3.デュエリスト
リオルの剣がドラゴンの甲殻を斬りつける。刃が滑ることも弾かれることもない、手応えの変化を感じる。そのまま剣を振り抜きドラゴンの反撃が来る前に離れ間合いを取った。
「これでどうだ!」
ダメージの有無を確認するため攻撃した部位をみるリオル。
断剣で斬りつけられた甲殻は傷をつけてはいるがまたしても引っかき傷程度だった。甲殻を斬り裂けていない以上、斬撃ダメージを与えたというには程遠い。まともなダメージにはならなかったがリオルは落胆することはない。引っかき傷といっても具現化した剣でつけた傷と違い、爪で引っ掻いたレベルからナイフで引っ掻いたレベルにはなった。攻撃を続ければ幾ばくもなく甲殻を斬れるかもしれない。
依然劣勢は変わらないが少しの希望は見えた。リオルは可能な限り同じ箇所を狙って攻撃することに決める。
「まずい。このままじゃ負けるわね。何か他の手を考えないと」
分かってはいたがリオル不利のまま推移すると勝つのはまず無理だ。攻撃が効く可能性は出てきたが相手に近寄っている時間が増えた分、ドラゴンからの攻撃を受ける回数が増えたのが目に見えてわかる。攻撃を躱せないときは受けるしかないがガードしても大ダメージは免れない。攻撃を受けきれず吹っ飛ばされることも度々起こる。吹っ飛ばされた先に岩があろうものなら激突し追加ダメージまで受ける。それでも怯むことなく挑むがダメージを受け続け体力の消耗も激しい。
決闘は熾烈を極めてきた。ラピスの一言を受けジーンも頭を悩ませてみる。起死回生の策を立てることがセコンドとしての自分の努めだ。
やはりラピスの言う通り武器が一番のネックだろう。いくらドラゴンが強いと言ってもまったく歯が立たないリオルでもない。洞窟の中に伝説の剣でも刺さってはいないものかと考えているとき、一つの妙案を閃く。
「ラピスさん、今のリオルが性能の高い武器を新しく具現化するのはやはり無理でしょうか」
「難しいでしょうね。やるなら今まで具現化して使っていた剣を強化するほうが可能性は残っているわね」
「では武器を具現化するのではなく、リオルが今使っているあの剣を変化させるのはどうですか。具現化してどうこうより実在する武器を変化させるほうがリオルの能力的には向いていると思うんですが」
「……なるほど。存在しない武器や防具を具現化させてはいるけど、トランスは変化に基づく能力。実在する武器を変化させるほうがたしかに相性はいい、成功する確証はないけれど試す価値はありそうね」
ジーンの案にラピスも関心を示す。現状ではジリ貧、失敗する可能性が高いとはいえやれることはやるべきだろう。リオルはすでに追い詰められてきている。
「ただこの手を試すためには一旦決闘を中断させなければいけないわね。どうやって止めようか」
「俺に任せてください。なんとしてもリオルが剣を変化させる時間を稼いでみせます。トリフェンさん決闘中断の合図を」
ジーンから受けてすぐに決闘の一時中断の合図を実況するトリフェン。
「ちょっとタンマー! はいテクニカルタイムアウト。両者一旦離れてくださーい」
唐突に鳴り響く決闘中断の合図にドラゴンは動きを止める。岩の下敷きになったばかりのリオルにトドメの一撃となりかねない鋼の爪を振り下ろす寸前だった。
「神聖な決闘を侵すとは、何のつもりだ人間」
もはやドラゴンの勝ちは揺るぎないところまできて茶々を入れられたのだ、怒るのは至極当然だ。
「慌てるなドラゴン。リオルが勝つ方法を思いついたのでな、そのアドバイスするだけだ決闘の邪魔はしない」
「我に勝つだと。そんな方法ありはしない。仮にあったとして黙って見過ごすと思うか」
「あるんだな、これが。ここで見過ごせばお前負けちゃうし、どれだけみっともない真似してでも阻止したいよなあ」
「言ったはずだ、人間では我には勝てんと」
「お前なぁんか勘違いしてねぇか? 言ったはずだ、決闘の邪魔はしない。口出ししても手出しはしない。だがそれを認めないというなら決闘はご破算だ。元々俺たちは決闘には反対だったからな。今から総掛りでお前をぶちのめす」
「全員でかかれば我に勝てるとでも?」
「さあ? 少くともリオルが一人で闘うよりは勝算はあるさ。こちらにはドラゴンとの戦闘経験者もいる。全員で袋叩き、間違いなくこれがベストな戦法だ」
「我が愉しんでいる決闘を妨害して寄ってたかってフルボッコにするなどと、人間としてやっていいことと悪いことの区別もつかんのか!? 人が嫌がる事するんじゃねえ!」
「まずお前が人間じゃねえ! 決闘を愉しんでいるんだったらちょっとだけ待ってくださいバカ野郎。リオルがパワーアップしたらもっと愉しめるだろうバカ野郎」
「ふむ、仕方ない。3分間待ってやろう」
「待つのかよ!」
ドラゴンとの交渉を成功させたジーンだったが、待ってもらわない方がよかった。一人より大勢、多勢に無勢。総力戦のほうが望ましいところ。不撓不屈の覚悟を持って闘うリオルはドラゴンから決闘をやめないかぎり引き下がることはないだろう。まさしく不退転だ。
決闘が継続になってしまったものは仕方がない、ドラゴンがインターバルという名のドラゴンウォームアップ体操をしている間、リオルに一時中断させた理由を伝える。
「この剣を変化させる?」
「ええ。あのドラゴンに勝つにはもうそれしかない」
「リオル、ラピスさんを信じろ。お前ならできる。自分を信じろ……という人間を信用するな。Trust me. 必ず最後に私は勝つ」
頭に鳩を乗せながらリオルに信じることの大切さを説くジーン。
「いきなりやってみろと言われて躊躇するのは分かるぜ。だが臆することはない。明鏡止水、心頭滅却、食欲旺盛、まずは気を鎮めて――」
「分かったわ、やってみる」
即断即決するリオル。
体力を大幅に消耗し精神を統一するのも厳しいところだが、気力を集中させ変化した剣をイメージする。鋼の甲殻を斬り裂くことができる剣、ドラゴンを斬り伏せることができる剣。究極の幻想で最強の剣を想い描く。理想の剣を創り上げ、次は手に持った剣が理想の剣に変わっていくイメージをする。変身能力の基本と同じなのでやり方はよく分かっている。問題は実際に変化させること。やり方は分かっていても武器を変化させるのはこれが初めてだ。生物である自身の身体と物質である武器の違いもある。成功するか分からない、失敗したらどうなるだろうか。変化魔法を失敗するとカエルになったりアフロになったりすると聞く。自分もそうなるのだろうか。そしてこういった時にやってはいけないのが失敗のイメージをしてしまうこと、精神がおおきく影響する能力においては成功の妨げになる。リオルは邪念を振り払い集中するが、剣は変化する様子はない。
「ダメなのか。ちくしょう! 完成形になりさえすれば……」
「……リオルさん。物は試しに具現化した防具をパージして武器の変化だけに集中してみて」
ラピスの提案にリオルは頷き防具の具現化を解く。
大した防具を身に付けていなかったが心なしか軽くなった気がする。防具に割いていたリソースが開放されたせいだろうか。精神が一新されたリオルはもう一度気を集中させる。より明確に確固たるイメージを生み出す。
先程までとは質が違うリオルの精神に呼応するかのように剣が変化をはじめる。元々幅広の剣はさらに身幅をひろげ、肉厚も厚みをましていく。何より剣身は見る見るうちに伸びていきリオルの背丈を超えた。それでもまだ剣は肥大化を続け途轍もない大剣へと変化を遂げる。
今や断剣は数倍の大きさになり巨大なドラゴンの頭頂部にもゆうに届くほどのリーチがある。大きさが変化しただけではなく形状もかなり変化している。意匠は残されてはいるがまったくの別物となった。
ぶっつけ本番で見事成功させたリオル。想像以上の大剣を創り出したことに驚嘆の声が上がる。
「やったなリオル、GJ! すごい大剣だな、こりゃ。おめ!」
「びゃあああ! すごいのできた。ちょっとヒャッハーしてくる!」
新たな剣を手にリオルは決闘を再開するべくドラジオン体操第二をはじめていたドラゴンの前に立つ。
「待たせたな。ショウタイムだ。フォスちゃん改めアスカロンの試し斬りをさせてもらうわ」
大剣を「アスカロン」と命名しドラゴン相手に剣をかまえるリオル。
「ほう、ご大層な剣を構えているな」
「そう言う君は体操していたようだね」
「体操ではない、竜の舞だ。無知め。竜の踊りには戦闘力を上昇させる効果があることを知らんのか」
「ふざけていたようにしか見えない。でもこれでお互いに準備万端なわけだ」
「準備万端? その割にはフラついているようだが」
「フラついているんじゃない。お前をこんらん状態にするための踊りだ。無知め」
「よう言った人間。遺言はばっちりではないか」
「そっちこそ舌がよく回る。首がなくなったら口数もなくなるかな。たのしみだ」
「先手を譲ってやろう。隙あらばその剣を打ち込んで見せよ」
「分かった。すぐに首無竜にしてやんよ」
ドラゴンの言葉にあまえ先制攻撃を仕掛ける。決闘開始のときに見せた突撃をまた行う。だが今は装備している武器が違う。懐に飛び込まずともはなれた位置から届くだけのリーチがある。最初の一撃は相手の間合いの外から御見舞する。
大剣の重さをものともせず振り下ろすリオル。鋭く疾い大剣の一撃をドラゴンは余裕で躱す。さっきまで見せていた緩慢な動きとは違い俊敏な動きを見せる。リオルの攻撃は外れ大剣は地面を斬る。大剣が叩きつけられたことで地面は割れ大量の砂塵が舞う。ドラゴンに当たりはしなかったが大剣「アスカロン」は驚異的な破壊力を見せつけ充分なプレッシャーをあたえた。
ドラゴンは警戒しうかつな動きを見せない。リオルも同じでたった今ドラゴンが見せた敏捷さに切諫の念を覚える。ついにドラゴンが本気の片鱗を見せたのだ。
「狙いが甘かった。加えて大振りすぎて回避する余裕を与えたかな。次は外さない」
相手に飲まれないようリオルは言葉を口にし自分を諌めつつ、さらなるプレッシャーをあたえる。
ドラゴンは警戒を続け動かない。次の攻防もリオルから仕掛け先手を取る。初撃と違い正確に狙いをさだめ無駄の少ない軌道で斬り込む。またしてもドラゴンは大剣を躱すが今度は紙一重での回避だ。疾さを増したリオルの攻撃を避けるのが難しかったのもあるが、それだけではない。ドラゴンはすぐに反撃に移る。攻撃後の隙を突かれたがリオルもすぐに次の行動をとる。回避ではない追撃だ。仕掛けたのはドラゴンが先だが所作はリオルのほうが速い。ドラゴンの攻撃が届く前に大剣がドラゴンの爪をとらえ激しくぶつかる。
剣と爪が剣戟を交え拮抗する。ドラゴンのパワーに遅れを取らないリオルの剛力。ぶつかりあったまま膠着状態に入る。身体全体で受けているリオルとは違いドラゴンにはまだ他の四肢が残されている。やろうと思えば牙や尻尾、体当たりで攻撃もできる。ドラゴンは次の攻撃をどう繰り出せば効果的か考え、そして決める。剣とぶつかりあっている腕とは反対側の腕で横殴りに叩きつける。牙で喰らい付くより威力は劣るが、こちらのほうが素速い攻撃になるからだ。ドラゴンの前脚がリオルに襲いかかる。
されどリオルはドラゴンが先に動くのを待っていた。大剣で抑えていた前脚の力を受け流しすり抜け、ガラ空きの脇腹に間髪入れず大剣を叩き込む。不意を突かれ攻撃を躱されたドラゴンに大剣が直撃する。大剣の一撃は鋼の甲殻を斬り裂き本体にダメージを与えた。
初めてダメージらしいダメージを受けたドラゴンは自身の甲殻が斬り裂かれたことを実感する。痛みを負う感覚を味わい逡巡するドラゴン。今まで傷一つ負わなかった甲殻が斬られ肉体にまで痛みが達する。痛い。痛みが体中に走り渡る。痛いという言葉が頭に木霊する。生まれて初めて知る痛みに平常心を保てなくなる。しかしそれは周章するのとは違う、興奮だ。傷を負い臆するどころかドラゴンは戦意高揚しはじめた。序盤の一方的な戦いより今の方が戦い甲斐があり愉しめる。さらなる痛みを求めてドラゴンはリオルに牙を向ける。
もしもさっきの攻撃が前脚ではなく牙であったなら頭部に反撃をくれてやって致命傷を与えられたものを。そう思いつつリオルはドラゴンの牙を躱す。もう簡単には不意を突かせてはくれないだろう。次々と攻撃を繰り出すドラゴンがそれを物語っている。攻勢にでたドラゴンは攻撃の手を緩める気配はなく、リオルは回避に専念しつつ隙をみつけてはこちらからも攻撃を繰り出す。ドラゴンも回避を怠ることはなく大剣の攻撃を確実に躱しながら闘う。
リオルの大剣は繰り出す毎に疾さと正確さをましドラゴンが躱しても攻撃が掠るようになっていく。振るう度に鋭くなる大剣はやがて標的を確実に捉えドラゴンを斬りつけはじめた。凄まじい破壊力をもつ大剣はドラゴンに大きなダメージを与えていく。ダメージを受けてなおドラゴンは闘いを愉しんでいる。リオルもこの烈しい闘いにヒートアップしていき熱戦はさらに燃え上がる。
ドラゴンもリオルの動きを見切りはじめ攻撃を当てる回数が目に見えて増えはじめた。攻撃が通り倒せる可能性が上がりはしたが、ドラゴンも易易と逆転させてはくれず優位にたったとは依然言い難い。しのぎを削るリオルとドラゴン、決闘は最終局面に差し掛かる。だがこのままいくと先に体力が尽きるのは前半戦で激しく消耗したリオルの方。少しずつ大剣の重みを感じはじめ限界が近いことを察知するリオル。格上のドラゴン相手によくここまで闘ったものだが敗北が目の前に迫ってきた。全力を尽くして闘ったのだ、負けても恥じることは何もないだろう。けれど仲間たちに勝つと約束した手前、敗北を受け入れることはできない。地に伏してもなお勝利にしがみつかねばならない。今や巨大な大剣は片手では振り上げられないほど重くなったが、それ以上にリオルは仲間たちの信頼という重いものを背負っている。「思いが重い」などという冗談がリオルの脳裏をよぎる。こんな下らないことを考える程度の余力はまだ残っているのだ。自分に活を入れ突破口を探る。残りの体力から考えても重い大剣を振れるのはあと数回、指で数えられる程度だ。それならばとリオルは動きを止め今までとは違う剣の構え方をする。
様子が一変したリオルに気付きドラゴンも動きを止める。
「リオルの奴、一体何をするつもりだ」
立ち止まり動く様子のないリオルを見て疑問に思うジーン。
「たぶん次の一撃で勝負を決めるつもりでしょうね。残りの体力で無駄に大剣を振るうより一撃にすべてをこめ決着をつける。勝利のための選択肢としてはベストだと思うわ。けれど……」
ラピスの想像通り次の一撃にリオルすべて託し最後の一撃とするつもりだ。
「そうか。もう終わりの時か。……ならば我も全力で応えよう」
リオルの思念が伝わりドラゴンも次の攻撃で決着をつけるつもりだ。後ろに大きく飛び退き一呼吸するとドラゴンの口から炎の息が漏れはじめる。
「やっぱり、そう来るわよね。あれなら自分のブレスの高熱に耐えられないから滅多なことでブレス攻撃はしないと思っていたけど、次が最後ならとっておきの技で攻撃するわよね」
「鋼鉄竜のブレスってそんなに強力なんですか?」
「ドラゴンだからね。中には鋼鉄でもドロドロに溶かす炎を吐くドラゴンもいるわ。そして今のリオルさんの状態ではブレスに耐えられない。例えドラゴンを倒せたとしても相打ちになる可能性が高い。もう潔く負けを認めてくれたらいいけど」
「それでもリオルはやるでしょうね。ここまで決闘にこだわったんだから。そして何よりアイツは馬鹿だから」
普段のリオルのバカっぷりはムードメーカーとして一役買ってくれて安心感すら得られるが、こんな時には逆に不安だけが募る。ジーンたちもリオルに託した以上最後まで見届けるしかない。ドラゴンのブレスをかい潜り大剣を見舞うのを信じるのみ。ジーンたちは固唾を呑んで見守る。
「愉しかったぞ人の子よ。さらばだ」
別れの言葉を口にし攻撃の準備が完了したことをドラゴンは告げる。
リオルも愉しげに笑って応える。気を集中し力を最大限まで溜めて準備を終えたリオルは攻撃発動へ移る。ドラゴンめがけての突撃だ。
ドラゴンも灼熱の炎を吐き迎えうつ。炎が襲いかかりリオルを覆い尽くす。大剣を盾に突っ切ろうとするが炎の激しさに突進の勢いが殺されていく。立ち止まれば忽ち紅蓮の炎に飲み込まれ燃えつきてしまうだろう。ドラゴンまでの距離は大きく離れている。横に逸れて炎から脱出したいところだが、ドラゴンが炎を吐く方向を変えるだけでまた炎に巻かれる。このまま直進し最短距離でドラゴンの元まで突き抜けるしかない。
距離が縮むにつれ炎が吐き出される勢いが増す。放出される炎が強くなるのを感じ取ったリオルはここで一気に勝負に出ることに決める。ドラゴンの口に近づくほど炎の放出される勢いが強くなるならどこかで決断する必要がある。それが今だ。
大剣を盾にするのをやめ、体がブレスの直撃にさらされるのも覚悟で前に出る。炎に体が焼かれながらもブレスを突き抜けついにドラゴンの眼前に飛び出した。突進の勢いを利用して大剣で首を斬り裂くつもりだったが、炎の勢いのせいで図らずとも突進方向がすこし横に逸れていた。これでは頭部辺りを狙っても躱されるかもしれない。咄嗟に首から胴体に狙いを変えて攻撃技を叩き込む。目論見とは少し外れてはしまったが大剣は見事に命中し甲殻を物ともせず深々とドラゴンの躰を斬り裂いていく。
大ダメージを受けたドラゴンは倒れ込み、最後の攻撃を終え力を使い果たしたリオルもまた倒れ込む。体力が尽きたのか、倒れ込んだリオルとドラゴンはそのまま動かなくなる。トランスは解除されていないので死んではいないはず。
「これは……引き分けか!?」
勝ちとも負けともつかぬが決闘が終わったのであればと、ジーンは回復すべく駆け寄ろうとする。
「まだよ。勝負はまだついていない。決闘の勝敗は当事者が判断するもの。どちらかが完全な戦闘不能になるか息絶えないかぎり決闘は終わったとはいえない」
審判が存在する試合とは違う決闘だ。負けを認める気がない以上、相手にとどめを刺すまで決闘は終わらない。
「だったら先に立ち上がった方が勝者というわけですね」
「そうなるわ。先に立ち上がれば相手にとどめを刺すも自由。勝ちと言って差し支えない」
「だそうだ、聞こえているかリオル! 先に立ちさえすればお前の勝ちだ!」
リオルの気つけとなるよう大声を出して呼びかけるジーン。他のメンバーも同じように大声を張り上げる。
「立てー、立つんだリオー!」
「やっぱりそのネタやるんだ。とにかく立ってくれ!」
ネタを忘れない姿勢のジーンにツッコミを入れながらエフィムが叫ぶ。
「動かなくなったら上上下下LRLRBBA」
「ゆうてい みやおう きむこう ほりい ゆうじ とりやま あきら ぺぺぺ」
トリフェンとルビーもマイク越しに謎の支援をする。ただしコマンドは間違っている。
「こういった時には必ず主人公が先に立つもの。立てなければ主人公降板よ」
思い思いの言葉で声援を送る。
応援になっているかは怪しいところだがリオルは意識を取り戻した。たぶん相当うるさかったのだろう。目を覚ましはしたが力を使い果たしたばかりのリオルは中々立ち上がれない。
最後まで力を絞り出そうとするリオルを見てジーンたちはより一層のエールを送る。すでに騒音と同レベルだがリオルにはうるさ過ぎるくらいでちょうどいい。仲間たちの声援を活力にかえてリオルは立ち上がる。まさしく主人公としてふさわしい姿だ。
瀕死の状態でリオルは立ち上がりドラゴンの方へ振り返る。先程の騒音でドラゴンも気絶から回復している。まだ立ち上がれそうにはないが。
「今にも燃え尽きそうな生命だけど、ドラゴン如きにとらせてやるほど安くはない……!!」
HP: 1
決めゼリフを言い放つリオル。文句になしにリオルの勝利だ。
誰もがそう思ったがリオルは再び大剣をかまえる。リオルが視線を送る相手は当然ドラゴンだ。どちらかが息絶えるまで決着はついていない。その言葉の通りにドラゴンにトドメを刺すつもりか。ジーンたちがそう思っているとリオルが叫ぶ。
「さっきの一撃でケリをつけるつもりだったけど、お互い死に損ねたわね。まだ終わってない、決闘を続けよう」
リオルはまだ決闘を続行するつもりだった。仲間たちが驚くのもお構いなしに。
その台詞を受けてドラゴンはリオル同様瀕死の躰に鞭打ち起き上がろうとする。
「そう、それでいいよ。お前は私が武器を生み出すのを待ってくれた。今度はこちらが待とう」
ドラゴンが立ち上がるまで待つとまで言うリオルは実に楽しそうだ。勝ちを拾うのが目的ではない、勝ち取る事こそリオルが望む勝利なのだ。勝ち方にまでこだわる。これが決闘者リオルの本懐だ。
ドラゴンは立ち上がるとリオルの元へゆっくりと近づく。
「本当に愉しいひと時だ。お前は本当に愉快な人間だな。……最後にもう一つ言っておこう……」
台詞を言い終わるとドラゴンは再び倒れ込む。
「我の負けだ」
倒れたあとドラゴンはたしかに「負けた」と言った。思いもよらなかったがドラゴンは自ら負けを認めたのだ。
ドラゴンの言葉と地に伏せる姿を見て決闘は終わったのだと理解しリオルはその場に座り込む。目の前の光景はにわかに信じがたいがジーンたちが駆け寄ってくる、本当に勝ったのだ。勝利の実感がわかないリオルは仲間に確認する。
「終わったの? 私の勝ちでいいの?」
「ああデュエル終了。“終幕”。お前の勝ちだ。スタッフロールが流れているぜ」
リオルを介抱しながら決闘に勝ったことを伝えるジーン。
他のメンバーも礼賛する。想像以上の超激戦を繰りひろげ制したのだ、ちょっとそっとの言葉では褒めたりない。リオルの予想つかない言動には慄然とさせられたが終わりよければなんとやら。暫らくはこの興奮は収まらないだろう。
敗北を認めドラゴンは地に伏せたままでいる。
深手を負ったドラゴンの元へラピスが近寄る。
「さてと、決着はついたことだし分かっているわよね」
「ああ、分かっている。娘は開放しよう。今後手出しもせんよ」
「意外と潔いわね。ところで本当にもう戦う力は残っていなかったのかしら」
「……闘いの余力があったとして、闘いの意思がなければ決闘を続けるのは難儀なものよ。敗北を受け入れるのも無理からぬ事だろう。いや勝敗なぞとうにどうでも良くなったのだ。それよりここで命を拾っておけばいつか再戦することもできる。だから負けで良いのだ」
また決闘するためにも生きることを選んだということらしい。そして再戦するためにはリオルも生き延びておく必要がある。リオルは生かされたということでもある。
「そう。ならこちらも感謝しておくとするわ。だから一つ忠告、二度と悪さをしないと誓いなさいな。貴方がリオルさんをお気に召したように、あの子に興味を持つ者は他にも居るわ。そいつに狙われたら命はないわよ。貴方亜成体でしょう」
「人間如きに我を倒せるものか。……と言いたいところだが今しがた敗北したばかりだな。群れをなさねば何もできないと思っていたが考えを改めねばなるまい。たしかに我は人間のいうところの亜成体だ」
「やっぱりね。だったらリオルさんと再戦するためにも大人しくするべきね。目的外のことで狩られてもつまらないでしょう。その人物ならどのドラゴンの亜成体でも一発で倒せるわ」
「それほどの力を人間が持っているとは思えんが。一発などと、同族でも不可能だろう」
「以前そいつが簡単にドラゴンを吹っ飛ばしているのを見たことあるけどね。無理に信じろとは言わないけど、忠告はしたわ。それじゃあそろそろ敗者の仕事を全うして頂戴」
ずっとスタンバっていたジーンがドラゴンの傷をテキトーに治してやる。
回復を終えた敗残竜は仕事するために洞窟に戻り檻から娘を開放する。ユージェニーがリオルたちに礼を言っている間にも敗残竜に次なる命令が下される。もう一度洞窟から出てドラゴンの姿になってリオルたちを乗せて馬車のところまで飛んで行く。戦いに敗れるとはこういうことだ。ドラゴンの威厳も何もないが黙々と仕事をする。一仕事終えると開放され山へ帰っていく。リオルたちが手を振って見送っているせいで余計惨めに見えなくもない。依頼人を救い出しドラゴンは去ったことでドラゴン退治を終えたことの実感が湧く。退治自体はしていないが。あとはユージェニーを町まで送り届けてクエスト完了だ。
「ユージェニーさんが居た町ってどこー?」
変身を解除したリオルは先程まで激闘を演じていたようには見えない。
「ルクバトの町です」
「ルック鳩? 鳥っぽい名前の町だね」
「鳩じゃねーよ。ここからさらに西の方にある町だ。そんなに離れていないと思うから馬車で往復しても3時間もかからんだろ」
「さすがジーン。物知りだね」
「昨日読んだガイドブックに書いてあったぜ」
ウインクしながら舌を出してサムズアップ(親指を立てるアレ)するジーン。ちょっとうざキモい。
大した距離もないということですぐにルクバトの町目指して出発する。
馬車の中ではリオルとドラゴンの決闘が思い起こされ話題となる。
その場に居なかったユージェニーとデールンにも伝わるよう戦いの経緯を事細かに話す。
「大変な戦いだったのですね」
想像力を働かせるユージェニーに熱戦・烈戦・超激戦だったと答える。
「それだけの戦いを経て救い出して頂いた以上、それに見合った報酬をお渡ししなければなりませんね」
「うっふっふー。いえ、礼にはおよびませんよ。ユージェニーさんは被害者ですし。わたしにはドラゴンとの死闘をせいしたことが冒険者として何よりの報酬ですからね。あぁ~、一度言ってみたかったー」
定番文句を言えてご満悦に浸るリオル。
「ね、ユージェニー様、僕の言ったとおりでしょう。冒険者は人助けの礼を受け取るケースはあまりないって」
予想を的中させ得意げにする霊獣。
「そうですね。では後はお願いしますデールン」
「承り。リオルさん、お礼の代わりと言ってはなんですが僕を子分にしてください」
「こぶん? あー古事記てきなー」
「古文ではありません。子分、使い魔という意味です。恩返しが終わるまでお仕えさせてください」
「うん、いいよー」
返答は素早く手短に。リオルの場合は特に何も考えていないともいう。
「あざーす。では早速最初の恩返しを。リオルさんユージェニー様が捕まった時の話を覚えていますか」
話の内容を覚えているかと聞かれてもリオルが覚えているわけがない。疑問符がぐーるぐる。
「たしか絶景を見に行くために出かけたらその時に捕まった。だったよね」
鳥頭リオルの代わりにルビーが覚えている内容を話す。
「そうです。その場所はルクバトの町からそう離れていないので町に向かうついでに観光されてはどうでしょうか。今の時期が一番の見頃だと評判ですよ」
「ほほう。それは見ておいてもそんはないね」
「是非見に行きましょう。僕もドラゴンのせいで見そびれてしまったから見に行きたいんですよ」
お前が見たいだけか。と思いつつも他のメンバーからの反対意見もなくラピスの許可も得られたので観光していくことにする。
「ところでリオルさん傷は治してもらったけど体力は大丈夫? 気怠さや体調が悪いとかつらいところはない?」
リオルの体調を気遣ってたずねるラピス。
「いまのところ不調はないですね。体力もすこし回復したのでつらさはとくにないですねー。回復魔法のはんどうもいまはないですよ。バトルはしばらくできそうにありませんが」
体調万全ではないが元気のようだ。明日には回復魔法の反動で寝込んでしまうだろうが。
リオルの状態をある程度把握はしたが、なんとも微妙な表情になるラピス。安心したのかあれだけ消耗して元気を保っているのを不思議に感じているのか、思うところは多々あるのだろう。
「でもすごい決闘だったよね。戦いの中で大剣を創り出すなんて想像もしなかったよ」
ふたたび決闘の話に戻り賞賛の言葉を口にするトリフェン。
リオルたちが決闘の話で盛り上がる様子を見てラピスは物思いに耽る。見所があるとレイヴンが言ったとおり亜成体とはいえドラゴンに勝利したのだ。あの日レイヴンに連れられ話した内容が脳裏によみがえる。
※
雑にラピスを連れ出したレイヴンは酒場の入り口近くの人が少ないところで立ち止まる。
「この辺でいいか。あいつらに指導してもらうにあたり頼んでおきたいことがある」
「この上何を押し付けるつもりよ」
「まー、割りと重要な事かな。指導はあいつらのためにだが今から頼む内容は俺個人が依頼するものだ」
重要、レイヴンの依頼。不機嫌な顔をしていたラピスの表情が真剣になる。
「貴方が自分勝手に依頼をするのは今にはじまったことじゃないけど、重要な内容の依頼は珍しいわね。で、内容は」
「あいつらの観察をして欲しい。特にちっこい奴、あいつのことを細かに見ていてもらいたい。能力でも所有アイテムでも何でも良い。他の冒険者と違う部分があれば些細な事でも俺に報告してくれ。ゴッズギフトに関する内容とかがいい例だな」
ちっこい奴。つまりはリオルの情報を調べてくれとの内容だ。
「あの子を? アビリティを教えろとも言ったわね。あの子に何かあるの?」
「何かあるかは分からない。だから知りたいんだ。ちょっと話しただけだが俺が興味を持つには充分だったよ。将来的に俺と同じ舞台に立てるかも、そう思わせる程度には」
レイヴンと同じ。この台詞はラピスを驚かせた。
「……それは……ありえないんじゃないの。この街の名立たる冒険者を見てもそれなりだとか大したことはないとしか今まで言ったことないじゃない」
「そいつらは経験を得て成長した冒険者だ。ゴッズギフトでレベルを含むステータスは確認した。その評価で間違いない。だがあの子は違う。これからまだまだ成長するさ。さすがにゴッズギフトでも成長性や成長後の能力までは分からない。期待を込めて☆5です。気になるなら自分でも確かめてみると良い。あ、あとコレ渡しておいて」
誰の目にも触れないようにしてラピスに手帳のようなものを渡す。
「これ、貴方のアビリティボードでしょ。渡していいの」
「かまわぬもん。すでに初期化済みだ。俺のは後日購入するさ。ただ俺が譲るというのは甘やかしているように思われかねないからお前のお古を譲るという体にしてくれ」
レイヴンの中では既定路線が作り上げられているようだ。リオルが期待通り凄腕冒険者になるための。期待なんて言葉をレイヴンが冒険者に使うのはラピスが知る限りはじめてだ。この街最強の冒険者にも言ったことはない。もちろんラピスもそんな言葉を掛けられたことはない。
「……分かったわ。その依頼引き受けてあげる。ただしこの貸しは高く付くわよ」
「高利貸しか。そうだな、それじゃあこの間お前が行きたがっていたクエストがあったな。自分の実力では達成は厳しいかもしれないといって見送った、ね。それに付き合おう。クリアのことは考えなくていい、お前の好きなようにクエストをやってくれ、俺がフォローする」
「ふーん、悪くはないわね」
依頼の報酬内容を聞き上機嫌の表情で答えるラピス。
「お前のレベルが上がれば俺にも益になる。お前の夢はこの国屈指の冒険者になることだったな。なら今のレベルで満足する気はないだろう。この国屈指なんて言わず世界有数の冒険者になってくれるのを期待したいね。まあ、俺が心配する必要はなさそうだが。とにかく交渉成立だな」
「そう……。ねえレイヴン」
「なんだ。まだ交渉をねばるつもりか。ならレアアイテムでもつけようか。一つくらいなら」
「ごまかさないでくれる」
先程の上機嫌から打って変わり怒りを露わにするラピス。突然のことに驚くレイヴン。
「たしかに報酬内容は魅力的だけど、今考えたように思わせて予め報酬を決めておいたでしょう。追求されるのを防ぐために」
「追求? なんの?」
「当然、依頼内容の真意を。相手が欲しがるものを用意して食いつかせてはぐらかす。仮に拒否されてもすぐに他の報酬を提示して考える余地を与えない。貴方の常套手段じゃない。それほど訊かれたら困るものなの? 観察とは言ったけど監視と言ったほうがいい内容だし」
ラピスに追求されレイヴンは表情こそ変えないものの瞳の色は変わっている。手痛い部分を突かれたといったところだ。
「動向を監視したり強くなる手伝いをしたり一体何が狙いなの。あの子が強くなったらどうするつもり? 何をさせるつもりなの? 良からぬことを企んでいる訳じゃないわよね」
追求するのをやめないラピス。外方むいてレイヴンはため息をつきなんと答えようか考える。何も答えなければこの事をリオルたちに明かされるかもしれない、かと言ってごまかすことは出来そうにない。
背を向けてしまったためラピスからはレイヴンの表情は見えなくなってしまった。次に振り返るときには本当のことを話してくれるのを期待するだけだ。振り向くことなく会話をするなら本音を明かす気はないということだろう。もしそうなった場合はレイヴンがラピスに寄せる信頼はその程度ということだ。
不安を感じたがレイヴンはすぐに向き直り会話を続けた。
「ラピスって面倒な奴だよな。お前の言う通り相手が欲しがるものを用意しておだててやったんだから、上手い具合に乗せられてくれていたら良かったものを。本当に可愛くないな」
「今度から不用意に相手を褒めないことね。他人なんてどうでもいいと思っている貴方が本当に興味をもった人間にむける言葉とではかなりの温度差があったわよ」
「そうか。……そうか、今度から気をつけよう。特にラピスって面倒な奴には」
「それで話す気になったの? それとも嘘ついてしらばっくれる魂胆かしら」
「嘘か真かはお前の判断に委ねるかな。ただ俺も数少ない友人を失いたくはないな。観察して情報を欲したのは横取りされたくないから。色んな意味で。例えばあいつが成長の芽を摘まれそうになるなら、その前に俺がその障害を取り除いておく必要がある。じゃあどうしてそこまでやるのかと言うと一番はあの子に俺に匹敵する実力者になって欲しいから。強くなった後どうするかについては言えない。悪いようにはしない、良いようにもしないが。まあ、こんなところだ」
「色んな意味で横取りされたくない。これはまた抽象的な言い回しね。解釈の仕方でかなりの意味が含まれるけど」
「事実そのとおりだな。あれだけ可能性を秘めているから邪魔に思う者が現れるかもしれない。花が咲く前に踏み潰されては困る。あとゴッズギフトを集めているようだから俺とバッティングしないようにね。もし彼らが俺の求める類のゴッズギフトを手に入れたら……そうだな、同等の価値のあるゴッズギフトとトレードを持ちかけるかな。他にも聞きたいことはあるか? なければ依頼を受けるかどうか決めてほしい。あいつらに対して後ろめたいと思うなら断ってくれていいよ」
「はあ。……レイヴンってすごく面倒な奴よね。いいわ、引き受けてあげる。悪いようにはしない、この言葉を信じてね」
「そうか。じゃあよろしく。俺はクールに去るぜ。クエストから帰ってくる頃にはまた来るよ」
話がまとまるや否やレイヴンは立ち去る。
依頼を受けたラピスはこれで良かったのか悩む。リオルたちにばれないように観察するというのはたしかに後ろめたい。当面の間は気分が晴れそうにはない。そんなラピスに去り際のレイヴンが言う。
「引き受けてくれてありがとうラピス。嫌になればいつでも放棄してくれ」
一応の選択肢を残してレイヴンは去っていった。
※
あの日受けた依頼を律儀にこなすラピスはリオルの情報を仕入れるため色々と話す。悪いことをしているわけではないがやはり後ろめたい。
今回は実に多くの情報を得られた。戦闘中に武器を変化させられたことは能力の成長といえるし、傷を治してもらったとはいえ、あれだけダメージを受けてももう動き回れる体力と回復力。リオルならば本当にレイヴンが求める存在になれるかもしれない。ラピスにもそう思えた。期待という言葉とは裏腹に後ろめたさから気分は曇り気味だが。
「ラピスさん、着きましたよ。ボーっとしてどうしたんですか」
目的地に到着したことを知らせるトリフェン。他の者は下車し始めていた。ラピスも馬車を降りる。
降りた先に広がる景色は噂に違わぬ絶景だった。
すでに降りていたリオルとジーンは子供のようにはしゃいでいる。近くは崖になっているから落ちないように気を付けて欲しい。
もっと景色をよく見ようとラピスたちも崖の近くにいく。
崖下には花畑が広がっていた。崖の上にも多種多様の草花が咲いているが崖の下の花畑はそれ以上だ。ガイドブックをもつエフィムがこのスポットの情報を調べるとこの時期がもっとも花の咲く数と種類が多くおススメのようだ。中でもローダンセ、ニリンソウ、ゼラニウムの花が素晴らしいとガイドブックに書いてある。たしかに情報通り素晴らしい沢山の花が絨毯のように柄をなして咲き誇っている。これだけでも見に来た価値があったと思えるが、花畑の先には小川が流れておりさらに川を登ると滝が幾重にも連なっている。時間帯によっては虹もかかりさらに美しい光景を拝めるそうだ。滝マニアも満足の幻想的な滝、大満足ワールドだ。
ドラゴンのゴタゴタがあったせいで忘れてしまいそうになるが現在はクエストの途中。長居はできないがじっくり見るくらいの時間はある。休憩がてらの観光だ。
「ドラゴンのトラブルはあったけど目的の場所に来られて良かったわねユージェニーさん」
霊獣とゆっくり観光するユージェニーにラピスは話しかける。
「はい。あの場所で囚えられたままだとどうなっていたことか。皆さんには本当に感謝しています。特にリオルさんには生命の危険を犯してまで助けていただきました」
今回の件でMVPを獲得したリオルは現在ジーンの指導の元、創作ダンスを踊っている。イヤイヤなのかノリノリなのかは分からないがエフィムも一緒に踊っている。
しばらくするとダンスに飽きたのか三人は花を摘みはじめた。リオルが草花を摘む目的は食用だろう。摘みながら食べているのでまず間違いない。ほか二人はなぜ摘んでいるか分からないが。
「花なんて摘んでどうするの」
気になったのでジーンに直接聞いてみるラピス。
「リオルの食用とフィルへのお土産に」
「あの子、花好きなの? 意外ね」
「いえ別にあいつ花好きじゃないっすよ。このローダンセの花が好きなだけで。なんでも花言葉が気に入っているとかで」
「花言葉ね。言われれば気になるけれど、言われないかぎり気にしたことはないわ。それで、なんて花言葉なの?」
「フフフ、忘れました。俺はフィルと逆で花は好きですが花言葉には興味ないので。でもたしか友人に贈るなら最強の花の一つだって言ってましたね」
「友人に贈る花……」
雑学を一つ教えてもらいローダンセの花に興味を示すラピス。なんだかジーンが自分はなぜ花を好きなのか語っているがまったくそれに気付かない。
ジーンを好きに語らせておくとしてリオルにも声をかける。
「リオルさん、今日ドラゴンと闘ってみてどうだった? レイヴンと一緒にクエストに行くのならあれよりも強いモンスターと戦うことが普通になるけれど、まだレイヴンと仲間になりたいって思える?」
リオルに再度レイヴンを仲間にする意思があるか確認する。
「ヤー。だってレイヴンさん仲間にするとおもしろそうじゃないですかー。どんなゴッズギフトもっているかとか興味ありまぁす」
「俺もレイヴンさんがどんな衣装を持っているかとか興味ありまぁす」
レイヴンへの興味は損なわれていないらしい。
「だったら良いことを教えてあげるわ。あいつは旅団の勧誘やらは断っているけど、その理由は特にない。そもそも旅団に所属したら仲間にあわせて行動しないといけないとか考えるタイプじゃない。どんな状況でも基本好き勝手にやるから」
「あ、なるほど。ではどうすれば」
「方法は簡単。あいつが求めている仲間は冒険者じゃない。発明や趣味の仲間なら簡単になれるはず。ただそれだと冒険者としてチームを組むわけじゃないから、もう一つ趣向を凝らす必要があるけれど」
レイヴン情報を新たに入手し仲間にするための糸口を掴んだリオルとジーン。冒険者以外の切り口からアプローチする。盲点だった。だが冒険者として仲間にするのが目的なのだから、やはり簡単にはいきそうにない。帰ったら作戦会議をしなければ。
「頑張ってあいつを仲間にしなさい。ていうかしろ。応援するわ」
「ありがとうございます。でも、そこまでレイヴンさんのこと分かっているのにラピスさんのチームに入れようとはおもわないんですか?」
「こっちにも事情があってね。あいつから入れてくださいと言うのなら考えないでもないけれど。それより思いもよらないメンバーとチームを組ませるほうが面白そうだし。一度あいつに一泡吹かせてやりたいのよ」
「ふくざつなじじょうがおありで。んじゃあ、なんとしてでもレイヴンさんにアワふいてもらいましょー。カップにシャボン玉液をまぜてわたす。うん、イケる」
「たしかに引っかりそうだけど、そうじゃない。とにかくどんな手を使ってもあいつを仲間に引き入れてやってね」
レイヴンの勧誘は今後ラピスも手伝ってくれるそうで一応の進展を見せた。レイヴンルートが固定されたところで眼前に広がる美しい景色を見ながらひと時の間、篭絡作戦に花を咲かせてみた。
当のレイヴンはフィルに稽古をつけている真っ最中だった。
特段ハードな稽古をしているわけではないがフィルはへばっている。フィルの能力値があまりに普通すぎて稽古と一緒に基礎トレーニングしているせいだ。種族値が平凡ならせめて努力値くらいは鍛えねばなるまいとやって見たのだが稽古よりこちらのほうがきつかった。
そんなフィルにレイヴンが感想を述べる。
「ここ数日見てきたけど本当に普通だね、君は。というより向いていないと言うべきか。君は冒険者をやめた方がいいだろうね」
直球で冒険者をやめたほうが良いと言われてしまったフィル。
稽古をつけてもらいパワーアップを果たすつもりだったが逆に冒険者生命の危機に立たされた。どこかで選択肢を間違えてしまったのかもしれない。セーブポイントを見つける度まめにセーブをしてきたが、よく考えるとロードする方法はなかった。
ここで答えを間違うとある意味ゲームオーバー。フィルは慎重に選択肢を選びレイヴンの問いに答える。




