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24、魔女の木の実

「リッケにも手伝って欲しいことがある」


アーシュの背中の痣の件で、カサンドラにそう言われてから、リッケとロランはずっとあるものを探していた。


それは『魔女の木』になるという木の実だ。


この森に群生し、魔力を生み出す不思議な木、魔女の木。

その木は通常、なんの実もつけないが、中には数年に一度、冬場に実をつける木もあるという。

そして、その実は食べると体に魔力を補給してくれる、強力な薬にもなるのだとか。


要するにその実をロランに食べさせて、作業効率を上げようという話なのだが、思いの外、魔女の木の実探しは難航していた。


あの食べ物探しの名人であるリッケを持ってしてもである。


リッケは自分の動物人脈(?)を駆使して、日夜捜索にあたらせた。

陸からも空からも。

しかし、動物たちの生活範囲には魔女の木の実はひとつもないようだった。

これ以上、森の奥となると魔物がわんさか出てくる。とても、動物さんたちを行かせるわけにはいかない。


「仕方ないわね……こうなったら最終手段よ」

「さ、最終手段……?」


ロランはリッケの顔を見る。


最終手段。

どことなく嫌な響きだった。



――その翌日。


リッケはお弁当などを入れたリュックを背負い、ロランはいつもの竹籠と、手甲を装備し、朝早く森に入った。

今日は家畜当番も畑当番も全てアーシュとカサンドラに任せてある。

料理は昨日の夜に作り溜めしておいた。

準備は万端だ。



二人はまず、ドラコの洞穴に来た。

ロランはここまで案内されたのは初めてだった。

地面に空いた洞穴は、突然ぽっかりと森の中に出現したかのような場違い感があった。


その中に向かってリッケは


「おーい! ドラコー!」


と呼ぶ。

すると、ドラコはすぐに出てきた。

まるでご主人様の帰宅を待ちわびていた飼い犬のような喜びようだ。


「おはよう。ドラコ。今日はちょっとお願いがあるんだー」


リッケが言うと、ドラコは首を傾げた。



――「うっ、うわぁ……」

「イェーイ!」


数分後、ロランとリッケはドラコの背に乗り、空を飛んでいた。


リッケの最終手段とは、ドラコに乗って森の奥に行こうということだったのだ。

なんでも、ドラコはリッケ以外の人を乗せるのを嫌がるようで、ロランをちゃんと乗せてくれるかどうか心配だったらしい。

けど、それも杞憂に終わった。


ロランはリッケの肩に掴まりながら下を見る。

そこには広大な森が広がっていた。

振り向くと小屋の前の広場が豆粒大に見える。


(た、高いなぁ……)


何を隠そう、ロランは高いところが大の苦手だった。

しかも、ドラコは「振り落とされるんじゃないか」というくらい、飛行スピードが速い。


ロランは手足を震わせる。

一方のリッケはちっとも怖くないようで、片手をドラコの首から離し、ヤッホーと、はしゃいでいた。


(よ、よく平気だなぁ……)


ロランがリッケの横顔を見ていると、その視線に気がつき、リッケが振り返る。


「大丈夫? 怖くない?」

「うん。ちょっと怖いけど……大丈夫」


ロランは少しだけ強がった。

でも、すぐに見破られた。

リッケは悪い顔になる。


「にひひ……無理してる顔だねぇ。じゃあ、もっとちゃんと掴まってて。大丈夫。怖くないから」


そう言うとリッケは自分の腰にしっかりと手を回して掴まるよう、ロランに指示した。


「えっ……こ、こう?」


ロランは恥ずかしながらも、恐る恐るリッケの腰に手を回す。


「もっとギュッと!」

「う、うん」


ロランは高いやら、速いやら、柔らかいやら、いい匂いやらで、ドキドキが収まらなかったが、リッケがロランに抱きつかれても平気な顔をしているのを見て、


(ここで恥ずかしがってちゃ、かえって意識してるみたいで、恥ずかしいじゃないか……)


と思い直し、素直にギュッと掴まった。


それを感触で確認したリッケは


「よし。じゃあ、そのままね、ロラン。ドラコ? 私たちの特技、見せてあげよ!」


と言い、ドラコの首をバシッと叩いた。


すると、ドラコは矢のように急加速する。


「……なっ!?」


ロランは思わず声を漏らす。

が、そんなのは序の口で、ドラコは加速が最高に達すると、アクロバティックに回転、錐揉み、空中を上下左右へと自由に飛び始めた。


「……! な、も、もう、なに……こ!?」


ロランは言葉にならない言葉を口の中でもごもごし、リッケは


「イェーーイ! ヒャッホー! フー☆」


と、大はしゃぎしている。


リッケはスリルが大好きみたいだ。

が、ロランは高いところを始め、全般的にスリルはダメだった。


ロランはリッケの背中に顔を埋め、この悪夢のような時間が過ぎるのをひたすら待つ。


リッケの背中は華奢で、でも柔らかくて、すごくいい匂いがしたはずなのに、そんなことはロランの記憶の片隅にも残らなかったのだった。



――30分後。


ひとしきりドラコとリッケのお楽しみタイムが終わると、一行は森の深部へ、何事もなかったかのように降り立った。


(あんなに飛ばさなくても、来れたじゃん……!)


ロランはぐったりして思う。

が、リッケには悪気はないようだったから、なんとか心の中にそのツッコミを留めた。


「ふむふむ……わかった。ここから先はドラコの感覚に任せてみるね。ドラコには強い魔力を知る勘みたいなものがあるらしいから」


リッケがドラコと話して言う。


「勘……わ、わかった。じゃあ、ドラコについて行こうか」


ロランはとりあえず、そう答えた。



森の奥に来たけれど、景色は小屋の周辺と大して変わらなかった。


ただ、森に満ちている魔力の量。それは、桁外れに大きいと、ロランは肌で感じることができるようになっていた。


(こんな濃い魔力の中で、ドラコはどうやって魔女の木の実の魔力を探すことができるんだろう? これじゃあ……砂漠の真ん中で砂金を探すようなものだよな……)


森の奥の魔物は、森の魔力量に比例するように強いとアーシュは言っていた。


だが、それでもドラコがいると魔物は一匹も寄ってこない。


ということは、ドラコはそんな強い魔物よりもずっと格上だということか……


(子供とはいえドラゴンだもんなぁ)


ロランは改めてドラコのすごさを実感した。



リッケとロランはそんなドラコの加護の元、順調に捜索を進める。


しかし、かといって木の実が簡単に見つかるわけではなかった。


ドラコは魔女の木をすぐに見つけてくれるのだが、木の実がなっているものなんてひとつもないのだ。

そもそも、魔女の木の実なるものは、どういう色の実なのか、どこになるのかもわからないとあっては、さすがに探しにくい。


「それは仕方ないよ。カサンドラちゃんも実物は見たことないって言ってたし」


そう言われてしまうと、木の実の実在すら危うくなるが、カサンドラに限って事実を誤認することはないだろうから、二人はカサンドラを信じて探し続ける。


「ドラコ……どう? まだ、この辺りを探す?」


ロランが聞くと、ドラコは自信ありげに頷いた。

ならば、ロランはドラコの自信にも従おうと思う。


「そっか。じゃあ、もう少しよろしくね。ドラコ。僕も頑張るから」


ロランがゆっくりと手を前に伸ばす。が、ドラコはプイッとそっぽを向いてしまった。

まだ、頭を撫でさせてはくれないらしい。


「気高く、気難しいか……」


ロランは諦めて、捜索に戻った。


――


ロランは少しくらい離れても大丈夫だと踏んで、リッケとドラコとは別の方向を探そうと思った。


ドラコの魔物を寄せ付けない影響力は広いらしいし、またそれと同様にドラコが魔力を嗅ぎ分ける範囲も無駄に広くなっているからだ。

だから二手に分かれた方がいいと考えた。


ロランはリッケにその旨を伝える。

すると、リッケは


「うん。わかった。でも、あんまり離れ過ぎちゃダメだよ?」


と言ってくれた。

了承を得たので、ロランは一人で森の奥を歩き始めた。



一人になるとさすがに緊張感がある。


ロランは念のため、意識を最大限に張り詰めて、魔物の気配を見逃さないようにする。

そんなことも、アーシュとの特訓で、多少は身につけていた。


帰る方角を見失わないようにしながら、しばらく歩く。

すると、眼前に


「あっ……あれは……?」


ロランは魔女の木の群生地を見つけた。

ゆっくりと木のところに向かう。


そこには20本ほどの魔女の木がまとまって生えていた。

だが、どれを見ても木の実はついていないようだ。


ここもはずれか。

ロランは一応ぐるっとその周辺を見回る。


そうすると、その群生地の奥に崖があるのを見つけた。

ロランは落ちないように下を見下ろす。

そこはすり鉢状の窪地になっていて、その中央になにやら大きな木が生えているのが見えた。


(魔女の木……? でも、魔女の木はあんなに大きくなるのかなぁ?)


少なくともロランは、あんなに大きな魔女の木に出会ったことはなかった。


しかし先程から、その大きな木から、すごい量の魔力を感じるのだ。


あれを見つけるまでは手前の群生地の魔力かとばかり思っていたけれど、どうやらそれよりも窪地の木一本の魔力の方がずっと大きいようだった。


(調べたいな……でも、ここを一人で降りるのは危険だ……リッケとドラコを呼んでこよう」


ロランはそう思い、振り返った。


――が、ロランは振り返って、凍りついた。


そこにはいたのだ。


魔物が。


全く気配に気がつかなかった。

いや、気づかせてもらえなかった。


魔物は獅子の体に、異形な顔をつけ、蝙蝠のような羽を持ち、尾は蠍の尾のような形をしていた。


口からはよだれが垂れ、目には明らかな敵意が読み取れる。


(『マンティコア』……!?)


ロランは思う。

そして、頭をフル回転させ、図鑑で読んだマンティコアの情報を引き出そうとした。


だが、それよりも前にマンティコアが尾を振り上げ、ロランに遅いかかった。


「くっ……!」


逃げる暇もない。

ロランは尾の薙ぎ払いを手甲の闇の力で、咄嗟に防御する。

ダメージは抑えられたが、その衝撃でロランは足を踏み外し、崖を転がり落ちた。


「ぐわっ……ぐっぅ……うわぁっ……!」


体を庇いながら転がったが、所詮は気休めだった。ロランは全身を強く打ち、左腕は上がらなくなっていた。


「……う、う、ヒーリング!」


ロランはそれを骨折だと判断するとすぐに立ち上がり、ヒーリングをかけた。

どうやら足は多少痛むが、大丈夫のようだ。


ロランは上を見上げる。

マンティコアは崖の上からこちらを見下ろしていたが、ロランと目が合うと羽を羽ばたかせ飛翔する。


ロランは急いで距離をとろうと走った。

と、言えば聞こえはいいが、実際は逃げたも同然だった。まだ、左手が治せていないし、戦略も立てられていない。

これでは逃げの一手しかない。


(どうする? どうする? どうする!? 考えろ、考えろ!)


ロランは左手にヒーリングをかけながら、ショックの詠唱を始めた。

とりあえずあのスピードの攻撃を仕掛けてくる魔物にホーリーランスでの接近戦は危ないと判断したのだ。


ロランは必死で走る。

そうして気がつくと、あの大きな木の前に来ていた。


見上げると、それは確かに魔女の木だった。


それも、見たこともないほど巨大な古木。


そして、そこにはさくらんぼほどの大きさの、紫色の木の実がたくさん実っていた。


間違いない。あれが魔女の木の実だ!


ロランは思う。

でも、それを喜んでいる暇もなかった。


マンティコアは窪地に降り立ち、ロランを睨みつけながら、じりじりと距離を詰めてきている。


ロランはリッケとドラコを大声で呼ぼうと思った。

が、それを寸前でやめた。


ロランはドラコとの距離を慎重に考えていたつもりだったのだ。

けど、それでもこのマンティコアは現れた。ということは、このマンティコアはドラコを恐れていないのではないか? ドラコと同等か、もしくはそれ以上の魔物なのかもしれない。


だとしたら、今からこの場にリッケを呼んでどうする?

不用意にリッケを危険に晒すだけだ。


(ダメだ、それは。ここは……僕がやるしかないんだ……!)


ロランは左手のヒーリングが終わると、すかさず


「ショック!」


と地面に手をつく。

ロランの詠唱スピードはさらに速くなっていた。

カサンドラが使う『高速詠唱』なる離れわざとまではいかないが、それでも着実に成長していた。

もちろん、威力も。


(行けぇっ!)


ロランは思う。

その願いが届いたのか、マンティコアはショックの魔法をもろに受けた。


放ってから直撃まで一秒ほどしか、かからないのだから避けることは難しいのだが、それでもロランはほっとする。


が、すぐに気を引き締めなければいけないことを悟った。


マンティコアはショックの魔法の直撃を受けても、平気で立っていたのである。


ロランは素早く詠唱を再開。

マンティコアは焦げた匂いをさせながらも、敵意剥き出しで突っ込んでくる。


「ホーリーランスッ!」


ロランはマンティコアの突進をランスで受け流した。そうして、左に避ける。さらにそこから突きを繰り出そうとした。


がそこへ、マンティコアも追撃をかけた。


マンティコアは反転し、ロランより一瞬早く左手の爪を繰り出す。

それはロランの右足の付け根をえぐった。


「ぐわぁぁぁっ!!」


あまりの痛みにロランは叫ぶ。

だが、止まっている暇はなかった。


それに、もう躊躇している場合でもない。


ロランは後ろにステップをすると、ホーリーランスを投げつける。

それをマンティコアは軽々と弾いた。


でも、これで少し時間は稼げた。


その間にロランは手甲の闇の力を『闇の炎』へと変換していた。


それも両手ともだ。

リスクは大きいとは思うが、 手加減してやられたら元も子もない。

それと、躱されてもダメだ。

ロランは一度とった距離をもう一度詰めて、目の前で放つつもりだった。


「……行くぞっ……!」


ロランは思い切って、マンティコアの懐へ飛び込む。


鼻先にマンティコアの爪が迫った。


けど、目は瞑らない。

ロランの顔に爪が食い込む直前、


「でやぁぁぁぁっ!!」


と、ロランはマンティコアの腹目掛け、闇の炎を叩きつけた。


危ういところでマンティコアは爆風で吹き飛び、初めてつんざくような悲鳴をあげる。

闇の炎は相変わらずすごい勢いで、あっという間にマンティコアの全身を包み込んだ。


「や、やった……のか……? ……うっ……!」


ロランはマンティコアを油断なく見つめていたが、突然胸が苦しくなりうずくまる。


心臓が止まりそうなくらい重く感じる。

顎が痛み、目の前がチカチカと明滅した。


「ま、まずい……は、反動が……」


やはり両手で放つのはリスクが大きかった。体の魔力はほぼ空っぽだ。


それに、右足付け根の傷も、そろそろヒーリングをかけないと……血が出過ぎている。


ロランは深呼吸をしようとした。なんとか心臓を落ち着けようと。

そうすれば、まだ大丈夫だ。


しかし、それは甘い考えだと思い知らされた。


「……えっ……?」


なんと、闇の炎をまともに食ったはずのマンティコアが、まだ倒れずにこちらを睨みつけていたのである。


「あ……あれでもダメなのか……」


ロランは後退する。

足を引きずりながら。

もう、駆けることはできそうにない。


マンティコアもすぐには攻めてこなかった。

ロランの力を警戒しているのと、やはりダメージは受けているのだ。


「き、効いてるのか……? なら、もう一度……」


ロランは再度、闇の力を練ろうとした。

が、素になる魔力がないのでは、やりようがない。

これ以上絞り出したら、今度こそ命に関わるだろう。


(でも、このままではどちらにしろ……)


マンティコアは闇の炎を克服しつつあった。

こちらの体力がないことに気がつかれるのも時間の問題だろう。


ロランが為す術もなく後退していると、ドスンと背が何かにぶつかった。


ロランはちらっと確認する。


それはあの魔女の木の巨木だった。


いつのまにか、こんな位置まで下がってしまっていたのか……。


しかし、ロランはその木を見た瞬間にひらめいた。


賭けるしかない。

ロランは最後の力を振り絞り、高くジャンプした。


そんなロランの動きを「隙」と見て、マンティコアは地面を蹴る。

その動きとロランが魔女の木の実を食べたのは、ほぼ同時だった。


ロランは魔女の木の実を食べた瞬間、手甲の時とはまた違う、心臓の痛みに襲われた。

それは急激に魔力が補給されたことへの反動だったのだが、もちろんロランはそんなこと、知る由もない。

とにかく、全力で力を放出した。


(もう一度っ!!)


ロランは目の前まで迫ったマンティコアを闇の炎で退けた。

物凄い爆音。

また、心臓が痛む。

けど、今度こそ本当に容赦しないつもりだった。


ロランはもう一つ採っておいた、魔女の木の実を食べる。


それから、口の中で詠唱していた魔法を繰り出た。


「ショック!」


黄色味を帯びた魔力が地面へと消える。

そこへ、さらにロランはありったけの魔力を使い、『闇の雷』を合流させた。


ショック+闇の雷の合成魔法。


ロランが常日頃、イメージしていた攻撃だ。


「これが僕のできる最大だよ……? 受けてみて……!」


炎に包まれた、マンティコアは既に瀕死状態だった。


そこへ、地面から黒味を帯びた無数の雷が、追い討ちをかける。


「キエエエエーーーーッ!」


さしものマンティコアも、断末魔の叫び声を上げた。


炎に包まれていた体は、さらに雷で焼かれ黒焦げになる。


そして、数秒後には体すら崩壊し、マンティコアは尻尾と骨だけを残して、真っ黒い灰になってしまった。


それを息を切らしながらロランは見届ける。


灰になり、起き上がってこないマンティコアを見て、ロランはようやく決着がついたことを確信できた。


「や、やった……やったよ……僕、1人でも、で、できた……」


ロランは言った。

が、ガッツポーズすらできずに地面に倒れ込む。


ヒーリングを傷口にかけようと思った。

けど、指一本動かせそうにない。

気が遠くなる。


(あ……今度こそ、リッケを呼ばなきゃ……せっかく勝ったのに……これじゃあ、僕も……)


ロランは思う。


だが、みるみるうちに体から力が抜けていき、ロランはすぐに気を失ってしまったのだった。



―― 「……ラン……ロラン……」


ロランは呼ばれた気がして目を覚ました。


眩しい光の中、目を開ける。

そこにはぼんやりとしたシルエットが見えた。


「あ、起きた……! ロラン! 大丈夫!? ロラン!」


「……リ、リッケ……?」


「ロラン……う、う、うっ、うぇーーんっ! ロランッ! よかったー! よかったよーー!」


「う、うぐっ……うっ……!?」


ロランはまだ状況が掴めない。

気がつくと、ロランはリッケの膝の上にいた。

そして、今はリッケに覆い被されている。

周りが見えない。

でも、どうやら助かったらしいことだけはわかった。


「リッケ……く、苦しい……よ」

「あ、ご、ごめんね。つい……」


リッケが恥ずかしそうにどくと、そこが魔女の木の根元だということがわかった。


ロランの足の傷には包帯が巻かれている。


少し離れたところにはドラコがいて、ロランはリッケに膝枕される形で、横になっていた。


ロランは今更、そんな状況が恥ずかしくなり、動こうとした。でも、リッケがそれ制し、結局ロランは膝枕されたままになる。


見上げるとリッケと目がバッチリ合うから、ロランは横を向き、ドラコの方を眺めた。


「こ、この包帯はリッケがやってくれたの?」

「えっ? あ、うん。そうだよ。いつも持ち歩いてるの。おばあさま特製の軟膏と一緒にね。すごく効くんだよ」

「そ、そうなんだ……」


ロランはそれ以上どう言っていいかわからなかった。

ありがとうと言うべきなのか、ごめんなさいと言うべきなのか。


「ありがとう……それと、ごめん、心配させて……」


ロランは結局、両方言った。


「ほんとだよ! 私なんて、心臓が止まるかと思ったんだからね! ドラコが早めに見つけてくれなかったら、どうなってたか……」


リッケによると、あのマンティコアとの戦闘中にドラコはロランが魔物と戦っていることに気がついたらしい。

しかし、この魔女の木の影響か、少し場所を探すのに手間取っているうちに、ロランの魔力が消えかかっているのを感じたそうだ。


ドラコも必死に探してくれて、なんとか発見したが、その時にはもう戦闘も終わり、ロランは血だらけで倒れていたという。


それは悪いことをしたとロランは思った。

もしそれが逆の立場で、自分が駆けつけた時にはリッケが血だらけで倒れていたとしたら……ほんと、想像しただけで、心臓が止まりそうだ。


「だからさ、後でドラコにもお礼を言ってあげてね」

「うん……そうする」


ロランは答えた。

ドラコはチラッとこちらの様子を見る。

しかし、それ以外は周囲の警戒を怠りなくやってくれていた。

またいつ魔物が出てきてもいいようにだろう。


「それにしても……よく見つけたね。この木……」


リッケは言いたいことはまだまだあるが、飲み込んで言う。

ロランはそんなリッケに甘えて言葉を返す。


「ううん……たまたま。でも、これが探してた魔女の木の実で間違いないよ。食べてみたんだけど、話以上に魔力が補給されたから……」

「ふーん。ねぇ、味はどうだった?」

「お、覚えてないけど……あんまり美味しいものではないのは確か、かな?」

「えー。そうなんだー」


リッケはがっかりする。

それがおかしくてロランは笑う。けど、笑うたびに傷口が痛んだ。


だから、今度こそヒーリングをかけようと思うのだけれど、起き上がろうとする度にリッケに膝の上に戻されてしまう。

もうちょっとこのまま安静と言うことらしい。


(膝枕もいいけど……足の痛みは耐え難いんだけどなぁ……)


ロランは思う。

けど、もうちょっとここでこうしていたい気持ちもあった。


そんなふうにしているうちに、再び眠気がロランを襲う。

さっき起きたばかりだというのに。

しかし、それはおばあさんの軟膏の成分による睡眠作用だった。


リッケはそれを知ってて、ロランを寝かせていたのだ。


ロランはたちまち眠りについた。


リッケはロランがしっかり寝ているのを確認すると、涙を拭き、ロランの頭をそっと撫でた。



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