表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

134/177

134:一度で終わらなくてすみません

挿絵(By みてみん)


 倉橋は少しスッキリした気分で自分の部屋に向かった。

 あの和泉と言う人は少し、かなり変わった人だと思っていた。しかし。

 直接話してみると、とても優しい人だった。なるほど、周が懐くわけだ。


「あ、護!!」

 ちょうど部屋から出て来た周と鉢合わせする。

「周……今、和泉教官……もう教官じゃないって言ってたから、和泉さんでいいのかな。あの人が来てるよ」

「うん、知ってる。なんかの事件を追ってるみたいだよ」

「事件……」


 中に入るよう勧められて従う。

「何か随分、皆が騒いでるけど何かあったのか?」

「谷村と栗原がさ、門限を過ぎても戻って来ないらしいんだよ」


「ああ、だから……」

「だからってどういう意味だ?」

「2人が駆け落ちしたんじゃないかって、そんな噂話をしてたからさ。まさかあの2人がそう言う関係だったとは思わなかったな」


 周は何か考え込んでいるようだ。

「……周?」

「あの2人ってさ、富士原教官と仲が良いんだよな」

「そうなのか?!」

「俺、一度だけ見たことがあるんだ。3人で一緒に出かけてるところ」

「へぇ……何か悪企みでもしてたのかな」


 そう。考えてみればあの2人、谷村と栗原にはそれぞれ『敵』がいた。


 亘理玲子と、そして今、目の前にいる藤江周。

 谷村の方は実にわかりやすかった。

 でも栗原の方は。


 あれはそう、上村に聞いたのだ。あの男は自分が希望する部署に入るため、担当教官の注意を引きたかったのだが、周がそれをジャマしたと考えていたと。


 そこでどうやって追い出してやろうかと考えて、そうしてまさか……あの盗難騒ぎを起こしたのではないか?


 自分が犯人に仕立て上げられたのは、そうすれば間違いなく周が庇うと考えて。

 実際、そのとおりになったじゃないか。


「……護? どうしたんだよ」

「俺、もう一回あの人のところに行ってくる!!」


 ※※※※※※※※※


 教官室の隣にある応接室。

 集まったのは和泉、そして守警部。


 あと男女の2人組。

 この後、長野と聡介もやってくるらしい。もちろん北条も。


 いずれも北条とは知り合いのようだ。男性の方が、彼の遣いでやって来たと語った。それぞれに名刺交換から始めるべきかと思ったが、

「時間がありませんので口頭で失礼いたします。私は人事第1課監察係、聖と申します」

 続けて女性が名乗る。

「初めまして。千葉県警捜査1課強行犯係、長谷川と申します」


「千葉……? どうしてまた、そんな遠くから」

「聖君から聞いています。こちらでも【黒い子猫】があらわれたのですね。いえ、恐らくはこちらが本拠地だと……」


 どういうことだ?

「詳細は全員が揃ってからお話しいたしますが、千葉でも【黒い子猫】による犯行と思われる事件が発生したのです」

「そんな遠くで……」

「こちらでは最早、迷宮入り確定と思われていますが……まさか、こちらでも同じようなことが起きるなんて。詳しいことをお訊きしたくてこちらに参りました」

 軽く頭を下げると、黒いセミロングが揺れる。


 知的な雰囲気の若い女性刑事は、聖と名乗った監察官の横顔を見上げた。2人は知り合い同士のようだ。

 漏れ聞こえたその会話から比較的、気安い間柄であろうことが何となく伺えた。


 その時、長野と聡介が連れ立ってやって来た。

「あっ、ひじりん!!」

 聡介もまた、見知らぬ顔ぶれに戸惑っているようだ。

「彰彦? どうしてここに?」

「聡さんこそ」

「俺は突然、長野課長に連れて来られて……」

 詳しいことはまだ聞いていないようだ。


 するとそこへ、

「待たせたわね……」

 真打ち登場、である。


「全員、お揃いですね?」

 監察官が口を開く。

 そうだ。以前世羅で彼と出会った時、いずれ関係者を集めて情報共有します、と言っていた。


 今がその時なのだ。

 和泉は息を呑んだ。


 ※※※


 それぞれに自己紹介を終え、初めに口火を切ったのは和泉である。

「現在の最新情報をお伝えしてよろしいでしょうか? 実は先ほど、富士原という教官のデスクからこれを発見しました」

 そして黒い葉書を、集まった全員に見せる。


 今まで便宜上【葉書】と称してきたが、考えてみれば消印がない。切手も貼られていないし、宛て先も書かれていない。

 つまり直接ターゲットの元に送られたと考えていいだろう。


 この学校に届く、学生に宛てた手紙や葉書の類はすべて、通信と呼ばれる部屋で管理されている。怪しい葉書が届けばたちまち騒ぎになるだろう。おそらくこの葉書は富士原と言う教官のデスクの引き出しに直接、届られた。


 だとすれば内部の人間に限られてくる。

 とはいっても、既に現場に出ている警察官を含め、この部屋に出入りできる人物は多数いる。


 驚きの表情を見せなかったのは、つい先ほど予めそれを見た守警部と、もう1人。


「その表情からして、既にご存知だったようですね? 北条警視」

「……気がついたのは昨日の夕方よ」


 すると。

「あ、もしかして!!」

 と、聡介が声をあげた。

「ターゲットになった人物の行確を部下に命じて、警備に当たっていたのですね?」


 何の話だ?


「……いくらクズでも、これ以上好き勝手な真似はさせられないから……」


 誰か司会進行役を務める人間がいた方がいい。

 そうでないと、それぞれが自分の知っている【情報】を元に話し出してしまう。


 和泉がそう思った時、

「恐れ入りますが、時系列に古い順から遡っていきませんか?」

 と、申し出てくれたのは監察官の聖であった。


 全員が同意した時。

「ちょっと待って、誰かがこっちに走ってくる」

 と、北条が言い出した。


「様子を見てきます」

 和泉は立ち上がって廊下に出た。


 一体どういう耳をしているのか、まだ誰かが近づいてくる気配が感じられないのだが。

 しかしあの北条に限って聞き間違いなんていうことはない。


 それから和泉は頭の中で先ほど、父と北条が交わしていた遣り取りについて考えた。


 察するに、黒い子猫のターゲットとなった富士原はあのチートな教官によって無事救出された、ということだろう。


 正直な胸の内を明かせば、放っておけば良かったのにと思う。

 警察官である自分が口にすることは絶対に許されないが。


 それに。

 昨日に比べればだいぶ薄くはなったものの、周の全身につけられた無数の痣を思い出す度、強い怒りがこみ上げてくる。


 周は耐えることができたが、この先、放っておけば次の犠牲者が出る。


 きっと犯人達も今の自分と同じことを考えたに違いない。


【あいつを許してはいけない】


 和泉は自分の中に眠る【凶悪】な何かが、時々、思い出したようにその存在を主張してくることを自覚していた。


 あの時、もし父に出会わなければ。

 きっと早々にこの組織を去っていたと思う。


 もしかしたら自分も【黒い子猫】の一員になっていたかもしれない。


 名前は確か【相馬要】と言っただろうか。

 その相棒である【半田遼太郎】


 一度彼らの話をゆっくりと訊いてみたい。


「ただし、取調室で……ね」


 独り言を呟いた時、確かに向こうから誰かが走って来たのに和泉は気付いた。


「あ、あのっ、さっきはお話しし損ねたことが……!!」

 倉橋だった。

「実は……」


挿絵がまたズレ始めた……(-_-)


ドンマイ!!


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ