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  2.飛ばされて転げ落ちてナイトメア   

「ほんげぇぇぇ!」

 魔法によって強制転移させられたフィルはでんぐり返って着地する。着地というより落下だが。

「あのウサギ、詐欺りやがって。ぜったいにゆるさんぞ!!!! 今度見つけたら害獣駆除してやる」

 怒り恨みの念を込めるがひっくり返った姿のままぼやいても無様なだけだ。

 本人もひっくり返ったままではどうにもならないと悟ったらしく身を起こす。

「くっそー、どこだよここ。完全にハグレちまった」

 まったく見覚えのない場所に飛ばされた。かろうじて分かるのはさっきの場所より森の奥の方であろうということだ。

 ガイドブックには奥の方へ行くほど植物が独特の形になると書いてあった。辺りの植物は絵画の世界でしか見たことない独特なものばかり。間違いなく森の奥だ。

 それすなわちレベルの高いモンスターが出現するということでもある。

「はあー……」

 大きなため息をつく。こんな場所で一人単独行動を余儀(よぎ)なくされ、はてしなく危険な状況だ。今回も自分が足を引っ張ってしまうのかと焦りだす。

 1話目、最初のクエストでジーンとともにスライムに負け、リオルに助けられる。

 2話目、オオカミに遅れをとり大怪我、ジーンたちがいないと危ないところだった。まあその原因の一端はジーンにもあるが。

 おまけに服をボロ雑巾にしケイトに怒られた。よく考えると使い魔のヴェレが起こしてくれなければ勝負に負けていたかもしれないので使い魔にまで助けられている。そして今回だ。これはまずい、急いで合流しなければ。フィル株が下がる、ストップ安だ。

 ガイドブックを取り出しマップを確認、辺りを見回す。場所を特定する手掛かりになるようなものない。

 お次は地面に耳を当てて物音を聞いてみる。色んな音が聞こえるがジーンたちの足音は聞こえない。

「ふうむ、星の鼓動が聴こえる」

 星の息吹を感じた気がしたが、そんなもの感じても意味ないなと地に耳をつけるのを止め、あぐらをかいて座り込む。ボケてもノッてきてくれる仲間がいないとつまらない。

「こうなっては仕方ないな」

 フィルは鞘からカトラスを引き抜き目の前にかざした。

「自力でどうにかしたかったけど背に腹はかえられないか。おーい、使い魔ー」

「呼びました?」

 すぐに出てきた。

「ちょっと上まで飛んで辺りを見てきてくれ」

「分かりました。では」

 すぐに飛んでいった。

 下からでは自分のいる位置すら分からないが、上からなら何か分かるかもしれない。こんな時こそ使い魔は活躍してくれる。武器に宿った妖精でありながら戦闘で役に立ったことはないが。もう少し本人のレベルと武器の熟練を上げる他ない。

 使い魔が何かを発見できれば手がかりになるかもしれない。何も発見できなければ立ち往生になってしまうかもだが、その時は焚き火でもして狼煙(のろし)を上げるなり何なりするとしよう。喋る動物や草花に道を尋ねるという手段もあるが、さっき騙されたばかりだし気が進まない、最終手段にしよう。

 使い魔が空中探査に出ている間に打開策をあれこれ考案してみるが、肝心の使い魔が戻ってこない、もう数分は経つ。森の樹々の上から辺りを見回すだけなのに何をやっているのか、まさか迷子。状況が悪化しただけではないのかと心配になってきた。使い魔まで居なくなったら完全に一人ぼっちだ。心細い。

「マスターさーん」

 孤独を感じ不安になったのも束の間、使い魔は超特急で戻ってきた。心配して損した。

「どうだった? 現在地が分かりそうなものはあったか?」

「現在地ですか? えーと、あっちの方に湖がありました」

 使い魔はフィルから見て12時の方向を指差す。使い魔が戻ってきた方向だ。

「でかした! 湖があるということはそっちはダンジョンの奥ということだ。俺の進行方向はこっちになるな」

 フィルは反対方向に振り返る。進むべき方向が分かったことで少し気が楽になる。

「でも、待って下さいマスターさん」

「なんだ? もしかしてこっちに何かあるのか?」

「いえ、そちらの方は森が広がっているだけでした。何かあったのはあっちです」

 使い魔は湖があるという方向を指差す。ダンジョンの奥で何かがあった。それを聞いた瞬間少し気が重くなった。嫌な予感がする。

「……何があった」

「湖の直ぐ側で冒険者らしき方々がモンスターに囲まれていました」

 嫌な予感は的中した。ひょっとしてモンスターが居たのではという気はした。さらに悪い事に冒険者が襲われているという。

 フィルはすごく気が重くなった。

「冒険者の方は二人しかいないのにモンスターはたくさん居たんです。はやく助けに行かないと」

 モンスターが沢山。気持ちにのしかかる重圧が増した。

 湖の近くということは中級ランク、下手すると上級モンスターが出てきたもおかしくない。助けに行ったところで初級冒険者のフィルでは何の役にも立たないだろう。気の毒だがどうにもならない。

「助けてやりたいとこだけど、俺がいっても棺桶が一つ増えるだけだ。それにここまで来れる冒険者なら自力でなんとかなるかもしれない」

 我ながら情けないセリフだと思いつつもフィルにはそうする他ない。

「え、でも本当に危険な状況だったら……」

 使い魔は助けに行ってほしそうだが、フィルの弱さを知っているため途中で言葉を止める。他の冒険者を助けるために自分の主を危険にさらすのは使い魔としてあってはならないことだ。

 使い魔が否応なく納得した様子を見てフィルは自分のレベルの低さを痛感した。

 自分のレベルが高ければ使い魔は助けに行くことをもっと強く言っただろうか。迷うことなく助けに行けたのだろうか。冷静に的確に状況を判断してこそ冒険者だがそれが正しい結果につながるとは限らない。良心の呵責(かしゃく)(さいな)まれる。

「ほんとうに危険な状況だったら、か。確かにそうだな。仕方ない様子くらい見に行くか」

「え? そうすると今度はマスターさんが危険な目にあっちゃいます」

「いいかヴェレ、オレが望んでいるのは身の丈にあった冒険じゃない。危険を冒してこそ冒険者だ。初級冒険者と契約したのが運の尽き、お前も覚悟を決めろ」

「マスターさん……足が生まれたての子鹿です」

「余計なこと言うな。言わなきゃバレん。いいから案内しろ」

 足をプルわせながらフィルはカッコつけていた。

「分かりました。こっちです。でもさっきのマスターさん、すごくカッコ情けなかったです」

「どっちだよ。ていうかバカにしてるだろ」

「褒めてますよー。ささ、早く行きましょう」

 使い魔に案内されフィルはモンスターに襲われているという冒険者たちの元へ急ぐ。



「もうすぐです。この先で戦ってました」

 戦闘のものと思われる音が聞こえてきた。使い魔の言う通りすぐ近くで戦闘が行われているようだ。このまま行くと戦闘に介入することになるだろうが、考えなしに突っ込んでもゲームオーバーで人生終了だ。下手すると邪魔しただけになりかねない。

「よし、まず高台に登って様子を見よう。石でも投げればモンスターの注意も引けるだろ」

 大型モンスターのドレイクにも効いた手だ、他のモンスターにも有効だろう。

 高台に登り森の樹の上に出ると湖が目に入った。使い魔は湖の直ぐ側でモンスターに囲まれていると言っていた。フィルは湖に一番近い高台の突出した部分から眼下を見下ろす。

 森が途切れた先、湖のほとりで何者かが戦闘している。使い魔の話通りたしかに二人組だ。そしてモンスターに囲まれている。木が邪魔でよく見えないが冒険者で間違いないらしい、どちらも武器を片手に戦っている。

 フィルはどうやって助けに入ろうか考えていたが、すぐに考えが変わった。

 大量のモンスターに襲われている二人組は多勢に無勢にも関わらず次々とモンスターを倒していく。かなりの手練のようだ。この調子なら余計な手出しをする必要はないのではと、もうしばらく様子を見る。

 手こずることもなく順調にモンスターの数を減らしていく、一言で言うと圧倒的。やはり凄腕の冒険者のようだ。少々見辛いが男女の二人組でどちらも戦士職、剣を使って戦っているように見える。男の方は長大な太刀を振り回しているので分かりやすい。

 すでにモンスター側が壊滅状態だ。本当に何もやることはないなと、フィルはその場を後にしようとした。

 突然、足元から亀裂が走るような音が聞こえ足場が崩れた。逃げる余裕などなく崩落に巻き込まれフィルは高台から転げ落ちる。

 落下しながらも体勢を立て直そうと足掻く、一緒に落ちていく足場の破片を踏み台にジャンプし、なんとか地面への衝突は回避できた。着地の瞬間も受け身をとることに成功しほぼノーダメージで事なきを得た。と思ったのも束の間、さっきまで見ていた凄腕冒険者が戦闘している場所に転げ落ちてしまっていた。さらにツイてないことに真正面にモンスターがいる。

 初級冒険者の前に中級以上のモンスター。フィルは悟った次に目を覚ますのはベースキャンプか雲の上か。

「なんだあいつは。いきなり」

 凄腕冒険者たちもフィルが急に飛び出してきたことに戸惑っている。

 モンスターたちもフィルに反応する。この場にいる冒険者の中で明らかに一番弱い獲物はフィルだ、一斉に襲いかかる。

「なんだ、いつものパターンか」

 もう開き直るしかない。運が良ければネコんじゃさんがすぐに助けに来てくださるだろう。

 フィルがそんなことを考えていると凄腕冒険者の二人も動いた。

 一足飛びに距離を詰めるとそのままフィルの目の前にいたモンスターをいともたやすく斬り裂いた。目にも留まらぬ早業とはこういったものをいうのだろう。現にフィルには二人がどう動いたのか分からなかった、気付いたらモンスターを真っ二つにしていたのだ。

 女の方の冒険者はモンスターを斬った後、すぐにその場から離れフィルを守るような位置取りをした。男の方の太刀使いは逆にその場から動くことなくフィルとモンスターの間に立った。フィルをかばう『盾』の役割を果すつもりだろうか。

 モンスターたちは勢いが衰えることなく襲い掛かってくる、太刀使いはモンスターの方へと向き直り長大な太刀を構える。モンスターの激しい動きとは相対的に静かでゆったりとした動作だ。そして太刀使いは一瞬所作を止め、攻撃に移った。

 勢いのまま迫りくるモンスターたちを長大な太刀で薙ぎ払う。豪快に振り抜いた一撃は見事な回転斬りとなり音が轟くよりも疾くすべてのモンスターを一太刀のもと斬り捨てた。

真っ二つになったモンスターが辺りに散らばる。今度は何をやったのかは分かった。が、その動きは見えなかった。太刀の構えと周囲のモンスターすべてが斬り裂かれたことからかろうじて判断できた。

 四散したモンスターの臓物(はらわた)がフィルの前にも散らばっている。もはや(うごめ)くものはない、太刀使いは圧倒的な力技でモンスターを捻じ伏せたのだ。圧倒されたのはモンスターだけではないフィルも同じだ。あっという間の出来事に度肝を抜かれ、半ば放心状態で太刀使いの後ろ姿を見つめていた。

 死屍累々(ししるいるい)、血の海を作り上げた冒険者は自身の大刀にも引けを取らない体躯(たいく)上背(うわぜい)があり冒険者らしくマントを羽織っている。太刀使いは振り返りこちらへ向き直す。

金色の視線がフィルを穿(つらぬ)く。途端、恩光に心が蝕まれていく。

 月桂を臨摸(りんぼ)せしめる雄大な太刀を持ち、黒耀の煌めきを想見せしめる外套(がいとう)(まと)い、清爽たる湖を背に立つ姿は神々しい。

 ともすれば抱懐する。殺意と云う名の刃を、死魔と云う名の冠を。大地に狂気を(はら)ませ、うねる鮮血の上に立つ姿は悪魔の化身。

 惨劇の舞台に立つかのようなその姿は禍々しくも美しい。窮地(きゅうち)を救われたせいだろうか、この異様な惨状を前にしてもそう思えた。

 これを何に例えよう。花だとすれば、汚泥でこそ咲き誇る蓮華(れんげ)か。毒を持つ凶兆の彼岸花(ヒガンバナ)か。唯ひたすらに後塵(こうじん)を拝する。

「……大丈夫かい? 君」

 フィルが言葉を失ったままアホ面をしているものだから太刀使いの冒険者は安否を確認してきた。

「たぶん、貴方が辺り一面を悪夢の光景に変えたものだから引いているだけだと思うわよ」

「ナイトメアか、つまり白昼夢を見れて感動のあまりフリーズしてしまっているのか」

「さっきのどこに感動する要素があったのよ」

 戦闘が終わった途端フリートークがはじまった。悪夢だけど、夢じゃなかった。

「ねえ貴方少しは落ち着いた?」

「……あ、はい」

 ようやくフィルも正気に戻った。

「良かった。でもそっちの妖精の方はまだダメみたいね」

 女の冒険者はフィルの肩の方へと視線をやる。フィルも自分の肩を見る。身に着けたマフラー付きマスクに使い魔がしがみついていた。すっかり忘れていた。青ざめていて今にも気を失いそうではあるが無事だったようだ。

「まだ無理しない方がいいみたい、ところで初級冒険者のようだけどどうしてこんな場所に?」

 フィルは事情を説明する。なぜこんな場所にいるのかを。



 ロキソニーの花を探していたらうさぎに騙され飛ばされ仲間とはぐれ、辺りを使い魔に探索させていたらモンスターに囲まれている冒険者を見つけて急ぎ助けに来たことを、結果逆に助けられたことを話した。

「なるほどね、事情は分かったよ。つまり君の使い魔にはモンスターに囲まれた俺たちがピンチに見えたわけだね」

「あー、そのー、すいません。早とちりでした」

「ごめんない。沢山のモンスターをみたものだからてっきり。急いで知らせなきゃって思って」

 フィルと使い魔は勘違いにより迷惑かけてしまったことを謝罪する。

「いやいや別に謝ることじゃないよ。むしろ良く冷静に行動できたと思うよ、うん」

 太刀使いの冒険者は風貌(ふうぼう)に似合わず気さくに話をしてくれる。

「なにごまかそうとしているの。むしろ貴方が巻き込んだようなものじゃない」

「巻き込む?」

 フィルは思わず聞き返す。太刀使いは何故かそっぽを向いている。代わり女の冒険者のほうが説明をする。

「そっちの冒険者、レイヴンって言うんだけど彼が魔香水(まこうすい)を使ったせいだから。ちなみに私の名前はラピスよ」

「あ、自己紹介が遅れました。オレはフィルって言います。こいつは使い魔のヴェレ」

「よろしくお願いします」

 レイヴンとラピス、名を教えてもらいフィルと使い魔も自己紹介を返す。

「ところで魔光守威ってなんですか?」

「魔香水ね。香りでモンスターを呼び寄せるアイテムなんだけどいくつか種類があってね、中でも危険なモンスターを呼び寄せる逢魔香水(おうまこうすい)を使ったの。だからさっきは凶暴なモンスターばかり大量に集まっていたわけ」

「あー、そういうことですか。ん? ということはこんな所でそんな危険なアイテムを使ったからオレらは巻き込まれ――」

「さあ出発しようかフィルくん。仲間と合流しなくてはね、ぐずぐずしている時間はないよ」

 言葉をさえぎりレイヴンは移動を開始する。どうやら仲間を探すのを手伝ってくれるみたいだ。フィルが呆気に取られているとラピスが後をついて行くように促す。

「あれでも一応悪いと思っているみたいだから好きにさせてあげて」

「いえ助かります。こんな森を一人で進んで仲間の元へ戻るのは厳しいと思っていたので」

 利害は一致しフィルの仲間を探しに森の中へ入っていく。



 森の中はやはり薄暗くたまにモンスターとも遭遇する。だが先頭を行くレイヴンがモンスターが襲いかかるそばから斬り捨てていくのでフィルとラピスは戦闘どころか武器すら抜くこともなかった。おかげで難なく森を進んでいける。

 よく見るとレイヴンは手ぶらだ。腰にも背中にもあの長大な太刀は見当たらない、アイテムポーチはあるがそれに収まる訳はない。さらに戦闘の度に違う武器を使っている。実に不思議だ、どういう仕組みになっているのだろうか。

 あまりにも気になったのでラピスにどういったタネが仕込まれているのか尋ねてみる。

「あれはそういうアイテムを使っているのよ」

「そんな便利なアイテムがあるんですか!?」

「まあ滅多にないと思うけど。私も彼以外にそんなアイテムを所持している冒険者は見たことないし、それに……」

「それに?」

「うーん、彼他にもレアアイテムを持ってはいるんだけど秘密にしておきたいアイテムもあるらしくて勝手にあれこれ話すわけにもいかないの」

「ああ、超レアアイテムだと他人に目を付けられて盗まれたりしますからね」

「それもあるんでしょうけど単純に知られたくないってのもあるわね。武器を収納できるアイテムに関しては人前で平気で使ってるから大丈夫だろうけど」

 高レベル冒険者ならではの悩みといったところか。羨ましい。

「ラピスさんも何かそういったものを持ってたりするんですか?」

「あるにはあるけどレアって程じゃないかもね。これだけど」

 胸に着けたリボンを掴みヒラヒラさせる。なんの変哲もないただのリボンのように見える。普通じゃないとすれば大きめのサイズと言うところか。大きめの胸に着けられた大きめのリボン。思わず感想がフィルの口をつく。

「デカいっすね」

「おかしいわね、なぜか話が噛み合ってない気がするのだけど」

「そのリボンはどの辺がレアアイテムなんですか?」

「このリボンにはほぼすべての状態異常攻撃を無効化する効果があるの。無効化出来るのは魔法系の状態異常に限定されるけどね」

「なんと便利な。完全にバランス崩壊アイテムですね」

 『魔法のリボン』は種類にもよるが厄介な状態異常を防げるだけあって人気のアクセサリーだ。それも特定の状態異常だけではなくほぼすべての状態異常となるとその価値は計り知れない。似たような効果を持つアイテムを同時に装備しても上手く効果が発揮されないこともある。一つの装備で様々な効果を発揮するアイテムは希少価値が高い。

「さすが凄腕冒険者の装備。もしかして賢者の石まで持っていたりして」

「そんな代物(しろもの)までは私は持ってないわね。レイヴンなら持っている可能性はあるけど」

「マジっすか。本当に持ってたら不老不死確定じゃないですか」

「賢者の石は見たことないけど、それクラスのアイテムなら使っているのを見たことあるわよ」

「どのみち伝説レベルのアイテムを持ってるんですね」

 どんな武器でも収納できるポーチに状態異常を無効化するリボン、さらには伝説レベルのアイテムまで所有。ちょっとした雑談でとんでもない情報の数々が飛び出してきた。一体どうなっているのだろうかこの人達は。

「貴方だって使い魔を使役しているじゃないの。本来なら高位の魔法使い(ウィザード)じゃないと難しいはずなのに」

「あの使い魔はこの剣に宿っていた妖精で、たまたま波長が合ったから主になれただけなんです」

 妖精の宿ったカトラスを見せながらフィルは使い魔を使役できる理由を説明した。

「しかも今のオレの魔力とMPじゃあ戦闘でまともに能力を発揮できないんです」

「そこに関してはレベルを上げるしかないわね。今はまだ分不相応だとしても使い手が成長すれば将来的に立派な戦力になってくれるわよ」

「やはりレベルを上げるしか解決法はないのか」

 強く成長するというのはそういうことだ。面倒でも地道にやっていく他ない。

 話しながら歩いていると前を行くレイヴンが立ち止まった。

「二人とも、どうやら道に出たみたいだぞ」

 レイヴンのいる先の方、森の中に道が見える。どうやら地図で現在地が分かりそうな位置まで来れたようだ。

「ここまで来れば強くても低級モンスターしか出ない。一先ず安心できるはずだよ」

「あとは仲間と合流するだけど、そっちの方が大変ね」

 まず低級モンスターが出る時点でフィルには安心できない。低級以下の初級モンスターでもまだ苦労するレベルだ。二人共リオル、ジーンと合流するまで付き合ってくれるようだから助かるが本来ならそんなエリア歩けたものじゃない。

 ここは凄腕冒険者の二人に甘えるとしよう。

「それでは仲間を見つけるまでよろしくお願いします」

 フィルはいつになく真剣な表情でお願いをするがレイヴンの様子がおかしい。明後日の方向を眺めている。

「レイヴン? どうしたの急に」

「悪いけど急用ができた。後は頼むよラピス」

 すべてをラピスに任せてこの場を去ろうとするレイヴン。突然のことにフィルもラピスも目が点になる。

「あのレイヴン、いきなり何を言い出すの?」

「ここから先は大した危険もないしお前一人でも大丈夫でしょ」

「そういうことを聞いてるんじゃない。仲間の元へ送り届けるって言い出したのは貴方でしょ。何帰ろうとしてるの」

「分かりやすく言うと風が変わったんだ、召喚されし至高の魔物が蒼穹を映す鏡面界で俺を呼んでいる。ならばやつと戦うことこそ俺の使命(さだめ)、行かなくてはなるまい」

「ごめん、意味がわからないのだけど」

「分かりましたレイヴンさん、さっきの湖に凄まじい力を持ったモンスターが出現したから森の平和を守るため戦いに行くんですね」

「そんな意味には聞こえなかったんだけど」

「いやね、さっき使った魔香水の効果がまだ残っていたらしく湖の方に大型モンスターが出現したみたいだから後始末しに行く必要が出来たんだ」

 ようやく理解できる説明がなされた。

「最初からそう説明しなさいよ。本当にろくでもないことしかやってないわね。早く問題解決してきなさい」

 呆れ半分、怒り半分にレイヴンを叱責する。

「それじゃあ今度こそ後を頼むよ。それと距離はあるが道の先にたぶん人がいるみたいだから道沿いに探していくといい。二人組だし当たりかも知れないよ」

 そう言い残してレイヴンは今来た道を引き返していき、すぐに姿は見えなくなった。

「一人で大丈夫ですかねレイヴンさん」

「心配するだけ無駄よ。それどころか一人の方が戦いやすい可能性まであるし」

 仲間の冒険者が言うからその通りなのだろう。

 にしてもどうやって道の先に人がいることと、さっきの湖に大型モンスターが出現したことが分かったのか。凄腕冒険者の勘というやつだろうか。

「それにしても索敵スキル本当に高いわねあいつ」

 フィルが推量しているとラピスが答えを教えてくれた。

「一体どれだけ索敵スキル高いんですか」

「以前聞いた時は探索系に関する能力を活用したら、警戒網の範囲は数百メートル先まで届くって言ってたわ」

 索敵に特化した専門職でもそんな広範囲まで探知できないと思うのだが、一体どんな方法を駆使しているのだろうか。

「とんでもねーっすね」

「なのに探索系は苦手って言ってたし」

 苦手ってなんだっけ。得意分野って意味も含まれていただろうか。一度辞書を引いてみることをお勧めする。

「普段から神経を使って疲れるけど索敵能力は戦闘において最も大事な能力の一つということで最大限に高めているらしいけど。索敵は攻防一体、相手より先に相手の詳細が分かれば先制攻撃を仕掛けるも戦闘を回避するも選択できて有利ってことでね」

 これが凄腕冒険者のレベル。説明されれば理解は出来るが真似はできない。格の違いというやつだ。

 フィルとて遠方にいるモンスターを発見できたこともある。あくまで目で見える範囲になるが。レイヴンは目で見つけていた訳ではない、探索系のスキルなどを使って感知していた。相手のいる位置、大きさ、強さも把握出来ていたことから雲泥の差がある。

 ただ単に探索スキルのレベルを上げただけではこんな芸当は無理だ。今度会う機会があればどんなからくりなのか聞いてみよう。フィルはそんなことを思いつつ仲間探しを再開する。

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