2.人類みな兄弟
「大家さんはこの国ではめずらしい「グレイ」という種族で言語も違いますので馴染みが薄いかと思いますがとても気さくな良い方ですよ」
「あー、うん。まー、うん。この国つーかこの星では馴染みが薄いね、うん。違う種族なんだろうなとは予想していたので覚悟はしていた。が、やっぱインパクトすごいっすわ。でも緑色で触覚が生えてなくてよかった。大魔王じゃなくてよかった。著作権的によかった」
「よろしくねー、グレイさん」
「お前よく簡単に受け入れるな。ちったあ動じろよ。あとグレイは種族で名前じゃない」
リオルとちがいジーンはこの存在を受け入れるのに時間がかかりそうだ。
「大家さんの名前はテラさんですね。部屋の奥にいらっしゃる方はヒザシさんで大家さんのご兄弟です」
よく見ると部屋の奥にもう一人いる。兄弟でこの宇宙船……もとい家の管理をしているようだ。
「カッコイイなまえですねー! FFとかに出てきそう」
「リオル マイ フレンド」
雑談をはじめるリオルと大家。すでに打ち解けている気がしないでもない。
その様子を見て不動産屋も一息つく。
「いやーよかった、仲良くなれそうで」
「仲良くはなれそうですけど、色々ツッコまないといけない気もしますね」
「色々と手遅れだと思いますよ。あきらめましょう、受け入れましょう。そうすれば快適な暮らしが待っていますよ」
「たしかに快適そうだけど。ていうかこの家どうなってんの? 空調設備ハイテクすぎんだろ。室内なのに空気がめっちゃ澄んでるし」
「グレイ人の科学は進んでいるのかもしれませんね」
「かがくのちからってすげー。科学や魔法って便利な言葉ですよね」
無理やり自分を納得させるジーン。
リオルと話していた大家が会話をやめ不動産屋に何か伝えだした。大家の表情はよくわからないが不動産屋の表情は落ち着きがありながらも笑っている。見事な営業スマイルだ。何かしら良いことを伝えられたようだ。
大家とのやりとりを終えた不動産屋がリオルたちに話しかけてきた。
「どうやら大家さんたちはリオルさんたちのことをすっかり気に入ったようでお茶会に招待したいようです。もうすでに準備に取り掛かってますのでいかがですか?」
「良かったなリオル、タダで紅茶と菓子が食えるぞ」
「えぇ、ほんとぉ? いいのぉ?」
「はい、是非ともと。部屋を借りるチャンスですし頑張ってくださいリオルさん、ジーンさん」
「俺もかよ。別に俺は部屋を借りたいわけじゃないんだけど」
「ここで相方が帰られますと印象が悪くなりかねないですからね。お二人と一匹で参加したほうが良いかと」
「そう言われるとそうだな。仕方ない俺も一緒に茶をしばくか」
部屋を借りるためにもリオル、ジーン、デールンはお茶会に参加することになった。
「私はここらでお暇します。それではリオルさん、ジーンさん、お茶会楽しんで下さい」
「わかりましたー。ありがとうございます」
事務所に仕事を残す不動産屋は先に帰っていった。プロ店員がいないのは心細い気がしないでもないが部屋を借りるとすると今後の付き合いは大事だ。自分たちの力で気に入られ部屋を借りるしかない。
ほどなくして茶会の準備を終えた大家のテラが戻ってきた。
「マタセタ ティーパーティー ヲ ハジメヨウ」
大家に連れられ茶会をやる部屋まで移動する。
パーティー会場は特段飾り付けられているわけではなかったが、シャレた感じのテーブルと椅子が置かれ、ティーポットやお菓子が並べられてあった。だがテーブルと椅子はあきらかに部屋の景観とあっていない。ハイテク設備が導入されているせいか実用一点張りの壁や床とはおしゃれな家具はマッチしていない。ひょっとしてこの国の文化に合わせて用意したのだろうか。
よく見るとお菓子もこの街で買えるお菓子だ。しかもちょっぴり高いやつ。気を使っている。間違いなく大家はリオルたちに気を使っている。あいにくティーポットの中の茶までは分からないが、おそらくリオルたちにあわせて用意した茶だろう。アールグレイとかレディグレイとかそのへんだろう、種族グレイなだけに。間違ってもアバ茶ではないはずだ。
「サア ノム タベル ガンガンイケ」
この国の言葉に慣れてないせいか大家はつねに片言だ。
「いただきまーす!」
遠慮することなく飲み食いをはじめるリオル。霊獣も飼い主にならってガンガン食べる。
「お前らなぁ、いくらなんでもがっつき過ぎだろ。少しは遠慮しろよ。あ、すいませんビールありませんか?」
リオルと霊獣をたしなめつつ自分はビールを要求するジーン。
「オマエ ミセイネン インシュダメゼッタイ」
「あ、サーセン」
大家の弟にダメ出しされるジーン。異邦人グレイのほうがジーンよりも常識があった。まさにジーンは違法人。
酒はダメなので出された茶を素直に飲むことにする。どことなく上品な味と香りがした。菓子同様、お茶も高級なものなのかもしれない。
「ウマイカ?」
「美味美味ー。ちょっとお高いやつでしょこれー。あ、ラーメンあります?」
「美味しいです。ただ美味しいものを食べると霊獣の僕は毛玉を吐きたくなりますね。――うっ」
「たしかに上手いな。あとはきれいなネーチャンがお酌してくれれば文句なしなんだが。いや、酒じゃなくて茶をね」
「ソウカ ヨウイシタ カイガ アッタ モットヤレ」
あつかましいリオルたち相手でももてなしてくれる大家兄弟。よっぽどこの変な連中を気に入ったのかもしれない。
その後もリオルたちは一切の遠慮もなく飲み食いし大家兄弟と雑談にふけった。
「トコロデリオル オマエ ヒーローハ スキカ?」
「ヒーロー? ああ、死ぬほど痛いぞてきな」
「ソレチガウ ヘンシンシタリスル ヒーローダ」
「そっちかー。そだねー、すきだよー。私も変身できるしやっぱり変身ヒーローっていいよね」
「ソウカ ジャア ジーンモ スキダナ」
「え? 決めつけられてる? まあ賢者の俺としては生まれながらのヒーローつーか、ジーンと書いてヒーローと読めるくらいには親睦性高いですよね」
「ツマリ スキダナ ツイデニ デールン モ ヒーローノ ノリモノ スキダナ」
「ついで!? ていうか僕だけ乗り物限定!? バッタバイクとかコウモリ車限定ですか!? 好きだけど」
「ヤッパリ スキヤネン」
「どーでもいいけど、大家さんどこでこの国の言葉覚えたんですか」
「ヒーローはみんなのあこがれだよね。でもどうしてそんなこときくのー?」
「ワカッタリオル コノホシノ ラブアンドピース ハ キミニマカセヨウ」
「え? なにそれー」
その時ふしぎな事がおこった。
突如リオルたちは睡魔におそわれ眠ってしまった。
次に目覚めた時、リオルたちは何もない空き地に寝そべっていた。
「あれ? ここはどこ? わたしはだれ?」
「ここは空き地、お前はリオル、俺はジーンだな。ていうか俺達なんで空き地で寝てたんだ」
「さあ? たしかへやをさがしてたとおもうんだけど、よくおぼえてないや」
「奇遇だな、俺もだ。不動産屋に行ったとこまでは覚えてるんだがその後どうなったんだっけ? 記憶にございませんなぁ。ま、いいか。おい、デールン起きろー」
「むにゃむにゃ……ふごっ」
爆睡していた霊獣も目を覚ました。何をやっていたか誰も覚えていない。が、誰もそれを気に留めることはしない。少しは気にしろ。
「いやー、よく寝たなー。心なしか肩こりとか治ってる気がすんなー。ところでリオルお前腰に何つけてんの?」
リオルの腰にまかれた何かを指差してジーンが言う。部屋を探しているときにはつけてなかった何かがリオルの腰に装着されている。
「え? な、なんだ。この変身ベルトは!?」
自分自身いつ着けたかは分からないが、なぜか変身ベルトだと理解しているリオル。
「そういうジーンもなんでハラマキしてるの?」
「え? な、なんだ。このWタイフーンは!?」
何だと言ってはいるがアイテム名までわかっているジーン。
リオルとジーンは驚きいつの間にかつけられていたベルトを見つめ、お互いに顔を合わせる。そして口をそろえてこう言った。
「いらねー」
ベルトを外して空き地に放り捨てるリオルとジーン。ポイ捨ては条例違反だぞ。
「さ、帰ーるか」
「うん、そだねー」
記憶もないし、いつの間にかつけられていたベルトもなかったことにしたリオルとジーン。つまり何もなかったので帰ることにする。
家路につくリオルとジーンだがよく考えるとまだ部屋が見つかっていなかったことに気がついた。もう一度不動産屋に行くかどうか話しをしながら歩いていると、前方に見知った顔を発見した。
「あそこにいる美しいお二人はラピスさんとルビーさんじゃないかな」
「ほんとーだ。おーい、ラピスさーん」
迷うことなく声をかけるリオル。オフの日に出会すとなんなく避けたくなったりする知り合いっているよね。とくにジーンみたいなやつは出会すことすら避けたいよね。
ラピスとルビーもリオルたちに気づき話しかけてきた。なんとジーンを避けたりしなかった。
「やっと見つけた。宿で静養しているかと思いきや朝から出歩いているし」
「わたしたちを探してたんですか?」
リオルたちを探していたというラピス。よく見ると冒険行きの装いではなくオフの日の格好をしている。つまり普段と大差ない。
「そうなんだよ。ちょっと用があって探してたんだよー。トリフェンも一緒だったんだけど、今日は見つかりそうにないから遊びは切り上げて、さっき分かれたばかりなんだ」
「遊んでたんですか? 探していたんじゃなくて」
「失礼だね。ちゃんと探していたよ。劇場でキャストの中に紛れていたり、古本屋で本にはさまれていないか確認していただけだよ」
「そんな所にはぜってーいねーよ。ていうかやっぱ遊んでんじゃないすか。よしんば探していたとしても長時間同じところ探すとか効率悪すぎんだろ」
「気にしないでちょ。私らもジーンくんが変な遊びにハマっていることは気にしないから」
「別に変な遊びにはハマってませんよ。今日だってリオルの部屋探しを手伝っていただけです」
「ええ!? その格好で!?」
ジーンの服装をみてツッコミを入れるルビー。リオルは触れなかったが今日のジーンの格好はあきらかにおかしい。かなり派手でかなり露出している。つまり普段と大差ない。
「今時そんな派手な格好FFのキャラだってやらないよ」
「いやいやいや。ヴィジュアル系ならこのくらい普通ですよ。ね、ラピスさん?」
「……まあ、そうかも知れないわね。でももう少し大人しめな、まともな服はもってないの?」
ジーンの主張を肯定してはいるが歯切れは悪い。心なしか冷めた瞳をしている。かわいそうなものでも見るかのような蔑んだ目だ。ラピスの冷徹な瞳をみてジーンはちょっと興奮した。
「うっふっふっふ。俺はオサレさんなので素敵な服しかもってませんよ」
堂々たる受け答え。なんら躊躇いなく変な服しかもたないというジーンはある意味男らしい。
「……そう。犯罪にならない範囲でやるならいいんじゃない。それに服の話はどうでもいい。二人とも明日暇よね。暇じゃなかったら今から暇にしなさい」
「だいじょうぶ。ヒマですー」
「なぜ暇だと決めつけるんです。仮に明日大切な用事があったらどうするんです」
素直なリオルに対し難癖つけはじめたジーン。
「あるの? 用事」
「いいえ、ないです! 仮にあったとしてもラピスさんの誘いを優先するに決まっているじゃないですか。明日は一日中付き合いますよ」
「いや午前中で終わると思うけど。とにかく二人とも大丈夫なわけね」
「はい」
「勿論! で、どんな用事ですか。食事の誘いですか。カラオケですか、それとも遊園地、まさかナ――」
「明日、レイヴンの家に行くわよ」
ジーンのことを無視して用件をつたえる。
「レイヴンさんのいえに? これまたどうして?」
「この間のドラゴン退治話をしたら面白がってね、「遊びに来いよ」だって。勧誘するいいチャンスじゃない」
「ということはレイヴンさん直々のお招きか。これは驚き」
「レイヴンさんの家……。うん、いってみたーい」
思いも寄らないレイヴンから自宅への招待。リオルもジーンものり気だ。
「レイヴンさんというと皆さんの話にたまに出てくる変人の方ですか?」
質問をするデールン。霊獣はレイヴンとは直接の面識はなく変人呼ばわりに他意はない。むしろリオルたちの話を聞いた毛むくじゃらが導き出した答えであるからして、問題があるとしたらリオルたちのほうだ。
「ええ、その変人よ。ドラゴンは鍋にかぎるとか言うやつだから貴方もドラ鍋にされないように気をつけなさい」
本気なのか冗談なのか分からないがウソは言っていない。狩ったモンスターはときに食料としてリサイクルする。レイヴンとはそういったエコ精神をもつ変人だ。鍋竜はけっこう美味いぞ。
ドラ鍋の話を真に受けた霊獣は青い鳥リスペクトといえるほどに血の気が引き青ざめてきた。
「あ、僕は明日用事があるので遠慮しておきます。さー、はやくー、へやをさがさないとー」
自分も鍋竜にされて食べ竜されたらかなわんと拒否反応をしめす霊獣。
「そうだリオル。お前部屋さがないと不味いんじゃないか」
「さっきもその格好で部屋さがしてたって言ったよね? どうしてそんな格好でさがしてたの? そういったプレイなの? ジーンは変態なの?」
「いえ、変態ではありません。紳士です。部屋探しというのはじつは――」
部屋探しをすることになった事情を話し、今まで探していたが問題がまだ解決していないことをつたえる。
「泊まっている宿がペット禁止ね。他のお客の迷惑にもなるからはやめに移住先を見つけたほうが良いわね」
「すぐに部屋を見つけるのがきびしそうなら知り合いの家にしばらく厄介になるのはどう?」
「そのプランもかんがえたんですけどきびしそうなのでダメですねー」
「それは困ったわね。ウチは家庭事情で泊めてあげられそうにないし」
「うちなら大丈夫だよ。私は現一人っ子だし、親も仕事で家を留守にすること多いし」
「え、いいんですか。この子けっこう毛ぬけますよ」
「大丈夫大丈夫。コロコロ使って取ればいいから。デルちゃんが」
自分の面倒は自分で見る。生物の基本だ。
「うち結構あまってる部屋があるから客人用として使っても問題ないし、デルちゃんが歩くだけで掃除されそうだし」
霊獣のふさ毛はモップとしても使えそうだ。
「あ、じゃあそれでおねがいします」
リオルと霊獣の移住先とモップ就職が決定した。
「マジかー。あっさり決まったな。……ところでルビーさん、実は俺も前々から引っ越そうかと思ってまして、この際だから俺もリオルと一緒にルビーさんと暮らしますよ」
「あー、うちは無理だけど、ジーンくんにあった良い家知ってるよ。モンスターハウスっていうんだけどね。みんな世話好きだから楽しく暮らせるとおもうよ」
「死ねってか! ももんじゃの世話になれってか! 家にかえる度に所持金が半分になるじゃねーか! 家賃高くつきすぎだろ!」
モンスターハウスで暮らすにはリスクが高いので少々現実的ではない。
「話はまとまったようね」
ジーンのことなど無視してラピスが話をすすめる。無視されてもツッコミを頑張るジーンだが、もはや見向きもされない。
「明日の朝9時に駅前「忠犬こち亀」前待ち合わせで。それじゃあまた明日」
用件をつたえ終えたラピスは一足先に今きた道を引き返す。
リオルたちも当面の寝床がみつかったことで明日は心置きなくレイヴンの家にお邪魔することができる。絶賛レイヴンルート進行中。
「おはよー! きょうもいい天気ですね」
翌日。いつも以上にエネルギッシュなリオルが忠犬こち亀像の前にいた。レイヴン宅に行くため気合をいれているにしても若干うざったい。今日のリオルがうざい理由をたずねてみる。
「いやーきのうからルビーさんの家にすませてもらったんだけどね、これがまた快適で快適で。元気百倍になったわけだよー」
この街に来てから長らく広々とした部屋やふかふかのベッドなどには縁がなかったため、昨日は実にくつろげたようだ。毛むくじゃらは己が実力を証明するため家にのこり奉仕活動に従事するらしい。我が身をモップとかえて。
「こどものころってベッドの上にのってビヨンビヨンとよくとびはねたよね」
「やらんかったぞ。つーか俺、敷き布団派だし」
「えー、じゃあいまからビヨンビヨンベッド派になろうよ」
「ベッドにしたら枕投げできなくなるだろーが。修学旅行の時どーすんだよ」
「ビヨンビヨンしながらまくらなげよーよ」
「バカヤロー、枕投げなめんじゃねーぞコラ。枕投げはなあ、合戦なんだよ。かぶとやヘッドギア装備して戦場に赴くべきファイトなんだよ。あなどったやつから負傷して病院送りになるからな、油断するんじゃねぇぞ」
「りょうかいであります! 軍曹どの!」
ジーン軍曹に敬礼ポーズをとるリオル。ジーンも敬礼をかえす。ベッドの上で跳びはねながら枕を投げると割りとマジで危ないぞ。
「……さあ全員そろったことだし行きましょうか」
リオルとジーンの話が終わったあたりで本日のメインイベントへの移行をうながすラピス。
「あれ? メンバー3人だけですか」
「あまり大勢でおしかけても話が混線してすすまなくなるでしょう。レイヴンも面倒がっていい加減になりやすくなるし」
無駄にメンバーが多いと各々が好き勝手話をして本題もままならなくなるだろう、ということを見越してラピスは必要最低限の人数に絞り込んでおいた。ただでさえこいつらはバカなのだ。バカが大量にいるとまともな話はできないだろう。
バカ二人も納得したところでバカうけ大好きレイヴンさんの家に向かう。
「そういやレイヴンさんの家ってここからちかいんですかー?」
人力車や駅馬車を利用せずともすぐにつく場所にあるらしい。
「10分も歩けばつく位の距離ね。街の中を流れている川のすぐそばにある家よ。特徴的な家だから見ればすぐ分かるわ」
「とくちょうてきかー。どんな家だろうねー」
「レイヴンさんビックだからなーサイズ的に。きっと家もビックいんじゃね」
「たのしみだねー、レイヴンハウス」
ルビーの家もあれだけ広い屋敷だったのだ。レイヴン級の冒険者ならば一体どれほどの屋敷に住んでいるというのだろうか。道中リオルとジーンはレイヴンハウスの予想をあれこれ立ててみる。
しばらく歩くと川沿いの通りに出た。川のすぐそばに家があるのであればもうそう遠くはないだろう。
「見えたわ。あれがあいつの家よ」
レイヴンの家が見えてきたらしくリオルとジーンは道の先を見る。
川沿いに建物は一軒しかないうえにラピスの言うとおり特徴的な家だったのですぐに分かった。なんせ巨大な水車がついているのだ。いやでも分かる。
「ん? 水車? 家に水車? 普通家に水車なんてないよな。ディスプレイやイミテーション的ななんかだよな。レイヴンさんの家ってあの水車みたいなのがついた家ですよね?」
「ええ、みたいなじゃなくてマジもんの水車よ」
「へー、あの水車本物なのか。水車付きの家って変わってるなー。……いや、それ水車小屋じゃね」
ジーンが言うようにどう見ても水車小屋だ。遠巻きに見たときには分からなかったがかなり古い建物だ。築百年くらい経ってそう。通りの脇の階段をおりた先に建てられた小屋だ。
「あのこれ家じゃなくて小屋ですよね?」
「……一見小屋にしか見えないけど家よ。レイヴンはこの小屋に住んでいるの」
一見小屋にしか見えない家だが、最終的には小屋ということらしい。一体何を拗らせてこんな小屋に住んでいるのだろうか変人っぷりもここまで来ると大したものだ。
「とりあえず中に入りましょう」
そういってドアをノックするラピス。
「あ、そこが玄関なんだ」
小屋を家にしているだけでも変わっているが玄関まで一階ではなく二階に設けられている始末。よく見ると古い建物でありながらここだけ新しい。おそらくアレだろう、一階は水車の音がダイレクトに伝わってきてうるさいので二階で生活しているのかもしれない。利便性を考え二階に玄関を設けたのだろう。これなら脇の階段をおりずとも通りから直で入れる。
ガチャ。という音とともにドアがゆっくりとひらきレイヴンが顔を出した。
「んちゃ! という挨拶とともにドアをゆっくりとひらきレイヴンこと俺は顔を出した」
すでに地の文で状況が述べられているにも関わらずナレーション風に口頭でつげるレイヴン。
「おはよう。要望通り二人を連れてきたわよ」
「おはこんばんちは」
「ジェアグゥィチエルモジン」
由緒正しい挨拶をすませレイヴン小屋にお邪魔する。
「静養中にすまんね、わざわざウチまで来てもらって。ケガのほうはどうだい?」
客人を居間に招き入れ席につかせると早速リオルの調子をたずねる。
「もうだいじょーぶです。ところでレイヴンサン、きょうはかわった服きてますね」
今日はというより今日も変わった服装のレイヴン。上はシルキーホワイトとパッションピンクのツートンカラーで下はダーケストブルーとパステルでシックな組み合わせだ。
「ああ、これ? これはジャージーって服だよ。桜吹雪がワンポイントだ。イカスだろ」
「めっちゃイカしてますね。このあたりでは見掛けない服ですけどどちらで購入されたんですか? よければ店とブランドを教えていただけませんか?」
ファッションの話になった途端ジーンが食いついた。
「残念ながらジャージはレアアイテムだからそのへんの店では買えないねぇ。だがジャージはいいぞ。着心地はいいし伸縮性も抜群でシワにもなりにくい、耐久性もあるから洗濯しても長持ちするぞ。運動にも寝間着にも使える素晴らしい普段着だ」
「なんですかその「僕の考えた最強の普段着」みたいな設定は」
「最強の普段着と言えばそうかもしれないね。ただ防御力は布の服と同等だから戦闘服には向かないんだけどね」
「何を言うんですか。戦闘における服の防御力なんて二の次ですよ。冒険者のファッションでいちばん大事なのは見た目と通気性です」
冒険者としては間違ったことを綺麗サッパリと言いきるジーン。
「たしかに君の冒険装束は通気性がよさそうだったね。今着ているのも通気性ばっちりだけど」
「ええ今日の衣装は最高のコーディネートを決め込みました」
「だが君はミスを犯しているとも言える」
自信満々に最高のコーディネートだと主張するジーンに物申すレイヴン。
「ミス? どういうことですか? この衣装に何か落ち度でも?」
「その服、個性的だしコーディネートもバッチリ。すんげー存在感をはなっている。でもね欠点がある。それはね、派手なんだ」
ジーンの格好を派手と評するレイヴン。ぶっちゃけ誰が見てもそう思う。
「派手なのが悪いわけじゃない。ただ派手すぎる。派手すぎて主役が霞んでしまっている。主役、それは君自身だ。服にこだわるあまり服のせいで君が霞んでしまっているんだ」
「な!? そ、そんなバカな」
ジーンは膝から崩れ落ちてしまう。
「自分を着飾るための服のはずが服の引き立て役になってしまっては本末転倒だ」
「なんたる失態! 俺としたことが服を着こなしているつもりが服に着られていただなんて……!」
「落ち込む必要はないさ。君はそれに気づけた。それにあの冒険服はオーダーメイドだろ? それをコーディネートするだけの才能が君にはあるんだ。あとはあがくだけだ」
「ありがとうございますレイヴンさん! 憑き物が落ちた気分です。ところで、レイヴンさんの言うとおりあの服はオーダーメイドの一点ものですが、もしやそのジャージーなるものも一点ものでは?」
「ある意味そうだね。元は量産品だが入手手段がないのでは一点ものと変わりない。実はこの服、上下一組なんだけどこれは上のみなんだ。他のジャージの下と組んで間に合わせているけどね」
「上下一組!? き、気づかなかった……このジーンの目をもってしても……!! よもやそれほどまでに汎用性の高い代物とは」
「いやいや、ジャージの汎用性に気づくとはおそれいったよ。デニムくんだっけ? 君、なかなかジャージを見る目あるね」
「いえジーンです」
生地のような曹長のような名前と間違われたジーンだが、ジャージを見る目があると賛辞がおくられた。ジャージ限定だ。
「そうだね、確実ではないし古着になるがジャージを売っている可能性がある店なら知っているから紹介しようか?」
「マジっすか!? ぜひ!」
「ふふふ。ジャージはいいぞ。もし上下セットになっているやつがあれば狙い目だ。普段着はもとより練習着としても使える素晴らしい服だ。ジャージはいいぞ」
会話がはじまって早々にレイヴンは上機嫌になった。ファッションという趣味の仲間をみつけたためだろう。
「同じ言葉を繰り返し始めたわ。しばらく本題に入れそうにないわね」
「きにいったんですかね、そのセリフ。アパレルのスパイラルになるまえにレイヴンさんにきいておきたいことがあります」
「なんだい? ひょっとしてリオルくんもジャージが気になるのかな」
「いや興味ないね。そのジャージーがゴッズギフトなら話はべつですけど」
「よく分かったね。たしかにこの服はゴッズギフトだよ。ジャージはこの世界で作られた服じゃないからね」
「マジかよ。ただのジョーダンだったのにー。あのー、ジャージーについてですけど、もうすこしお話しません? さっきのジャージーをかえる店とかくわしく」
ファッション談話にリオルが参戦。本題そっちのけジャージの話で異様な盛り上がりを見せる。
「んっふー。ジャージはいいぞ」
「まさにファッション革命。ついでにマッドマックスはいいぞ」
「ケンシロウ、ジャージはいいぞ」
宗教みたいになってきた。ジャージ教の発症だ。
「ファッションの話はひとまず置いておいたらどう? 今日はなんのために集まったんだっけ」
「むっ、そうだったな。で、なんの集会だっけ?」
「えーとですね、たしかレイヴンさんがドラゴンチームにはいる話ですよね」
「おしい! ドラゴンチームじゃなくてドラゴンとチーム。ドラゴンは退治、チームは勧誘だな」
「あー、そうだったなー。別にその話は今度にしてもよかったんだがなー、誰かさんが茶々入れるもんだから……あ、茶でも入れるか。すこし待っていてくれたまえ」
本題に入る気があるのかないのか分からないがとりあえず茶を出すことにするレイヴン。
「茶をいれている間、この部屋のものでも好きに見ていてかまわないよ。ガラクタのように見えなくもないがレアアイテム目白押しだ」
台所に向かいながら棚や床におかれたものを指しレイヴンは言う。
家具や雑貨などの中に非日常品が置かれており、たしかにガラクタにしか見えないものもある。使い方の見当がつかないアイテムまであるが、それらを見たリオルはふと思った。これらはゴッズギフトなのではと。
「中にはゴッズギフトもあるからねー」
聞くまでもなくリオルの疑問にレイヴンは答え、台所へと姿を消した。
「うおー! やべー、みよう! ちょーみてみよう!」
一気にテンションが上がったリオルは部屋の物色を開始した。




