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41:御用名は黒い子猫まで

 あるいは。

 マルBがそうしろと指示したのだろうか?


 ネットカフェのPCは再起動で初期設定状態に戻る仕様が多く、閲覧履歴などを詳しく調べたければ令状が必要になる。

 そうして時間稼ぎをした上で逃走を図った可能性も考えられる。


「友人はやや無理をしてマルCのアクセスログを辿り、そうして……とあるサイトを発見しました」


 店員の足音が聞こえて、再び互いに口を閉じる。

 過ぎ去ったのを確認してからふたたび先に話し出したのは聖の方である。

「……今はネット社会と言われるほど、SNSによって様々な人間と関わり合いを持つことのできる時代です」

 彼にしてはめずらしく、まわりくどい言い方をする。


 確かに今は闇サイト、もしくは裏サイトと呼ばれる、犯罪に使用されるサイトがあることは承知している。

 拳銃や薬を違法に取引するためだったり、強盗を計画してネット上で仲間を募集した。なんて言う話が現実にあるのだから。


 北条は彼が何を言わんとしているのか、予測して口を開いた。


「ひょっとすると何か、復讐や殺人の依頼を請け負うとか、そういうサイトだったとか言うんじゃないでしょうね?」


「……こちらをご覧ください」


 聖が自分のスマホを取り出し、見せてくれたのは。


 黒いバックスクリーンに赤い文字で書かれたレイアウトの『ブラックキティ』と題するサイト。


 ※※※


 ようこそ。

 1人では抱えきれない心の闇を抱えた皆さん。


 このサイトでは法律では裁くことのできない悪が裁かれるよう心から願っている、善良な市民の皆様からの意見、ご依頼をお待ちしております。


 どうしても許せない相手がいる。

 どんなに訴えても少しも事態が改善されない。

 どうしてあんな狡い奴が得をして、真面目にやっている自分が損をするのだろう。


 職場の上司はまったくアテにならない。

 学校の先生は何もしてくれない。

 夫は、彼氏はただ聞き流すだけ。


 そんなふうに考えて眠れない日々を過ごしている皆さん。

 あなたの悩みをここで打ち明けてみませんか?


 ひょっとすると、翌日になったらあなたを苦しめていた相手が消えているかもしれません。


 文字通りです。

 この世から存在そのものが消えてしまえば、スッキリすると思いませんか?


 あるいは。

 復讐してやりたい相手がいる。

 あいつの存在を消し去ってしまいたい。

 だけど、あまりにもリスクが大きすぎる。

 失うものが多過ぎる。


 そんなふうに思ったことありませんか?


 大丈夫。

 絶対にあなたが疑われることがないように、我々が代行します。

 そう、憎むべき相手への復讐を。


 ただし。

 管理人は猫です。

 猫は気まぐれ。


 ご依頼をいただいても、必ずご期待に添えるとは限りません。だって、あなたの被害妄想だっていう可能性もあるでしょう?


 入念な調査を行った上で『事実』だと認定した案件のみ、ご依頼を引き受けます。


 我々はテロリストではありません。

 ただ、あなたの恨みを晴らしてあげたい……。


 弱い者の味方です!!


 ※※※

 

 それから寄せられた相談の数々は、ほとんどが職場の上司とのトラブル、家庭内の不満。もしくは学校内のトラブルであった。


 まともに読んでいたら気分が悪くなりそうだ。

 北条はブラウザを閉じて眉間を揉んだ。


「その、千葉で起きた殺人事件は……そのサイトを利用したマルCが小林とかいう准教授の殺害を依頼したものではないかと……千葉県警むこうは考えている訳ね?」

 聖の返答は端的であった。

「はい」

 なお、と彼は続ける。

「殺害された准教授の元にはたびたび黒い葉書が届いていたそうです。お前の悪事を知っていると言ったような内容が書かれた、実質的に脅迫状だったそうですが」

「その葉書が、このサイトの管理人から送られたっていうの?」

「差出人が【黒い子猫】となっており、猫のイラストも書かれていたそうです」


「それで……サイトの管理人、葉書を出したのがマルBじゃないかっていうの?」

「そうです」

「どうして?」

「……利用者及び発信元を特定することは、決して不可能ではありません」


 なぜか先日、雨宮冴子から聞いた話が脳裏をよぎる。

『要君、自衛隊をやめたらしいわよ』


「……マルBの名前は?」

 聖は答えない。

 決してもったいぶっている訳ではなく、用心しているだけだ。

 わかっているが、

「名前は?!」

 北条はつい苛立ちを口調に滲ませてしまったが、聖はまったく動じた様子もない。


 そこに、と彼が指をさしたのはタブレットの画面。

「タップしてみてください」

 言われた通りにすると表示が切り替わった。

 知らない場所に、どこか見覚えのある姿が映っている。


「その人物がBと見て間違いないと思われます。先ほども申し上げましたが、マルBの所在については調査中ですが、じきに判明することでしょう……いかがなさいましたか? 北条警視」


 マルBと称された人物。

 そこに映っていたのは、北条がかつて友と呼んでいたはずの男。


 相馬要(そうまかなめ)

たまには自作の宣伝を……。

今は春だけど(笑)去年、ちょうどシリーズその7が完結した直後に書いた、姉さん主役のスピンオフ。


真夏のミステリーツアー【アンソロジー企画】


https://ncode.syosetu.com/n9594ev/


よろしく!!

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