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55/177

55:パパに近づこうとする輩は徹底的に排除するんだからねっ!!

今日は2話更新だエビっ!!

 熊谷と表札のかかった家に到着すると、玄関前に一台のライトバンが停まっていた。

 ボディに『あなたの町の便利サービス 猫の手』とペイントされている。


 聡介がドアチャイムに指を伸ばしかけた時、思いがけず内側から扉が開いた。

「……それじゃ、よろしくお願いします」

「ありがとうございました」

 出てきたのは作業着姿の若い男性。


 こちらを振り向いたその顔に、聡介は見覚えがあった。


「あれ、おじさん?!」

 先日電車の中で会った『リョウ』と名乗る若い男性。

 上下若草色のつなぎを着て頭に同色の帽子を被っている。

 手にはバケツを持っていて、中には雑巾やブラシが入っていた。


「こんなところで何を……?」

 聡介は彼に訊ねた。

「よく会うね。僕は見ての通り、仕事だよ。おじさんこそ何してるの?」


 すると。家の中からしゅたたっ、と子猫が走りだしてくるのが見えた。黒と白の2色で、目は綺麗なブラウンである。

「あ、こら。ダメだよ~」

 リョウが子猫の首ねっこをつまみ上げた時、中にいた家の主婦が顔を出す。

 その主婦は間違いない、今朝から何度も見かけたあの女性だった。


「……何か?」

 向こうもこちらのことを覚えていたようだ。顔にさっと警戒の色を浮かべる。


 どうしようか。

 今ここで、身分を名乗って用件を伝えるのが果たして賢明なのかどうか。


「先ほど、ぶつかりそうになった車の運転手です。お怪我はありませんでしたか?」

 和泉が名乗ってくれた。すると、

「大丈夫です」

 素っ気ない返事と共に、ばたん、と扉は閉められてしまった。


挿絵(By みてみん)


 父と息子は顔を見合せた。

 どう見ても不自然な態度だ。

 先ほどは奇妙なことを言って、礼まで口にしていたくせに。 


 リョウはライトバンのトランクに手にしていた道具をしまい、それから運転席に乗るとドアを閉める前に、

「おじさん達、もし足がないなら送って行くよ?」

「いや……ありがとう、気持ちだけ受け取っておく」


 そう、とシートベルトを締め、彼は今度は窓を開けて振り返る。

「そうだ。市内ですごく美味しいラーメン屋さん見つけたんだ、また会えたら一緒に行こうよ。猫ちゃんの話も聞きたいし。さばちゃん、だよね?」

「ああ、またな」

 それじゃね、と車は走り去った。


「……お知り合いですか?」

「つい最近、な」

 和泉はなぜかじっと、リョウが乗っていた車を見送っている。

「どうかしたのか?」

「いえ……別に」


 いつまでもここにいると怪しまれるだろう。

 2人は少し移動した先で足を止めた。

「お前はどう思った? 彰彦。さっきの女性、熊谷さんだったな……」

「……心証としてはグレーですね。地元の人間だし、強い動機もある」

「だが、なんて言うのかピンとこないんだ」

「僕もですよ。だからグレーなんです」


 ※※※※※※※※※


 昨日は大失敗だった。

 ビアンカは本日、何度目になるかわからない溜め息をついた。


 仕事中もずっと頭からそのことが離れない。

 誰と話していても、何をしていても気になって仕方ない。


 でも、恐ろしかったのだ。


 美咲に教えてもらった小松屋という割烹料理店で、聡介に気さくに話しかけてきたあの若い男性。

 顔は笑っていたが全身から発する空気がドス黒かった。比喩表現でもなんでもなく、何と言うのか……とにかく近くにいたくなかった。

 ニコニコしていても、目の奥が笑っていないように思えた。


 だから早々に席を立って、広島に帰ってしまったのだった。

 感じの悪い態度だと思われていたらどうしよう?


 ビアンカには幼い頃からやや特殊な能力というか、独特の勘の鋭さがあった。

 なんとなくだけれども、言葉に出さない内心の邪悪な推論だったり、裏に隠れたよこしまな思惑。そう言ったものを敏感に感じ取ることが可能だった。


 初めは気のせいかと思っていたが、何度も当たったので、今は一種の特技だと思っている。

 長年刑事をやっていると、パッと見ただけでシロかクロかわかるようになると言うが、それに近いのではないだろうか。


 それにしても、せっかくのチャンスだったのに……と、今度は怒りも覚えてきた。


 ビアンカは再び溜め息をついた。

 昨日はほぼ偶然とはいえ、好きな人と会えるという、やっとつかんだチャンスだったのに。


 ふと時計を見る。そろそろ昼休憩に出なければ。

「休憩、行ってきます」

 チームリーダーに声をかけ、ビアンカは外に出た。


 昼はいつもコンビニか外食なのだが、今日は麺類50円引きに釣られてコンビニにした。


 休憩時間はいつも1人で静かに本を読んだり、備え付けのテレビを見たりしている。

 いただきます、とフォークを手にした時だった。


『本日午前5時、尾道市西御所○丁目にて、小学3年生の男児の遺体が海に浮かんでいるのが発見され……』


 テレビ画面に映し出された子供の顔を見た瞬間、ビアンカは思わず「あっ!!」と声を出してしまっていた。まわりにいる人達が不思議そうな顔で一斉にこちらを見る。


 それは昨日の夕方、尾道駅前で見かけた子供の1人だ。

 立場的にはいじめっ子たちのリーダー。

 自分達の荷物をたった1人の子に背負わせた挙げ句、暴力を振るったあの子供。

 止めに入った自分に向かって『気持ち悪い』と言い放ったあの……。


 ビアンカは急いでスマホを取り出し、さっそく高岡聡介の電話番号にかけた。


『高岡です』

「あ、高岡さん……あのね、えっと……!!」

 つながった瞬間、何を言えばいいのか急に混乱してしまった。


『ビアンカさん? 大丈夫ですか?』

「え……何が?」

『昨日は少し、具合が悪そうだったので』


 そういうふうに思われていたのか。

 ビアンカは申し訳ない気持ちにとらわれてしまった。


「ごめんなさい、たいしたことないの。それよりも……今、ニュースを見てびっくりしたからつい、電話しちゃいました。今、忙しいっていうか……それどころじゃない……ですよね?」

 変な日本語になっている。

 どうもいつもの調子が出ない。


『大丈夫ですよ。お気遣いなく』

 いつも優しいあの人は、こちらに対して未だに敬語を崩さない。それが少しだけ不満だ。


 すると電話の向こうで別の声との会話が聞こえてきた。

『あ、もしかしてイノシシからですか?』

『誰だ、イノシシって』

『ビアンカさん』


 和泉!! あの男は……!!

 近くにいたら間違いなくピンヒールで踏みつけてやったのに!!


 ビアンカは思わず、握っていたプラスチックのフォークを折りそうになった。

 落ちつけ、私。


『……もしもし、ビアンカさん?』

「あ、あの……今、ニュースでやってた……亡くなった子って……昨日、駅前で見た……あの小学生の男の子よね?」


 少しの沈黙があったが、

『……おそらくは』

「ねぇ、私に何か手伝えることある?!」


 電話の向こうで少し沈黙が降りた。すると返ってきた答えは、

『そんなことより』

 そんなことって……ビアンカは戸惑いを覚えた。

『ビアンカさんこそ不愉快な思いをなさっていませんか? 子供とはいえ、初対面の相手にあんな失礼なことを言われて……』

「そ、そんなこと!! もう慣れてるわよ」

 苦笑が聞こえた気がした。

『ビアンカさんのご協力が必要になった際は、遠慮なくご連絡させていただきます。それでは』


 ダメだ……やっぱり、好き。


 話の内容は暗かったのに、電話を切った後にはすっかり幸せな気分になっていた。


 その時、ふとビアンカは気がついた。

 どことなく聡介の声に元気がなかった……?


 何かあったの? と、メールでもしようか。と思ったのは一瞬で、やっぱり大人しくしておこうと思い直した。

 電話だとすぐに相手の反応がわかるけれど、メールをすると、返信を待つ時間が少し辛い。


 それに、下手をするとあのファザコン男にストーカー呼ばわりされそうだから。

挿絵(By みてみん)


この話、猫ばっかり出てくるけど、犬が好きな人はこちらがおススメえびね↓



【ステインガルドの魔犬 ~ただの犬だけど、俺は彼女の相棒です~】


https://ncode.syosetu.com/n9757fe/


主人公が犬エビ?

でも、ツッコミが面白いんだエビよ……。

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