3.個人スキル発動
お天道さまがお空の一番たかい位置でジリジリしだす時間帯、一台の馬車が道をゆく。ラピスパーティがチャーターした馬車だ。
今回はレイヴンも同行している。目的地に向かう途中でクエストはまだ始まっていないのだが、レイヴンはなぜか瀕死状態だ。
「……スルーしようと思っていたのだけど、やっぱり確認するわ。今日はまだ何もやっていないのになぜグロッキー状態なの」
質問するラピス。今日は最初にあった時点でレイヴンはこの状態だった。どうせすぐに状態異常も回復するだろうし、どうでもいいような答えがかえってくる気がして、スルー安定と考えたのだ。
瀕死状態の理由そのいち、「MHワールドG」のやり過ぎて疲労困憊。
理由そのに、MHワールドGをNINスウィッチで遊べるように嘆願書を毎日書いていて体力がつきた。
理由そのさん、MHワールドGをセガハードで遊びたかったのでセガから新ハードが発売されるようにお祈りしていた。
いずれの理由にせよろくでもないことに変わりはない。MHワールドにハマりすぎて仕事しないとか許されない。社会人なら自ら律すべし。
とはいうものの一向に回復する気配をみせなかったので心配になってきたのだ。レイヴンが回復しないというのは相当だ。万が一ということもある。
「あー……いやさ、リオルくんたちが昇級……うっ、試験を受けるということだったからフィルの稽古を急いで仕上げにはいって……ううっ」
状態異常『ひんし』につき話をするたび頭部にダメージをうけ、吐き気をもよおすレイヴン。かなり重症だ。
「つまり稽古を急いで仕上げるため、はりきり過ぎて疲れてグロッキーになってしまったと。あの子たちのためとはいえ体調管理ができないとはたるんでいる。冒険者いぜんに社会人として問題だわ」
「いや……うっぷ……ちがう。修行自体はとどこおりなく、一切合財問題なく……うごごご、おわったんだ。うっ、うー、まんだむ……」
「ならなんで瀕死状態に?」
「やつの面倒を見終えた開放感を味わうため修行をおえた後、めちゃくちゃ酒盛りした。そして二日酔いへ」
「……思っていた以上にアホな理由だった。ちょっとでも心配して損したわ。ていうかアルコール無効スキルはどうした?」
「酒をたんのうするため切ってた」
度し難い。レイヴンは自身のスキルとアイテムの効果などをあわせると大抵の状態異常を無効化できるのだが、意図的にスキルをオフにしたとなるとこういうことになる。ようするにアホなのだ。
「だめだこいつ」
「わざわざスキル切るとかやりますねーレイヴンさん。でも今日のクエストは大丈夫なんですか?」
レイヴンの所行はさておき、今日のクエストにえいきょうしないか確認するトリフェン。
「案ずるなトリ子。このていどの二日酔い、クエストになんら支障はない。どれだけ体たらくを決めこもうが、戦場にほうり出された瞬間に目覚める。それが一流の戦士だ……あたまいたい」
「便利ですね。私もその機能ほしい」
「一流の戦士ならまず酒にのまれないとおもうけれど。もう長くせず目的地だしそろそろシャッキとしなさいよ」
「……あー。……ところでさ、やつに剣の稽古をつけてやり片手剣の要領でカトラスをあつかえるように仕立てあげたわけだが……、これならお前が稽古つけてやってもよかったんじゃないのか……。面倒ごとを押しつけられた気分だ……」
「今頃気づいたの? もっとはやく気づくかと思っていたけど」
剣の稽古なんて別にレイヴンがつけなくてもどうとでもなるのだが、あえて押しつけたのだった。
「じつはいやがらせだったとかやりますねーラピスさん」
「おい……いやがらせかよ。ちくしょーめ! ひどく気分を害したのでもう寝る」
そのままレイヴンはよこになりふて寝した。もともと体調という意味では気分がすぐれていなかったので、たんに寝たかっただけだ。
ラピスが稽古を押しつけたのはいやがらせではあったが、才能のある人間にしか興味を持たないレイヴンに、フィルみたいな冒険者にも目を向けさせるためでもあった。
げんにレイヴンは剣の稽古をつけるのを途中で投げ出すことなく最後までフィルの面倒をみたのだ。ラピスの企ては功を奏したといえる。いやフィルの成長がどうだとか、レイヴンの視野が広がったということよりもレイヴンに一泡吹かせたこと(←これ重要)のほうが何よりの収穫だった。泡吐くどころかゲロ吐きそうな感じだが。
それはそれとして目的地についてもレイヴンはふて寝したままだった。冬眠したインドゾウのように起こしてもまったく起きなかったので、爆睡しているレイヴンをフィールドにほうり出した。
戦場にほうり出せば瞬く間に覚醒し一流の戦士に戻るかと思いきや、レイヴンは目覚めることはなく大型モンスターの腹の中におさまった。
ラピスたちがクエストに行っている頃、リオルたちは街に帰ってきていた。
「帰ってきたぞ。いよいよだな」
「ああ、あとはギルドに報告して試験を完了したら俺たちは昇級。はれて低級ランク冒険者の仲間入りだ」
「オレは条件満たしてないから初級のままだけどな」
昇格に必要なギルドポイントが足りていないのでフィルは初級のまま。クエスト自体にも参加したと見なされていないのでどのみち昇格はできない。
「何、気にすることはない。初級のままでも低級クエストには参加できるんだ、不都合はないさ。むしろこれから先は低級クエストでギルポガンガンかせげるから、低級なんてすぐだ」
「そうやな。なんも問題あらへんわ」
「なんでかんさいべん?」
とうとつな関西弁にさすがのリオルもツッコむ。
「わいは元から関西弁もしゃべれたで。標準語のほうがいいやすいから今まで使わんかっただけでんがなまんがな」
「なんかそれ関西弁とちがくない? よしんば関西弁だったとしても関西弁のまえにエセがつくよね?」
「それ以前に今日のお前はキャラブレすぎだ。久々の登場で自分のキャラ忘れたか?」
「ちがうな。修行を経てオレは成長をとげたのだ、これはそのアピール」
「ただ迷走しているだけじゃねーか」
「お前ら元気だな。そんなに体力あまっているなら、俺の荷物もってくんない?」
あまり疲れていないリオルたちのやりとりをみて、少々疲れ気味のノエルが荷物を押しつけようとする。
「あ? 疲れてへとへとだから無理ぃ。だいたいなんだその荷物、お前が欲張ってアイテムを大量に持ちかえろうとしたからだろ」
行きはたいしたことのなかった荷物が、帰りはえらいことになっている。翼竜の卵を手に入れるのに失敗したノエルは挽回するために、モンスター素材やらレアな採取アイテムをアイテムポーチに大量に詰め込んでいた。
「うるせー、こうでもしねーと元が取れんだろうが」
「翼竜の卵は元々お前のじゃねーけどな」
「何言ってんだ。ありゃほぼほぼ俺のになっていたんだ。翼竜にさえ見つからなければなー」
「いいじゃない、翼竜に追いかけられて生きて帰ってこれただけでも」
翼竜の卵に思いをはせるノエルになぐさめの言葉をかけるエフィム。
エフィムも地味に荷物が多い。クエストで入手したアイテムの数はそれほどでもないが普段から本などを数冊持ち歩いているため手持ちのアイテムが多くなりがちなのだ。ノエルと違って自分のスタミナに見合ったアイテム量にとどめているのでバテてはいないが。
「翼竜に追い回されたときは死を覚悟したな。そのあとジーンがやらかしてくれたしな。お前酒場についたらバツとしてなんかおごれよ」
「いやその理屈はおかしい」
「今日のティータイムはジーンのおごりか。じゃあオレ煎餅とコーラ」
「わたしはおにくー」
「ちょ待てよ。なんで俺がおごる流れになってんの!? 100歩譲って俺がおごるとしてもノエルの罪が消えたわけじゃねーし、ノエルが先におごるべきだろ!」
猛抗議するジーン。自分だけがおごらされてはかなわないと矛先をノエルにむける。
「そうかノエルの大罪もあったか。まあオレは煎餅とコーラとアイスが食えればなんでもいいけどな」
しれっと要求をグレードアップさせるフィル。
「よかったなノエル。お前の罪誰も忘れてないってよ。俺はダージリンと回転焼きでいいよ」
ノエルの肩を叩きながら催促するアーチャー。
「じゃあ僕はどら焼きとお茶で」
「Coffee」
これで全員が注文を終えた。
「ちょ待てよ。なんで俺までおごることになんだよ。今回のMVPはジーンだし、おごるのもジーンだけでいいだろ」
ジーン同様に往生際の悪いノエル。なんとかジーンにだけ押しつけようとする。
「……あ、ケイトだ。おーいケイトー!」
ギルドに向かって歩いているとケイトを発見しフィルが声をかける。
「お前今日ギルドによるって言ってたっけ?」
「ううん、行かないけど。……試験に合流できたんだ、寝坊したのに」
「余裕だったぜ。なんせオレがパーティに合流したときにはクエストが終わっていたからな」
「……そうなんだ。だから元気がありあまっているわけね。中にはバテてヘトヘトの人もいるけど。……なんでノエルだけ大荷物なの?」
「これはねケイトちゃん、証なんだよ。英雄の証明。一度のクエストでこれだけ多くのアイテムを持ちかえる。まさに英雄」
超得意げに答えるノエル。
「そうなんだ」
「そう、そうしてそのアイテムを換金して今日のティータイムはノエルのおごりになるわけだ。さすがリーダー」
本日のおごりをノエルに押しつけようと口をはさむジーン。
「待てやコラ。なんで俺だけがおごることになってんだよ、おごるわきゃねーだろ!」
「ケイト、お前もティータイムだけ顔出していけば? ノエルのおごりだしお得です」
「でも、ノエルはおごらないって――」
「そうとも今日は俺のおごりだ! よし、行こうケイトちゃん」
「えーと、……じゃあお言葉に甘えて? あ、ところでリオルさん」
「なに? ケイトちゃん」
「リオルさん霊獣を使い魔にしたんですよね。私まだお会いしていないので、見せてもらうことはできますか?」
「あ、オレもまだ見てねーわ」
「そっかふたりはまだデルちゃんとあってなかったねー。あ、今日はウチにいるんだよね」
「んじゃ迎えにいこーぜ。ケイトはノエルたちと先にギルド行ってティータイムと昇格祝いの準備をしていてくれ。オレらで霊獣デルモンドを迎えに行くから」
「デルちゃんだよ」
ケイトたちを先にギルドに行かせリオル、フィル、ジーンの3人は霊獣デールンを迎えに、リオルが住み込んでいるルビー宅にむかった。
「リオル、今日ってルビーさんは家に居んの?」
「いないよー。ラピスさんたちとクエストにいってる」
「そういやレイヴンさんも今日はラピスさんたちとクエスト行くって言っていたな」
「マジかよ! 俺もそっち行けば良かった」
「いやお前今日は試験だったろ」
「べつに今回逃しても次フィルが試験受けるタイミングで一緒にやればいいだけだからな。リオルだけでもランクが上がっていれば低級クエストは受けられるし」
「なるほどー、そのてがあったか」
「レイヴンさんのクエスト見たかったな。しかも今からルビーさん家に行っても本人居ないんじゃ意味ねーじゃん」
そういえばリオルとジーンの二人はまだレイヴンと一緒にクエストに行ったことがなかった。またそれ以上にルビーに会えないことを残念がるジーンもどうかと思う。
そうこう言っているうちに目的地に近づき、やたらめったらデカイ家が視界に入ってきた。リオルにとっては見慣れてきたルビー邸だが、今回はじめておとずれたフィルとジーンは少々おどろいた。
「え? なにこれ? ルビーさんの実家? あの人こんな豪邸に住んでいるのに冒険者とかやってんの?」
「リオルから聞いていたからある程度知ってはいたが……想像以上だな」
「あー、やっぱりデッカイんだー。田舎街からでてくるとどのくらいから豪邸になるのかよくわかんないや」
「どう考えてもこれは豪邸になるだろ。このレベルの家庭にうまれたら冒険者より画家とか弁護士とか医者とか目指しそうなもんなのにな」
「ルビーさんしゅみで「音楽かつどう」やっているとかいってたよ。トリフェンさんは「絵描き」だって」
「やっぱやってんのか。もしやトリフェンさん家も富豪か何かか?」
「さあ? そこまでは。あ、でもラピスさんちはこれよりもデカイんだってー」
リオルからもたらされた情報にジーンは面食らってしまう。
「どんだけだよ。それなのに冒険者やってるとかレイヴンさんとは違う方向性で変人だぜ。ていうかレイヴンさんなんで小屋に住んでんの? 最上級クエストでもソロクリア余裕の人ならもっといいとこ住めそうなのに」
「小屋で暮らしているのは水車があるからだって言ってたぜ。ディティールが重要だとか、大きさも大事だとか、なんかもう色々とこだわりが感じられたな」
ジーンの疑問にフィルが答えを提供する。
「水車マニアかよ。なんかもう色々なものがコレクションとして飾ってありそうだなーおい」
「そうね。んであそこ飛んでる白いの、もしかしてあれが霊獣か」
家の庭先の空を指さしながらリオルに確認するフィル。
フィルが指し示した先にいる白い毛むくじゃらはまぎれもなく霊獣デールンだ。リオルが呼びかけて手を振ると霊獣はこちらに気付きすぐに飛んできた。
「これが霊獣か。超小型のドラゴンって聞いてたからもっとデカいかと思ってた。このくらいの大きさなら犬猫みたいでいいな。かわいいし」
「どうもはじめまして。僕はいまリオルさんの使い魔やらせてもらってますデールンです。もしかしてあなたがフィルさんですか?」
「そうだぜ。今日からパーティに復帰するからよろしくな」
霊獣の毛をもふもふしながらあいさつを返すフィル。
「かわいいでしょー。せいちょうしたらひとをのせてとべるようになるんだってー」
「へー、そいつは楽しみだ」
リオルとフィルは霊獣について談笑しているが、ジーンは不可解な表情を浮かべ傍観している。
「なあ確認なんだがリオル、デールンはお前の使い魔だよな」
「?? そうだよー」
「それで今具現化しているんだよな」
「……あ、まだしてないや。そっかこのままじゃデルちゃんのすがたがみえないよね。すぐじったいかするよー」
すぐさま霊獣を具現化して姿が見えるようになった。
「おう。俺にも見えるようになった。んでだがフィル、お前今、具現化する前から見えていたよな」
「あ、たしかに! なんで!?」
「あーこれな、レイヴンさんとの修行でなんか見えるようになった」
わりと重要なことをあっさりと受け答えするフィル。
「修行って、剣の稽古をつけてもらってたんじゃないのかよ」
「もちろん剣の稽古がメインだぜ。ただそれだけだとオレはこのパーティの中でズバ抜けて弱いから、ほかの能力も強化することになった。魔法の基礎も一から覚え直して、たしなむていどにはなれた」
「おいおいおい。魔法まで習ったのかよ。盗賊で魔法までつかうとかごうつくばりめ」
「ヒーラーなのに攻撃魔法を覚えるやつにいわれたくねーよ。魔法をならったといっても基礎を教えてもらっただけだから実用性はないけどな。だが今後、魔法剣とかの習得はできるようになるとレイヴンさんはいっていた」
「やるじゃんフィル。でもれいじゅうとかって修行してみえるようになるものなの?」
「いや多分無理だと思う。レイヴンさんがいうにはオレは元々その手の才能があったらしく、それを伸ばすことで霊獣やら妖精なんかがばっちり見えるようになった。じっさいレイヴンさんには霊とか幻獣はまったく見えなかった」
「ひとには見えないものがみえるってなんかカッコいいね」
「ということはそれってフィル個人の特殊能力ってことになるのか?」
「そうなるな。妖精が見えるってことでオレの特殊能力は「妖精が見える(リャナン・シー)」だ」
剣の稽古にいったはずのフィルはまったく無関係の能力を修得してかえってきた。フィルの個別の能力はどう冒険に活かされていくことになるのか、今後のフィルの活躍に期待したい。




