3.アレの話をしようとしたのに他に気を取られて会話が終わったしまうことってあるよね
レイヴンが台所で茶を入れている間に室内のアイテムの中からゴッズギフトと思しきものを探すことにするリオル。
まずは一番目立っている棚の上に飾られたアイテムからだ。独特な形状をしているが剣で間違いないだろう。鞘に収められていないのはその形状のせいだろうか。
「へんなかたちの剣だねー」
「それ、模造品よ。神話に登場するエアの剣のレプリカ」
棚の上の剣を見ているリオルたちに席についたままのラピスが説明をする。
「レプリカですか。たしかによく見ると刃が完全に丸くなっていますね。おしいなリオル、本物じゃなくてゴッズギフトのレプリカだって」
「レプリカかー、おしい。ところでエアプの剣ってなんぞや」
「神話に登場する魔法の剣だよ。世界のはじまりの日に天と地を分けた神剣だ。あくまで神話だから実在するかどうか分からんけどゴッズギフトなんてそんなもんだしな。もし存在するとしたら最強クラスのゴッズギフトになるんじゃねーの」
「すごく中二設定です。でもレプリカかー、だからかざってあるんだね」
模造品を前にうんうんと頷くリオル。一方ジーンはとなりの棚に置かれたアイテムに興味を示す。
「こっちのはゴッズギフトじゃないか。見たことないアイテムだし、見た感じでは使い方の見当もつかない代物だぜ」
一言で言うと箱。角が丸みをおびた箱。開け口はあるが開け方は分からない。スイッチと思しき突起物がたくさんついている。突起物には記号、様々な三角や四角が記されている。中でも赤丸は目立つ。さらに近くには文字も書かれているがこの国の言語でないので字は読めない。それと特徴的なのはスピーカーが2つ付いていることか。
「におう。すごくにおう。ゴッズギフトのにおいだ」
「どんな臭いだよ」
ジーンのツッコミをスルーしリオルは奇妙な箱に手を伸ばす。ふれてみて気づいたことがある。この箱には取っ手のようなものが付いていた。ということはこの箱、携帯できるアイテムだということだ。リオルは箱の取っ手をつかみ棚から取り出した。
「なんかヒモがついてる。しっぽ? あと金属かなと思ったんだけどなんかちがう。なんだこれ」
よく分からない材質でできた箱は裏側からヒモがたれている。
「やっぱそれゴッズギフトだろ。どんなアイテムかは分からんがオーバーテクノロジーってのだけは分かるぞ」
リオルとともに奇妙な箱の正体を模索するジーン。二人してなめ回すように箱をみる。
「このボタンみたいなの、おしたら何かおこるかな?」
「待て! 下手にボタンを押すと爆発するかもしれんぞ!」
「しないよ。コンセント入ってないし電池も入ってないから電源も入らんよ。フタが開くくらいかな」
半ば笑いながらレイヴンが言う。茶を入れおわりいつの間にか戻り席に座っていた。
聞きなれない単語が飛び出しリオルとジーンは面食らってしまう。理解できていない二人のためにレイヴンが言葉を続ける。
「それはラジオカセットレコーダーってアイテムでね。通称ラジカセ。CDもついてる機種だ。もちろんゴッズギフトだよ」
「おー、やっぱり。それでこの「マジダゼ」ってのはどういうアイテムなんですか」
「ラジカセね。ひらたく言うと特定の音楽を自動演奏してくれるアイテムなんだけど、電気のないこの世界じゃ作動しないからただのガラクタだね」
「電気って小説やマンガとかの創作物で出てきたりするアレですよね」
「そう、そのアレ(雷属性と似て非なるもの。あるいは電気の一種が雷とも言えるね)」
「雷魔法を電気の代わりにすることは出来ないんですか?」
「無理だね。魔法じゃ力がありすぎてアイテムが壊れるかな。なんとか力を調整できたとしてもアイテムを動作する間、ずっと魔法を使い続ける必要もあるからすぐにMPが尽きるだろうね」
電気は魔法や技でどうこうなるものではないらしい。
「他に電気を発現する方法は? レイヴンさんなら知っているんじゃないんですか」
「……ないね。残念だけど」
少し口を閉ざしたあと、他に方法はないことを口惜しそうに言うレイヴン。
「そうですか。どんな音楽か俺も聞いてみたかったんですが残念です」
ラジカセというゴッズギフトが使い物にならない事実をしり落胆するジーン。
「レイヴンさんこれはー? このロケットペンダント。これも同じ棚においてあるってことはこれもゴッズギフトですか?」
ラジカセが使えないアイテムと知ったせいか、話についていけなかったせいかもう他のアイテムに興味をうつすリオル。
「それはなんだったかな。ロケットの中身は何になっているかな?」
ロケットを開いて中を見るリオル。中には写真が入っていた。レイヴンと子供が一人写っているモノクロ写真だ。
「それか。思い出した。そいつ傭兵時代に身につけていた、ただのアクセサリーだね」
「ゴッズギフトじゃないのかー。このレイヴンさんといっしょにうつっているおとこの子は?」
「その子は……弟かな」
「弟? 貴方、弟なんていたっけ? 初耳だけど」
出された茶を飲んでいたラピスも思わず反応する。
「まあ俺は天涯孤独の身だからな。だからその子は俺の弟……という設定だ」
「なん…だと…!?」
「分かりやすく簡潔に言うとだね、俺って一人っ子じゃん? そんな俺にも弟ができる魔法のアクセサリーというわけだ」
魔法のアクセサリーなのかただのアクセサリーなのかどっちだ。
「すいませんレイヴンさん、俺の頭では理解できないので詳細な説明をお願いします」
「要はこれただのアクセサリーじゃん? ステアップも能力付与もないじゃん? そんなアクセサリーでもその写真をつけることで生還率アップのお守りに早変わりするわけじゃん」
「生還率アップ!? なんか凄そうっすね! 一体どういう効果が発揮されるんですか」
「そうだね具体的にいうと、戦場で敵につかまって捕虜になったとするじゃん?」
敵兵A「ヒャッハー! きさまらは今から捕虜となる!」
味方A「Oh……」
敵兵B「だがこんなに人数はいらんな、何人か処刑しようZE☆」
味方B「Ouch……!」
敵兵C「おい、そこのお前。そのペンダントはなんだ、こちらに寄こせ。……写真?」
レイヴン「弟の写真だ。俺たち兄弟は数年前に両親を亡くして以来、俺が親代わりとなり二人だけでこれまで生きてきたんだ。だがすまないクロウ(弟の名)……兄は帰れそうにない。一人でも強く生きろよ(泣)」
敵兵A「ふん、運のないヤローだぜ。……だが弟には関係ない」
敵兵B「そうだな。子供には親が必要だ。捕虜一人くらい逃したところでどうということはないZ☆」
レイヴン「いい…のか…!?」
敵兵C「お前のためじゃない。弟、大事にしろよ」
「みたいな。捕虜から解放される確率がぐぐーんと上がるんだ。これが家族写真パワーだ」
「どこそこに知り合いがいるからって命ごいする話は聞いたりするけど、情に訴えるという意味では同じ系統ね。ただそんな上手くいくものかしらね」
ラピスは訝しんだ。
「ええはなしや。これはころせないよー」
「ああ、この手段は涙腺に効くな」
「……なるほど、同じレベルの者同士理論で有効か」
リオルとジーンを見てラピスは得心した。
「家族、特に赤ん坊を抱いた写真は効果的だ。反対に恋人の写真はダメだな。敵兵が彼女いない歴=人生だったとき、煽りにしかならないから逆上して撃ち殺される危険性が増す」
「つまりそのロケットは本当の家族の写真じゃなくて、たんなる小道具なわけね」
「ああ、子道具だな。知り合いのガキンチョに一緒に写ってもらうだけの簡単なやり方だがリターンは大きい。生き延びるための知恵だな」
「セコい知恵ね。捕虜になるくらいなら潔く腹斬りなさいよ」
「バッカおめー。命は粗末にするもんじゃねーよ。自決するくらいなら泥をすすってでも俺は生き延びる」
「言ってることは格好良さげでもやってることは格好悪いわね。ていうか単純にきたない」
「まあね。きたないからこそ今まで生きながらえたとも言える。俺は自分の手を汚すことをためらわない。トイレのあと手も洗わないくらいにはな」
「それはきたないじゃなくて不衛生」
「そうとも言うな。さっきも茶を入れる時、手洗わなかったし。ついでにカップも洗ってない」
「ぇえ!?」
レイヴンの言葉に戦慄するラピス。
「冗談だぞ。マジにすんなー」
「……次につまらない冗談いったらぶん殴る」
冗談と分かってもラピスはその後一切飲み物に手を出さなくなった。
「レイヴンさん、あっちのおきものコーナーにもゴッズギフトあるんですか?」
棚においてあるアイテムを見終わったあとは床に置かれた置物に興味が移る。
「そうだね、あるよ。ゴッズギフト。どれだか分かるかな?」
「よーし、いっぱつであててやるぞ」
どれがゴッズギフトか見極めるため置物を品定めしはじめたリオル。
からくりつきショーケースをはじめ、色のついた銅像みたいなものに、ピアノのような何か。どれがあたりなのか読めない。ていうか全部あたりじゃね。
とりあえず真っ先に目に入ったからくりつきショーケースを選ぶことにする。なんてたって「からくりつき」だ。これならほぼほぼあたりだろう。
「ゴッズギフトは……これだ!」
「ほう、それを選ぶか。確率三分の三の中から見事そのゴッズギフトを見抜くとは……やるね」
「やったー! あたったー! 直感をしんじてせいかいだったね」
「正解のご褒美にこのアイテムの正体を教えてあげよう。そうだな、実際にためしてみるのが手っ取り早いかな。幸いなことにそれは非電源系のアイテムだから簡単に作動できるンだ。リオルくん、このコインをそこの投入口に入れてみてくれ」
どこからともなく取り出したコインをリオルに渡すレイヴン。
手渡されたコインには100と刻まれていることから硬貨だということが分かる。この国のではないが。
「おかねですか? ということはこれはチョキンばこ!?」
「んーおしい。たしかにその中にはお金が貯まる仕組みになっているけど、散財箱というほうが近いからね。てなわけでレッツトライ。お金を入れてレバーを回してね」
「おかねをいれてこの取っ手をまわせばいいんですね?」
言われた通りに硬貨をいれレバーを回してみるリオル。
ガチャ。という音とがしショーケースの中から珠が出てきた。
「なんですかこのたま?」
「その玉はただの容器。カプセル。今は何も入ってないけど本来ならその中にアイテムが入っていて、お金を入れてレバーを回す毎にカプセルが一個出てくる仕組みのゴッズギフトなんだ。面白いだろ? 通称ガチャガチャ」
「なんか楽しいかも」
「奇怪なからくりですね。要するに金を入れると対価としてアイテムが入手できる仕組みなわけですよね。たしかに面白い仕掛けですけど一度にアイテムを大量に購入するときには不便なのでは?」
「ああ、これは宝くじや福袋みたいなものだからね。何が出るかわからないことがこいつの楽しみの一つでもあるから、普通の買い物と同じでは意味が無いんだよ。あたりを引いた時の優越感がすんごいのよ」
「そんな楽しみ方があるとは。おそるべし『ガチャガチャ』奥が深い」
「ランダムであたりが出るとか、騙されているだけじゃないの? 詐欺に近い気が……」
言ってはならないことをラピスは言ってしまった。
「騙すだとか詐欺だとか、言いがかりはやめて欲しい。これからこれで商売でもしようと考えているんだからさ。それにアタリはあるけどハズレはないから損はしないようになってるし」
「商売? レイヴンさんガチャガチャで何かはじめる気なんですか?」
「現在、企画中だね。このガチャの利点は売る側がその場にいなくとも販売できるというのもあってね、小遣い稼ぎにちょうど良さそうなんだ。問題はカプセルの中身と価格設定をどうするか、これが悩みどころなんだよねー」
「カプセルの中に入るものだとけっこう限られてきますね。数も大量に用意できるものでないと継続した商売になりませんし」
「その通り。それでモンスターの素材なら入手に困らないとかんがえ、低級から上級あたりのモンスターを乱獲して素材をあつめたんだけどサイズがまちまちでね。加工してカプセルに入るようにしなければいけないし、価格設定にも困ってるんだ。できれば1回300ゴールドが理想なんだけどね」
「それでこの間からアイテムで雑魚モンスターを引きつけて狩っていたのね」
ラピスはレイヴンの怪奇行動の謎が一つとけた。
「300ゴールドですか。仮に低級モンスターの素材だとしても300ゴールドは安い気がしますね。もっと高く設定してもいいのでは?」
「いや、それではダメなんだ。ガチャは複数回まわす前提の価格設定にしておかないとアタリがでるまでの試行回数を重ねられないからね。1回3000ゴールドみたいな高額設定だと、試しに1回やってみようって気すら起こさせないんだ」
ガチャで10連できるかどうかは大切なのだ。
「なるほど、やはり奥が深いガチャガチャ」
「本当は高額設定が適正価格だし300だと利益率が悪いんだよね。それに安すぎると価格破壊につながって歓迎されない。ガチャはギルドショップとかどこかの店に置いてもらう予定だから他の商売の邪魔をしないように配慮しなければいけない」
「市場原理を乱すとロクなことにならないでしょうね。300ゴールドにこだわらず数千ゴールドの適正過価格にしたら?」
「やだやだ。300ゴールドがいい」
「子供か」
「だって仮にさ、5千ゴールドに設定するとするじゃん? そうすると500ゴールド硬貨を10枚入れる必要があるから面倒じゃん? これは流行らない」
子供じみて300という数字にこだわるレイヴンだが一応理由はあった。
「じゃあ300ゴールドガチャと一緒に3千ゴールドガチャも置いたら? 需要が広がって相乗効果まで期待できるかもよ?」
「んな!? お前……天才か」
考えつきもしなかったと言わんばかりにレイヴンは驚く。
「さすがラピスさん!」
「マジかよ。この難題をあっさりと解決しやがった」
リオルとジーンもレイヴンに負けじと驚く。
反対に褒められているはずなのに無表情になるラピス。
「これで価格設定の問題は片付いた。あとはカプセルに入らない素材をどうするかだな。加工して入れられるやつはそれでいいとして、小さくすると価値がなくなる素材に関してはあきらめるしかないかな」
「そこは無理にカプセルに入れるんじゃなくて、その素材の引換券でも入れておけばいいんじゃないの? カウンターで交換してもらえばいいだけだし」
「お前……頭の中どうなってんだよ」
「さすがすぎる!」
「やはり天才か」
またしても三人はビックリ仰天した。そしてラピスもまた無表情になる。
「なんだかバカにされているようにしか思えない」
誰でも思いつくようなことを提案しただけでこれだけ持ち上げられると却って気を悪くしてしまうものだ。
「んなこたーねーよ。まさかお前にこれほどの商才があろうとはな。俺の悩みに本題そっちのけで解決策を提示してくれるとは思わなんだ」
「あ、ほんだい……わすれてた」
「いかんいかん。ついゴッズギフトの話に夢中になり本題を見失ってしまっていた」
あえて本題から外れたまま話していたレイヴンに対しリオルとジーンはガチで忘れていた。
「思い出してもらえて嬉しいわ」
ようやく本題に入れそうで安心感を覚えつつも、知ってて脱線したまま話を続けていたレイヴンにいら立ちを覚えるラピス。やはりバカにされていただけなのかもしれない。
「では本題に入ろうか。先日のクエストのまにまにドラゴン氏と何があったのか私にも分かるように百文字以内で述べよ」
「え!? ひゃくもじいない? えーと、クエストいく。むすめさんつかまってる。わたし、その子たすけるためドラゴンけっとう。ぎりたおす」
「なるほどね、理解した」
「今ので分かるんですか」
「ラピスに詳しい話は聞いていたからね。それでどうだった、はじめてドラゴンと戦った感想は?」
だったら最初からそう聞けよと思いつつもリオルたちは受け答えをする。
「えーと、つよかった! おニューの剣がなかったらまけてたね、うん」
「喋って変身するめずらしいドラゴンだったんだろ? 楽しかったかい」
「うーん、さいしょは怒っててなにもかんじなかったけど、とちゅうからあつくなってたのしかったです」
「生粋の戦士だね君は。死にそうになっているのに、そこまでバトルを楽しめるなんて。俺だったら決闘場でまっているドラゴン放置して街へ帰るか、不意打ちで倒しちゃうかも」
「すごく……ひきょうです」
「そういえばあのドラゴンって結局なんだったのかしら。格の高いドラゴンは言葉を話せるとは聞くけど、変身能力までもっているなんて。レイヴン、貴方ならあれの正体が分かるんじゃない?」
鋼鉄竜にしては少々変わった能力を有していた。種族自体が特殊な能力を持っていることはあるが普通のドラゴンは変身したりしない。ひょっとしたら変身するドラゴンもいるかもしれないがラピスが知るかぎり鋼鉄竜に変身能力はない。
「お前にも分からないモンスターを冒険歴半年の俺に分かるわけ無いだろう。何言ってんだお前、頭大丈夫か?」
「……蹴るよ?」
「べつに蹴るなり煮るなりしてもかまわんけど、俺の防御力とお前の攻撃力を考えたらお前が痛いだけだと思う」
――その刹那、レイヴンの頭に衝撃が走った。床に置かれていたカエルの置物がレイヴンの頭にめり込んでいたのだ。
直接殴ったりすると痛いので鈍器を使用したラピス。
「たしかに蹴ったりしていいとは言ったが、これは痛いんじゃね?」
「ええ、置物で殴ったとは言え痛かったわね、私の手が」
「あとこれは「蹴る」じゃなくて「ケロちゃん」な。まったくゴッズギフトになんてことを」
頭頂にのっかったケロちゃんの置物を床におきながらぶつくさ言うレイヴン。
「まあ、なんだ。鋼鉄竜だっけ? あのディフェンスに定評のあるドラゴン。たぶん亜種や奇種とか突然変異の類じゃないかな。不思議生物の大半はこれで説明がつく」
「そんないい加減な」
「だって変身するドラゴンなんて見たことねーもんよ、竜人族とかなら人型のはずだし。突然変異じゃなけりゃ新種とかかもな」
「落とし所としてはそのへんか。謎のままとも言えるけどね」
このあたりで納得しておくことにするラピス。もともとそこまで知りたいわけでもなかったからだ。
「知らなくて良いこともあるさ。どうしても知りたきゃ捕獲するかとどめ刺すかして街にもって帰るべきだったな。あー、でもそのドラゴン、殺さなくて正解だったよ」
「ですよねー、ともだちにもなれたし」
友達というか下僕というか。敗者に人権などないということだ。ドラゴンだけど。
「ドラゴンフレンドか。倒された敵は仲間になる、少年漫画の基本だな。でも今回はそういう意味じゃなくて意思疎通ができるほど知能の高い相手を殺さなくて正解だったって意味だよ。もしそのドラゴンが群れをなしていた場合、仲間が報復として近隣の町や村を襲う可能性がある。俺たち人間だってそうだろ。人に害をなすモンスターは駆逐する。危険因子を排除するのは生物的に当然として仲間の仇ともなれば尚さらだね」
モンスターが人や街を襲うことは珍しいことではない。あの時はそこまで考えが及ばなかったが、冷静に振りかえるとかなり際どい綱渡りだったとも言える。
「数十頭以上ものドラゴンが街を襲えばひとたまりもないだろうね。地方都市だろうが王都だろうが一晩で廃墟だ」
ぞっとする話である。さすがのリオルでも事の重大さが分かるレベルだ。
「でも亜成体で良かったね。成長しきった個体なら竜のエサか土中の養分になっていたよ」
「ドラゴンって最上級冒険者数人がかりで戦うのが普通ですもんね。伝説の黒龍とかは街の冒険者総出で戦うレベルだとか」
「黒龍か。黒龍も無印、改、零式と種類が豊富だよね。零式クラスになると宇宙空間からレーザーブレス吐いてくるし」
「あんだけ破壊力すごいのに直接メテオを破壊することなくアルティメットエンドさんに出番を奪われたバハゼロさんですか」
龍王、形無し!
「あの頃は限界突破なんてなかったからね。ダメージ上限の壁にぶち当たるのは仕方なかったんや。それでも仲間になってくれるだけマシよ。祖龍さんなんて倒してもペットにできないからね。時には戦うことすらなく仲間になってくれるごっつぁん型こそ至高の召喚獣よ」
「かんけいないけど人のかねで食うめしはうまいよねー。ごっつぁんです!」
食べたことないけど気になっているメニューって人のおごりでなら注文しやすいよね。
「にしても戦闘中に武器を強化させるなんてよくやろうと思ったねぇ。思いついてもやるか普通?」
「あのときはそれしか道がのこってなかったので。うんよくせいこうしたので結果オーライ!」
「うん。……たまたまこのクエストから新しい武器に替えていて、たまたま武器の強化が成功して、幸いなことに相手が亜成体だったか。運が良かったですませるべきか、そういう星の下に生まれたのか、人はそれを主人公補正という」
作品的には王道展開もしくはご都合主義という。
「いかりで覚醒するのはしゅじんこうとっけんー」
「そうか決め手は怒りか。なら仲間が殺された時のはげしい怒りであればスーパーでZな戦士に目覚めるかもしれないな。というわけでスレンダーくん、ちょっと爆死してみないかい?」
「無理です。あとジーンです」
「じゃあ頭だけでも爆発して――」
「それ結局死ぬから! アフロじゃすまないから! 体の一部だけでも無理です」
「そうか、なら仕方ないな。さらなる力に目覚めれば今とは比べ物にならないくらい強くなるかもと思ったのだが」
「うーん、むりだとおもいますよー。いまですら限界まで能力をひきだしてこれなので。そこから力がみずまししたところでレイヴンさん超えはむりかなー」
「いやそれはどうかな。まず君は能力を完全にはつかいこなせていないと思うよ」
リオルは自分の能力を限界まで発揮しているつもりだったが、レイヴンに言わせると最大限に発揮できていないらしい。なぜそう思うのか理由をきいてみる。
「だって変身するとけっこうデメリットあるんでしょ? 剣を強化させ大剣に変えた時も鎧の具現化を維持するのは難しくて解除したわけだし。変身したら力の消耗が激しくなるのは当然だとしても能力の使用回数制限くらいはなくさないと」
「それってなくせるものなんですか?」
「能力によるかな。同系統の能力でも成長性には差があるけど、トランスならたぶん回数制限はなくせるはず。トランスは稀少で強力な能力だけど、だからと言って回数制限が発生するとは限らないよ。発生するような能力にはある程度の法則というか制約みたいなものがあるからね」
「ほうそくやせいやく? それはどのような?」
「相手に触れたときとか自分が死にかけたときとかかな。制限かかっているのは使用回数じゃないけど。そしてこの手の制約がかせられる能力は時間を操ったり、相手の能力を奪ったりと強力。というか条件を満たして使用したら勝負が決まるくらいに反則的なものが多いね」
一発逆転できるような能力を何度も使われたらたまったものではない。
「時止めとかずるい」
「そう、ずるい。だから制約が厳しい。そして逆説的にいうなら使ったからといって勝負が決まるわけじゃないトランスに回数制限があるとは考えにくい。てゆうか戦いやすいように体を変化させただけで制約が発生するような能力って微妙じゃない? 変身しただけでまだ戦ってないよー?」
「あぁ。ほんとーだ。びみょーだ」
アホ丸出しで納得するリオル。
「能力を使いこなせているのならデメリットはおろか、それ以上の力を発揮できてしかるべきだ」
「私、ぜんぜんつかいこなせてなかった! ではつかいこなせるようになるにはどうすれば!?」
「それは……」
「それは?」
「……あ、よく考えたら君が能力つかうとこ見たことないや。憶測での助言では意味がないな」
「そうだった。じゃあここで能力をつかいましょうか?」
「いや、今はまだ体をしっかり休めたほうがいいと思うよ。そしてその間に自分で解決策を考えてみるといい。ここで答えを教えてしまってもつまらないしね」
「ということはレイヴンさんは能力をみればこたえがわかると?」
「まーねー。なぜ俺にそれが分かるか気になるだろう?」
「はい。とても気になります」
「ふふふ。実はね俺にもあるんだよ、個別の能力が……!」
「!! レイヴンさん……知ってた」
「なに!?」
「たぶん、みんなきづいてたとおもいます」
「あるかないかどころか、どんな能力か皆で予測をたててたよな」
「むしろ個別の能力がないとか言ったらそっちのほうが驚くとおもうわよ」
「まさか俺が能力持ちだとバレていたとはな」
驚かせるつもりが逆に驚くことになったレイヴン。
「だが能力の正体まではわかるまい。これは秘密だぜ」
「私は知ってるわよ」
「お前は見たことあるからな。てゆうか、ちょっと黙っててくれません? こいつらは知らないんだから。バレたら俺の神秘性が失われるだろ」
「どうせその内見せるんでしょ?」
「それはそうだ。が、それをやるには相応しいタイミングがある。もうダメだ、おしまいだというここぞという場面で使って最高の見せ場をつくるのだよ。あ、でも俺が能力持ちだってこと他の冒険者にはナイショダヨ」
「イエッサー!」
「人の能力をふれ回るようなことはしませんから御安心を」
レイヴンの能力ついて秘密を守ることを約束するリオルとジーン。
能力の詳細までは分からなかったがいつか見せてくれるつもりらしいので楽しみに待つことにする。
そろそろお暇。
レイヴンとラピスは明日のクエストの準備を今のうちに済ませておくらしいのでリオルとジーンは先に帰ることにする。
「そうだ忘れるところだった、この間のお花のお礼にこれをあげよう」
この間の「花」とは決闘のあとに摘んでかえった花のことだろう。仲間にするための一つの策として花を土産にしようとラピスがレイヴンに渡していたが思いのほか効果があったようだ。
リオルにプレゼント箱をわたすレイヴン。
「その中に入っているのは俺が作ったアイテムだが。とくにこれといった効果はない。ので、使うタイミングはおまかせするよ。ただ大勢が集まるところでつかうとより面白いと思う」
「効果はないけど面白い? また変わったアイテムですね」
「誰でもつくれるものをつくっても面白みにかけるからね。何が起こるかわからないアイテムのほうが面白いだろう。そして俺が今持っているアイテムは明日使う予定の何が起こるかわかっているアイテムだ」
「たった一言のセリフで矛盾してません?」
「気にすんなー。ちなみにこれは「冷季のうちわ」といって、あおげば周囲を冷やす効果のあるアイテムだ」
「冷却アイテム。明日のクエストはどこか暑い地方に行くんですか?」
「いや場所的には暑くない。だが必須アイテムになる。だよな、ラピス」
「必須ね。熱さ対策に」
この説明にリオルとジーンは困惑する。
「明日のクエストは知り合いの旅団がうけた最上級クエストに同行させてもらう予定だけど、そのクエストをうけた冒険者というのが他ならぬレッドさんなの」
「おー! あのレッドさんと一緒にクエストを!」
「そう、だから冷却アイテムが必要になるの」
「レッドさんといえば「爆焔の魔導士」の異名で呼ばれるほどに炎や爆裂魔法が得意ですからね。たしかに熱くなりそう」
「ちがう、そうじゃない」
「え? それは一体どういうことですか?」
「たしかにレッドさんと言えば炎系の魔法が有名だな。そして奴を的確にあらわした格言にこんなのがある。「立てば芍薬 座れば牡丹 口を開けば松岡シューゾー 歌を歌えば影山ヒーローノブ」。とにかくあつくるしい男なんだよ、あの人は」
「紳士的ではあるけどね。ただあつくるしい。熱い上に紅にたいするこだわりも相当なものよね。真紅の聖衣に身を包むのは序の口。旅団名も「X」と書いて「くれない」と読むし。旅団員もなんか紅いし、熱いし」
「それでいてこの街で今もっとも人気のある冒険者なんだろ?」
冒険者レッドさんは街の人気者。ギルドから発売されているレッドさんグッズは入荷してもすぐに売り切れてしまうぞ。有志によるファンクラブまである。
「レッドさん。そうかこの間すれちがったあのひとかー。つよそうだった」
なんの話かようやく理解したリオル。
「俺もレッドさんのファンです。魔法使いとしては最強クラス。体術スキルも桁違いで肉弾戦も得意。実力もさることながら経歴もすごいですよね。冒険者やりながら高校、大学とクリアするなんて冒険者の鑑ですね」
「設定だけ聞くと本当にすごいんだよな。と、まあ明日はあつくるしいクエストになる予定なんだ。最上級クエストに連れて行ってくれる貴重な人材だから割り切るがな」
レッドさんと違って冒険者として人気のないレイヴンは人脈も大したことない。最上級クエストへの参加は完全におんぶにだっこなのだ。
そんなこんなで本日のお宅訪問は終了した。
帰りの道中リオルとジーンは今日の収穫について話す。
「じつにゆういぎな一日だった。あんなたくさんのゴッズギフトはじめてみた」
「冒険しない冒険者の集いもじつに良いものだな。ジャージーか。ゴッズギフトあなどりがたし」
「それとトランスについてはもっと強くなるよちがある。かー」
「次にレイヴンさんと合うときまでの課題だな。そして俺の課題はさらなるファッションコーディネーターを目指すことだな」
「私たちそれぞれにクリアするべきかだいがふえたね。……あ、フィルのかだいはどうなっているかきくのわすれてた」
「素で忘れていたのか。俺はてっきり分かっていて聞かずにおいたものとばかり。まあ心配はいらんだろ。次に会うときはワンランク上にうんたらかんたら言っていたし」
前回に引き続き今回もフィルの出番はなかった。次回はあると思うよ。たぶん。
フィルのことはともかく、今日のレイヴンは機嫌が良かったように思える。趣味の話を好きにさせておけば安泰なのは間違いなさそうだ。
一方レイヴンとラピスもクエストの準備を整えながら今日のことについて話す。
「なんか面白いなあいつら。ついうっかり色々教えてしまいそうになる」
「あえてアドバイスしなかったのはあの子への試練といったところ?」
「試練つーか、まだ自力で成長するところが多々残されているように思えたからな。しばらくは放任主義で大丈夫だろ。しかしあれだけ才能ありそうなやつを見ているとあれこれ口出ししたくなるな。だがグッとこらえた、俺えらい。俺のやり方で教えても俺の二番煎じにしかならんからな」
レイヴンはものを教えるのが上手いわけではないので自分の技術や知識を教える程度がせきのやま。
「上手いこと指導できないと劣化レイヴンの出来上がりね。でもトランスがあるかぎりは簡単にはそうならないと思うけれど」
「そう、だからトランスについてもう少し自力で成長させるまで、俺は見に徹するさ。それに今は鍛えなければいけないやつを抱えているからな。二人同時に面倒見るとかストレスで逝くわ」
「逝ってもかまわないけど。それでそっちの子の調子は?」
「…………」
真顔で黙るレイヴン。
「なんか言え」
「……凡庸。だからこそ俺の技術や戦術論を継承できれば劇的変化が起こる……可能性がないこともない。だが俺の戦術論の証明にもなるし強くなってもらわないと困る。そして早く強くなってもらわないと俺がストレスで困る」
「貴方、本当に指導者にむいてないわね」
「人には得手不得手がある。適材適所という言葉もある。俺は絶対的な能力とひきかえに指導力が失われたかもわからんね」
「せめて人格は損なわれないで欲しかったわ。子供の頃のしっかりとしたまま成長してくれれば……」
「お前はなんかこうあれだよな、口はきっついけど指導者つーか仕切り役の適性が高いよな。いやほんと性格はきっついけど」
「ゆるい性格だと貴方に付き合いきれないし自然とこうなるんでしょうね」
「そうか、それは上々。その調子で自主性が損なわれないようトランスの発展に付き合ってやってくれ」
「まあ、いいけれど。あの子に付き合うのは面白いし。期待の新人がこれからどう成長するか特等席で見せてもらうことにするわ」
ラピスであればレイヴンと違い干渉しすぎない範囲で的確な指導もできるだろう。リオルの変身能力に新たな可能性を見出したところで次回に続く。




