2.ドラゴン&ダンジョンズクエスト
ファードラゴンのデールンに誘導されリオルたちは洞窟に入る。いつドラゴンと遭遇してもいいように武器を構え進んでいく。
早朝に通り抜けた洞窟に比べると広く多少の光も差し込んでいる。ドラゴンが棲家にしているせいか他にモンスターの姿はない。無駄な戦闘を避けられるのは良いがかえって不気味だ。道や地形を覚えながらすすみ戦いやすい場所を模索したり逃げ道を確保したりする。高い位置まで登ってきたようで場所によっては崖のようになっており落ちると命の保証はない。ドラゴンと戦う場合はこのような地形で戦うのは避けたい。
「もうすぐです。僕のご主人が囚われている場所は」
思っていたより早く目的の人物がいる場所まで来られた。まず周辺にドラゴンがいないことを確認する。ここには居ない、全員安心する。霊獣の主はすぐそこの檻に囚われているらしい、中に人影もみえる。注意を払いつつ近づく。
檻の中の人物も気付きリオルたちを見る。
若い娘だ。美しい金色の長い髪がなんとも印象的だがそれ以上に傾注すべきは耳だ。少し長く尖っている。エルフの特徴と合致するが本物だろうか。この地方ではエルフはまったく見かけない。エフィムのような獣人系もほとんどいない。大陸の西側ならエルフの国があり多少見かけることもあるらしい。たしかにアケルナルの街から西側へ移動はしたが他国へ国境をまたぐほどは移動していない。本人に確認する他ない、が詮索するのもはばかられる。
「ユージェニー様。助けを呼んできました」
霊獣は主ユージェニーへ助けを連れて戻ってきたことを報告する。
「どうもレスキュー隊です。どのドラゴンをスレイヤーしましょうか」
救助に来たのか退治に来たのかよく分からない挨拶をするリオル。
「貴方がたは?」
「通りすがりのただの主人公です」
たしかに主人公だが違う、そうじゃない。ただでさえ旅芸人パーティに見られるのにさらに誤解を招きかねない。ユージェニーは明らかに困惑している。ファーストコンタクトは確実に失敗した。
「驚かせてしまったわね。私は地方都市アケルナルで冒険者をやっているラピスと申します。貴方の使い魔に助けを求められ駆けつけた次第です。火急のことにて大した用意もできずに失礼します」
リオルのミステイクをリテイクしようと礼儀正しく名乗りを上げるラピス。
「冒険者の方ですか。私はユージェニーと申します。名乗るのが遅れてしまい失礼いたしました」
ラピスの対応に安心感を得たのか丁寧に名乗り返すユージェニー。
「それにしてもデールンの姿が見えるとは思いませんでした」
「いえ私には見えません。見えるのはこのリオルさんだけです」
「そうでしたか。……これで見えるようになったでしょうか」
ユージェニーがそう言うとたしかにデールンの姿は見えるようになっていた。具現化したらしい。ラピスは会釈し感謝の意を示す。
「助けに来て頂きありがたいのですが、私をこの檻に囚えている相手はドラゴンです。その……逃げたほうが良いかもしれません」
リオルたちの格好をみるかぎり強そうには見えなかったのだろう。そりゃそうだ誰一人防具らしい防具を着けていない。逃げたほうが良いと言われても仕方がない。全員が「ですよねー」という顔をするが普段からこの格好なのでどうしようもない。
「お言葉ですがユージェニーさん、それはいささか早合点がすぎるというものです。実はこのリオルさんはある珍しい個別の能力を持っておりまして、その能力を使用すれば子供の姿から大人の姿に変身することができるのです。その変身能力をもってすればドラゴンとだって戦えるでしょう。ではリオルさん、張りきってどうぞ」
実力を証明しようと強引に変身する展開に持っていくラピス。
「アイマム。刮目せよ!」
颯爽と変身するリオル。変身後なら戦士として申し分ない姿だ。
その姿を見てユージェニーも納得したようだ。
「リオルさんはご覧頂いた通り。他のメンバーもレベルはまちまちだけれど、リオルさん以上の実力者もいます。見た目だけで冒険者は判断できませんよ」
自信満々に言うラピスだが「それは言いすぎだろう。リオルより強いのあんただけだろ」とジーンは強く突っ込んだ。心の中で。
しかしユージェニーを安心させることには成功したようで信頼も得られた様子。
「分かりました。では改めてお願いします。どうか私たちをドラゴンからお救いください」
「もちろんよ。それじゃあドラゴンに関する情報や何の目的で貴方を囚えたのか分かることを教えてもらえるかしら」
早速ラピスはドラゴンの情報を得ようとする。ドラゴンの強さ次第でこのあとに取る行動が変わる。ラピスがこのパーティで戦えると判断すれば戦闘。厳しいならユージェニーを助けて逃げる。この場合ドラゴンが後を追ってくる可能性が高いので冒険者ギルドに掛け合って正式なドラゴン退治のクエストを作成。レイヴンに頼るという手もあるが切り札はとっておくもの。それに安易に頼ると「手に負えない相手にちょっかい出して逃げ帰るとか、お前本当に勇者の孫?」と言われラピスの胃に負担がかかる。最終手段にすべきは明白である。
「この洞窟のドラゴンは人の言葉を話せます。普段は人に近い姿の二本足で歩いていますが戦う時になると姿を変化させ完全な竜になっていました」
「人に近い姿をしている……ドラゴニュートみたいな種族か、だとしたら姿を変化、これは一体。……他には何か分かる?」
これは変身能力をもったドラゴンということだろうか。だとすれば危険な相手かもしれない。ラピスは思い当たりがあるのか、一人頭を働かせている。他のメンバーは黙って二人のやり取りを見守る。
「すみません。他に戦いのお役に立ちそうなことは何も」
「そう。どうして貴方を囚えたのかは分かる?」
「ドラゴンに捕まったのは二日前です。この近くの町に滞在しているのですが、近くにとても美しい景色があると聞いてデールンと二人で遊山に行ったのですがその時にあのドラゴンと遭遇してしまい……」
「捕まってしまった、と。偶々居合わせたせいで……なんというか、その、運が無いわね」
「はい。私もそう思いました」
そういうとユージェニーは気落ちしてしまう。言葉を選んだつもりだったが不味かったようだ。
「気にすることないわよ。すぐにでも町に帰れるから。でもどうして貴方を攫ったのかしらね」
すぐさまフォローを入れ話題をそらす。だがラピスの思惑通りにはいかずユージェニーは暗い顔のまま、むしろ悪化した。さすがにラピスも焦りだす。
「それは僕がお話します! 聞いてください、ひどいんです!」
デールンが会話に入ってきた。完全に落ち込んでしまった主の代わりに話すつもりなのだろう。正直なところ、これにはラピスも助かった。
「捕まっている間はロクな食事を与えてくれなかったし、隙をみて逃げた時も攻撃してきて。あれ絶対僕を殺すつもりでした!」
「お前の苦労話かよ」全員がツッコんだ。心の中で。とはいえあの空気を壊して話し手を担ってくれたのだ、好きに喋らせてみる。
「それにユージェニー様は嫌なのに結婚を申し込んできて。断ったらこんな檻に閉じ込めて無理矢理自分の嫁にしようとしているんです。ひどいですよね」
「……はあ?」
予想だにしなかったドラゴンがユージェニーを攫った理由にラピスは面食らう。
「なんだそのドラゴン。性欲を持て余してやっちまったのか」
「普通に最低だね。そのドラゴン」
「レイヴンさんだってそこまで横暴じゃないよね。ものすごい傲慢だけど」
「そもそもレイヴンさんが横暴なのはラピスさんの時だけだし。相手が喜ぶ範囲でしか我儘通さないしね」
「私は喜んでないんだけど!」
本気でキレるラピス。全員怒りの矛先がドラゴンに向く中、思わぬ方向から流れ弾が跳んできた。
「お嬢さんだけ助けて帰っても絶対追ってきそうだし、やっぱここで狩っておくべきだよな。去勢くらいはしてやろうぜ」
ドラゴンをどうすべきかジーンが話す。他のメンバーもこの場でどうにかする必要があると思っているようだ。
「そうだね、ここで殺しておくべきだよね」
リオルが物騒なことを言い出した。かなりキレのあるジョークだ。
「無理矢理結婚。何それ、身勝手にも程があるでしょう。人の人生を何だと思っているのか」
ジョークではなくかなりキレていた。怒鳴るような口調でないが、確実に怒りが込められている。今日は皆してよく怒るがリオルの怒りは際立っている、激昂していると言ったほうが正しい。
はじめみる、リオルが本気で怒るのを。普段大人しいやつほど怒ると怖いというが、今のリオルがまさにそんな感じだ。
穏やか心を持ちながら烈しい怒りによって超戦士に目覚めたのか。と、ジーンは言おうかと思ったが止めた。茶化してはいけない、今のリオルに冗談は通じそうにない。
「そのドラゴンは今どこに?」
リオルはユージェニーにドラゴンの居場所をたずねる。
残念ながら檻の中のユージェニーにはそこまでは分からない。先に檻から助け出してドラゴンを探しに行くことにすると、エフィムが耳を動かしながら言う。
「やっぱりドラゴンから退治するほうがいいかもね。奥から何か近付いてきてる」
耳の良いエフィムがいち早く気付いた。洞窟の奥から足音が聞こえてくる。奥は暗がりになっていてよく見えないが何かがこちらへ来ているのは間違いない。
「さすが耳いいな。目はどうだ、暗がりの中に何がいるか見えるか」
「耳と違い目はそうでもないね。ついでに鼻も普通」
獣人とはいえ基本人間、能力的にはほぼ変わりない。耳の良さと、尻尾によるバランス感覚の良さは確かなものだが。
それに何かがいるとは言ったが、その正体は分かりきっている。ジーンたちにも足音が聞こえるくらい近付いてきた。もうすぐ暗がりから出てくる、いよいよドラゴンとご対面だ。
闇から姿を表したのはユージェニーの情報通りの人型に近いドラゴンだ。速度を変えることなく二本の足で歩き、冒険者たちの前まで来ると立ち止まった。
「なんだお前たちは、ここで何をしている」
棲家に入り込んできた人間たちに問いかける。
低く不気味な声で威圧するドラゴン。対してラピスが前に出る。
「へえ、本当に喋れるんだ。もっと人に近い姿かと思っていたけど違うのね」
まったく物怖じせずドラゴンに話しかける。
「無礼な人間め。我は竜なり、人の姿をしているわけがなかろう。ここは我の住み処、何をしにやってきたのだ人間」
強い口調で再びたずねる。
「檻の中のお嬢さんを助けに来ただけよ」
「なんかコイツ頭悪そうだな。冒険者がここに来る目的なんて竜退治とお姫様救出に決まってるじゃねーか。普通の人間がこんなとこまで来るわけねーのに、見てわからんかね」
大した知能を持っていないと思ったのかジーンが煽る。
「無礼な人間め! 我を愚労するか!」
腹を立てたドラゴンが怒気を込めて言い放つ。
「さっきと同じ台詞。語彙力ねーな、やっぱアホだわ。それに威圧したり怒ったりすれば相手がビビるとか思っているし単細胞だわコイツ」
ジーンは怯むことなく煽りまくる。
「ぶれ……失礼な人間め。死にたいようだな」
「今また同じこと言うとしたよね? 強い怒り口調からちょっと強めの口調に下げてるし、めっちゃ効いてるやん。顔真っ赤やん。次から死なすとか殺すとしか言わなくなるぜ、絶対」
煽った上で次の一手を先んじて潰す。殺す系ワードを封じられたドラゴンは黙りこくって次の台詞を考える。ドラゴンが思いつくまで全員で待ってあげる。
「……ふん、興が削がれたわ。か弱き者どもめ、我を退治するなど笑止千盤。役不足にもほどがあるわ。今日のところは見逃してやる、とっと失せろ人間ども」
捻って絞り出した台詞がこれらしい。
「へー、俺たちじゃ役不足、ね。なるほど、なるほど。どうやら汚名挽回はできたようだな」
ジーンはニヤニヤ笑っている。
「ていうかさ、コイツが言った台詞最初から読み直したほうがいいよ。他にも変なとこあるよ絶対。漢字間違ってたりとか」
エフィムもはっきり馬鹿にした口調で言う。
「まあ見逃してくれると言うのなら、お言葉に甘えてユージェニーさんを連れて帰りましょう」
ドラゴンを無視してユージェニーを檻から出そうとする。
「ちょっと待て、おい! 見逃すってのはこのまま大人しく帰れという意味だ」
ドラゴンはツッコむが、ラピスたちは意に介さず檻を開けようとする。だが檻の格子は雑な造りにもかかわらず、結界か何か施してあるようで簡単に開くことができない。
「簡単に出られないようするなんてちゃっかりしてるわね。ちょっと檻を開けてもらえる?」
ドラゴンに檻を開けるように要求するラピス。
「ふざけるな! その娘は我の嫁となるのだ。欲しければ力ずくで奪い取るがいい」
「はあ……うざ」
結局戦闘することになるのかと、ドラゴンの横暴さと合わせて非常に鬱陶しい、ラピスはため息をつく。
リオルも我慢の限界をとうに超えていたようでドラゴンに向かって布切れを投げつける。
「力ずく、その方が分かり易い。どうせ戦って倒すつもりだったから」
啖呵を切るリオル。威勢はいいが何故か片方の足は靴と靴下を脱いでいる。さっき投げつけた布切れは靴下だったらしい。ドラゴンの前に靴下が落ちている。
「ほう、我と戦うか。巨大で偉大な存在の我を前にして実に勇ましいものよ。よかろう、望みどおり決闘しようではないか」
誰がいつ決闘なんて言ったのか。ラピスたちは全員で戦い有無を言わさず倒すつもりだ。
「ええ、もちろんよ。正々堂々サシでやりましょう」
リオルも決闘するつもりだった。これにはさすがに全員が驚く。
「ちょっと待てい! リオル、お前何言ってるか分かってんのか。相手はドラゴンだぞ。だいたいなんで決闘なんて話になってるんだよ」
慌ててジーンがリオルを止める。
「何を言っている。人間が相手に布を投げつけるのは決闘を挑む合図であろう」
ドラゴンはリオルが投げつけた靴下を指していう。
「そりゃ手袋投げた時だバカ野郎! リオルは単にむしゃくしゃして靴下投げただけだ」
「いえ、それで合ってるわ。手袋なくて靴下で代用したけど」
紛らわしいにもほどがある。頭に血が上って思考回路がおかしくなっているようだ。一旦リオルを落ち着かせ、それから勝負を挑もう。
「ここは狭い外にでてから戦おう。準備と覚悟ができたならば来るが良い」
ドラゴンはそう言い残し外に出るため洞窟の奥へと戻っていく。
「しまった。あのトカゲ野郎、勝手に決めやがって」
ドラゴンの方は決闘する気満々だが、こっちはまずリオルを平常心に戻す必要がある。
「リオル、とにかく落ち着け。本気で決闘するつもりか」
「当たり前でしょジーン。いまさら決闘をやめるなんてルール違反でしょう」
「人間同士ならな。決闘にこだわらず全員で戦おうぜ」
「何言ってるの。相手がなんであれルールは守るべき。破っていいならあのドラゴンがやっていることと大差ないでしょう」
「そんなこと言い出したら他のモンスターはどうなるんだよ。人間とモンスターは全然違うんだ。ケースバイケースで最善策を取るべきだろ。今大事なのはこの人を助け出すこと、お前の意地を通すことじゃないって」
「意地を通したいのは否定しないけど、ルールを通すのは意地じゃなくて信念を貫くこと。ルールを曲げないのは相手に対してだけじゃなく自分のためでもある。ここで決闘の誓いを違えればあの下種ドラゴンより精神的に劣ることになって、私の中にずっと残り続けるわ。そうなった場合ジーンが責任取ってくれるの」
「あー、もう! ああ言えばこう言う」
思いの外手強いリオル。完全に水掛け論になってしまっている。馬鹿を説得するのは難しいとはいうが、ここまで強情だとはジーンも思っていなかった。この中で一番付き合いの長いジーンでこれなら他の者では説得は不可能かもしれない。何とかジーンに頑張ってもらうしかない。
怒り心頭でジーンのいうことを聞き入れる気配のないリオルをみてラピスがついにせきを切る。
「リオルさん、貴方が決闘にこだわりたいのは分かったわ。でもここに来る前、一人で戦うつもりだった私に皆で戦おうと言ったのは貴方だったわね。筋を通すならまずその言葉から守るべきじゃないかしら」
「たしかにここに来るまではそのつもりでした。でもあのドラゴンの考えを知って、誰かの都合でここに閉じ込められているこの人をみて考えが変わりました。自分の人生は自分で決めるものでしょう。誰かの都合で未来が捻じ曲げられるのは許せないんです。だから正面からぶつかってあいつのエゴをぶっ壊してやるんです」
ラピスの言葉も今のリオルには一石を投じるには至らない。それどころかより強固な言葉となって返ってきた。言葉だけではなく眼にも強い意思が宿っている。これだけは絶対に譲らない、それを全身全霊で表している。
「決意は固いようね。ならユージェニーさんのこと、貴方に託していいのね」
「……はい。負ける気はありません。私は強い!」
リオルはまるで自分に言い聞かせるように声を張り上げる。
「それを聞いて安心した。思う存分戦いなさい」
決闘を認めたラピスは表情をやわらげエールを送る。ラピスでも止められなかったのを見て流石にジーンも折れることにする。
「まっ、決まっちまったものは仕方ない。だが頭はクールダウンさせておけ」
「タイマンか。いいね。頑張ってリオル」
「うぉー! 滾ってきた。リオルちゃんが勝つ方に1万ゴールド掛けた」
「すごい一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感を」
もう誰もリオルを止める気はない。代わりに熱い激励を送る。
「リオルさん、すみません。私のせいでこんなことに」
自分のせいでリオルに決闘させる羽目になったと謝罪の言葉を口にするユージェニー。
「いや、ほぼリオルの我儘だと思う。そしてもう決まった以上あとは応援するだけでいいよ」
ジーンの言う通り決闘はリオルの我儘だ。
「そうそう。私が戦いたいから決闘するだけ。すぐに倒してくるからもう少し待ってて。デルちゃんはユージェニーさんと一緒にいてあげてね」
ユージェニーとデールンにそう告げるリオル。
「じゃあ行きましょうか。竜退治に」
リオルを先頭にパーティはドラゴンの待つ決闘の場へ移動する。
今のリオルがどれだけドラゴンと戦えるか分からないが、勝つのを信じるしかない。
決闘の場は山肌がむき出しの荒野と呼んでもいいような場所で、派手に暴れ回れるくらい広いフィールドだ。所々岩が突き出ており身を隠したり足場として利用できたりしそうだ。
先に外へ出て馬鹿みたいに突っ立ているドラゴンの元へリオルは近寄る。
「逃げずによく来たな、褒めてやろう人間」
「トカゲの分際で偉そうに。先に外に出るもんだからてっきり逃げたのかと思った」
「笑わせてくれる。無様に命乞いするなら、見逃してやらんでもないぞ」
「お前こそ、頭と尻尾好きな方おいて逃げてもいいぞ。尻尾をおいて逃げたドラゴンとして語り継いであげるから」
決闘前から罵倒し合うリオルとドラゴン。
「おーっと、両選手いきなり火花を散らす! 戦いのゴングはまだ鳴っていないぞー」
リオルとドラゴンの様子を実況するトリフェン。長机に座りマイク片手にノリノリだ。
「両者気合十分ですね。ですがドラゴン選手はまだ変身した姿を見せていません」
ルビーの方は解説役を務める。ゲンドウポーズをとり、それっぽさをかもし出している。
ついでに二人が使っているのは『魔言句』というマジックアイテムだ。大抵『素比異歌亜』というマジックアイテムとセットになっており音声を拡張させる効果がある。主にギャグシーンで活用される。
「ええ、非常に気になりますね。変身するとどんなドラゴンになるんでしょうか。飛竜でしょうか、地竜でしょうか、はたまた独眼竜でしょうか。どう思われますか、ゲストのエフィムさん」
「……え!?」
素で驚くエフィム。いつの間にか放送席に連れて来られた。
「ちょっと音声が遠かったようです。改めて伺いましょう、ドラゴンはボールとクエストどちら派ですか」
「なんですか、これ」
トリフェンとルビーの実況と解説についていけないエフィム。
「甘いなエフィム。盗賊として優秀でもこの波には乗れんか。フィルだったらノッてたぜ」
「フィルの代役ってそこまでやんないとダメなの!? ていうかジーンがやればいいじゃん」
「無理。俺はリオルのセコンドをやる必要があるからな」
今のジーンはセコンドらしい格好をしている。タオルを羽織り眼帯に腹巻き、ついでに出っ歯になっている。
「決闘でセコンドって何やるのさ。ボクシングじゃないんだし」
「横から口出ししたり、倒れた時に、立てー! と叫んだりとかだな」
「割とどうでもいい! セコンドじゃなくても全員リオルの応援するじゃん」
「ここドラゴンのホームなのに応援ゼロだから実質アウェイだしな」
セコンドらしくドラゴンを馬鹿にして挑発するジーン。
「お前の仲間は騒がしいな。鬱陶しいぞ」
リオルに苦情を言うドラゴン。
「意見具申はラピスさんにでもどうぞ。それより早く始めよう」
「そう急くな人間。決闘の前に我の変身した姿を見せてやろう。これが我の真の姿だ!」
いよいよドラゴンとして本当の姿を披露する。躰が見る見るうちに肥大化していき、人に近かった体付きも竜のようになっていく。腕は前脚になり、皮膚は甲殻に被われ、背には翼も生えてきた。先程まで一笑に付していたジーンたちも伝聞どおりの竜へ姿を変えるのを見て緊張感が走る。
完全な変化を遂げたドラゴン。太く剛健な四本の脚で立ち灰白色の甲殻はまるで鎧のようだ。ドレイクと違いトカゲのような印象は受けない。体幹も脚も尾もすべてドレイクより太く大きく風貌魁偉と呼ぶに相応しい。
見るのははじめてだがまさしくドラゴンだ。何という種類か気になる。ジーンはラピスにたずねる。
「あれ、何ていうドラゴンなんですか。リオルは勝てそうですか」
この中で唯一ドラゴンと戦ったことがあるのはラピスだけだ。ラピスが知っていればリオルの分がどれほどか分かる。
「見たことないドラゴンだけど、鉄の鎧を思わせる甲殻の特徴に当てはまるのは鋼鉄竜だと思う。相当強力なドラゴンと聞くから、もし鋼鉄竜だったら勝てないでしょうね」
「そ、そんな。それってリオルが殺されるかもしれないってことですよね。やはり今からでも止めるべきでは」
「決闘をやめさせるのは無理よ。貴方も分かっているでしょう。まだ鋼鉄竜と決まったわけじゃないし、リオルさんの実力ならドラゴンと戦える可能性も残っている。ただ他にも気なることがいくつかあるけれど……今は見守るしかないわね」
決闘である以上見守る他ない。分かってはいたことだが歯がゆく思うジーン。他のメンバーも同様に思う、できることと言えば決闘の実況くらいだ。
「それが本当の姿か、分かった。尻尾はいらん、首だけ置いてけ!」
武器を構えるリオル。
「では始めようか。命をかけてかかってこい!」
ドラゴンが叫び、決闘が開始される。
開始と同時にリオルは突っ込む。相手がどう出るか、実力はいかほどか、様子見する気はさらさらない。直情的に先手を取ったリオルにドラゴンも応酬するが、緩慢なドラゴンの一撃はこともなげに躱される。対しリオルの一撃はドラゴンの脇腹に見事命中する。だが鋼のような甲殻が刃を拒み、金属音をあげながら剣が滑る。リオルの初手は斬撃が通らず相手の防御力の高さを味わった。
甲殻の硬さには驚いたがまだドラゴンは隙を作ったままだ、素速く動けばもう一撃叩き込める。そう判断して二撃目を繰り出す。甲殻が硬かった脇腹ではなく軸になっている後ろ脚に狙いを定め、刃が滑ったり弾かれたりしない様あらん限りの力を込めて剣を振り抜く。
今度は綺麗に攻撃が決まったが、またしても斬撃は通じていない。剣で思いっ切り叩きつけている分、多少の打撃ダメージにはなっている気はするがリオル自身へのダメージにもなってしまった。弾かれないように力を入れた分、逃げ場を失った衝撃が剣を通して手に伝わってきた。ずば抜けて腕力が高いリオルの馬鹿力が自分にも返ってきたせいで身体が痺れる。相手の隙をついたつもりが逆に隙をさらけ出してしまい、ドラゴンから反撃を受ける。リオルの一撃など効いていないと言わんばかりに攻撃を受けたばかりの後ろ脚で蹴り飛ばす。
なす術なくリオルは吹っ飛び勢い良く岩に激突する。衝撃で岩が崩れリオルは四散した岩の下敷きになってしまう。
生き埋めになったリオルを目の当たりにしジーンたちは驚愕の声を上げる。開始早々こうなるとは思いもしなかった。
「きゃー! リオルちゃんが埋もれたー! 始まって数秒でノックアウトならぬロックアウト状態だ!」
「今のは際どいあたりでしたね。イリーガルユースオブハンズにも見えましたが審判、ホイッスルを鳴らしません」
「いや今のは普通に蹴って攻撃しただけでしょう。ていうか審判って何? 誰がやってるの?」
変に熱の入った実況と解説に冷めたツッコミを入れるエフィム。
埋もれてはしまったリオルだが岩をかき分け起き上がる。
「ちょっと痛かった」
派手にぶっ飛んだ割にはピンピンしている。この程度では闘気は衰えないし興奮状態で大した痛みも感じていない。だが剣の攻撃がまともに通じなかった事実は変わらない。リオルは剣を刃物ではなく鈍器として扱うことで戦闘を継続する。
「やっぱり、剣の攻撃が効かなかったわね。思った通り」
リオルの剣が通じなかったのを見て胸中を明かすラピス。
「鋼鉄竜って斬撃が通らないほど硬いんですか?」
「基本的にはね。でもあのドラゴンの甲殻はキズ程度は付いているからまだ斬撃は効く方。問題はリオルさんが使っている剣ね。斬撃が通らない原因になるほど剣としては性能が低い」
「なんですとー!? それは一体どうして?」
「状況からしてそうとしか思えない。この間トロールのこん棒を一撃で真っ二つにできなかったし。振り回されているこん棒だから斬るのが難しかったのかとも思ったけど、今の戦いから判断すると間違いなく剣の斬れ味が悪い。変身して強くなるのに変身して作り出した剣が弱いなんておかしな話だけどそれが真相。推測を立てるなら初めて変身した時に作り出した剣をそのまま使っている可能性。剣を意図的に強化しないで使い続けてきたのなら本人だけが強くなっていても不思議じゃない」
推論ではあるが説得力がある。リオルならそんなうっかりをやりかねないとジーンは納得する。今までリオルが他の武器を具現化したことはない。他の武器を使う必要がなかったのではなくおそらくできなかったのだろう。できるのならドレイクと戦ったときにすでにやっていたはず、そうすればもっと優位に戦えたはずなのだから。
現に攻撃が通じていない今も他の武器を具現化したり、剣を強化したりすることもない。リオルは劣勢になっていく一方だ。
「この推測どおりだとしたら勝てる可能性はとても低いわね。今この場で具現化した剣をさらに強化するなんて無理だろうし、まったく新しい武器を具現化するのはもっと難しい。この決闘に見合ったレベルの武器があればあのドラゴンと戦える可能性はあるかもしれないのに」
苦戦するリオルをみてどうしようもないことにラピスは苛立たしく思う。セコンドをかって出たジーンもできることは何もなく同じく苛立ちを覚える。
ところがすぐに一つの考えが浮かぶ。まともな武器ならある。一昨日リオルは新たな剣を手に入れたばかりではないか。破格値で購入した武器だが性能はそれなりのはず、ジーンはそれをラピスに伝える。
「そう言えばこの間とは違う武器を持っていたわね。その武器はどこに?」
「あれ? どこだっけ」
リオルは今装備していない。今朝はたしかに装備していた。どこで外したか振り返ってみる。リオルが霊獣を見つけたときまではあった、洞窟に入ったあとも剣を構えていたのであった。檻に閉じ込められた娘を見つけた時も手に持っていた。そうだ思い出した、変身する時に邪魔にならないよう地面に突き立てていた。おそらくあのままだ。
「たぶん洞窟の檻の辺りにあるはずです。リオルのフォースチャンナントカソードは。すぐ取ってきます」
急ぎジーンはリオルの剣を取りに洞窟に戻る。
まともな勝負にすらなっていないリオルに勝ち目はない。ジーンが剣を取りに行っている間にも決闘は中断されることはなく続く。
斬撃が通る部位はないかとドラゴンのあちらこちらを斬りつける。甲殻の隙間、腹の下、翼膜までもが硬く剣で斬っても引っかき傷程度しかつけられない。眼や口内なら剣が効く可能性はあるが、弱点ともいえる箇所は相手も容易くは斬らせてくれない。感情的なって戦っていたリオルもさすがに旗色が悪いことに気付く。ここまででドラゴンの体力を1%でも削れたのだろうか。自分の体力は着実に減っていく、打開策はないものかと足りない頭を働かせ考える。
「ご注文の品お持ちしました!」
息も絶え絶えにジーンが戻ってきた。リオルの重い剣を抱えているせいで走るのは遅いし今にも息が止まり事切れそうなのでラピスが剣を受け取りそのままリオルの元へ投げ飛ばす。
「リオルちゃん、新しい剣よ! 受け取って!」
実況によりすぐに気付いたリオルは飛んできた剣を受け取り持ち替える。
ラピスが新しい剣を投げてよこした理由は説明されずとも分かった。リオルも他の武器が欲しかったところ、助け舟に感謝し元気溌剌になる。
「これで勝つる!勇気百倍! ていうかこれでダメなら負け確だし」
後がなくなってきたリオルに対しドラゴンはあくびの一つでもかます。このあくびは攻撃技でもなんでもないので眠りを誘う効果などは特にない、完全に余裕綽々の振る舞いだ。
若干しゃくにさわる挑発行為だが、それに乗るほど闘い下手でもない。裏を返せば今のリオルは冷静に闘う必要があるほど余裕がない。
ドラゴンの出方を見つつリオルも攻撃に移る。
具現化した剣は大剣ではないがリーチのある両手剣。違ってこの断剣は見た目はデカイがリーチは普通の剣と同じくらい。先までの闘いと比べてより大きく相手の懐に踏み込む必要がある。今までより攻撃時のリスクが明らかに増す。ドレイクより動きが緩慢とはいえ動き自体が決して鈍いわけでもない。
慎重に立ち回りつつドラゴンの隙を見つけたとき、リオルは断剣を振り抜いた。
大きく踏み込み狙いをつけ、そして剣が当たる。




