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38、テスト初日

結局、エイコの特訓の成果は微々たるものだった。


ロランは改めて、魔女の森の恩得おんえを思い知る。あの濃い魔力の中で生活することが、どれだけ自分の糧になったか。


それでも、たった二週間程で体内の魔力の流れを理解し、少しでも魔法威力が上がったことに、エイコは大興奮し、喜んでくれた。

まぁ、世の中テストだけではない。その後も特訓を続ければきっと、もっとエイコのためになるはずだから


(今は喜んでくれただけでいいか)


とロランは微笑む。


「あ、でも、走り込みの成果はしっかり出てる気がします! なんだか前より疲れにくくなったと思うんです! 筋肉痛で体の節々が痛いですけど……」

「そ、それって、本末転倒じゃ……」


二人は一緒に登校しながら話しをする。

これも、すっかり毎日のことになっていた。


当然、学校に近づくにつれ、周囲の勘繰るような視線が二人に突き刺さるが、ロランは鉄の心で無視し、エイコはあまりにつれないロランの反応に逆に開き直っていた。


エイコの場合は元の性格からして、こんなものかもしれないが、ロランの場合は成長だろう。


とてもいじめられっ子とは思えない。

逞しい二人である。



学年度末テストは三日間に渡って行われる。


本日、1日目は「筆記試験前半」と「基礎魔力測定」。


明日、2日目は「筆記試験後半」と「実戦魔法テスト」。


そして、最終日は「ペア実戦魔法テスト」。


特に最終日は学年最強ペアを決める、年に一度の総決算とあって、学校中がお祭り騒ぎになる。

そんなところで二人は全勝を狙っているのだ。


「でもその前に、まずはお互いに個人の試験を頑張らなきゃね!」


「あ、はい! 頑張りましょう! アトールくん!」


二人は校門をくぐると、グッとこぶしを突き出した。



――初日、各教室で午後2時まで、4科目の筆記試験が行われた。


ロランはいつも万全の準備をして臨む筆記試験で、初めて苦戦を強いられた。


やはり、森にも教科書は持っていった方がいい、今度からは絶対にそうするとロランは心に誓った。


テスト後の休憩中、ロランとエイコは一緒に自己採点をする。

ロランは全て70から80点前後だった。

いつものロランに比べたらボロボロだが、学年平均はなんとか上回るだろう。それもこれも、エイコが学校の休憩時間等に、ロランに色々とテスト対策を施してくれたお陰だ。


一方のエイコは、ほぼ満点という自己採点結果だった。


さすがと言う他ない。



――休憩後は基礎魔力測定。


要は魔力の体力測定みたいなものだ。


各生徒がどの程度の魔力を練り、放出することができるのか、それを特殊な『魔石』を使って作られた測定器で計る。


項目は「持久力」「瞬発力」「精度」「破壊力」「範囲」の5項目だ。


持久力を計る際は水晶玉のような測定器に手を添える。

すると測定器は少しずつ生徒の魔力を勝手に吸収し、勝手に放出しだす。

取られる魔力は微々たる量だが、まるで血を抜かれているような感覚だ。


耐えること一分弱、たったこれだけのことで、おおよその魔力の総量と使う際の魔力効率がわかるらしいのだから、すごい道具である。


――


次は瞬発力と精度を同時に計る。


やり方は学校に指定された規模の魔法をそれぞれ属性別に選択し、測定用の腕輪をつけた状態で、試験場に用意された的に放つだけ。

そうすることで、魔法の詠唱から発現までの時間と、魔法の構築精度および命中精度を導きだそうというのだ。

これを集中して10回ほど繰り返す。


――


最後は破壊力と範囲。

場所は頑丈な演習場に移る。

実戦魔法テストなどに使われるドーム状のところだ。

演習場は全体が魔力に強い石でできており、ここなら躊躇なく高威力の魔法が放つことができる。


今日はそこに5人の試験官がいた。


生徒は試験官が見ている前で、自分の全力の魔法を演習場と同じ石材でできた『ゴーレム像』にぶつける。

それを試験官が採点し、客観的に魔法の威力と効果範囲を評価するわけだ。


最後の試験に測定器はない。

「実力派の魔法使い」が「魔法使いのたまご」たちの操る魔法を厳しく見定める場なのだ。


当然、このテストが初日の花形だった。


だから、既に自分のテストを終えた学校中の生徒たちが、数箇所ある演習場の中から、各々お目当ての生徒のいる演習場を見つけ出し、観客席に座っている。

もちろん、ロランのクラスにもそんな人気を誇る生徒がいた。


イツキとマーキスだ。


マーキスは常に学年のトップクラス。イツキもそうだが、彼女はいつもマーキスの一つ下位に甘んじていた。だから、今回こそはと気合いが入る。


「……! 『フレイムキャノン』!!」


イツキは集中を極限まで高め、前にかざした両手から巨大な火球を放つ。

後ろで見ているロランにまで熱気が襲いかかるほどの威力。とても濃い火属性の気配がブワッと立ち上がったのをロランは感じた。


「いっけぇぇぇー!!」


イツキが放ったフレイムキャノンがゴーレム像にぶちあたり、大きな火柱になる。

かすり傷さえつかないとされる石材が焦げる匂いが演習場に立ち昇った。


試験官の中にはほぅと感心する声を出した者もいる。

が、マーキスはその表情を一切崩さず、前を見つめていた。


「ふむ。よろしい。では、次。マーキス・レイノット」

「……はい」


マーキスはイツキと入れ替わり、前に進み出る。

すれ違う時、二人は目も合わさなかった。

かなりピリピリしている。

これは真剣勝負なのだ。


「では、始めてください?」


言われ、マーキスは片手をかざす。

それだけでマーキスの体に強い風属性がまとわりつくのが見えた。


(……やっぱり、レイノットくんはすごい……)


ロランは素直にそう思う。


「……『テンペスト』!」


マーキスは目を細めて詠唱した。

すると、瞬く間に演習場が暴風に包まれ、ゴーレム像に無数の風の斬撃が加えられる。


後方で待つ生徒たちは目を開けていることもできなかった。

それでも、イツキとロランだけは、しっかりとその魔法を見届けている。


やがて風が止み、ゴーレム像がはっきりと視界に入った。


簡単には傷がつかないとされる石材がボロボロと剥がされている無残なゴーレム像の姿が……。


「おお……!」

「すげぇ!」


観客席がどよめく。


「……ふーっ」


マーキスは一息ついた。


「ふむ。よろしい」


試験官が言うとマーキスは下がった。

ロランの隣でイツキは悔しそうな顔でマーキスを睨みつけている。


「では……次。ロラン・アトール」


「あ、は、はい!」


呼ばれてロランは慌てて前に出た。


そんなロランをマーキスはすれ違いざまにちらっと見る。が、ロランは緊張のためか、全然気がつかない。


「では、始めてください」

「はい。よろしくお願いします!」


ロランはひとつ、大きく深呼吸して目を瞑る。


観客席の生徒たちの殆どは、ロランのことなど見ておらず、先ほどのマーキスの魔法について、小声で話し合っていた。


そんな話し声がロランの耳からだんだん遠ざかっていく。


集中……集中。


使う魔法は決まっていた。

意を決するとロランは俯き、口の中でぼそぼそと詠唱する。

そして、


「ホーリーランス!!」


右手を振るい、ひと振りのランスを出した。


「……えっ?」


後ろから見ていたイツキは思わず声を出す。


(ロランくんが、攻撃魔法を?)


見たことがない。新しい魔法だ。


「………」


一方のマーキスは無言で、ロランを睨みつけるように見ている。


ロランはランスを両手で垂直に持ち、そこへありったけの魔力を流し込む。


ドラコと戦った時のイメージで。

制限時間はない。

時間をかけて、あれよりも威力を出す!


(もっと……もっとだ。まだだ、まだいける……)


ホーリーランスは一段と輝きを増した。

眩い白色の光が演習場を包み込む。


「……な、なにこれ? なんなの?」


イツキはさっきまで無視していたマーキスに聞く。マーキスは


「知るかよ」


と答えた。


時間にして30秒程か。

ロランは集中が限界に達したと感じた。今がピークだ。

投擲とうてき態勢に入る。


「……てぇぇぇりゃあぁぁぁ!!」


ロランは足を開き踏ん張ると、ランスを思い切り、ゴーレム像に向かって投げつけた。


「でぇ!? な、投げるんだ!?」


イツキは思わぬ攻撃方法にツッコむ。


皆の驚きの視線の先を、ホーリーランスは物凄いスピードで飛ぶ。


白いキラキラした光の粒を尾に引き、まるで流れ星のように。


そして、ランスはゴーレム像のど真ん中に直撃すると、超硬度の石材を貫通し、向こう側の壁に深々と突き刺さって止まったのだった。


しーんとする演習場内。


が、一番驚いているのはロラン本人であった。


(あ、あれ……? なんで? どうして? 滅多に傷つかないはずじゃあ……)


ロランは固まる。


結果自体は良かったと思う。

ほぼ思い通りの魔力を込め、全力を出し切ることができたのだから。


でも「まずい……」とは思った。


いくらなんでもこんなはずではなかった。


(というか、投げつけてこの威力の魔法で、少し欠ける程度しか傷が付かなかったドラコの鱗って、どんだけ硬いの……?)


ロランは現実逃避するように考える。

でも、もちろんそんなことを考えている場合ではなかった。

とにかく、何か聞かれる前にここから立ち去らねば。


「あ、あ、ありがとうございました!!」


ロランは穴のあくほど顔を見つめてくる試験官たちに一礼する。


すると、やっと動き出した試験官の一人が


「ふ、ふむ……よろしい。では、次……」


そうロランに退がるよう促したのだが、


「おほん。その前に少しよろしいかね?」


とそれを止める試験官がいた。

ロランはギクッとし、足を止める。


声を上げたのは、5人の中で一番年配だろう、初老の試験官だった。


「ええ……ロラン少年? で、よろしかったかな?」

「あ、はい。 ロラン・アトールです……」


ロランはそうするしかないので、気をつけをする。

その間にも、試験官以外の教員たちが、壊れたゴーレム像を撤去し、新しいゴーレム像を用意している。


「ロラン少年。なかなかよい魔法力で感心したよ。ゴーレム像が壊されるのを見るのも久しぶりだ」

「は、はい。あ、ありがとうございます」

「ええ、と。確か、資料によるとホーリーランスは新しく覚えたみたいだね? 半年間休学していた時にかね?」

「そ、そうです。は、母から教わりまして……」


ロランは嘘をついた。

登校初日にジャンに指摘されてからずっと考えて、導き出した方弁だった。

ロランは新しい聖属性魔法については、全て母に教えてもらったで通すつもりだ。


「そうかい。まぁ、とにかく、良いものを見させてもらった。これからも頑張って修練に励みなさい。期待しているよ?」

「あ、有り難いお言葉、誠に恐縮です。ご、ご期待に応えられるよう、これからも頑張ります! し、失礼します」


やっと会話の出口を見つけたロランはもう一度深々と頭を下げ、素早く踵を返す。


今度は呼び止められなかった。


が、次はクラスメイトや観客席がざわつき始める。

無理もない。

全く期待されていなかった『学年最弱』が、試験官であり、『魔法学校名誉教授』であるプロッフ・アロンドから「期待している」と声をかけられたのだから。


驚嘆、懐疑、羨望、嫉妬の眼差しが一気にロランの周りに渦巻く。


壁際まで戻ったロランにイツキは、


「……す、すごいじゃないの、ロランくん! どうしたのいったい!?」


と声をかける。

ロランは何と言えばいいか整理がつかないので


「まぁ、ちょっとね……」


と言って誤魔化す。

その時、イツキの横にいたマーキスと目が合ったが、マーキスは無言で腕を組み、目を瞑ってしまった。

あまり良い印象ではないようだ。


(しまったなぁ……でも、他にどうすればよかったんだろう?)


反省するが、とにかく全力は出し切りたかった。


こうして、学年度末テスト初日は波乱含みで終わり、この出来事はすぐに全校生徒の耳に入るところとなった。


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