが。捜査1課長のくせに、そんなこともわからな……いたーっ!!」

 聡介にグーで殴られた和泉は、涙目で沈黙した。


 代わりに聡介が話を引継ぐ。

「実は、先ほど入った情報によると。例の着ぐるみは、特定の興業会社が管理しているのではなく、世羅フラワーパークの所有物なのだそうです。それで事件のあった晩の前後の所在を確認してこようかと思っています」

 それでは、と和泉と聡介は踵を返す。


「聡ちゃん」

「はい?」

 振り返った彼の表情はやや暗い。


 あまり他人には知られたくない、辛い胸の内を抱えているのはお互い様だ。


「……ううん、なんでもない。気をつけてね」


挿絵(By みてみん)


なんと、ナツさん(https://mypage.syosetu.com/897685/)から、エビ太のイラストをいただきました!!

いやっほー!!


ナツさんのおススメは【美人すぎる探偵シリーズ】


https://ncode.syosetu.com/s3425d/


クールでちょっとヒネた感じの、孤高の私立探偵……そんな感じのハードボイルドミステリーです。

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