26:黒い猫の葉書
女性達は1人ずつ名乗ってくれたが、どうせ覚えられないので、適当に聞き流しておく。
顔も覚えられる自信がないので、彼女達のことはとりあえず左から「Aさん」「Bさん」「Cさん」と呼んでおくことにしよう。もちろん頭の中でだけ。
和泉はそう言う面でも実に適当な人間だった。
「実は御堂さん、元は委託元の正社員だったんですよ」
女性のうちの1人Aさんが語り始める。恐らくこの中では経験年数が上の方だろう。
「元いた部署でトラブルを起こして、なんか左遷みたいな形で、うちのチームに出向してきたって聞きました」
「トラブル?」
「詳しいことは聞いてないですけど、噂はあって」
「どんな噂です?」
女性達は一斉に顔を見合わせる。
代表して答えてくれたのは、最年長と思わる女性Bさんであった。
「同じ部署の、他の女性社員の彼氏を……ううん、結婚の約束をしてたから正確にはフィアンセですね。その、略奪したとかなんとか」
俄然、他殺の動機につながりそうな話がいきなり飛び出してきた。
噂だとはいえかなり有力だ。
「御堂さんって、いいところのお嬢様なんでしょう? 彼氏の方それなりの家の人らしいから、セレブ同士のカップルだって噂になって」
「男性の名前は? やはりクライアントの社員ですか?」
「そうです。同じプロジェクトで組んだ同僚じゃないかって……まぁ、私達は直接会ったことがないので、どなたかは知りません」
「では、その奪われた方の女性の名前は?」
「大宮さんです、大宮桃子さん」
即座に答えが返ってきた。
「彼女、うちのチームが扱ってる業務を担当するクライアントさんで。何か困ったことやイレギュラーが発生した時のエスカレ先でした。そんな関係もあって、時々一緒に女子会に来てもらって、仲良くしてました」
いい人でしたよ、と女性はつけ加える。
「でも彼女、その事件があってから退職しちゃって。今は全然連絡取ってないからわからないんですけど、噂じゃ……病気になっちゃったって」
それは病気にもなるだろう。
和泉は見ず知らずの女性に同情を覚えた。
結婚式をすっぽかされた挙げ句、帝釈峡で亡くなった女性よりも、ずっと気の毒に思える。
なんてことを絶対に口には出せないが。
「そうそう、確か実家に帰ったって……一緒に仕事してた頃は中区の方でアパートを借りて1人暮らしをしていたんですけど」
「ご実家はどこか、ご存知ですか?」
「確か、坂町でお父さんがお店やってるって言ってました」
「坂町……」
「和泉さん……?」
守警部が怪訝そうにこちらの顔を覗き込む。
「確か、ウニクロと警察学校に挟まれた広い道路があって、その近くに大きなスーパーがあって……そのすぐ近くのブロックだって言ってたように思います」
「そうそう、居酒屋さんだって言ってましたね」
がたっ!!
和泉は立ち上がった。
「ちょ、どこへ行くんですか? 和泉さん!!」
坂町だと?!
警察学校の近くだと?!
なんだかんだ理由をつけて、周に会いに行くチャンスじゃないか!!
「守警部、申し訳ありませんが、後はよろしくお願いしま……ぐはっ?!」
長野に襟首をつかまれ、和泉は窒息の危険を感じた。
「のぅのぅ、それで皆はその御堂さんって人のこと、どう思っとったんね?」
女性達は顔を見合わせた。
自分達が疑われていると感じたのだろうか。このゆるキャラオヤジ、時々ズバリと核心を突いた質問をするから油断できない。
「あの人のこと、良く言う人はいないと思いますよ……」
そう発言したのは、果たして何と名乗った女性だったか。
「なんでよりによって左遷先がうちだったのかって、皆、言ってましたから」
ねぇ、と発言した女性が同意を求めると全員が、うんうんと頷く。
つまり。動機を持つ人間は多数いたということだ。
よくある話。どんな職場にも、皆から嫌われている社員はいる。
「それで、あのボイコットにつながった訳よね?」
まとめるように言ったのは、それまでずっと黙っていたビアンカだった。
「ボイコット?」
「……先日、彼女の結婚式に招待されたんです。うちのチームのメンバーで、ビアンカさん以外は全員」
「仲間外れですか?」
和泉が揶揄するとビアンカは、
「入社3年以上の人って言う条件付きだったのよ」
と、素っ気なく答えてコーヒーカップに口元に運ぶ。
「あの人友達がいないみたいで、招待客は親族以外だと、同僚ぐらいしか呼べなかったんですよ」
女性の1人が悪意のある笑顔を見せた。
これは相当、日頃からの恨みつらみが積もっていると思われる。
動機につながりかねないと考えたのが顔に出たのか、ビアンカが慌ててフォローするように口を挟んだ。
「もともと日頃から彼女、評判が悪かったわ。でもどんなに上の人に言ったところで、何一つ改善されることはない。皆、ストレスを抱えていたのよ」
人間関係のトラブルはどこの職場にもある話だ。和泉は無言で頷いた。
「で、結婚式当日。招待された彼女達は全員、式場に行かなかった……空席が目立ったでしょうね」
さすがに気が咎めるのか、女性達はややしんみりとする。
「空席どころか、花婿さえ姿を現しませんでしたよ」
「えっ?!」
和泉の台詞に驚いたのはビアンカだけではない。式をボイコットしたという女性達全員が、顔を挙げる。
「実は僕、このジジ……いや、こいつ……の代理で急遽、式に呼ばれて会場に行ったんですけどね。花嫁と両親以外、誰も姿を見せませんでした。だから最初は、誰かに担がれたのだと本気で思いましたよ」
「それ、本当なの……?」
と、ビアンカ。
「こんなことに嘘なんかついて、どうするんですか」
和泉は続ける。「この異常事態には、誰か陣頭指揮を取って計画した人間がいるはずです。その後、彼女……御堂久美さんは……帝釈峡の方で命を落としました。決して、あなた方に責任があるなんて言いません。ただ、ご存知のことがあるのなら、どうかお話ししてください」
しばらくして。
「わ、私……いつかあいつがクビになればいいって、そう思ってました!! だって、ほんとに酷いんですよ?!」
「恐れ入りますが仕事の愚痴はこの際、割愛してください。彼女はとにかく、他人に恨まれるような行動を繰り返していた……と、そう考えていいのですね?」
集まっていた女性達は全員、無言で頷く。
「も、もしかして彼女……誰かに……殺された……?!」
1人が言いだすと、他の女性達が全員、短い悲鳴を上げた。そうして1人、また1人と泣き出してしまう。
マズいことになった。
「皆さん、落ち着いてください。我々はあなた方を責めているわけではないのです」
優しい口調で語りかけたのは守警部である。
「ただ、御堂さんの死にまつわる真実を知りたい。それがご遺族の願いだから調べているのです。決して、あなた方に何か非があるのだと批判しているのではありませんよ」
すると。
女性達は目じりを拭い、鼻をすすった。
「そう言えば……」
その女性は完全に和泉を無視して、守警部の方に話しかける。
「なんだか、おかしな葉書が来るってブツブツ言っていました、御堂さん」
「おかしな葉書?」
「黒猫がどうのって、最初はてっきり宅配サービスの不在通知の話だと思っていたんですけど。なんだか、脅迫文めいたことが書かれてるって……」
「あ、それ私も聞いた!! 大宮さんの仕業じゃないかって、あいつ文句言ってた!!」
女性達はこちらの存在を忘れたかのように、ああだこうだと盛り上がり始めた。
「とにかく、一度その大宮という女性に話を聞く必要がありますね?」
和泉は守警部に耳打ちした。彼は無言で頷く。
「ビアンカさん、ご協力ありがとうございました」
刑事達は立ち上がり、店を出て行くことにした。
お客様センターのスタッフってね、なぜか女性が圧倒的に多いんですよ。
ただ……もしかすると中には元男だったという女性がいたりして?!
それはTSっ!!
いや、たとえ元男だったとしても、可愛ければノープロブレムなのだ(*^^)v
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