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2話1. Love Sword 探して 

 登場人物たち

リオル   主人公(強)

フィル   主人公(弱)

ジーン   モブ

ケイト   フィルの妹

ドレイク  狩られた

 朝の時間帯、冒険者ギルドに向かってジーンは通りを歩いている。学校へ行く子供、働きに出かける大人、様々な人が通りを行き交う。そして思う、自分も働く冒険者になったんだなと。

 この間まで学校に通い学んでいたことがすでに懐かしい。学生時代最後の半年は職業訓練施設『ダイ=ジョブ』に通っていて学生の時間と半々だったせいもあり尚更(なおさら)だ。

 色々な人がいるなとは思うが色々なのはそれだけじゃない顔の色もだ。

 顔が土色の人は一仕事した後だろうか、うすぎたない。今朝も顔を洗わなかったな。青い顔した人は毒でも受けているのだろうか白いシャツに青い顔はじつにはえる、その内紫色になりそうだ。ぺんぺん草まではえそう。

 あいにく魔法で治せる傷や毒は物理的なものだけだ、精神的なものまでは治せない。ヒーラーとして役に立てないことに、内面ブラックのジーンは心苦しく思うばかりだ。

 良い子の諸君! 自分のオリジナルカラーは大切にしよう、ジーンとの約束だ!



 冒険者ギルドへ到着したジーンはクエストが張り出してある掲示板へ移動する。クエスト受付開始までまだ時間がある、掲示板を見て情報収集しつつ時間を潰すためだ。

「おはよう! 今日もいい天気だねー」

 掲示板がある広場にはすでにリオルが来ていた。

「おお、はよざいます、リオル。もう来ていたのか」

「ギルド一番乗りだったよー。戦士の朝は早い、早すぎて朝ご飯食べるのも忘れるくらいに」

 バカの朝は早い。朝早くに来すぎても建物すら開いていない、もっとゆとりをもって行動しても大丈夫だ。

「ならフィルが来る前に済ませるといい、酒場はもうすぐ開くだろうし」

「そーしよー、朝だし軽めに肉にしよう」

 二人は朝食をとりに酒場に行った。



 リオルが朝食をとっている間、ジーンは隣で色んなクエストの情報を見る。

 ゴブリン、おおネズミ、オオカミ、毒コウモリ、クリボーイ等の初心者向けモンスターが討伐対象のクエストはそれなりにあるがリオルにとっては物足りないだろう。ジーンとフィルにとってはどのモンスターも命がけの相手ではあるが。下手するとまたガメオベラになり兼ねない。クエストの詳細をみて、丁度良いバランスになるクエストはどれか考える。

「雑魚モンスター大量()きクエストとか良いかもしれないな、リオルはやっておきたいクエストとかあるか?」

「もきゅもきゅ……そーねー、行きたいクエストあるにはあるよー。でもその前に折れた木剣の代わりを調達しないとねー」

 昨日のドレイクとの戦闘で木剣を失ってしまったリオル。腰には木剣を携えているが中身は折れたままだ。

「そうだったな。そういや昨日はなんで最初から変身して戦わなかったんだ?」

「あー、あれねー。奥の手ってことは最後の手段だしね。それに奥の手を隠し持ってるってなんかカッコいいし」

「なんだそんな理由か。俺はもっとこう、この秘められた力は決して人には見せてはいけない、我が一族に代々受け継がれてきた伝説でスーパーな力。こんなところで使うわけにはいかない、だがこのままではあいつらが! 私はどうすれば良いのだ、教えてくれ! 誰も知らない、話しちゃいけないリオルの力が何なのか、それでも……それでも! 仲間のためなら戦える! みたいな、そんな葛藤(かっとう)があったものとばかり」

 完全に妄想(もうそう)である。どこの世界の主人公だ、キャラクター崩壊にも程があるそんな設定リオルにはない。

「その手があったかー、しまったー。いや、まだ遅くない今からでもその設定にしよう」

「いや、もう遅い。今更設定変更がきくのなら俺を超絶イケメンのモテスギくんに設定変えてくれ。むしろ俺を美少女に変えてくれ」

「はっはっはー。まーそれはさておき変身にも一応のリスクはあるからね。ふだんから使いすぎていざという時に変身できなくなると困るし、成長にもつながらないしね」

 自身の能力の説明をするリオル。どうやら変身能力は際限なく使えるわけでないらしい。強力な力であれば当然のことだ、だからピンチの時の最後の手段なのだろう。

「ああ、納得した。でも、その能力のことを旅団探している時に言えばすんなり入団させてくれたんじゃあないのか? 特技ってことで」

 そう告げるとリオルは食事をする手を止め皿の上に食べ物を落とした。完全にフリーズしている。

「気付いてなかったのか……」

 ジーンは思わずつぶやいた。リオルは気が動転しジーンに詰め寄る。

「え、でも特技と奥の手って違うものじゃないの!?」

「いや、似たようなもんだろ」

「でも特技と魔法は違うよね!? 特技と剣術は違うものだよね!?」

「そう言われるとそんな気もしてきた」

 たしかに「特技」と「個別の能力」は別物だ。個別の能力は誰しもが持つわけでもなし。

「だよねー、あー、良かった。やはり私は間違っていなかった」

 同意(?) を得られ安堵(あんど)するリオル。

「間違ってはなかったけど、間違った選択をしたとは思うけどな。というか今からでも遅くないだろう。もう一度入団申請してみれば? あれだけ強いなら引く手数多(あまた)だと思うぞ」

「その手があった」

 ジーンのアドバイスに一瞬その気になり興奮したが、すぐに落ち着いた。

「でも、このままでもいっかー。変身前提だとわたしてきには困るし。入団活動が上手くいかなかったおかげでジーンとフィルに会えたし。ケイトちゃんには感謝しないと」

「嬉しいこと言ってくれるじゃない」

 そう言ってジーンはニヤける。リオルとジーンが談笑していると遅まきながらフィルもやって来た。

「おはよう。待たせたようだな」

「やあ、おはよう。待ちくたびれたぞ、学校だったら遅刻だな」

「悪い悪い、月曜の朝なのに早くに起きて学校に行く必要がない喜びを噛みしめていたら、いつの間にか二度寝してしまっていたんだ」

 アホの朝は遅い。理由は言うまでもないが、普通の企業なら完全にアウトだ。

「冒険者はフレックスタイム制みたいなものだからな、気持ちは分かるぞ。俺も賢者の余韻(セイジタイム)制を導入してからはついつい夜更かししてしまっているからな。だがあまり遅い時間に来るとレアクエストが他の連中に取られちまうぜ?」

「――ッ! しまった。すまない、オレのせいでお前らまでレアクエストを逃すハメに」

「いや、朝ごはん食べてただけだから大丈夫だったよ。ていうか私、今武器ないし」

「そうそれだ。フィル今日はまずリオルの武器を見に武器屋に行こう、クエストはそれからだな」

「良いねぇ、オレも新しいダガー調達する必要があるし」

 クエストは保留し三人は武器を求めてギルドの酒場を後にした。



 アケルナルの街には武器、防具屋はいくつもある。刀剣専門店、アーマー専門店、魔装具専門店など色々だ。目利きスキルが低い初心者には総合店がおススメ。気の良い店主の親父が「武器や防具は装備しないと意味がないぜ」と親切にも教えてくれるし、「アイテム」であれば馬の(フン)でもゴミでも買い取ってくれる。接客業なのに客に対してため口なのはご愛嬌(あいきょう)

 店内には所狭しと武器や防具などが並べられており、その他にも様々な装備品が展示してある。リオル達は今日の目的である武器コーナーに移動する。

「ヘイ、ラッシャイ! ここは武器の店だ。今日はどんな用だい?」

 店員のフィルが商売の挨拶をする。いつの間にかバンダナを巻き、前掛けをしている。どうやら商人にジョブチェンジしたようだ。

「えーと、剣が折れてお亡くなりに。こんな容態(ようだい)

 客のリオルが折れた木剣を差し出す。

「折れた木剣かい、そいつなら1ゴールドで買い取るぜ」

「わー、すごい、ホントーに買い取ってくれる」

「もちろんだ、他にも要らないアイテムがあれば引き取るぜ。あなたの大切な品、なんでも買い取ります。がうちのモットーだ」

 店員のフィルが腕を組みドヤ顔する。

「なんでも買い取ってくれるとは気前がいいな。それじゃあ店員さん、コイツはいくらで買い取ってくれるんだい?」

 そう言うと客のジーンはだいじなもの「冒険者ライセンス」を差し出す。

「おっと、悪いがそいつはうちでは買い取れないな。他にも要らないアイテムがあれば引き取るぜ」

「ですよねー、ハッハッハッ」

 ジーンは笑いだした。フィルも一緒に笑っている。リオルもつられて笑った。みんな笑った、お日様も笑っている。今日もいい天気。

「あのーお客様、何をやっているんですか?」

 本物の店員が声をかけてきた。

「本物の店員Aが現れた。本物の店員Aはこちらを怪しんでいる」

 客のジーンが解説する。

「なにー、本物の店員だってー!? ということはお前は偽物の店員だったのか!?」

「バレてしまっては仕方ない。そうだ私はこの店の店員ではない、ただの客だったのだ」

 客のリオルに見破られ、偽物(にせもの)の店員フィルが正体を明かした。

「いや、だから何をやっているんです?」

「となりのコーナーにあった商人なりきりセットで商売ごっこー」

「それラーメン屋の店員の格好じゃないですか、ていうか商品で遊んじゃダメじゃないですか」

「ごめんなさい」

 三人は綺麗にハモって謝罪した。


 本物の店員に本日の来店理由、新しい武器を見に来たことを伝えて店員からアドバイスを貰いながら探すことにする。フィルも以前ダガーを購入した際、この店員に色々と教えて貰っていた。

「ここはやはり見た目と実用性を兼ねた武器、クレイモアだろう」

 大剣の代名詞「クレイモア」を選ぶことをジーンが推奨する。

「うんむ、戦士のあこがれクレイモアとは見事なチョイス、さすがジーンだ」

「クレイモア系ならそっちの壁に飾ってありますので実際に手にとって貰って大丈夫ですよ。あ、でも店内で振り回しちゃダメですよ」

 店員に案内されリオルは壁に飾ってあるクレイモアの一つを手にとって見てみる。振り回すなと言われたので構えたり動かす程度だが扱い心地を確かめてみた。手に取ったクレイモアはリオルの背丈と同じかそれ以上の長さがあり見るからに重そうなのだが片手で軽く持っている。

「うーん、カッコいいしブン回すには問題なさそうだけど、持ち歩くのにはじゃまになりそうだね」

 鞘に収めたクレイモアを背中に担ぎ、地面の上を引きずって歩くリオルの姿が目に浮かぶ。戦闘に支障がなくともリオルの小柄な体格ではクレイモアのような大剣の持ち運びは難しそうだ。

「そうか、ピッタリだと思ったんだがダメか。つーか、よく片手で軽く持てるな」

「ふうむ、デカくて長いのが邪魔ならカトラスやバックソードはどうだろう。普通の剣よりちょっち短めで扱いやすいぞい」

 今度はフィルがおススメの剣を提案する。

「カトラス、海賊とかがよく使っている剣だっけか。武器の詳細はどんなだったか……。ここは一つ、店員さん解説お願いします」

「えーと、カットラスとバックソードだね。どちらも片刃で湾曲(わんきょく)した幅広の剣身が特徴で斬ることに特化している。頑強さも持ち合わせているため激しい混戦でも折れにくい。バックソードには剣身や切先の反りが直刀に近くより刺突にも向いた物もある。カットラスはバックソードよりさらに剣身が短く扱いやすい。価格もリーズナブル」

「おお、さすがプロ店員の解説、実に分かりやすいね。だ、そうだけどリオル的にはどう?」

 考えるポーズをとり悩みはじめるリオル。

「うーんとねー、リオル的にはですねー、扱いやすいのはいいけどあまり短すぎても攻撃を当てにくくなるからそれなりの長さはあったほうがいいかなー。でも頑丈な剣というのはみりきを感じるね」

「それじゃあカトラスやバックソードは一旦、保留するとして、普通の長さ位で頑丈な剣という条件に合う代物ね。それだったら定番武器のロングソードやブロードソードがドンピシャじゃね」

「ドンピシャリだな。しかも定番武器だけあって選べる種類も豊富だしな。だがロングソードって長めの剣になるんじゃないのか?」

「ロングソードは確か、ショートソードが誕生した時に区別するために普通の剣をそう呼ぶようになったんじゃなかったけ?」

 おぼろげな記憶でフィルが説明をする。

「そうだったのか。俺はてっきりショートソードが普通の剣でロングソードがそれよりも長い剣だと思っていた」

「そう言われるとそんな気もしてきた……店員さん、どうなんですか!? そうなんですか!?」

 やはり記憶が曖昧(あいまい)だったようだ。フィルは店員に問いただす。

「ロングソードについてかい。えーと、ロングソードが誕生した時、ショートソードやブロードソードなどの他の剣と比べて長かったからそう呼ばれるようになったから特別長いわけではない。あくまで分類を分けるためだね。たぶん」

「おお、さすがプロ店員、ポイントを押さえた分かりやすい解説。だ、そうです」

「なるほど、そういう事だったのか。なんか最後のほうの歯切れが悪かったが、まぁいい。とにかく武器を見てみよう」

 ロングソードなどはかなりの数と種類があるようで綺麗にショーケースに飾ってあるものもあればタルの中に乱雑にさしてあるのもある。リオルは色々な剣を吟味(ぎんみ)し、フィルとジーンも色んな武器を物色した。

「あ、これとかいい感じかも」

 数多くある中から一本の剣を選ぶリオル。リオルが手にとったその剣はすこし特殊な形状をしている。剣身の長さは普通のロングソードと同じ位だが身幅はその三倍位はあるだろうか、見るからに頑強そうだ。剣身の大きさに合わせて柄も長めで両手でも使用できるようになっている。

「ほう、斬新なデザインの剣だな。頑強そうだが扱いにくそうにも見える。フィル、この剣お前はどう思う?」

「強そうだけど不格好、あと使いにくそう。片手と両手どちらでも持てるようになっているからバスタードソードの一種なのかな。店員さん、どうなんでしょう? そうなんでしょう?」

 前衛的なデザインのその剣、フィルとジーンには少々不評のようだ。一体どういう代物なのか店員に情報を求める。

「ああ、その剣は半年前に入荷した新作です。熟練の武器職人による入魂の逸品、唯一無二の限定商品だよ。特殊なデザインでどのカテゴリなるのかは不明だけど」

「ほう、オリジナルデザインの限定品か。良さそうじゃないか」

「ああ、オレも同感だね。特に限定品というところに惹かれるよな」

「そうだねー、イイよねー限定品。よし、これにしよう」

 三人共気に入った様子、限定品(リミテッドエディション)という言葉が決め手になったようだ。

「それに決めたのかい? 実にお目が高い。お値段は100万ゴールドとなっております」

「クソ高けぇ! お値段高すぎてお目が高いってレベルじゃねぇぞ!」

「その金額はもはや上級冒険者レベルだな。初級冒険者の俺達では歯が立たん」

「そうだね、高いよね。店員さんまけてよ」

 限定商品の値段の高さに驚き思わず値段交渉に入る。

「それではおまけして80万ゴールドでいかがでしょう?」

「おー! ホントにまけてくれた、言ってみるもんだね。ついでにもう一声お願いしまーす」

「では更におまけして50万ゴールドでいかがでしょう?」

「すごい! 半額とはおっどろきー!」

 すごい勢いで金額をまけていってくれる店員。なおもリオルは交渉を続ける。

 だがここでフィルに疑問が生じる。

「……なあジーン。オレさ、ふと疑問に思ったことがあるんだけど」

「奇遇だな、俺もだ。あの武器本当に100万の価値があるのか? あるとしたらなんでガンガン値引きするんだ?」

「ていうか最初に半年前に入荷したって言ったよね? 半年も売れ残っている訳あり商品ってことだよね?」

 そんなフィルとジーンの会話内容を知る由もなく、リオルは値段交渉を進める。

「やったー! 30万ゴールドまでまけてもらったよー」

「よかったね」

 すごく嬉しそうなリオルに感情のこもっていない声でフィルとジーンが答える。

 はしゃいでいるリオルを横目にフィルとジーンは店員に大人の事情を尋ねる。

「君たちは気付いているようだけどあの剣、大きさの割にはリーチが短くて使いにくそうってことで人気がなくてね。ずっと売れ残っていたんだ」

「あー、やっぱり」

「剣の価値としては本当にあの価格なんだけど、買い手がつかなければ意味がないし店に置いておくにしても管理しないといけないからね。この際、投げ売り価格でもいいから売れる時に売っておこうと思ってね」

 店員は本音を暴露(ばくろ)する。売れるものは高く、売れないものは安く。セール品としてのセオリー通りだ。

「まあ、商売だし本人も喜んでいるから別にかまいませんが結構な赤字になるのでは?」

「ああ、いいのいいの。値引きの限度額は店長から言われた通りの額だし、何より僕はアルバイトだからね」

「え!? そうだったの。前にダガー買った時に詳しいこと教えてもらったからオレはてっきりプロ店員かと」

「一応勉強はしているからね、それでも半分くらい思いついたことを適当に言ってたけど」

「更に衝撃の事実。あれ半分ウソだったんかい」

「まあまあ、値引きしてあげるからそれで勘弁。でも買い手が見つかって良かったよ」

「さてそれはどうでしょう。安心するのはまだ早いかも知れませんよ。おーい、リオル」

 何か気になることがあるのかジーンがリオルを呼んだ。

「なんでござるか?」

「その剣に決めたのはいいけど、お前武器の購入資金いくら持ってるの? 俺は所持金1万ゴールドちょっとくらいだけど」

「えーと、武器に使えるお金は2万くらいかな」

「オレも2万ちょっとくらいだから三人合わせて5万ゴールド。つまりこれがこのパーティの所持金なわけだけど、値引きしてもらった後でも全然足りんね」

 昨日今日冒険者をはじめたばかりの新人ではそんなものだろう。普通なら武器に加えて防具も揃える必要がある。

「急いで購入しなくても大丈夫じゃないかな? たぶん他のお客さんは買わないだろうし、お金が貯まった時にまた来てもらえれば30万ゴールドで売ってあげるよ」

 どうせこの武器は売れないだろうと云う観念じみたものと買ってくれるなら何でも良いと云う、すがる思いが見て取れる。

「それは有り難い。ならばそれまでのつなぎになる剣をどうするか考えねばなるまい」

「できるだけ早くお金をためたいから、とにかく安いのでいいかも。木剣やレプリカ品でもいいから」

「あ、それで思い出した。オレんちに訓練用の木剣ならあったわ。それで良ければあげるよ」

「あ、じゃあそれで」

 代替品はすぐに決まった。

「よし、そうと決まればすぐに取りに行こう」

「いや、フィルお前もダガーをもう一本買いに来たんだろう?」

「そうだった、忘れてたわ。でもどうすっかなー、金がないのは相変わらずだし。百均のナイフで妥協するか」

 本来の目的を思い出したがそもそも金がなかった。百均のナイフではどう考えても戦闘用ナイフの代わりにはならないだろう。

「いっその事ナイフやダガーなどの短剣でなく攻撃力の高いカトラスとかの剣を買ってみてはどうだ? 予算は5万ゴールドあるわけだし」

「いや、それを全部使ってしまうとリオルの剣を買うのが一歩遠のくし。それにダガー無くしたのは完全にオレのミスだからな、お前らの分の金まで使うわけにはいかないかな」

「今更だな。パーティの所持金と言ったのはお前だぜ。何を気にする必要がある? なあリオル」

「そうだよフィル、買っちゃえ買っちゃえ。私は木剣でも十分だしいざとなれば奥の手があるし。ここは思い切ってワンランク上の武器を買おうよ。私のおすすめはガンブレードだね」

 ガンブレードとは攻撃時にトリガーを引くことで爆破系の追加ダメージを与えるスグレモノ。爆破系ダメージは使用者の攻撃力に依存しないため低火力の職業と相性はいい。撃つごとに弾薬を消費するためコストがかかるのが難点。

「その剣は明らかに予算オーバーだよリオルさん。だが、その心付け確かに受けとった。店員さん、小剣でおススメのやつ教えて下さい。予算は5万ゴールドで!」

「はいはい、5万以内ね。ちょっと待っていくつか持ってくるから」

 初めから予算を伝えて探して貰えば良かった。しばらくして店員は複数の武器を持ってきて台の上に置いた。

「はい、お待たせしました。5万以内の小剣ならこの辺のがおススメだよ」

「3本ある。それぞれどんなのか教えてもらえますか?」

 フィルは左端の一本をとり詳細を聞いてみる。

「かしこまりました。今手に取っているその剣は普通のショートソード、付加能力といったものは特にない値段相応の剣だね。もっと分かりやすく言うと最初の街から2、3番目の町や村で買える武器ってところかな」

「あー、それは分かりやすい。それじゃあこの真っ黒な剣は黒鉄かなにか使ってるの? なんか強そう」

 真ん中に置いてある黒い剣に持ち替える。とても5万ゴールドで買えるようにはみえない出来栄えの剣に興味を示す。

「それは呪いのツルギ。うっかり装備しちゃうと呪わるから気を付けてね」

「あぶねー!」

 急いで手放す。一瞬のうちに息が上がり呼吸が激しくなった。なんとか気を落ち着けて最後の一本について尋ねる。もちろん今度は触れずに台の上に置かれたままで。

「その剣はアレだよ。カトラスだけどほら、さっきの前衛的なデザインの剣と同じ……ね?」

「つまり訳あり商品と」

「そうなるね。どの辺が訳ありなのか僕にはよく分からないんだけど。何故かこの剣を買った人は必ず返品しに来るんだ。しかも返品理由は教えてくれない」

「うわー……訳ありどころか(いわ)くありげじゃないですか。なんだか危険な香りがするし、その剣は止めてお――」

「フィル、その剣にしよう」

 言葉をさえぎり、リオルが訳あり商品を推してきた。その剣だけは止めておこうと思った矢先だったのでリオルに買う気がないことを伝える。

「さっきの説明を聞いただろ、いくらお得でもこの剣は選ばないほうがいいんじゃないかな?」

「うん、聞いた。その上でその剣にしよう。訳はあとで話すから」

 ドレイク相手でも余裕の表情を崩さなかったリオルが真剣な面持ちをしている。おバカキャラに似合わない顔をみせたことでフィルとジーンも只事ではないという雰囲気を察する。

「フィル、ここはリオルの言う通りにしてみないか」

「お前ら二人にそうまで言われたら拒む理由はないな。不安はあるけど思い切りは大事だ。店員さん、この剣にします」

 フィルは訳あり商品のカトラスを手に取り店員に買う意志をみせる。

「本当にいいのかい? 持ってきた僕が言うのもなんだけど、得体の知れない剣なのは間違いないよ」

 なら持ってくんなよ。と喉まで出掛かったが、なんとかそれを飲み込む。

「男に二言はない!……こともないけど、選択肢で「はい」を選んだらキャンセルボタン押してもキャンセル出来ないからね」

「そこまで言うなら仕方ない。今度は失くさないようにね。それから返品することになったら手数料かかるし、場合によっては返品自体できないこともあるから注意してね」

 フィルは了承し武器の代金を支払った。店員に感謝の言葉を言い、自分のものとなったカトラスを眺めてみる。

「何はともあれ新たな武器を手に入れたなフィル」

「おめでとーフィル」

「あんまり嬉しくないのは何故だろう。いや、気にすまい。気にしちゃ負けだ。とにかく次はリオルの剣だな、早速うちに行こう」

 三人はフィルの家に向かうことにするもフィルは相変わらずカトラスを手に持って眺めている。

「あ、ところで店員さん。オレこの剣まだ手に持っているだけなんですけど」

「うん、そうだね」

「このまま店を出ようとしているんですけど」

「そうみたいだね」

「ひょっとしたらこのままクエストに行ってしまうかも」

 しつこく店員に話しかけるフィル。何かを期待しているようだ。それに気付いたリオルとジーンが呼応する。

「フィル! まさか武器を買っただけ、手に持ったままで行くつもりなの?」

「マジかよ! 店員さん、ここは一つ持ちネタを」

 店員もなんとなく察したようだ。

「べつに僕の持ちネタじゃないんだけど、まあいいや。武器は持っているだけじゃなく、ちゃんと装備しないと効果がないよ」

 期待通りのセリフを聞けてフィルは満足そうな顔をした。そして店員に向かい三人揃ってサムズアップ(親指を立てるアレ)をして店をあとにした。



 フィルは自分の家に向かう途中リオルに、さっきは何故あれほどこのカトラスを買うことを強く勧めてきたのかその訳を聞いてみることにする。あれだけ真剣な顔をしていたのだ、きっと何かしらの事情があるはずだ。

 道中リオルはその訳を語る。意外なことにそれはリオルの夢とも大きく関わっていた。

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