6話1.ザ・ハウス・オブ・ザ・ペット
決闘の傷を癒やすため現在静養中のリオル。重傷を負ったわりにはゴキブリ並みの生命力で回復し普通の生活をおくる分にはなんの問題なくなった。もうゴキジェット(ドラゴンブレス)もこわくない。
G級ハンターばりの活躍を見せたリオルではあるが今はまだ療養に専念しなければ。
仮住まいの宿で新たに仲間となった使い魔デールンと猫じゃらしで戯れていると誰かがたずねてきた。リオルはドアを開け出迎える。
「どうもリオルさん」
「あ、おかみさんだー。おはようございます」
たずねてきたのは宿屋の女将だった。
「ちょっとリオルさん困りますよ、うちペットは禁止なんですから」
挨拶をすますやいなや用件をつたえる女将。
「ペット?」
そういえばこの宿はペット禁止だった。しかしリオルは首をかしげる。ペットなど飼ってはいないからだ。この部屋に住んでいるのはリオル自身と使い魔のデールンだけ、一体何のことを言っているのか。リオルには皆目見当もつかない。
「その白い毛むくじゃらのことだよ。犬か猫かよくわからないけどさ」
なんとペットとはデールンのことだった。予想だにしなかった女将の言葉にリオルは驚愕する。まさか使い魔をペット呼ばわりされるとは思わなかった。霊獣がペットと見なされるとは思わなかった。たしかにエサをやっているけども。毛もぬけちゃうけども。
「あれはペットじゃないっす。なんちゃらドラゴンとかいう霊獣ですよ」
「霊獣でも怪獣でもなんでもいいけどさ。動物であることにかわりないんだよね。他のお客さんの迷惑になるから捨てるなり他人にゆずるなりしてもらわないと」
「だ、そうですよ。デルさん、どうします?」
「いや飼い主のあんたに言ってんのよ」
宿側が霊獣も禁止というなら仕方ない。デールンをこのまま使役することはできない。
「手放したくないならペット可の宿に移るか、自分で部屋を借りるなりするしかないね。それまではうちに居てもいいけど、どうするか早いとこ決めておくれよ」
用件を終えると女将は仕事に戻っていった。
移住先が見つかるまではここに住んでもいいとのことだ。ペット禁止の宿でこれならまだ有情か。霊獣をどうにかしなければならないことには変わりないが。
いっその事ユージェニーのもとへ送り返そうかとも思ったが、せっかく使い魔になってくれたのになにもやらせずに帰すのも忍びない。他に方法がないときにはそうするしかないが、まずは新しい宿を探すことにしよう。
「新しい宿? 療養中に面倒なことになったな」
とりあえずジーンに相談してみた。この街で生まれて育ったジーンならいい宿を知っているかもしれない。
「下宿先を探すなら宿よりも部屋を借りたほうがいいんじゃないか。今の宿はギルド関係の宿だから格安で泊まれてるけど、長期で住むとなると他の宿は高いぜ」
「たしかにそうかも」
「それにペットは環境の合わない場所に住むとストレス抱えて死ぬっていうぜ」
「ぼかぁ、ペットじゃないです」
霊獣はペット換算だけどペットじゃないらしい。
「この街は俺の庭みたいなものだからな。望みとあらば最高の場所と物件を紹介するぜ」
「さすがジーン! たよりになるぅ」
いつもにましてドヤ顔を決めるジーン。
「だが地方都市とは言えこの街はデカイからなフィルにも部屋探し手伝ってもらうか? ていうか部屋見つけるまであいつん家に厄介になるのはどうだ?」
「うーん、今フィルはクエストきんしされるくらい稽古にせんねんしてるんだよね。だったらじゃましちゃわるいかなー」
「そうか。たしかにアイツが強くなって帰ってくればクエストもはかどるしな。それに冷静に考えるとあいつん家はフィル自身が厄介なのに、さらに厄介な冒険者が一人ご厄介になるとケイトが大変なことになりそうだしな。俺ん家は諸事情で無理があるし」
一応ジーンにも良識というのがあったらしい。
「余計な負担はかけんでおくか。というわけで部屋探しは遠慮なく俺に頼るが良いぞ」
ドヤ顔に腕組まで決めるジーン。お言葉に甘えてリオルは賃貸物件の希望条件をあげてみる。
「そんじゃあねー、ばしょは冒険者ギルドにちかいほうがいいかなー。できればコンビニまで徒歩5分、駅まで10分以内。食堂あり。敷地内稽古場あり。南向き日当り良好。バルコニー付き。築10年程度。楽器相談。駐車3台以上可。……こんなかんじかなー」
「ねーよ、そんなもん。よくばり物件過ぎんだろ」
「さいこうの物件をしょうかいしてくれるっていったのにー」
話が違うじゃないかと不満をもらすリオル。
「一介の冒険者でも借りられる範囲でって意味な。高級物件じゃなく、お手軽物件の中から選んでくれ」
「ぶー。じゃあ、ペット可はぜったいとしてあとはギルドに近ければてぜまなワンルームでもいいよ。コンビニその他もろもろはあきらめる」
「その方がいいな。でも部屋は一人暮らしでも広いほうが良いんじゃないか? 冒険で手に入れたアイテムとか置くスペースが限られてくるしな」
「あ、そうか。アイテム保管庫てきな部屋とかあったほうがいいねー。馬車を手に入れたときのこともかんがえると駐車3台以上もこだわるべきか」
「そこはあきらめてくれ。ギルドに近い物件で探すとするならやはり東南地区の不動産をあたるか。実は物価が一番高いけど誤差の範囲だし気にするな」
「へー。で、とーなん地区ってどこ?」
「ここだよ。俺たちが住んでいて活動している地区がここだよ」
「へー、知らなかった。そうなんだ」
「そうだよ。一応説明するとだな、地方都市アケルナルは4つのエリアに分かれているんだ。俺達のいる「東南地区」の他に「西南地区」「北東地区」「北西地区」がある。今言った順に住みやすく物価もちょっとだけ高くなる」
「すみやすい。ということはごはんもおいしい?」
「まあ、そうなるな。ただこの街の冒険者の実力は真逆になる」
「え? それってここの地区がいちばんよわいってこと?」
「そこは誤差の範囲だけどな。この街で一番強い冒険者も北西地区にいるし一番勢力が大きい旅団もそこにある。昔は北東地区にも冒険者ギルドがあったんだけど今はない。ギルドがあるのは東南と西南と北西の3つだ」
「今はない? どうしてなくなったの?」
「とある事件が起きてな。それが切っ掛けでギルドが消失したままなんだ。……話せば長くなるからまた今度にしよう。今は部屋探しだ」
「そうだね、そうしよう」
「どの地区にも一長一短はあるが、冒険者をやるならこの地区で部屋を借りるのがいいと思うぜ。住みやすさ以外にもう一つ理由があって、この街の冒険者は地区ごとにナワバリ意識をもってんだよ。基本的に自分が住んでいる地区のギルドを利用して他地区と競争している。特に北西地区の冒険者はその傾向が強く他地区の冒険者と度々もめ事を起こしているんだ。用がない限り北西地区には近寄らんほうがいいぞ」
「それはまたメンドーだね」
「まったくだ。だからもめ事をきらう温厚な冒険者は北西地区の真逆にあるこの地区に集まるんだ。おかげで駆け出し冒険者もここに集まりやすいからこの地区が最弱って言われるんだけどな。それでもこの地区がいいと俺は思うんだよ、いい感じにぬるくて」
「うん、話をきくとここがいちばん活動しやすそうだねー。このままここで部屋をさがそう」
「そんじゃあ不動産にでも物件を見に行くか。冒険者に率先的に貸してくれるとこがあんだ。割引してくれることもあるからそこから当たってみようぜ」
リオルの部屋探しは手始めにジーンおすすめの不動産からあたることに。
アケルナルの街には武具店や道具屋など冒険者御用達の店は数多くあるが、それ以外の店もかなりの数が存在する。不動産も例外ではない、同地区内でも不動産屋は多く競争もはげしい。上手く交渉すれば良物件をやすく借りることも可能。リオルとジーンにそれだけの交渉スキルがあればの話だが。
ジーンに連れられリオルは通りに軒先を連ねる一軒の店にやってきた。その建物は不動産らしくガラスばりで賃貸や売り物件の広告を何枚もはりだしてある。ご丁寧にも冒険者向け物件のコーナーまで作られている。ジーンの情報通り冒険者相手の商売をしているのは間違いないようだ。
はりだしてある冒険者向けの物件をかるく見てみるが、店先にはりだしてある分だけでは情報が充分とはいえず店にはいって店員に直接聞いたほうがよさそうだ。リオルとジーンとペット一匹は不動産屋にはいり店員に声をかける。
「すいません、部屋をサーチにきた冒険者です。いちばん良いぶっけんをしょうかいしてください」
「いらっしゃいませ。どのような物件をお探しですか?」
言葉が足りないリオル相手でも動じることなく対応する不動産屋の店員。実に落ち着きがある。
「赤いやねの大きなお家とかすんでみたいですねー」
「それは理想の物件だろリオル。探す物件の条件いわねーとダメだろ」
「そっか、わすれてた。えーと条件は……なんだっけ?」
「それも忘れたのかよ。とりあえず俺が条件つたえて探してもらうから待ってろ」
「さすがジーン! たよりになるぅ」
リオルに任せておいたら話が進まないだろうとジーンが代わりに店員と会話をする。
東南地区でペット可を前提として、そこから冒険者向け物件を絞り込んでいく。初級冒険者でも借りることができるリーズナブルなお値段、冒険者ギルドにできるだけ近い場所、可能であれば他のこだわり条件もつけ足して候補を絞り込んでいく。ジーンが店員に物件の候補をあげてもらっている間、リオルは出された茶を音立ててすすっている。お客用のキャンディもポコポコ食べる。
「ところでペットは犬や猫でしょうか?」
「いえ、こいつが飼ってるのは霊獣ですね。太った猫くらいの大きさで形状はドラゴンな毛むくじゃらです」
「霊獣ですか。ということは使い魔か何かで? めずらしいケースですね」
めずらしいと言う割には落ち着いた様子でメモを取る店員。冒険者がよく利用する店舗なだけあって変なペットを飼っているものも多いのだろうか。
「犬猫じゃないですけど、こいつは言葉を話せるていどの知能はありますから問題になるようなことはないと思いますよ。そもそも霊獣の姿は普通の人には見えませんし」
「気にしなくても大丈夫ですよ。紹介するのは冒険者向けの物件ですからね。冒険者の方の中にはワイバーンやサーペントを飼う方もいらっしゃいましたからね」
「それペットじゃなくてモンスターじゃね!?」
「冒険者と言えばモンスターをペット扱いするくらい頭おかしいですからね。たまにまともな冒険者もいますがそういった方は大抵つまらないですね」
「いや、頭おかしいのが冒険者のスタンダードみたいに言わんといて下さい。ていうか客はまともなほうがいいでしょ」
「まあ厄介なお客様は困りますね。面白いお客様なら大歓迎ですが」
「じゃあ今回はあたりですよ。俺達はまともでありながら面白みと温かみとケレン味にあふれる冒険者ですからね」
「たしかに野性味あふれる冒険者と裸身のおおい冒険者の組み合わせはなかなか面白いですね」
「いやあ、それほどでも」
あまり褒められている気はしないがはにかみ満更でもなさそうなジーン。
「いやあん、それほどでもー」
ジーンにならって照れくさそうにするリオル。ついでに霊獣も。いつの間にか具現化までしている。
「ああ、そちらの方がおペットの霊獣様ですか。たしかに小型ですね。メタボな猫と同じ扱いでいけるかと思います」
「マジで!? やったー」
「それではですね、希望に合う物件をいくつか絞り込めましたのでどうでしょう、実際に見に行かれてみますか」
「え? ほんとーに? みたーい」
「候補を絞り込んだらあとは見に行くほかあるまいて。これをせずに部屋など借りれんよ、ここからが本当の物件探しだ」
「ではどの物件からご案内しましょうか」
「そーですねー。このギルドに近くてコンビニ徒歩5分、ロフト付きの部屋とかきになりますねー。リビングが広くてアイテムおくスペースにもこまらなさそうだし」
出された物件情報の一つを眺めながら最初の一件を決めるリオル。
「その物件はおすすめですよ。広くて開放感があってのんびり出来ていいですよぉ。では早速見に行きましょう」
「ここが例の物件です。この建物全体がそうですよ」
お目当ての物件に到着。不動産屋が物件の紹介をはじめる。
「おおー! これがウワサの物件。ほんだ、デカイ」
簡素なつくりながらも2階建ての建物と遜色ないほどの大きさがある物件を前にリオルが感想を述べる。そしてジーンはすこし黙ったあと口をあける。
「……いや、これ家じゃなくて小屋じゃね?」
ジーンが言うように、家のわりには玄関の扉が大きすぎるしガラスばりの窓なんてものもない。古式ゆかしい物置小屋と呼んでもかまわんつくりだ。
「お客様。一見すると小屋のように思えますがちゃんとした物件ですよ。古い小屋を家として再利用しておりますので小屋に見えるだけです」
「いや、だからそれは小屋っていうんじゃないの」
「まあ、些細な事はお気になさらずに。とりあえず中をご覧ください」
不動産屋は家の扉を開けてリオルたちを中に招き入れる。
「やっぱ小屋じゃねーか。床が地面だぞ」
外と家の床が土でつながっている。完全に地面だ。
「どうです。段差がなくて出入りが楽ですよ」
「うーん、さすがにゆかが地面なのはいやだなー」
「ご安心下さい。家の奥はロフトがありますのでそちらを生活の拠点にできます」
不動産屋の説明通りたしかにロフトがある。階段をのぼってロフトがどんな感じか確認するリオル。
「ロフトなのか? 物置スペースっていうんじゃないの」
「物は言いようですからね。床が地面なのと隙間風と虫が入ってくるのと夏はむし暑く冬は凍えそうになるのを気にしなければ良い物件ですよ」
「それはダメな物件っていうんじゃないの。たしかにスペースは広いけどさ……あと台所とかもないよね」
「キッチンどころか水道もありませんよ。飲水は外の井戸をご利用下さい」
「もっとダメじゃねーか」
「水道もキッチンもないのはこまるよねー」
家(小屋)をざっくり見て回ったリオルも物件の欠点に気付いた。
「僕的にはですねー、空調設備がしっかりしているほうがいいです。暖かい季節になると毛がぬけてぬけて大変なんですよ」
「あまりお気に召しませんか。設備が整ってない分リーズナブルになっておりおススメの物件だったのですが、それなりの設備は必要ですかね」
「床も水道もないのは必要最低限にも達してないだろう」
「それでしたらこちらのお部屋はいかがでしょうか。お手頃価格でアパートの1LDK。水回りはもちろん空調設備も完備してあります」
「なんかいいかんじのじょうけんー」
「風呂とトレイは他の住人の方と共同になりますが食堂も共同で朝はまかないも付いてますよ」
「たしかに条件は良いな。でもお高いんでしょう?」
「いえいえ、そんなことありませんよ。まかない込みで月1万8千ゴールドです」
「安っ! 安すぎて逆に不安なんだけど。訳あり物件じゃねーの!?」
「訳あり物件なわけないじゃないですか。住宅に欠陥はありませんし、大家さんはとても良いお方ですよ」
「大家さんがいいひとならきらくでよさげだね」
「面倒見が良くて住人の方から評判がいいんですよ。あとは他の住人の方と仲良くしてもらえれば特に問題はないかと」
「するする。そんなことでよければいくらでも仲良しこよしになれますよー」
「いやー良かった。あそこの住人は化物や魔族や妖怪やニートなど人外の方が多くて共同生活が大変なんですよ。頑張って仲良くして下さい」
「やっぱ問題あるじゃねーか。住宅じゃなくて住人に問題あるじゃねーか」
「大丈夫ですよ。人外とは言え人間社会で生きていけるように人に化けていたり社会知識も持っていたりしますから。むしろ一緒に住む人間のほう、冒険者の方に問題あるパターンのほうが多いですね。あそこの部屋を借りた冒険者の方はよく夜逃げするんですよ」
「そりゃ逃げたくもなるでしょうね。ていうか夜逃げじゃなくて失踪じゃね? 化物とかに食われてんじゃね?」
「うーん……ほかの住人ともんだいがおきたらきってもいーい?」
「ダメです。人外であっても他の住人の方とは仲良くしてください」
「むりぽ。せめて住人はヒト系にしてください」
「やはりダメですか。では他の物件にしましょう。少々お待ち下さい」
矢継ぎ早に次なる物件を探す不動産屋。リストの中からおススメを物件を見つけ紹介にうつる。
「こちらの物件はいかがでしょうか。庭付き一戸建て、築13年の5LDKで部屋数多め、バルコニーまでついてますよ」
「ほう、そりゃすごい。で、その物件の問題点はどこですか?」
「嫌ですねお客様、問題なんてありませんよ。ただ小人向けの物件なので普通の家よりサイズが小さいだけです。普通の家の1/3とか半分とかそのくらいですよ」
「ホビットやドワーフならたしかに問題ないな。だが普通の人間には問題大アリだろ」
「お客様は小柄なのでもしかしたらいけるかもしれませんよ」
「いくらチビでも天井の高さが1m強の家なんて中腰姿勢で暮らさねーとムリだろ。そんなじゃなくて普通の部屋でいいから、希望の条件満たしたらあとは1LDKとかで普通の家なら問題ないから」
「ペット可で冒険者ギルドに近い1LDKなら結構ありますよ」
「あるならそれを紹介しろよ。……一応いっとくけど犬が一匹で「わんいぬDK」とかいうギャグはいいからな」
「そうですか。では紹介できそうな部屋がありませんね」
「本当にそれだったのかよ。ていうか全部わんいぬDKだったのかよ」
「ははは。冗談ですよ。ただその条件だとお家賃が高くなりがちなのでオススメの優先度が下がってしまいますね」
「やっぱ家賃が高くなんのか。東京の物価には負けるとはいえ横浜や厚木、静岡東部並みにはなるわけだな」
架空の土地と物価をくらべ始めたジーン。首都圏東海道線あたりはたしかに高い。
「あ、そう言えば。ギルドから離れてはいますが一つ良い物件が」
「また訳あり物件ですか」
「訳ありと言えば訳ありですね。大家さんが少々変わっていまして、冒険者や変質者みたいな方によろこんで部屋を貸すんですよ。ちょうどお客様のような」
「俺達は変質者あつかいかよ。そこははっきり言わず隠そうぜ。一応客商売なんだからさ」
「これはうっかり。ですがその物件はかなりの良物件ですよ。設備や家具はマジックアイテムづくしで水道はお湯まで出ますし、空調設備も完璧。ベッドはふかふか。照明器具も最新式、なんとボタン一つで灯りがつきます。他にも最先端の設備がやまほどあり、それでいて家賃はなんと月5千ゴールド」
「安っ! 今度はどんな問題がある訳あり物件なんだ!?」
「いえですから、大家さんが変わりもので人間観察が趣味なんですよ。なので気に入ったお客様にしか部屋を貸さないのですが、逆に言うとそれさえクリアすれば格安価格で部屋を借りられるわけです」
「なるほど、大家さん的には珍獣を飼う感覚で冒険者に部屋を貸すわけか。たしかに変わりものの大家だ」
「非常に変わりものの大家です。最新の建物なので家自体も変わっていますが。ですが物件内容を考えるとリターンは大きかと」
「たしかに。部屋と大家を見るくらいはしてもいいかもな。きっついようなら借りなきゃいいだけだしな」
「そうだねー。すいません不動産屋さん、そのへやってみれますかー」
「かしこまりました。早速大家さんに確認を取りますね。一旦うちの事務所まで戻りましょう」
大家に連絡をとるため不動産事務所まで戻ることにする。
「では連絡をいたしますので少々お待ちください」
「分かりました。ちなみに部屋を見に行く日程ですが今日中に分かりますか?」
「おそらく大丈夫かと。幸いなことに大家さんのお住い、つまり賃貸の部屋にはですが電話が設置されておりますのですぐに連絡がとれます」
「電話まであるんですか、すごいですね」
「大家さん次第ではありますが、もし今からでも部屋を見れるようなら、すぐにでも見に行かれますか?」
「そうですね。今日見れるならそのほうが良いですね」
「ではそのようにお伝えします。今から電話をかけますので少々お待ちください」
「分かりました。よろしくお願いします」
「でんわまであるなんておどろきだねー。ところでジーン、電話ってなに?」
「知らねーのに驚いてたのかよ。電話ってのは離れた場所にいる人と会話ができる装置のことだよ。マジックアイテムではない科学による発明品だぜ」
「おお、それはすごいねー」
「ただ相手と自分がその装置持ってないと会話できないらしいけどな。お値段が高い上に持ち運ぶことも出来ないから貴族や大手企業とかしか導入してないし。それでも魔法もマジックアイテムもなしに離れた相手と会話ができるのはすごいよな」
「そのへやに電話がせっちされているってことはへやをかりたら私もでんわをつかっていいのかな?」
「最新の設備が色々あるっていってたし、電話もその一つかもな。期待してまとうぜ」
数分後、大家と連絡を終えた不動産屋の店員が戻ってきた。
「お待たせしました。お部屋ですが今からでも大丈夫だそうです」
「おー、ありがとうございます」
「では大家さんもお待ちしているので、すぐ伺いに参りましょう」
変わりものの大家と物件がどんなものか期待をふくらませリオルたちは不動産屋を後にする。
「到着しました。この建物がそうです」
「へー、ここが」
物件を眺めるリオルたち。店員の情報通り変わった建物が目の前にある。変わった形過ぎて建物かどうかすら怪しい。今まで見たこともない未確認の建造物だ。たとえるなら円盤のような形状で、木造ではなく金属でできた乗り物のようだ。なんとなく空も飛べる気がする。いや、そんなわけがない。これは建物だ。乗り物でなければ空も飛べるはずがない。
「たしかに変わった建物ですね。高床式っていうんですかこれ? でも玄関というか入り口らしきものがどこにも見当たりませんがどうやって中に入るんですか」
ジーンが指摘した通り、この家には入り口がない。窓はあるようだがハメ殺しになっているように見える。ということは窓もあかない。どこからこの建物に入るのだろうか。
「入り口は音声認識になっておりまして合言葉をいうと開くようになっております」
「おわっ、すっげ。魔法系ですか、それともハイテク系ですか」
「私もそこまでくわしくは。とりあえず入り口を開けますね。えーと合言葉は『ピッコロ』。これで開くはず」
店員の言ったとおり合言葉に反応し入口が開いた。高床式の家の床底が開いて変わった階段があらわれた。
「あきました。それでは中に入りましょうか……あれ、どうしました?」
「……なんていうかその、これ家じゃないですよね? 上手く言えないけど宇宙船かなにかじゃないですか」
「気のせいですよ。れっきとした家屋ですよ」
「え、そうですか。なんか違うような気が……」
「お客様、この建物が家ではない証拠があるのでしょうか」
「そうだよジーン。うたがわしきはあくまでしょうめいだよ」
「なんか違うぞ。だがまあいいか。これが家でも乗り物でも住めるならどっちでも」
「ご納得いただけましたか。では船内に入りましょう」
「いま「船」内つったろ」
「気のせいです。さ、上がりましょう」
階段を登りはじめた店員。リオルたちもあとにつづき階段を上がる。
全員が家に入ったところでもう一度合言葉を言って入り口をとじる。ちなみに『ピッコロ』は違う世界の作品という意味らしい。だから出入り口の合言葉として使われている。
店員に案内され大家のいる管理人室に到着。いよいよ大家とご対面する。
「大家さん、部屋を借りたいという冒険者の方をお連れしました」
「どうもお初にお目にかかる、冒険者のリオルでござる」
「賢者のジーンです」
「ペットの……じゃなかった使い魔のデールンです」
管理人室の大家にあいさつをかますリオルたち。ついに変わりもののと名高い大家をその目にする。
たしかに見た目からして変わっている。灰色の肌に頭部は大きく手足が細い。黒く大きな瞳は釣り上がり気味で瞳孔は確認できない。もしかしたら目全体が瞳孔なのかもしれない。人型ではあるが人類かどうかはあやしい。とりあえず人類と判断するとしてもかなり変わった種族なのは間違いない。ドワーフやホビットどころの話ではなく、いうなれば亜人種だろう。いや亜人種であってくれ。
得体の知れない大家はリオルたちを見つめ挨拶をする。
「ボウケンシャ マイ フレンド」




