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20、頼みごと

秋もだいぶ深まりを見せてきた。


森の空気もロランがやって来た頃より、かなり肌寒く感じる。


ロランは今日も、カサンドラと午後の詠唱特訓中。


目を閉じて、唱える。


「聖なるマナよ。我は求める、刺し貫く光の槍! 出でよ 『ホーリーランス』!」


ロランが詠唱して右手を振る。

すると、一本の光で出来た円錐型のランスが現れた。


ホーリーランスは通常の武器屋など売っているランスの形状よりやや小振りで、手投げ槍としても使えるようになっている。

また、通常のランス同様、斬撃の攻撃力はあまりなく、突きで使うのが基本らしい。だから本当は騎乗時に使うのが一番望ましいのだとか。


ロランは魔法学校のカリキュラムで槍術を受講していたから勝手はわかっていた。

ロランは意気揚々と突きを繰り出したり、薙ぎ払ったりする。

例え、騎乗時用武器だとしても、ちゃんと魔物や人なんかを「すり抜けたりしないで」命中する手持ち魔法がまた増えたことは、純粋に嬉しかった。


さらに言えば、このホーリーランスの詠唱は『ショック』や『リフレクト』と違い、かなり短くて使いやすい。


カサンドラがロラン用に短縮してくれたのだ。

それもこれも近頃、カサンドラの新しい魔書の解読がかなり進んで、その成果がロランの特訓にも活かされているお陰だ。


ロランの詠唱を見て、カサンドラは言う。


「やっぱり、ロランは『適正の強い聖属性魔法』を地道に探して極めていくのが、一番いいかも」


ロランもホーリーランスを覚えて、なんとなくそうなんだろうなとは思った。

だが、ちょっと抵抗もある。


「けど、それじゃあ、僕の希望した対人戦には向かないんじゃ……」


そこが問題だった。


「いいじゃない。たかが魔法学校のテストくらい。そんなことよりも、ロランが対アンデッド、対悪魔、対ゴーストのエキスパートになれば、それこそ大陸中からスカウトが殺到すると思うけど」


「な、なにその専門職的なポジション……でも、それもいいかも……? じゃ、なくて! だとしても、それ以外のことも、ひと通りできた方がいいに決まってるよね!?」


「ま、そうね。それも一理ある。もちろん、おすすめは長所を伸ばすことだけど」


ロランの訴えに少しは折れてくれたようだが、カサンドラの考えは基本的には変わらないようだった。

まぁ、「魔書の魔法は全てマスターする」と言ってはばからないカサンドラに言われても説得力は皆無なわけだが。


しかし、こと魔法に関しては、ロランはカサンドラに全幅の信頼を寄せているから、きっとカサンドラの言っていることの方が正しいのだとは理解していた。


そうなると、ロランが聖属性以外の魔法を無理に覚えようとしているのは、やはり単なる「抵抗」に他ならない。

そのことをロランは改めて自覚した。


ロランは息を整え、より一層集中して、詠唱特訓に励む。


(無理そうなものでも頑張るしかないじゃないか。無理に望むものなんだ……無理をしなければ手に入らないのは当たり前だ……)


カサンドラはそんなロランを見て、ちょっと呆れたような顔をしたが、


(そうね……誰だって無いものねだりはするものよね。与えられたものだけでは満足できない。私も、人のこと言えないもの)


そう思い直し、自分の読書に戻った。


(そう。私の読書も無いものねだり……)



――詠唱特訓が終わると、ロランはふらふらになりながら、カサンドラの元に戻る。


カサンドラは今日は昼寝せずに、なにやら大きめの石ころに魔法陣を描いていた。


それを見てロランは目を丸くする。


「カ、カサンドラさんって、魔法陣も使えるの……?」

「当たり前。けど、簡単なやつだけ」

「す、すごいな……」


ロランは本心からそう思う。

詠唱魔法に、古代文字、魔法陣まで……これだけできれば、すぐにでも魔法学校の教員になれるだろう。

もっとも、魔法学校の教員には能力だけでなく家柄も求められるから、実際にはカサンドラはその点で落とされる可能性が高いが……。


「ところで、これは何の魔法陣なの?」

「これは『呪い』の魔法陣よ」

「の、呪い……?」


なんでまたそんなものを。

ロランはちょっと石から遠ざかる。


「怖がることない。少しこの石を重くしただけの、簡単な呪いだから」

「石を重く……?」

「ええ。人に使えば、単純な行動束縛系の呪いって感じかしら。けど、単純でも呪いは呪いだから、きちんと『解呪系』の聖魔法をかけないと解けない」


そう言うとカサンドラはロランに魔書のとある1ページを見せ、指し示した。


「これがその魔法『パージ』。ちょっとロランに試してみて欲しいの」


ロランはそれを聞いて理解した。

たまにやる、カサンドラの実験に付き合えと言うことだ。

もちろん断る理由はない。


「あ、う、うん……わかった。やってみるよ」


そうは言っても、まだロランは十分に古代文字を読みこなせないから、カサンドラに読み方を教わりながら詠唱する。

これもかなり勉強になるので、ロランはしっかり文字を覚えるつもりで挑む。


初めはたどたどしく。

でも、しっかり集中して間違わずに詠唱すれば、魔法は発現し、いつも一定の効果は発揮してくれる。


「……我が手に宿りし聖なる光で浄化せよ……『パージ』」


ロランは石の魔法陣に手をかざした。


ロランの手のひらの光が石に吸収される。

すると、次第に石に描かれていた魔法陣の線は薄くなり、やがて全て消えてなくなってしまった。


カサンドラは石を持ち上げる。

その軽さを確かめると、ロランに向かって頷いた。


「うん。呪いは解けてる。さすがね……」


それを聞いてロランはほっとした。


「よかった……けど、これが何かの役に立つの……? 学校でも呪術使いなんて、今時あまり見かけないって聞いたけど……」


ロランの問いに、カサンドラは真剣な顔をして考え込んだ。

カサンドラはしばし、呪いの解けた石を見つめる。

そうしてから


「……ロラン。話があるの。すごく大事な話」


とロランの目を見て言ったのだった。



――その日の夜。


カサンドラは部屋で他の三人を机の側に集め、


「今日は私とロランから話があるの」


と切り出した。


アーシュとリッケは、何事かと眉を上げる。


「呪いのことよ」


カサンドラがそう言うと、リッケは首を傾げ、アーシュはピクッと肩を震わせた。


「おい……お前……」


アーシュは言いかける。

それをカサンドラは目で制した。


「そう。前にアーシュ、あなたにお願いされた。背中のあざの件よ」


「背中の……痣?」


リッケは何のことかわからない。

だが、他の三人はわかっていた。

ロランも昼間にカサンドラから聞いたばかりだったが。


アーシュはカサンドラに詰め寄る。


「ま、まさかっ……! わかったのか!? 呪いを解く方法がっ!」


「ええ。ま、方法は前からわかってたんだけど。ただ、詠唱もわからなかったし、そもそも私には適正が足りなかった。でも、それも全部揃った。ロラン?」


「う、うん……!」


カサンドラに促され、ロランはカサンドラの隣に立つ。

アーシュは二人を黙って見つめた。


「先日、蚤の市で手に入れた魔書の中に、呪いを解く聖属性魔法が何種類か載っていたの。ロランが見つけてくれた本の中にね。そして、それをロランは高いレベルで使うことができた。まだまだ特訓は必要だけど、どうせ練習するならアーシュ、あなたの呪いに直接やった方が効率がいいかもと思って、今、話をしてる。あなたの背中の痣の呪いはとても複雑だから、一回で解けるはずもないし、かと言って何回やれば解けるのかもわからない。やるとしても、根気は必要。あなたにも、ロランにも。解呪には魔力をかなり使うから。ロランにはもう話をして、了承をもらってる」


カサンドラはロランを見る。

それを聞いてロランは頷いた。


「あとはあなたの意思次第。どうする? アーシュ」


カサンドラはアーシュに問いかけた。


アーシュは小刻みに震えている。


でも、怖がっているわけではないのはわかった。

その顔には強い決意が見て取れたからだ。


アーシュは改めて二人の顔を見つめた。


「カサンドラ……ロラン……本当にいいのか? 俺なんかに、協力してくれるのか……?」


「うん。アーシュくんのことだもの……僕はなんだって喜んで協力するよ」

「ま、私もあんなに頭を下げられてお願いされたのに、あの時は何もできなかったから。もやもやが引っかかったままじゃ、気持ち悪い」


「お、お前ら……」


アーシュは俯いた。

そうして、涙の滲む顔を見せないように深々と頭を下げて


「ありがとう……! 恩に着る……! 俺の方から全力でお願いする。頼む。協力してくれ」


と言った。


ロランとカサンドラは顔を見合わせてると、アーシュの側に寄り、肩に手を置いた。


「アーシュくん。頭を上げて。そんなことをしなくたって、僕はアーシュに協力したいよ……だって、友達じゃない……」

「ロラン……」

「ふぅ。ま、私も友達とまでは言わないけど、ルームメイトだし。いい実験台になりそうだし」

「へへっ。それでいい……なんだっていいぜ。ありがとうな」


三人が盛り上がる中、リッケは不満そうにほっぺを膨らませていた。


「ねぇ。ちょっとー。私だけ蚊帳の外なわけー? 私もルームメイトなんですけどー」


すると、カサンドラは微笑み言う。


「大丈夫。リッケ、あなたにもちゃんと手伝ってもらいたいことがあるから」


「あ、そうなんだ。なら、よかった」


それで、リッケも近くに寄ってきた。

4人で肩を寄せ合う。


「けど……アーシュの背中の痣って何のこと? 私は何にも知らないんだけど?」


「そのことも、今から話そうと思ってたとこ。でも、どうせならアーシュに話してもらいましょう? 私とロランも、術者の事とか、もっと呪いの詳細を知る必要があるし」


カサンドラがチラッと目配せすると、アーシュは頷いた。


もう迷いも躊躇もいらない。

隠している場合でもない。


「そうだな……じゃあ、長話は嫌いだが、お前らには全部話しておくか……俺の過去の話を」


そう言うとアーシュは少し間を置き、記憶を整理しながら、淡々と自分の今までのことを話し始めた。


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