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6:お父さん、捨て猫を拾う

挿絵(By みてみん)


加純様よりいただきました!!

https://mypage.syosetu.com/793065/

 洗面所の電球が切れてしまった。

 高岡聡介たかおかそうすけはやれやれ、と溜め息をつきながら脚立を探した。


 今までは和泉がいたから、電球などの天井まわりに関してはすべて彼に任せていた。自分よりもだいぶ背の高い彼は、踏み台がなくても高い所に手が届く。便利で良かったのだが……。


 今年の春、今までずっと居候の立場にあった彼がとうとう独立した。


 どうせ仕事の忙しさにかまけて、いつまでも傍にいるだろう。

 そう考えていた自分がいた。が、現実はそうではない。知らない内に彼は部屋探しをしていて、新しい住まいを決めていた。


 引き留める術もなければ、理由もない。

 ただ寂しいだけで。


 娘が家を出て行った時も、こんな気持ちだった。

 同じ県内だし、会おうと思えばいつでも会えるのだが。


 ……センチメンタルになっている場合ではない……。


 聡介はとりあえず、切れた電球を取り外し、買い置きがないかとあちこち探してみた。

 が、見つからない。


「おい、彰彦……」

 ホームセンターか電気屋に連れて行ってくれ、と言いかけて口を閉じた。

 いけない。どうも、和泉がいるのが当たり前になっている。


 聡介は頭を左右に振って、自力で買い物に行くことにした。


 電気屋もホームセンターも歩くのには少し距離がある。

 車を持ってはいるが、運転は好きではない。

 それには理由があるのだが、誰にも話していない。


 仕方ない。

 天気もいいし、少し歩くか。


 聡介は支度をして外に出た。しかし。


 やっとのことで最寄りのホームセンターに辿り着いた時、外気温が高かったせいもあって、全身に汗をかいていた。

 どっと疲労感に襲われる。


 郊外にあるこのホームセンターには、食料品を扱うスーパーとファストフード店が併設されていることもあり、駐車場に隣接してベンチとテーブルが置いてある。

 聡介はひとまずベンチに座って休憩してから、店内に入ることにした。


 喉が渇いた。麦茶でも買うか、と近くの自動販売機に向かった。


 するとその時、足元でミャアミャアと猫の鳴き声のようなものが聞こえた。自動販売機の電子音かと思ったが、そうではない。


 販売機のすぐ横に段ボール箱が置いてあり、そこに1匹の子猫が入っていたのだ。


【ひろってください】


 段ボール箱のフタにマジックで、恐らく子供の字でそう書かれていた。


 誰だ、いったい……。


 聡介は苦々しい思いでしゃがみこんだ。この場合、一応拾得物として交番に届けるのが正解、である。


 最寄りの交番はどこだったか、と思い巡らしてる時だった。

 ふとすぐ近くに人の気配を感じた。


 視線を転じると、聡介のすぐ右隣に見知らぬ少女が立っている。


 明るい色の髪、くりっとした目元。ワイン色のワンピースは今の季節に相応しい。

 年齢は恐らく4、5歳ぐらいだろうか。ツインテールの髪を揺らした彼女は、じーっと段ボールの中の子猫を見つめている。


 恐らく、連れて帰りたいけれど親にダメだと言われて、それでもあきらめがつかないと言ったところではないだろうか。


 自分の娘がこれぐらいの年齢だった頃、同じようなことがあった。

 一緒に出かけた先で、たまたま通りかかったペットショップ。

 ガラスケースの向こうにいる子猫をじーっと見つめていた彼女に、何と言ってあきらめさせただろうか。


 元々ワガママを言うような子ではなかったから、手こずった記憶は一切ない。

 賃貸だから、という理由の意味を理解していたか否か知らないが、飼えないんだ、ごめんなと告げると、それで終わった。


「……この子、殺されちゃうのかなぁ?」

 少女が呟く。

 それは聡介に向かって投げかけられた質問なのかどうか、判断がつきかねた。


 確かに、仮に交番に届けたところで、いずれはそうなるだろう。


「おじさん、猫好き?」

 今度は確実にこちらへ向かって少女は話しかけてきた。


「……まぁ、嫌いじゃないかな……」

 ふと頭に浮かんだのは息子の顔である。

「じゃあ、おじさんがこの子を拾ってあげる?」

 返答に詰まる。


 飼えない理由はない。だが、相手は生き物だ。そう簡単に決められない。


 少女は懇願するように、

「うち、パパが猫嫌いなの。だから飼えない……」

 困った。

「でも、この子……生きたいって泣いてる」


 聡介は思わず、段ボールの中を覗き込んだ。


 目を閉じて丸まっている為、瞳の色は確認できない。足元と顔の下半分は白い毛に覆われているが、背中はグレーと黒の縞模様だ。

 サバみたいな模様だな……と、聡介は思った。


「そうだな、生きたいよな……」

 1人暮らしの上、留守にすることが多い。とてもではないが、面倒を見る余裕はないと思う。だが犬と違って猫は散歩の必要もないし、放っておいてもたいして弱ったりすることもないと聞く。


 ぱっ、と目を開けた子猫と目が合う。綺麗な緑色だった。

 後で思えば、それが決め手だったかもしれない。


「……そうだなぁ、連れて帰るか」

「良かった!! 猫ちゃん、幸せにね」

 少女は心から安心した様子で、猫に手を振りながら去って行く。


 本当にこれで良かったのだろうか、と少し考えたりもしたが、これも何かの縁だろう。


 と、なるといろいろ用意しなくてはならないことがある。


 車で来れば良かった……。



 ※※※※※※※※※


 猫に好かれる人間と、そうでない人間がいるらしい。

 周はきっと、後者の方だと思う。


 倉橋護は様子を見ていて、しみじみとそう思った。


 友人は明らかにかまい過ぎ……だ。かなり人慣れしている猫カフェの猫達も、溢れんばかりの周の愛に辟易しているようだ。

 犬ならかまってかまって、と尻尾を振ってくることだろうが、猫は逆だと思う。それが一般的に『ツンデレ』と言われる所以じゃないか。


 自らは触ってこようとしないけれど、猫の方から寄って行くと優しくしてくれる。


 そんな人間が猫にとって理想だ、と何かで読んだ記憶がある。かくいう自分がそうらしい。

 特別、猫が好きな訳ではない。だが擦り寄ってくると可愛い。

 ゴロゴロ。喉を鳴らしながら頭をすりつけてきたり、鼻を近付けてにおいを嗅ぐ仕草が可愛らしいと思う。


「……なんで……? なんで護ばっかり……」

「なんでって、知らないよ。周、気持ちはわかるけど、少しじっとしてろよ。そしたら猫も寄ってくるんじゃないか?」


 自分だって完全に猫タイプのくせに。

 猫の気持ちがわからないのだろうか?


 先日まで警察学校の中で起きた事件捜査の為に、一時的に警察学校へ侵入していた、あの和泉という警部補。

 周とは旧知の仲らしく、とても親しそうにしていた。


 ちなみに傍から見ていると、和泉の方は周のことをかまいたくて仕方ないのに、周の方はやや面倒くさそうな様子を見せているように思えた。

 もっとも、本心ではなさそうだけれど。


 それと言うのも、和泉が他の学生と楽しそうに話している姿を見ると、途端に不機嫌そうな顔になったからだ。


 なるほど、これが【ツンデレ】か……!!

 深く納得したものだ。


 ツンデレと言えば。

 上村の様子を見守る。彼はここでも日頃の自分を崩すことなく、マイペースである。


 彼の膝の上には白と黒の猫が乗っかっていた。


 猫にかまうでもなく、ひたすら無言でじっと、時々飲み物を口に運びながらスマホを見ている彼。

 それでもどこか嬉しそうな表情をしているように見える。


 周が突然、彼を誘った時には少しぎょっとしたが、今は良かったなと思える。


 にゃあ、と縞模様の猫がすり寄って来た。

 倉橋が手を伸ばして頭を撫でると、

「ねこー!!」

 周が手を伸ばす。


 すると、ビックリした猫が走って逃げていき、近くにいた猫達も一斉に走り出す。


 だからさ……。


挿絵(By みてみん)

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