君と泣き虫の一頁。
君と私の物語を一頁だけ。
彼の立場や身分を私は知らない。もしかしたら、優しいからお城の王子様や騎手だったかもしれない。それとも、面白い話をするのが上手いから商人やディーラー、物盗り……殺し屋とか。最期まで彼の姿は見ることが出来なかったけど、それでも泣き虫な私は彼が大好きだった。
その男の子はとても明るい人。
とっても面白い話をしてくれる。
私が悲しい時は慰めてくれた。
目の見えない私にとって、その男の子が世界の半分以上を占めていると言ってもいいだろう。
その男の子、小さな足音は大人の歩みに変わり、声も低くなった。私も女性らしく、子どもから大人に。
部屋の外もなんだか騒がしい。
その男の子は、何時からか私を尋ねてくれなくなった。
目の見えない私は待つことしかできない。
私はその男の子に触れられないことが、とても淋しいと知った。その男の子も同じだと良いのに。
だけど、その男の子は違う。いつも自分の手は汚れているからと触れさせてもくれない。訳を話してもくれない。
部屋の外はまだ騒がしい。
最後、
本当に最後の最期にその男の子に触れることができた。
久し振りに触れた小さな男の子とは、違う男の人。
でも、全然怖くないわ。
首筋に、
頬に、
唇に、
目に触れた。
瞼の下のラインをそって濡れていることが分かる。
「泣き虫……」
初めてその男の子が泣くことを知った。
「私とおそろいだったのね」
その男の子の事をまたひとつ知った。
私が泣く前に話を聞いてくれた優しい人は、最期になってもその訳も話してくれなかった。その事がどれだけ苦しいか。またひとつその男の子が好きになって、嫌いになった。
大嫌いになった。
でも、この男の子はもうその訳を聞いてはくれない。
「……泣き虫」
私がその男の子の事を知ることがどれだけ嬉しいのか、その男の子は聞いてくれない。それがそれだけ悲しいか、その男の子はいつも見ていたのに。
その日初めて、悲しいのに泣けなかった。
皆様、この噺を読んでくれてありがとうございました。
この噺を読んで、何か疑問に思ったことは無いでしょうか。
そうです。彼等の立場や噺の舞台については、ほとんどありません。
最初にヒントみたいなものを書きましたが、上手くそれを皆様に伝えることは出来なかったのではと、ひやひやしております。
彼等の立場だけでなく、舞台も何も描きませんでした。血濡れの戦場だったり、教会や病院だったりするかもしれませんね。
ご想像にお任せして、投げ出したものです。はい。