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  3.パーティメンバー   

「投石攻撃は欠かせないな、オレの攻撃より効いてたし」

「だが連続攻撃には向いてないし間接攻撃だから命中率も悪い。あれはあくまで攻撃補助だな。フィル、お前ってダガー2本持ってないのか? あれば通常攻撃が2回攻撃になるだろ」

「2本持ってはいたんだけどね、この間盗まれちゃってさ(笑)……シーフの持前(もちまえ)を取る奴がいるとはね。新しいの買おうにもそんな金無いし、防具すら俺ら持ってないしな」

「まーな、第一『ぬののふく』でモンスターの攻撃を受けろってのが可笑(おか)しいしな」

「『こんぼう』と『50ゴールド』だけで魔王討伐の旅に出る勇者がいるからな、ぬののふくでも防具にカウントされるんだろうね。ただオレら一般人と勇者を同じ基準で考えるなよと」

「たしかにな。勇者からすればスライムはただの雑魚かもしれんが、俺達にとっちゃ強敵なんだよな。いくら勇者でも最初からゴーレムに勝てますか? って話だよ君」

「そう、それだ。逆に言うとそこにスライムに勝利するヒントがあるはずだ、たぶん」

 フィルとジーンは作戦会議中だった。だがその会話のどこをとってもスライムに勝てるような要素はなかった。スライムとゴーレム、種族も強さも何もかも違うモンスターを同列に考えはじめた時点で出口のない迷路に迷い込んだようなものだ。いや、出口は見えていて一本しかない道で何故か迷っているようなものだ。二人は全く気付いていないが。


「クエスト攻略法は思いついた? まだ会議中?」

 いつの間にかケイトが戻ってきていた。

「まだだな、今勇者VSゴーレムの話をはじめたところだ。駆け出し勇者がゴーレムに勝つ方法を思いつければオレらもスライムに勝てるかもしれない」

 フィルは会議が順調だったかのように答え、ジーンもうんうんと相槌(あいづち)をうつが、1ミリも先に進んでいないのは丸分かりだった。ケイトは「えっ? 何言ってるのこの人達?」といった表情を浮かべ、その後やっぱりといった表情と仕草を取った。

「それはよかった、よかったの前にどうでもが付くけど。まぁいいわ、それより紹介したい人がいます」

 そう言うとケイトは後ろの方に立っている人物に声をかけ連れてきた。何事かとフィルとジーンは注目する。

「リオルさん、紹介します。この二人が今日から冒険者をはじめた兄のフィルと友人のジーンです」

 ケイトはリオルに二人のことを紹介し、状況を飲み込めていないフィルとジーンにもリオルのことを紹介する。

「兄さん、この人はリオルさんといいます。一緒にパーティを組んでクエストに行って頂けないかとお願いして来てもらいました」

 フィルとジーンは理解した。ケイトが助っ人を連れてきたのだと。

「はじめまして、リオルと言います。自分も初心者なんですけどケイトさんから誘われて、良かったら自分も一緒にクエストに行ければと思って」

 しかしこのリオルという冒険者、かなり小柄だ。ていうか子供(チャイルド)じゃね? フィルは思わず口にする。

「いやいやいやケイトくん、いくら我々がクエストに苦戦しているからと言っても子供を連れてきてはいかんよ」

「いや、16歳だからね。今日冒険者ライセンスも貰ったからね」

 リオルは慌ててライセンスを見せる。

「あ、本当だ」

「たしかに私はちいさいけど見た目で判断しないでほしいな」

「そうだぞフィル、見た目で判断するのは良くない。女性には(やら)しく紳士的に、だ。ましてや同じ今日から冒険者になった者同士仲良くするべきだ」

「それもそうだな、ごめん。だが冒険者は危険な職業だからね、用心するにこした事はない。時に君は戦士のようだけど、戦士と言えば最前線で戦うアタッカー。君にはスライムと命をかけて戦う覚悟はあるのかい?」

 アホなのか何なのか当たり前のことを言い、フィルはリオルに問いかける。かなり真剣だ。

「スライムくらいなら私一人でもなんとかなるよ」

「えっ!?」

 いきなりのスライム倒せます宣言にフィルとジーンが驚く。

「いやー、実はね、今日この街に来る途中でスライムの群れと出くわして戦って来たばかりなんだよねー。数が多かったから2、3体倒して逃げたけど。まぁ、あのまま戦ってもヨユーだったね、私はマックスパワーの半分どころか、3分の1も出してなかったし」

 得意げに語るがどこか負け惜しみのように聞こえなくもない。

「ジーン、是非(ぜひ)ともこのリオルさんをパーティに加えましょう」

 フィルはいきなり(てのひら)を返した。

「ふ、まさかな。一人でスライムを倒せるような(つわもの)が居ようとは、なんという頼もしさか」

 今ので信じるんだ。冗談(じょうだん)交じりに言っただけにリオルはこんなあっさり信じてくれるとは思わなかった。でもその方が気楽でいいかとリオルは思う。

 トントン拍子にパーティを組むんだ三人を見てケイトは安心した。

「二人で初クエストクリアではなくなるけど、新人だけで初クリアにはなるからこれなら大丈夫でしょ?」

「もちろんだよケイトさん、これで奴らに勝てる。待っていろよ軟体生物、そのニヤけた面吹っ飛ばしてやるからな」

 さっきまでのこだわりはどこに行ったのか。


 作戦会議を兼ねフィルとジーンはクエストの受付嬢にスライム討伐のクエストを紹介してもらったこと、盗賊とクレリックではどうにもならなかったことなどを話す。

「という訳なんだ。いまだ攻略の糸口すら掴めないんだよね、これが」

 ジーンが説明を終え、お手上げ状態だと言わんばかりに肩をすくめる。

「なるほど、そんなことがあったとは」

「ああ、スライムと思って(あなど)っちゃダメだった。お陰でコノザマダヨ」

 スライム相手にゲームオーバーになった男たちは語る。スライムが強かったのか、フィルとジーンが弱すぎただけなのかは分からないが、少なくともスライムは雑魚モンスターの分類だ。だがそんなことは関係ないスライムは強かったのだ、どんな相手でも油断してはいけないと。

「いやー、実は私も今日は色々と苦戦してたんだよね。冒険者になったまではよかったけど、入団希望しても入団OKのところが中々なくてねぇ。やっぱり装備がしょぼいのが良くなかったかなー、かと言ってすぐには新しい装備は用意できないから本当に困ってたんだよねぇ」

 リオルもここぞとばかりに入団苦労話をぶっ込んで来る。

「えっ、何? ひょっとして君もビギナーズラック低い系初心者?」

 苦労しているのは自分たちだけではなかったことにフィルはちょっと嬉しさを感じた。

「うわー、そーかもしれない系」

 さらに話に乗っかっていくリオル。

「だが世の中には強制負けイベントなるものが存在していて負けても話が先に進むようにできている。今の俺達がまさしくそれではないだろうか」

 ジーンが更なるネタ話を投下してくる。話が本筋から脱線していく。

「なんてこったい。オレらは壁にぶつかって立ち止まっているように見えて実は先に進んでいたということか。そこに気づくとはさすがジーンだぜ」

 フィルが畳み掛ける。話を軌道(きどう)修正する気はないようだ。

「ねー、ねー、だったらさぁ、道が木とか岩とかで(ふさ)がれていて一見すると通れないようでも本当は技とか使わないでも横からすり抜けて先に進めるんじゃないかな」

 リオルも被せてくる。三人寄れば文殊(もんじゅ)の知恵とは言うが、馬鹿が三人集まったところで文殊にはなれない。三人寄っても馬鹿は馬鹿、三人で知力が3倍になっても0は0なのだ。

 進んでいるように見えて話はまったく進んでいない、良い知恵も出ることはないだろう。折角パーティメンバーが揃ったのだからとにかくクエストに行ってみるといいのに。

 ケイトはしばらく三人の会話を黙って聴いていたが、さすがにこれは話が本筋に戻ることはないだろうと思いせきを切る。

「……あー、ところで今日は良い天気ですね」

 唐突にケイトが天気の話題を振る。棒読みで。

「お、そうだな。本日は晴天なり、天気予報はおざなり」

「これだけ天気が良いなら絶好のクエスト日和ですね」

「お、そうだな。クエストに適した天気だな。……そうだクエスト、行こう。ダベってる場合じゃあないじゃない」

 フィルはようやくクエストに行く気になったようだ。

「そうだった。準備はできているしな。準備できるような装備も道具もないだけとも言えるが。とりあえず作戦は3人で袋叩きにしようぜ!で行こう。状況によっては慎重に戦おう!でタクティカるってことで」

「おー、なんかすごくパーティっぽいよ、これなら安心だね。よし、行こうよ、みんな」

 やっとクエストに出発する三人とそれを見送るケイト。ようやくパーティとしての第一歩を踏み出した。



 三度草原に立つ。今回は近くにスライムの姿はない。

「さすがに今度は見当たらんな」

 ジーンは辺りを見回しスライムの姿を探している。

「もう昼過ぎだしなあいつらゲル状のナマモノは熱に弱いから、溶けないように日陰に隠れてるんじゃね?」

「その通りだフィル」

「なるほど、ゲルモノは陽の光に弱いナマモノでネクラモノっと。それじゃあ、影のあるところを探さないとねー」

 リオルが先頭に立って歩きはじめる。フィルがその後に続き、殿(しんがり)をジーンが務める。パーティとして中々様になっている。探すのは初心者向けモンスター、労せず見つけられるだろう。気を付けなければいけないのは探すことに集中しすぎて他のことを見落としてしまうことだ。うっかりダンジョンに入ってしまったり、帰り道が分からなくなったりしてしまいかねない。例えばそこに看板が立っているが裏からだと文字が読めないことに気付かずスルーしてしまうとか。リオル達は看板を見つけたが、裏からみてそのまま素通りしてしまう。案の定だ。ちなみに看板に書いてある内容は『この先 凶悪モンスター 出現注意』だった。



 崖の下側の影になっている場所にスライムはいた。数体のスライムが休んでいるが、眠っているわけではないので近くに寄るとこちらに気付くだろう。

「みーつけた。予想通り日陰に隠れてたよー」

 リオルがスライムを視界に(とら)えた。三人は岩陰に身を潜めながらスライムの様子を見る。

「おー、いるいる。でも3体もいるじゃねーか日陰者、厄介だな日陰者」

「面倒だな。だが、それがあいつらの良いところでもある」

 まるで知人であるかのようにスライムを語るジーン。

「簡単に見つけられたんだし、いーじゃん」

「そうだとも、気にすることはない。さあ、狩るとしようか。まずは慎重に近づこう、近づいたところで一体を集中攻撃して一気に叩く、OK? リオル切り込み隊長は任せたぞ、フィルと俺はその後に続く。二人共準備はいいか?」

「わかった、慎重に突っ込めばいいんだね」

「そう慎重に……突っ込む!?」

「それじゃあ、いっくよー!」

 まるで分かっていなかった、フィルとジーンはいきなり戦闘を開始しようとしたリオルに驚き止めようとするが、すでに遅くリオルは岩陰から飛び出しスライム目掛けて突撃していった。

「マジかよ、いきなりだな。『慎』んで『重』んじるはどこ行った」

「とにかく俺達も行こうフィル」

 リオルに遅れながら二人も岩陰から出ていく。

 一方スライムの方も一人先陣切って突っ込んでくるリオルに気付き、一斉にリオルに向かっていく。

「まずい、もう気付かれた」

 一斉に動き出したスライムに焦るジーン。スライムはリオルに飛びかかる寸前だ。だがリオルはスライムが飛びかかるよりも疾く斬り込んでいく。

「遅いよ!」

 木剣が一閃。瞬く間にスライム一体を倒してしまう。返す刀で二体目のスライムを吹っ飛ばす。吹っ飛ばされたスライムはそのまま力尽きる。

「これで最後ーッ!」

 豪快なフォームで三体目のスライムの頭上に剣を振り下ろす、思いっきり叩きつけられたスライムは耐えきれず力尽きる。

 あっという間にスライム三体を倒してしまう。フィルとジーンも駆けつけてきたが何もする事もなく戦闘が終了しあ然とする。

「どう? これが私の実力さ」

 勝ち台詞を言い、決めポーズを取るリオル。これで勝利のファンファーレでも流れてきたら完璧だ。

 フィルとジーンはしばらく言葉を失っていた。無理もない、目の前の子供にしか見えないような小柄の少女が一人でスライムを全部簡単に倒してしまったのだ、自分たちだけではスライム一体すらままならなかったのにだ。

 あ然としていたフィルとジーンだがやがて言葉を取り戻す。

「――すげぇ! 強えーじゃん! 一人で全部片付けちまうとか」

「話を聞いて強いのは分かっていたがこれほどとは、やるな」

 賞賛の言葉ばかりが飛び交った。二人に褒められてリオルは少し照れくさそうにはにかんでいる。

「これならこの辺をしばらく散策しても良いくらいだよな、そして経験値を稼ぐのだ」

「それも良いが、一旦街に戻ってクエストクリア報告しよう。次のクエストも受けられるしな」

 ジーンの提案にリオルとフィルも賛同し街に戻ることにする。まだ昼下がりの時間、あと一回くらいならクエストも明るいうちに受けられるだろう。


 街に戻ろうとした三人だったが近くの茂みから物音がした。三人共物音に気付き、茂みに目をやる。姿は見えないが何かがいる気配がする。

「まだスライムがいるのか?」

 そうは言ったもののフィルはスライムとは違うモンスターの気配を感じ取り武器を構えた。リオルとジーンも戦闘態勢に入る。

 大きな物音がし、茂みが揺れる。スライムではない、もっと大きなモンスターのようだ。危険を感じ取った三人は後退(あとずさ)り茂みから距離をとるが、次の瞬間茂みを薙ぎ倒し赤黒いモンスターが這い出て来た。

 巨大なモンスターだ。(うな)り声を上げこちらを威嚇(いかく)してくる。三人は心臓の鼓動(こどう)が激しくなるのを感じた。

 そのモンスターは大柄で恐ろしげな風貌(ふうぼう)をし、(からだ)は爬虫類の様な鱗に覆われ四本の脚を持ち、縦長に開いた瞳孔(どうこう)はこちらを睨んでいる。

 三人はこの見るからに恐ろしいモンスターと対峙(たいじ)してしまった。

「……あー、これはトカゲの仲間かな?」

「トカゲにしては大きすぎるんじゃないかなー?」

「こいつはおそらくドレイクだ。ドラゴン系統の一種で翼は退化していて飛べないが、代わりに四肢(しし)が発達しているかなり凶暴なモンスターだ。しかも人を食べるせいで冒険者ギルドのマスコットキャラ「ねこんじゃ」さんが救助に来る前に人生終了。こいつのせいで冒険者の年間犠牲者数は右肩上がりだ」

 ジーンの言った通り、このモンスターはサベージドレイク。ドレイクの一種だ。当然だがスライムとは比べ物にならないほど危険なモンスターであり、上級冒険者以上になってようやくまともに戦える相手だ。

 こちらを威嚇していたサベージドレイクはやがて三人に接近しはじめた。

「ドレイクか、どおりでトカゲやワニよりデカイわけだ。冒険初日にこんなのと出会すなんてツイてるぜ」

「緊急事態だな。時にリオルさん、リオルさんならあの恐ろしいモンスターに勝てますかね?」

 ジーンはリオルに尋ねた。

「うーん、剣がこれだし今のままだとちょっと無理かなー、えへへ」

 木剣を見せながらどうしようもないといった風に笑いながら答えた。

「ですよねー」

「ときにジーンさん、あのモンスター倒したら何か報酬とか貰えますかね?」

 今度はリオルがジーンに尋ねた。

「凶暴なモンスターだし倒せば冒険者ギルドから何かしらの恩賞はあるかも知れないが、ドレイク関連のクエストを受けているわけじゃないから基本的に無報酬ですな、ホホホ」

「ですよーね。おとなしく逃げたほうがいいよーね」

 などと言ってる間にもドレイクは三人との距離を詰めてくる。

「でも普通に逃げても逃げ切れないかもな、この辺身を隠せるような場所少ないし。ここは一つオレが(おとり)になろう」

 フィルが逃げる算段を立てる。無謀ではあるが誰かが囮になっていれば他のメンバーは逃げやすいだろう。

「本気かフィル、危険すぎやしないか? なんだったら俺も付き合うぞ」

「あ、オトリなら私がやるよ」

 リオルが囮役を買って出た。

「いや吾が輩(わがはい)が言い出したことだ、私がやろう。それにリオルだけに危険なことさせられない、オレにもカッコつけさせろ」

「そんなこと言ったらオトリに引っかからずこっちに来たらどのみち危険じゃあない? 私だったらアレとだって戦えるし、いざとなったら奥の手を使って逃げられるし。私、隠れたり逃げたりするのは得意なんだよね」

 相変わらず作戦はすんなりと決まらないがドレイクは待ってはくれない。すぐ目の前まで迫ってきている、決断するしかない。

「フィル、ここはリオルの言う通りにしよう。俺達はギルドに助けを呼びに行くんだ」

「――ッ、仕方ない、頼らせてもらうぞリオル」

「はいな、まっかせといてー!またあとで会おう友よ、それじゃあ逃げろー!」

 リオルの掛け声とともにフィルとジーンは一目散に走り出しリオルはドレイクに立ち向かっていく。

 ドレイクの頭目掛けて斬りかかる、相手が大きいおかげで狙いをさだめやすい。リオルは鋭く重い一撃を打ち込むが、ドレイクはそれを(かわ)しリオルの側面に回り込む。今度はドレイクの牙が襲い掛かってくる、図体に似合わず機敏な動きだ。

「うわっと」

 リオルもドレイクの攻撃を躱すが、ドレイクは連続で喰らいついて来る。なんとか躱し続けるが攻撃が止む気配はない、このままではスタミナが奪われる一方だ。隙を見つけ反撃するもまたしてもドレイクは素早く躱す。だが後ろに大きく飛び退いてくれたおかげで距離がひらき体勢を立て直す時間を得た。

 ドレイクは距離を保ったまま威嚇しリオルも剣を構える。戦うことは出来そうだが敵いそうにはない、作戦通り囮役は成功した。あとはフィルとジーンが完全に逃げ切るために時間を稼ぎたい。

 ここでリオルは思いつく。無理して戦う必要はない、ドレイクの脚に傷を負わせられればドレイクの動きは鈍り、逃げやすくなるのではないかと。

 ドレイクが再び襲い掛かってくる、物凄い勢いの突進だ。リオルは自分を落ち着かせる。まともに戦う必要はない、狙うのはドレイクの脚だ、手傷を負わせるだけでいいと。

 ドレイクの前脚の爪が風切り音を上げリオルに迫ってくる、突進と相俟ってかなりの疾さだ。リオルは攻撃の軌道を見切りすんでの所で躱す、そのまま突き出され無防備になったドレイクの前脚目掛けて木剣を振り下ろす。鈍い音とともに確かな手応えを得た。だが弱い。はじめてドレイクに一撃を浴びせることができたものの攻撃を躱しながらの体勢で放った一撃では力が入りきれていなかった。ダメージを与えることはできたが傷を負わせるには至らない。

 攻撃を当てたのも束の間、ドレイクも躰全体を武器に使い反撃してくる。攻撃直後のリオルは回避に移るのが遅れた。体当たりは躱せたがその後の叩きつける尻尾の一撃を受けてしまう。とっさに木剣でガードし直撃を避けられたが、威力を殺しきれず吹っ飛ばされてしまった。

「痛たたた、今のは効いたー」

 吹っ飛ばされはしたがすぐに起き上がった。

「首や手足はちゃんとついてる、でも手がシビれるー」

 自分の状態を確認する。ダメージはあるものの大きな傷はない、衝撃で(しび)れている程度だ。

「わぁお! 剣が折れてる! ぐへぇ! どうしましょう」

 攻撃を受けた衝撃で木剣は折れてしまっていた。

「どうしましょうったら、どうしましょう。剣が折れたついでに心も折れそうだよ」

 武器が壊れ戦うすべを失ったリオル、対してドレイクはピンピンしている。闘争心は(おとろ)えることなく威嚇し、リオルに近付いてくる。

 スライム程度なら素手でも戦えるが相手は強力なモンスターだ。戦うことは諦めて逃げることを考え始めるが、ドレイクはリオルをしっかりロックオンしている。このまま逃げおおせるのは厳しいかもしれない。こうなっては仕方がない。などといったことを思いながらドレイクと睨み合う。

 そこにドレイク目掛けて石が飛んでくる。石が当たり、ドレイクが反応する。さらに石が飛んできてドレイクにまた命中する。ドレイクは石が飛んできた方向を振り返る。リオルも飛んできた方へと視線をやる。

 逃げたはずのフィルとジーンがそこにはいた。二人はリオルを援護しようと遠巻きからドレイクに投石攻撃していたのだった。いくら石が命中しようと殆どダメージはないがドレイクの注意を引き付けるには十分だった。

 ジーンの投げた大きめの石がドレイクの頭に命中する、これにはさすがのドレイクも苛ついたのか雄叫びを上げフィルとジーンのいる方向に走り出した。

「来た来た、かなり速いぞ」

 ドレイクとの距離はまだまだ離れているが、ぐんぐんとその距離を縮めてくる。リオルは助かったが逆にフィルとジーンが危険な状況になりそうだ。ジーン達は石投げをやめて逃げる体勢に入る。

「ジーンは先に逃げてくれ、オレはあいつを引き付ける」

 そう言うとフィルは一人ドレイクに向かって走り出す。

 ドレイクもフィルに狙いを定めた。先程の鬱陶(うっとう)しい石投げに気が立っているご様子、フィルもそのことに気付き今度はドレイクのいる方とは違う方向に走り出す。全力で。

「これはまずい、じつにまずい」

 必死に逃げるがじきに追いつかれる。フィルを射程に捉えたドレイクは容赦なく攻撃してくる。悲鳴を上げ逃げながら攻撃を躱すがドレイクは完全にフィルを捉えている、躱されても攻撃し続けフィルを追い立てる。

 なんとか攻撃を躱していたがバランスを崩しついにフィルは転倒してしまう。もう次の攻撃を躱すのは不可能に近い。フィルは覚悟する。

「ふおおおー! もうダメだー、おしまいだー!」

 万事休す、ドレイクがフィルに襲いかかる。

「はい、カットー!」

 ドレイクの牙が届く寸前、フィルをすくい去る。間一髪フィルを助けたのはリオルだった。まるでドリブルのボールを奪うかのようにフィルを(つか)み上げ、一気に攻撃範囲を脱した。ドレイクがフィルを追いかけている間にリオルも駆けつけていた。

「なんとか間に合ったねー、あー、あぶなかった」

 リオルは事も無げに言うが、フィルは助けに入ったリオルに動揺した。確かに助かったがこの状況では死にに来たようなものだ。リオルに武器はなく、ドレイクの脚の速さからは到底逃げられそうにもない。さらに遠くからジーンがこちらに駆け寄ってきているのが目に入った、このままでは皆ドレイクの餌食だ。どうしよう。

「おいおい、来ちゃったのかよ。お前までドレイクの食事(ランチ)になることないだろう、いや時間帯的に3時のおやつか」

 フィルはジョークの一つでも飛ばしてみる。

「そりゃ助けに来るよ。パーティなんだから、お互い様でしょ? それに喰われに来たんじゃないよ、『奥の手』を使いに来たんだよ!」

 そう言った瞬間リオルは(まぶ)しい光に包まれた。眩しくてよく見えないが光の中でリオルのシルエットが変化していく、髪は伸び、小柄な身体が大きくなる。そして弾けるように光が消え去りリオルの姿が露わになる。

 髪は長く背は高くなり大人のような姿になった、身に着けていた衣装まで変わっている。変化したリオルが構えると何もなかった手に光が集まり剣の形になった。光が弾けるとリオルの手には見事な剣が具現化されていた、木剣ではない真剣を。これがリオルの奥の手だった。

「準備完了。さあ、反撃開始よ」

 そう言うや否やリオルはドレイクに斬り掛かっていった。先程までは比べ物にならないスピードだ。ドレイクも前脚を振り上げリオルを攻撃しようとするが、それよりも疾くリオルの剣がドレイクの躰を斬りつけ、ドレイクの一撃は空振りする。リオルの一太刀はドレイクの硬い鱗を斬り裂き深い傷を負わせた。

 ドレイクは雄叫びあげるが直ぐ様攻撃態勢に入り前脚で薙ぎ払うようにリオルを攻撃する。リオルはまた攻撃を躱し、躱しながら前脚を斬りつけた。するとドレイクは攻撃直後のリオルの隙を狙い体当たりをしてきた。リオルは体当たりを躱すがドレイクは尻尾で連続して攻撃してくる先程と同じだ。だが今度は尻尾の攻撃まで剣で綺麗に受け流す。二度も同じ手は食わない。そしてリオルは反撃しドレイクの尻尾の先が切断される。

「凄い……。あいつとんでもない切り札を隠し持ってやがった」

 フィルはリオルの本当の実力を目の当たりにし、ただただ驚愕した。

「大丈夫かフィル」

 ジーンも駆けつけてきた。フィルは「ああ」と相槌をうち、二人はリオルの戦いに魅入る。

 完全にリオルの優勢だ。リオルの一撃一撃がドレイクに傷を負わせる、ドレイクも反撃をするものの躱されたり防がれたりでまともにダメージを与えられない。攻撃を当てることが出来ても小さな手傷しかリオルは負っていない。

 ドレイクの動きがどんどん鈍くなっていく、体力はかなり()がれたようだ。

「さてと、そろそろトドメといきましょうか」

 リオルは勝負を決めにかかる。

「よし、これなら勝てるぞ」

「いや、まだだ。ドレイクはまだ力を残している」

 ジーンの言う通りだった。追い詰められたドレイクは炎の息を吐きはじめた。灼熱の炎は牙や爪よりさらに威力が高かい、剣で防ぐことも出来ないためリオルは回避するしかない。

「ちょっと厄介ね、往生際が悪い」

 ここまで来て手こずらされる。ドレイクも必死なのだ、攻撃の手を緩めることはない、辺りが火の海と化しても炎の息を吐き続ける。

 そこへドレイクの頭目掛けてダガーが飛んでくる。ダガーは眼に命中しドレイクが怯んだ。

「今だ、リオル!」

 フィルが叫ぶ、飛んできたのはフィルのダガーだった。

「ナイスアシスト!」

 リオルは火の海を高くジャンプし飛び越え、そのままドレイク目掛けて剣を思い切り振り下ろす。

 一刀両断、ついにドレイクは力尽きる。


 激闘の末ドレイクを倒したのだ。フィルとジーンは思わず歓声を上げリオルに駆け寄る。

「やったなリオル、マジイケメン」

「お疲れ様、すぐ傷の手当をするからな」

 ジーンは回復魔法を使う。リオルの傷が治っていく、大した傷ではなかったためジーンの回復魔法でも完全に治せた。

「ありがとう、ジーン。やっぱり回復魔法は良いね」

「本日ようやくヒーラーとして活躍できた、女の子に傷を残すわけにはいかないからな。それにしてもこんな奥の手があったとはな、スタイルも良くなったし」

「でもジーンここで出番あったし、石投げ士としても大活躍だったぜ。あ、俺盗賊としての活躍してないわ、ちょっと待ってて今すぐドレイクから何か盗んでくる。ハートとか」

 そう言うとフィルはドレイクから色々と「盗み」はじめた。これでパーティ全員の職業が活躍した。

「フィルもありがとう、何度もサポートしてもらったわね」

「何言ってるんだ。お互い様、だろ? パーティなんだから」

 フィルは盗賊の仕事をこなしながらリオル達の方を振り向きサムズアップ(親指を立てるアレ)をする。

 クエスト対象外のモンスターまで狩るハメになったがクエスト初クリアとしては十分すぎる内容となった。それもこれもリオルのお陰だろう、変身しパワーアップする能力を持つ戦士は滅多にいない。今後もこの変身能力がクエストを大きく左右するだろう、フィルとジーンはとんでもない冒険者と出会ってしまったものだ。

「よーし、それじゃあ皆帰りましょう。クエストのクリア報告にね」

 三人は街に帰っていく、素晴らしい戦果にクエストクリアの報告を携えて。

 こうしてリオル、フィル、ジーン三人の冒険者の物語がはじまった。

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