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5話1.ニューウェポンは伊達じゃない 

 フィルはレイヴンのもとで稽古中。フィル(主人公)不在につき本日のクエストは休業です。

 うそでーす。リオル(主人公)健在のため本日も営業日です。

 稽古をつけてもらうようになって早数日。フィルは鍛錬に(いそ)しむためクエストに行くことを禁止されていた。きっと(から)く過酷な修行をしているに違いない。

「次に会うときはワンランク上の男になったオレをみせてやる」

 とか何とか言っていた。

 修行が終わるまで会わないという意味だろうか。同じ街の同じ地区に住んでいるのだからどこかで会うだろう。馬鹿だからそんなことにも気付かないのか。

 もう一つ難癖つけるならば『(おとこ)』ではなく『男』なのがフィルの限界か。所詮は主人公の中でも最弱、冒険者のツラ汚しよ。どうせなら『(おとこ)』とでもいっておけば主人公としてワンチャンあったかもしれない。

 クエストに行くことができないフィルだが色々と根回ししたようでしばらくの間、友人のエフィム少年が助っ人としてメンバーに加わっている。職業も同じ盗賊なので一緒にクエストをやりやすかった。

 ノエルたちにも話を通し、たまに共同でクエストに行くようになった。ジーンにとってこれは、はっきり言って余計だった。控えめに言ってもクソだった。クエストに首を突っ込んでくるノエルの首を便器に突っ込みたくなるほどビチグソだった。ノエルにとっても同じではっきり言って拷問だった。控えめに言ってジーン禿()げろと思った。実際に言ってみたらその仕返しにトイレに入っている時に灯りを消された。こちらも仕返しに奴のゲタ箱にニセのラブレターでも入れてやろうと思う。だがこれをやると命の危険を伴うのでやっぱり止めておこうと思っている。

 フィルの気配りは気が効いていないとジーンは思った。どうせならバカのノエルなんかじゃなくラピスさんのチームとクエストの約束でも取り付けてくれればいいのにと思う。そう思っていたら数日ぶりにフィルが会いに来た。修行を終えていなければワンランク上がってもいない。数日前に自分でいったことをもう忘れたのだろうか。用向きを聞くと明日ラピスさんとクエストの約束を取り付けてきたぞ、とフィルは答えた。ジーンは歓喜した。やはりフィルは気が利くやつだ、控えめに言ってマブダチだ。

 これが昨日の話である。つまり今日はラピスチームと共にクエストに行く。エフィムも今日は助っ人してくれる。今日はいい感じのクエストになりそうだ。

 この数日の間にジーンは攻撃魔法を一つだが修得していた。常闇の風「ダーケストエアリアル」黒い気泡を作り相手にぶつける魔法だ。たまに状態異常「くらやみ」にする。レベル1の基礎魔法なので大して強くはないが、格好良かったから修得してみた。

 リオルもついに新たな武器を手に入れていた。昨日三人が揃ったおり武器屋に行って例のあの剣を購入したのだ。

 普通の剣と長さは変わらないが身幅と肉厚が数倍はある頑強そうなあの剣だ。剣の名前は「断剣フォースブレイカー」といって力づくで断ち切ることに特化した剣らしい。武器屋の店員がそう言っていたので間違いないはずだ。昨日名前を聞いたのだが今日には「フォスちゃん」とリオルは武器の名前を呼んでいた。

 リオルもジーンもパワーアップした。きっとフィルも凄く強くなって帰ってくるだろう。なんせ修行をしているのだ。パワーアップイベントをやって強くならないわけがない。ワープ進化(シンカ)やメガ進化(シンカ)レベルの強化になることは疑う余地もないだろう。期待しているぞフィル。



 クエストの集合時間までリオルは素振りをしていた。冒険者ギルド直営の宿屋。初級冒険者の間は格安で利用できる。部屋が狭かったり風呂やトイレは共用、タバコやペットは禁止などのルールはあるが家を借りて住むより安いのであまり気にならない。宿屋からギルドは近いし、運動公園のような広場まである。ここでなら素振りもし放題。この街に来てからの間、そして当面はここがリオルの住み処だ。ベストプレイスだ。

 新たな武器を手になじませるため昨夜もやったのだが木製の剣と違い金属の剣は振り心地が違う。素材の金属は何といっていたか。エスプレッソだかスプライトだかそんな感じの名前だったが忘れた。どうでも良いことはまずリオルの記憶には残らない。とにかくそれなりに強い金属を使っているらしいし、何よりこの剣はお気に入り。それでいいのだ。

 木剣とは別物とはいえ長さは似たようなものもう殆ど使いこなせるようになっている。これなら今日のクエストもバッチリだ。ここいらで一息入れる。

 今日は数日ぶりにラピスと会うしまた戦いぶりを見てもらおう。フィルもレイヴンに稽古をつけてもらっている。戦士職じゃないのに中々の頑張りだ。メチャクチャ強くなって帰ってくるに違いない、絶対そうだ。本職の自分が負ける訳にはいかないだろう。リオルも自分のレベルを上げることに励む。

 程なくしてジーンとエフィムが迎えにやって来た。そろそろ時間だ、集合場所に向かう。ラピスチームはクエストを受け馬車を手配している最中らしい。



 待ち合わせ場所に行くとラピスチームが出発の準備を終えて待っていた。

「おはようございまーす!」

 リオルは元気に挨拶した。

 これで全員揃った。予定の時間より少し早いがクエストに向けて出発することにする。今回のメンバーは前回ラピスたちとクエストに行った時とほぼ同じ。違うのはフィルとエフィムが入れ替わっていることだ。

 今回のクエストは前回と似たような内容だが目的地が遠方にあり2、3日かかる予定だ。リオルたちにとってははじめての遠征クエストになる。

 馬車に運ばれていくので移動自体は楽だが長距離の移動、道中時折だがモンスターと遭遇した。逃げられそうな時は馬車を飛ばして逃げるが無理な時は戦闘して撃退。これを何度か繰り返した。

 昼過ぎには食事をするために休憩を取ったがその後はまた馬車に乗って移動する。かれこれ数時間はこの状態だ。モンスターと遭遇することがあるとはいえ、たまにだ。戦闘してもすぐに終わる。リオルはちょっと飽きてきた。引っ切り無しに窓の外を見る。ジーンはまだ大丈夫のようだ。エフィムも本を読んで時間をつぶす。

 リオルが外を眺めていると道の先に橋が見えてきた。かなり大きな橋だ。

「はしがみえるよ。すごーく大きいー」

 その言葉にジーンとエフィムも外を覗き込む。

「あれがかの有名な渡るとモンスターが強くなる橋か」

「あの「モンスターが強くなる橋」を越えたら次は洞窟だね。洞窟を抜けた先が今回の目的地になっているよ」

 目的地が近いことをエフィムが説明する。

「え、何お前、もしかして来たことあんの?」

 やるじゃない。といった感じにニッコリ笑いながらジーンが聞く。

「この辺りまで来るのははじめてだよ。今のはガイドブックに書いてあった」

 ガイドブックを見せながら答える。

 「世界のあるきかた ワールドマップガイド-トゥナン地方- XX17年版」と表紙に書かれている。エフィムが読んでいた本はこれだったようだ。ガイドブックは冒険者向けに最適化された地図がのっており生息するモンスターやおすすめの採取スポットも書かれている。最新情報も多く掲載されているので傾向と対策が立てられる初心者から上級者までオススメのクエスト攻略本だ。

「このシリーズのガイドブックはおススメ。著作者が現役冒険者だから情報の信頼性も高いし」

「そうなのか。ちょっと見せてくれ」

 エフィムの持っていたガイドブックを受け取り読みはじめるジーン。

「ほう、これはなかなか。リオルも読んでみる――必要はないな」

 リオルにガイドブックを渡そうとしたところ、面倒クセという顔になったのでやめた。

 冒険者には探検、調査をメインに生計を立てる者もいる。情報を重要視する冒険者にとってはとても貴重で、高価な出版物になっても飛ぶように売れる。ただし売れるのは信頼性の高い情報を出している冒険者の本だけだ。

 ジーンはガイドブックをじっくり読み購入を検討する。


 馬車がモンスターが強くなる橋を渡り新たなフィールドに突入した。といってもすぐすぐモンスターが出るわけでもないのであまり実感はわかない。

 しばらく移動すると魔除(まよ)けの像がある辺りでラピスが馬車を止めた。魔除けの像があればモンスターは寄ってこない、今日はここでキャンプを張るらしい。日没まで時間はあるがこのまま進んで洞窟に入ると抜ける頃には夜になってクエストが困難になるので、今日は早めに休み翌朝早くに出発することになった。

 作業を分担し各自野営の準備に入る。テントを張るリオルとジーンだがこれが思ったより苦戦した。二人用の小さな物にもかかわらず何度か失敗し組み立て直した。エフィムは持前の器用さを活かしすぐにテントを組む。リオルとジーンが一つ完成させる間にエフィムは人数分を張り終えていた。こんな時こそフィルが活躍する場面だったが残念ながら不在。エフィムがその活躍を見せてくれた。

 あとは飯食って寝るだけだが食事の準備がまだできていない。仕方ないのでリオルは素振りでもして時間をつぶす。本当は料理の手伝いをする気だったのだが断られた。包丁と剣の区別をつけなかったのがダメだったのだろうか。それとも鍋に草をぶち込んだせいだろうか。唐揚げにレモンをかけようとしたのが不味かったのかもしれない。いやもしかしたらあれかも。考え出せばキリがない。どれも些細な事だと思うのだがなぜだろう。野草を摘みに行くのも禁止された。もう素振りするしかない、だから仕方ないのだ。ついでに言うとラピスもリオル同様料理に参加できなかった。本当に仕方がないので二人で素振りした。

 体を動かしたかいもありいい感じに腹も減った。出された食事をいただくだけになってしまったが実に美味い。

「うん、おいしい。スブリーしたかいがあったね。もっと肉料理があればかんぺきだった」

「まあ私が手を貸すまでもなかったわね。デザートもついてくれば完璧だった」

 キャンプ飯に注文をつける二人。

「何というか戦闘力が高いと料理の腕が低くなる傾向でもあるのだろうか」

 リオルとラピスを見ながらジーンが疑問を(てい)す。

「調理スキルを犠牲に戦闘スキルを上げる。あると思います」

「その理論で行くとレイヴンさんの料理の腕は壊滅的になるね」

 トリフェンとルビーもジーンの言葉に同調する。

「ありえる。料理中になぜか爆発して料理が完成しないレベル」

「むしろ料理したら家が爆発するレベル」

 トリフェンとルビーによりレイヴンの仮想調理スキルがマイナス方向にレベルアップしていく。

「だがちょっと待ってほしい。何でもかんでも爆発オチにするのはギャグとしてどうだろうか。レイヴンさんが爆発ネタやるとしたら街が、いや国が爆発するレベルでやってくれるはず。そしてアフロになったレイヴンさんが「爆発オチなんてサイテー」と言ってくれるはずだ」

「あー、なるほど」

 ジーンの中のレイヴン像はどうなっているのだろうか、納得するまわりも大概だが。

「話には聞いてたけど、そのレイヴンさんってそんなに強いんだ」

 エフィムはレイヴンに会ったことがないのでその強さが気になる。

「見るからに強そうだったぜ。まあ俺も実際に戦うとこ見たことはないけどな」

「へー、そうなんだ。あとその理論で行くとしてフィルが料理するとどうなるの?」

「そうだな。フィルが料理すると……ノエルが爆発します」

 結局爆発オチになった。戦闘力はともかく普通のフィルが料理すると普通の料理ができるだろう。

「フィルはレイヴンさんの勧誘もガンバってるかなー」

 稽古もそうだがレイヴンを仲間にするのも大事なことだ。リオルはフィルに期待する。

「そういや貴方たちそんなこと言ってたわね。まだあきらめてなかったの?」

 前回はじめて一緒にクエストに行ったときにもこの話をした。レイヴンを本気で仲間にする気なのかラピスがたずねる。

「ええ、そうですね。あの独創的なファッション。どこのオーダーメイドなのか聞くまであきらめる訳にはいきませんよ」

「それもこの間言ってたわね。繰り返しになるけど、あのファッションのどこが良いのか分からないわ。上着は左右で袖の長さが違うし、あそこまで左右非対称だと美しくないと思うけど」

 これも前回言われた。ジーンはまったく気にならなかったがフィルは自分がはいてるボトムを見つめていた。完全に左右非対称だったからだ。あの時のフィルは目からハイライトが消える実にいい表情をしていた。

「何言ってるんですか。あのアンバランスさこそが良いんですよ。型破りなデザイン、見たこともない金属の縫い拵え、控えめに言って芸術の域に達しているかと」

「ふーん。まあ……いいけど」

 いいけどの前にどうでもと小声で言ったように思えた。

 本当はこの間はじめてレイヴンと会って話した時に、この人には関わってはいけないのではと、リオルとジーンは感じないでもなかった。それでも魅力ある人物にはかわりないし何よりフィルは命を助けてもらってもいる。あきらめがつくまで勧誘するつもりだ。

 このあともこの場にいないレイヴンやフィルの話題となり夜は更けていった。



 翌朝。明けやらぬ薄暗がりの中、月明かりをたよりに活動をはじめる。

 洞窟までは近いのでここから先は馬車を使わない。ランタン(ランプのような何かに明かりをつけて携帯できるアレ)に火を灯し、馬を開放し、盗難防止のため馬車をロックする。御者(ぎょしゃ)つきなら馬車からはなれる時、あとを任せられて楽なのだが遠方に行くクエストだと危険が大きいので大抵、自分たちで馬車を動かすことになる。

 今回御者は付いていないがその分いい馬を借りている。普通の馬の数倍の馬力をもち、はぐれたとしても笛を吹けば戻ってきてくれる優秀な子たちだ。

 日が昇っていないので辺りは暗いまま、洞窟の中は月明かりすらない。最近は親切設計でランタンや松明がなくても進めるダンジョンが多く人気だが普通は必要になる。特にオープンでワールドなジャンルには必要不可欠だ。

 この洞窟は通り抜けるだけのダンジョンではあるが出現するモンスターは決して弱くはない。万全の準備を整え進入していく。作戦も立ててある。新しい武器の試しが足りていないリオルが先頭を行き突出して戦う。ジーンとエフィムがアシストに回る。ここまでならテンプレ通りだが強敵モンスター相手に三対一で戦えるように、モンスターが一体より多い時はラピスチームが他を対処しリオルたちは一体に専念する。この作戦のおかげでリオルたちは安定した戦闘をおこなえモンスターの強さの割に苦戦せずにすんだ。

 戦闘は手際よく進めていけたが洞窟の中は入り組んでおり、地図があるとはいえ迷わずに進むのは骨が折れた。これに関してはリオルが先頭を行く弊害ともいえる。戦士が先頭を行くのは様式美でもあるが、頭が残念な戦士がその役を務めるとダンジョンでなくとも道に迷うリスクがつきまとう。結果的にあちらを立てればこちらが立たずを実感できる作戦だった。

 こうやって洞窟を突き進みなんとか抜けることができた。山の向こうには太陽が登(サンライズ)ってる。もう充分辺りは明るくなっていた。

 洞窟の出口は山の中腹にあり眼下には樹海を確認できる。モンスターが徘徊する森とはいえ美しい風景だ。晴れた空に連なる山々、緑土に広がる森林地帯がクエストの舞台。山に囲まれているため人間は滅多に立ち入らず手付かずの自然だ。そのため森も山もモンスターの巣窟と化し放っておくと近隣の町や村の人間を襲ったり畑を荒らしたりする。安全を確保するために定期的なモンスター駆除を実施する必要があるのだ。

「いいね! この景色。絶景じゃないか、自然と笑いがこみ上げてくるぞ」

 綺麗な風景を目の当たりにしテンションを上げるジーン。

「どうくつをぬけても雪国じゃないし、そくし魔法つかってくるモンスターもいないね」

 リオルも興奮して辺りを見回す。位置的には大陸の南側になるのでこの地方には雪国はない。

「はーい、それじゃクエスト開始するけど、その前に作戦の打ち合わせよ。集まりなさい」

 ラピスの号令にハイテンションになっていたリオルとジーンが一旦落ち着く。

 この下の樹海には洞窟のモンスターよりも強い敵がわんさかといる。ベテラン冒険者に同行しているとはいえ下手を打つと大事になりかねない。ここはパーティリーダーからの作戦指示をあおぐためラピスのもとに集まる。

 その時、何か物音が聞こえた。リオルは立ち止まって何の音か、辺りを見回す。周囲の地形が音を反響させたせいでどこから音が発せられたのか分からない。

「どうしたリオル」

 周囲を気にしだしたリオルを見てジーンが声をかける。

「ものおとがきこえたんだけど、どこからかわかんないや。でもなんかいる気配がするような」

「音? 何も聞こえなかったけど、エフィムお前はどうだ」

 獣人のエフィムなら耳は他のものより優れている。ジーンはエフィムに確認をとる。

「物音みたいなのは聞こえなかったよ。気配も感じられないかな」

 困惑した表情で答える。エフィムにも聞こえなかったらしい。

 ラピスたちも同様で何も聞こえなかったと答える。何かいる気配も感じられない、リオルの勘違いではないか、と。

「うーん、そうなのかなー。気になるのでいちおう近くをみてきます」

 リオルは単独で周囲の警戒に出る。他のメンバーは誰も何の気配は感じないと言ってたしモンスターがいる可能性は低い。だから一人でも動けたし安心感もある。それでもあの物音が気になった。小さく遠くから聞こえた物音だったがたしかに聞こえた。勘をたよりに音の正体をさがす。

 やはり何かいる気配がする。感覚を研ぎ澄まし念入りに探すことにする。すると今度は声のようなものが微かに聞こえた。動物なのかモンスターなのか分からないが間違いない何かがいる。声が聞こえた方へ行ってみる。この岩陰の向こうだ。強いモンスターならラピスたちが気付かないはずがない、雑魚モンスターか動物か、いよいよ正体を拝める。

 リオルは岩陰から覗き込んだ。そこに居たのは毛むくじゃらの生き物だった。今まで見たことない動物だ。ファンタージェスにいた謎生物の類だろうか。太った猫くらいの大きさだしモンスターではなさそうだ。だが様子がおかしい、弱っているようだ。近くによってみる。

 白い毛並みの四足獣で小さな羽も生えている。なりは小さいが竜っぽくも見える、所謂ファードラというやつの一種か何かだろうか。怪我をしている、これが原因で弱っているのだろう。近づくと白い毛むくじゃらはリオルの方を見た。弱っているせいか逃げ出そうともしない。こちらをまじまじと見ている。

「……そこのお方。もし良ければ助けてはいただけませんか」

 白いむくじゃらはリオルに話しかけてきた。

「キャー、シャベッタアアア」

 謎生物が人語を喋ったことでリオルは大層驚いたそうな。

「はい、喋れます。もし良ければ助けてはいただけませんか」

「アイエエエ!ナンデ!?コワイ!」

「……あの、話を聞いて」

「アッハイ」

「実は悪いモンスターにつかまってしまい、助けを呼ぶために逃げ出してきまして。その時に傷を負い身を隠していたのです」

「あー、なるほど。だからよわっているんだね」

「はい。最後に故郷の土を踏みたかった、ガクッ」

「あ、死んだ」

 気絶しただけでまだ生きている。とにかくこのままでは不味いので手当してやる必要がある。

「何やっているんだリオル」

 帰りが遅かったのでジーンが様子を見にきていた。

「ちょうどよかったジーン。この子ケガしているみたいなんだ。手当してやってよ」

「……あー、お前いつも頭怪我しているよな。でもそれは魔法じゃ治せんぞ」

「ここでそんなボケをかまされるとは。そうでない、回復がひつようなのはこの子であってわたしではない」

「何? ボケたんじゃないのか。怪我人はどこだ」

「ここだよ。この子」

 リオルは横たわっている白むくじゃらを指して言うが、ジーンは回復魔法を使うどころか動こうとすらしない。一体どうしたのだろうか。困ったような顔をしてジーンは質問する。

「なあリオル、もう一度確認するが手当をというのは本気で言っているんだよな。ボケとかじゃなくて」

「あたりまえじゃん。なに言ってんの。よわっているし早く手当しないと」

 なぜジーンが回復を渋るのか分からないが早くしないと弱ってしまう一方だ。リオルは焦ってジーンに回復魔法を求める。

「そうか。お前が本気で回復を必要としているのは分かった。その上で言うがどいつが回復を必要なのか分からない。お前が指しているその場所には何も居ない」

 驚いたことにジーンは何も居ないと言い出した。とぼけて言っているわけではない本気で言っている。

 ジーンは目が悪いとかそういうことは言っていなかった。リオルは白むくじゃらを抱きかかえるとジーンに差し出してみせる。

「……この子なんだけど。……わかる?」

「いや、何も見えない。そこに何かいるのか?」

 やはりジーンは何も見えないと答える。確認のためリオルが抱えているという何かに手を伸ばす。何も見えないがそこには何かを触った感触があった。

「おわっ、何かいる。何だこれ、見えないけど何かがいるぞ」

「ジーンにはみえないんだ。オバケかな、この子。とにかく回復を」

「えっ? ああ、どうしたものか。……まあいい。くらえ! 痛恨の回復魔法!」

 ジーンは回復魔法を唱えた。

 魔法はたしかに発動した。だが白むくじゃらの怪我は治らない。

「この子のケガなおってないよ。どうして」

「やっぱりか。対象を認識できないと魔法を使っても回復効果は得られないからな」

 姿を確認できないジーンでは回復できないらしい。

「そうなの!? どうしよう、このままじゃ……」

「大丈夫だ。魔法が無理なら普通に治療するんだ。皆のところに戻って手当しよう」

 二人は急いでもと来た場所へと戻る。



「事情は大体分かったわ。霊獣か何かでしょうね」

 手当はすんだものの結局白むくじゃらの姿はリオルにしか見えなかった。なぜかは分からないが、フィルが妖精を見たときと同じように波長が合ったのではということで結論は落ち着いた。

「気になるのは捕まって逃げてきたってことね。詳しい情報がほしいけど……回復を待つしかないわね」

 ラピスの判断でクエストを一時中止し、白むくじゃらの回復を待ってさらなる事情を聞くことにする。

 まもなくして白むくじゃらは目を覚ました。思ったより回復している。処方したポーションが効いたのかもしれない。人間用の回復アイテムだけど。

「おー、気がついた。けっこう元気になったねー」

「回復したのか。状態を教えてくれ」

 ジーンをはじめ他のメンバーには姿が見えないのでリオルにたずねる。

「分かった。キミもうケガはだいじょうぶかな? ところで名前なんだっけ」

「僕はデールンといいます。おかげさまで大分良くなりました」

 白むくじゃら改めデールンが言ったことを他のメンバーに伝えるリオル。

「そいつあ何より。それでどんなモンスターから逃げているんだ。捕まった理由も含め詳しく聞いてくれリオル」

 ジーンに代わってリオルがデールンに質問しようとするが、こちら側の声は聞こえるようでリオルが代弁するまでもなく答えてくれた。

「そうだ、僕は助けを呼ぶために逃げてきたんだ。ところで皆さんは旅芸人の一座か何かでしょうか」

「あー、そう見えちゃうんだ。私たちは冒険者だよ。ここにはクエストできたんだー」

 個性的な面々が集うパーティにつきそう見えても不思議ではないが違うので訂正しておく。

「なんと冒険者でしたか。ではお願いです。私の主人が凶悪なモンスターに囚われているのです。助けてもらえないでしょうか」

「うん、いいよー」

 二つ返事でOKするリオル。

「え? そんな簡単に。いいのですか」

「大丈夫、大丈夫。みんなにもきいてみるからちょっと待っててー」

 今の会話を全員に伝えるリオル。

「人助け? いいんじゃね」

「僕も賛成かな。見捨てるわけにもいかないし」

「右に同じ」

「以下同文」

 皆、囚われの人物を救助に行くのは賛成のようだ。ラピスだけは悩んでいるようだが大丈夫だろう。次に発する言葉は「仕方ない、行きましょう」とかそんなところだ。

「まあ、いいけれど。ただそのモンスターの詳しい情報がほしいわね。説明してもらえるかしら」

 戦う相手の確認。これは大事なことだ。敵が強かったり数が多かったりするようなら慎重に行動しなければならない。

「情報は重要ですよね。僕に分かるモンスターの情報はまず、言葉を話すことができることです」

「ことばをはなせるモンスターなんだね。すごい」

 モンスターが人語を介せるという情報。重要なことだ。言葉を話せるということは高い知能をもっている可能性がある。

「モンスターの根城はあの山にある洞窟の中です。僕のご主人が囚えられているのもそこです。あいつの体の大きさはかなりのものです」

 モンスターの居場所と巨体であることの情報。リオルは他のメンバーにも伝える。

 強く大きく知能もある。霊獣が言うようにかなり凶悪なモンスターとみて間違いないだろう。

「ところでデールンさんとやら、そのモンスターの種族とかは分かるかね。分かれば策を(ろう)しやすいのだが」

 相手の種族の情報を欲するジーン。

「種族……詳しい種類は分かりませんが僕と同じドラゴン系です」

 相手は『ドラゴン』らしい。それを聞いたリオルはさすがに驚愕せざるを得なかった。

「……え?……え!?」

 仲間に情報を伝えるのも忘れて驚いている。

「どうしたリオル。相手はなんだ」

「相手はドラゴンだって。種類はわからないけど」

 その言葉に全員リオルと同じように驚愕した。

 ドラゴンといえば最上級冒険者が戦うレベルの相手だ。戦ったことも見たこともないがその強さと脅威(きょうい)は理解できる。リオルが戦ったドレイクもその仲間とはいえ「ドラゴンもどき」だ。上級冒険者以上が戦うようなモンスターとはいえ劣化ドラゴン、これが冒険者の常識だ。はたしてこのメンバーで勝てるのだろうか。各々深刻な面持ちで考える。

「ドラゴンの種類が分からない以上、たしかなことは言えないけど勝てない相手ではないわ」

 ドラゴン相手でも勝てないわけではないというラピス。

「一度ドラゴンと一対一で戦いたかったから丁度良いわね。ちょっと行って倒してくるから他のメンバーはここで待機。正午を過ぎても戻ってこなければ街に帰りなさい」

 的確に指示を出すラピスだが一人で行くつもりのようだ。

「ラピスさんまさか一人で行く気ですか。それにその言い方、まるで負けるかもしれないような言い方じゃないですか」

 不安を覚えたトリフェンが食って掛かる。

「馬鹿言いなさい。負ける気はまったくないわ。パーティリーダーとして当然の指示を出しただけよ。これがレイヴンでも同じような指示を出すと思うわ」

「でも相手はドラゴンですよね。勝算は如何程(いかほど)ですか」

 今度はルビーがたずねる。

「最低レベルのドラゴンなら問題なし、普通レベルならギリギリ。万が一相手が超級相当なら勝てない。でもそれはあり得ない、そんなドラゴンがいればこの辺一帯が無事なはずないでしょうね」

 状況からしてここにいるドラゴンは自分が勝てる相手だと判断したようだ。

「つまり苦戦することはあっても負けることはない。そういうことですね」

「その通り。勝算は高い、だから貴方たちはここで待って――」

「じゃあみんなでいけばもっと勝率あがるね!」

 ラピスの台詞にリオルが割って入る。勝手に「みんな」と言っているが。

「ドラゴンスレイヤー? いいんじゃね」

「ドラゴンボーンとか憧れるよね」

「こおり属性とフェアリー属性、どちらで攻めるべきか」

「竜退治か。帰ったらレイヴンさんに自慢できるかな」

 リオルが言わずとも全員そのつもりだったようでこの場に残る者は一人も居ないらしい。

「……まあ、いいけれど」

 こいつら馬鹿だし言っても無駄だと思ったのか、ラピスはすんなり承諾した。

 ラピスは意気昂然(いきこうぜん)と先頭に立ち自信に溢れた表情に笑みを含ませ出発の号令をかける。パーティはドラゴン退治するため洞窟へむけて出発した。

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