3.特典商法と導かれし者たち
今回クエストを行うフィールドは初めてクエストに行った時のような草原で丘陵地帯もある。加えて到着した地点のすぐそばに大きな湖が広がる。最大の違いはモンスターの数だ。はじまりの草原ではモンスターを探してまわる必要があるほど見掛けられなかったが、ここには見渡せる範囲内でもそれなりの数がいる。
モンスターは散見してこそいるがすべてがアクティブなわけではない。近付いたりこちらから攻撃を仕掛けないかぎり襲ってこないモンスターもいる。そういった類のは危険性が低く狩猟する必要はない。狩るべき相手はクエストで指定されている対象だけでいい。危険性が高いモンスターとだけ戦い、危険性が低いモンスターは刺激しない。これがクエストの鉄則だ。
先に馬車を降りていたトリフェンとルビーが準備運動している。魔法使いとは思えないほどアグレッシブだ。
「この辺りは中級モンスターがメインで出没するエリア。草原地帯だから戦いやすいけどクエストの対象地域になることが少ないのが難点ね」
「中級モンスターですか。リオルはともかくオレとジーンは歯が立たないと思いますよ」
「心配いらないわ。貴方たち二人には別のモンスターと戦ってもらうから。中級モンスターはリオルさんにやってもらうわ。リオルさん、貴方の変身能力は使用回数や時間といった制限はあるの?」
ラピスはリオルの変身能力について詳細を確認する。
「アレの使用回数は一日でだいたい4、5回ですね。時間の制限はない気がします。でも戦闘みたいな激しい運動をすると力を消耗するので、力がつきると変身状態は解除されます。ぎゃくに変身していても何もしなければ力を消耗することはほとんどありません」
個別の特殊能力はMPやスタミナ以外のものを消費する。消費することなく使える能力も存在するが変身能力のような強力なものになると大幅に消費するデメリットがある。
「あと使っている間は体の成長が邪魔されるみたいです。歳のわりにちっこいのはそのせいです。でも歳だけはしっかりとってますねー」
「成長の阻害ね……単なるリスクなのか、もしかしたら変身能力を完全に使いこなせていないのかも」
「特殊能力が不完全な状態か。そういったケースはあるものなんですか? 俺はそんな能力ないのでよく分からないのですが」
ジーンは個別の能力を持っていない。持っているけど気付いていないという可能性もあるが、本人が自覚しなければないも同然だ。
「私にも個別の能力は備わっていないから分からないわね。その変身能力は生まれつき? それとも何かきっかけに発現したの?」
特殊能力は先天的なものもあれば後天的なものもある。ある日突然、能力が覚醒することもあり得る。
「ある日突然、変身できるようになりました。理由は分かりません。大体6年近く前、剣の稽古をしている時になりました」
リオルの変身能力は後天性のものだった。理由も不確かで解決の糸口になりそうな情報はない。
「能力をはっきり知ることは難しそうね。剣の稽古なんて多くの人間がやっているし、能力覚醒の要因は他にあるとみてよさそうね。リオルさん、今ここで変身してもらうことは可能?」
「大丈夫ですよ。変身できる回数があるので何度もできませんが1、2回くらいなら問題ありません」
「良かった。この眼で確かめたかったから助かるわ」
「じゃ、さっそく。変~身!」
ポーズを決めて掛け声を上げると光りに包まれ変身しはじめた。またたく間に大人モードへと変貌を遂げパワーアップした姿を披露する。
「お待たせしました凄いやつ!」
「これがリオルさんの変身。昨日会った時の姿そのままね。体を変化させるだけでなく武器と防具まで具現化出来るとは」
ラピスはリオルと向かい合って立つ。変身したリオルはフィルと同じくらいの背丈があり装備もまともだ。木剣を振るっていたチビモードとは大違い。
トリフェンとルビーも気になり集まってきた。
「その状態になるとどれほど強くなっているの?」
トリフェンがたずねる。
「戦闘力は数倍に上がりますね。低級モンスターなら一撃で倒せますし、以前ドレイクとも戦って倒したこともあります。炎の息を吐かれたのは厄介でしたが」
「あの時はカッコよかったよなー」
「強かったよな。一対一で終始優勢。サベージドレイクの攻撃もほとんど防いでかすり傷程度だったし」
ドレイク戦の詳細を語るジーン。
「サベージドレイクを苦戦せずに倒せる実力か。相当なものだよね、やっぱり私たちより強そうだよ」
「私たちは上級ランクに上がったばかりだしね。超大型新人現る」
トリフェンとルビーは自分たちよりもリオルが強いと感じたようだ。
「実際に戦ってるところを見てみたいわね。トリフェンとルビーはモンスターを釣ってきて。出来るだけ強そうなのを」
「ラジャー」
二人はモンスターを探しに出かける。
「釣るって、水中モンスターか何かですか?」
「いやリオル、この場合の釣るはモンスターを引き連れてくるという意味だろう。そしてパーティ全員で一気に畳みかける」
言葉の意味が分かっていないリオルにジーンが説明をする。
「そう、その釣りね。今回はリオルさん一人で戦ってもらうけど、中級モンスター相手だから大した腕試しにはならないのが残念ね」
ラピスの言う通り、ドレイクを倒せるリオルにとって中級モンスターは物足りない。
「それでもリオルがどうやって戦うか見てもらったほうが良いよな。そうすればアビリティのことも含めてアドバイスをもらえるだろう」
指導してもらうためにはその方が良い、フィルがその旨を説明する。
「概ねそんな感じよ。個人的に見てみたいってのもあるけれど」
「分かりました。では思う存分戦わせてもらいます」
「お願いするわ」
張りきってリオルはウォーミングアップをはじめる。
数分後、トリフェンとルビーが戻ってきた。しっかり後ろからモンスターが追いかけてきている。
「戻ってきた。結構デカイの連れてきたな」
「あれはトロールだな。あのブッサイクなツラにたるんだボディ、だらしねえな。ところでフィル、分かっているな?」
「もちろんだとも。行くぞ」
フィルとジーンは急いで走り出す。トロールが来る方向とは逆の方へ。
「それじゃオレらは隠れているのであとはよろしくお願いしまーす」
「リオルー、草葉の陰から見守っているぞー」
草むらに身を隠し応援する二人。一歩間違うと墓の下に潜ることになるので安全を確保するのは当然の行為だ。
「……まあ、いいけど。貴方たち二人には他のと戦ってもらうから今はそこでじっとしてなさい。リオルさんは好きに戦っていいわ。トロールじゃドレイクとくらべて物足りないでしょうけど」
「かまいません。相手が何であろうと全力でいきます」
リオルは向かいくるトロール目掛けて走り出した。
闘争心あらわに駆ける冒険者を視界にとらえたトロールはうなり声を上げ迎えうつ。
剣をかまえ突っ込んでくるリオルにトロールのこん棒が振り下ろされ、リオルも剣を振り上げる。剣とこん棒が衝突するが突き上げるかのような剣の一振りがこん棒をはじき返し、トロールはのけぞる。体勢をくずしたところにリオルの追撃が放たれる。
強烈な一撃をあびたトロールは雄叫びを上げた。そこへもう一太刀、渾身の力を込めた斬撃で見事にモンスターを斬り裂いた。
何ら苦戦することなくトロールを倒す。中級モンスターでは相手にならないだろうという、想像通りの結果となった。
「ご苦労様。概ね予想通りだったわね」
ラピスが労いの言葉をかける。トリフェンとルビーはその強さに驚きはしゃいで賛辞の言葉を送っている。フィルとジーンは草むらから出てこちらへ歩いてきている。
「もう少し他のモンスターと戦ったほうがいいですか?」
「大丈夫よ。ここらじゃあのクラスが精々でドレイクに近い強さのモンスターはいないし、強さのほどは分かったから」
「分かりました。それでどうでしたか?」
どう評価されたのか気になりラピスからの感想をもらおうとするリオル。
「そうね。年齢、レベル、冒険者ランクからするとあり得ないくらいの強さね。間違いなく上級ランク、それもかなり上の方の冒険者に匹敵すると思う」
かなりの高評価を受けた。
「ちなみにレイヴンさんと比較するとどうですか。ていうかレイヴンさんはどのランクのモンスターまで無双できるんですか?」
今度はフィルが質問する。リオルの評価というよりレイヴンの実力についての調査という意味合いが強い。
「レイヴンと比べるとなると差がありすぎて説明しにくいわね。今のリオルさんが最上級冒険者より少し劣るくらいだとして、レイヴンは最上級冒険者5人がかりでも勝てないくらいかしらね」
「ええーっ?」
リオルたち三人はその評価の差に驚きを隠せない。
「しかもそれで本気じゃないんだよね。色んなスキルやアイテムを隠し持ってるし」
「冒険者になる前、アケルナルで一番強い超級冒険者と戦って引き分けたらしいし、全力で戦ったらどうなるんだろうね」
トリフェンとルビーがレイヴンの強さについて知っている情報をだす。
「超級? 冒険者にそんなランクありました?」
「超級は俗称だからね。最上級冒険者の中でもギルドポイントが一定以上の人がいて、そのレベルにならないと受けられないクエストが存在するから区分けするために超級と呼ぶよ」
超級冒険者を知らないリオルたちのためにルビーが説明する。
「そんなものがあったとは。リオルですら最上級冒険者にまだ届かないなんて、すごいな。俺とフィルは初級の中でも下の下だしな」
「最上級冒険者になるまでは知らなくても別に問題ないわ。それにそのレベルでドレイクとも戦えるなんて将来有望でしょう。あいつが興味をもつのも分かるわ」
やはりリオルの強さ、特に変身能力だろう、レイヴンやラピスでも好奇心をくすぐられるらしい。
「ラピスさん、さっきリオルのレベルのこと言ってましたが、もしかして正確なレベルが分かるんですか?」
詳細な分析ができるラピスに何か方法があるのか気になりフィルはたずねる。
「レベルは確かに分かっているけど、その方法があるのはレイヴンね。相手の情報の一部が分かるアイテムを所有しているから」
「これまた貴重なアイテム持ってるんですね。でもいいんですか。そんな情報をオレらに教えて」
「普通なら教えるわけにはいかないけど、本人が貴方たちには少し話してもいいと言っていたから大丈夫よ。そうしないと私も指導する時に不便だし」
本人からの了承を得ていた。酒場で過去の詮索をしたときにラピスに聞けとも言っていたし好都合だ。
「そうなんですかー。それはなんてアイテムなんですか?」
「アイテム名は言わないように言われているけどゴッズギフトよ。効果の一つに相手の名前、レベル、アビリティが分かる方法があるらしいわ」
「それで私のレベルがわかったんですね。さすがゴッズギフト、便利ですね」
「ね、便利でしょう。それに便利なだけじゃなくて相手のアビリティ構成が分かるのは戦いでも有利なんだよ」
そのアイテムの凄さをトリフェンが力説する。
「そうなんですか?」
「そうなんですよ。アビリティ構成が分かれば相手がどんな戦い方をするか読みやすいからね。まあこれはクエストじゃなくて決闘とか対人戦での話だけど」
「たしかに凄いアドバンテージだ。でも冒険者はモンスターと戦うものだしな、普通の冒険者はそこまでリソース割く余裕はないな。普通の冒険者なら」
ジーンが普通を強調する。
「あいつ街に戻ってくる前は傭兵とかやっていたらしいわ。だから傭兵目線で考えちゃんでしょうね」
また新たなレイヴン情報が出てきた。これなら自然な流れで過去の話を聞ける。
「レイヴンさんとは付き合い長いんですか?」
上手い具合にリオルが話を振る。
「あいつとは子供の頃同じ学校だったの。10歳くらいの時にあいつは違う街に引っ越してそれっきりだったけどついこの間、10年ぶりにまたこの街に戻ってきて再会したの。それから何やかんやであいつも冒険者になって一緒にクエストに行くようになったわね。だからレイヴンがこの街に戻る前に何をやっていたか詳しくは知らないわよ」
「そう言えば少し前に世界を旅してたと言っていたな。その時にゴッズギフト集めたり修行して強くなったのかも知れない。元傭兵か……戦場で戦うのがメインだったんだろうな。どんな風に戦っていたのかな」
傭兵時代のレイヴンがどんな存在だったのか気になるフィル。
「話を聞くかぎりロクでもなかったわよ。戦場でもティータイムは欠かさなかったって言っていたし、紅茶をこぼさず戦うのがあいつのいた部隊の信条らしいわ」
「戦場でも紅茶を嗜むとか、神話の国イギリスの出身か何かですか?」
この世界の説話にはイギリスという国が登場する。その国ではどんな状況でもティータイムを忘れないという。
「あの頭の可笑しさからするとあり得るわね」
「あの人のエピソードはとんでもないものばかりですね。でもさすがに慣れてきました。もうそう簡単には驚きませんよ」
「そうね。あと驚きそうな話といえば翼を生やして空を飛んだり怪光線を発射できることかしら」
「マジっすか!? どんだけビックリの引き出し持っているんですかあの人」
言ったそばからまたしても驚いてしまったフィル。
「人を驚かして楽しむのが生きる糧になるとか言ってたしまだまだあるでしょうね」
「翼が生えたり人を驚かして命の糧にするとか普通じゃないですね」
「普通じゃないわね。あいつはきっと駄天使の一種か何かなのよ。人をからかって楽しむなんて趣味が悪いし、まさしく悪魔だわ」
レイヴンのことを悪魔だと言い切るラピス。レイヴンのせいで日頃からストレスをためているのかもしれない。少しは鬱憤が晴れたのかラピスはちょっとだけ笑みを浮かべる。
「ラピスさん……何かそういったデータとかあるんですか?」
フィルがたずねる。
「え? いや、ないけど」
「証拠もないのに人を疑うなんてどうかと思いますよ」
リオルがまともな切り返しをする。
「いやでもね、日頃の行いがあいつ悪いし……」
「だからと言って本人がいない場所で陰口を叩くのはちょっと」
ジーンがラピスの言動をたしなめる。
「――くっ!」
「さすがに悪魔呼ばわりは……」
と、フィル。
「それラピスさんの感想ですよね?」
と、トリフェン。
「大人になりましょうよ、ラピスさん」
と、ルビー。
どうやらトリフェンとルビーもリオルたち側の人間のようだ。ようこそ馬鹿サイドへ。
それは油断だった。日々日頃から面倒事を押し付けられたりと不満は確かにあった。それでも断るのも忍びないと思い頼み事を今まで引き受けてきたのだ。たまには此方がからかうのも許されるだろうと、ほんの少しばかりの冗談だった。
そう、ほんの冗談のつもりだったが何故か馬鹿共には真剣に受け止められ正論を吐かれた。本当なら笑い話になるはずのものを淀みなき本心とし、それに相応しきは正鵠を得た論と言わんばかりに滔々と言葉が紡がれ返される。これほどの屈辱は早々ない。それが一つの支流であれば流れに逆らえたかもしれない、まつろわぬままで居られたかもしれない。だが彼の馬鹿共五つの支流によって作られた大河は越ゆること敵わず、流るること厭わず、清流の中でサンドバッグとなる外ない。後悔してもすでに手遅れなのだ。
油断である。
「……悪かったわよ、本人のいないところで悪口言って」
観念したかのように謝罪の言葉を口にするラピス。
「大丈夫ですよ。きっとレイヴンさんも気にしていないと思います」
本人不在だからそうだろう。むしろこのやりとりを知っているとしたらこわい。
バカどもにからまれ疲れてきたラピスをリオルたち女性陣がいたわっている。
「いやー、何ていうのかな。ラピスさんまったく悪くないんだけど、才女が油断に付け込まれて下賤の輩に敗北するってなんか良いよな」
「分かるぞフィル。屈辱を噛みしめながら言葉をしぼり出す。そのときの悔しさにゆがむあの表情がたまらんよな」
満ち足りた表情をしサムズアップ(親指を立てるアレ)するジーン。
真面目な人間は理不尽な状況でも正論をスルーできない。真面目な人が冗談をいった時にはのっかってあげよう。逆に潰したい時はこうすれば良いのだ。簡単に潰れるぞ。
「とにかくあとは変身を解除して素の状態で戦ってもらえる? それならここらのモンスターならかなりの強敵になるでしょう。トリフェンとルビーは戦いのサポートしてちょうだい」
リオル、トリフェン、ルビーの三人は指示にしたがい行動にうつる。
「貴方たち二人には初級冒険者でも戦える相手を見つくろって上げるから付いてきなさい」
フィルとジーンも指示にしたがいラピスのあとに付いていく。
「それじゃあモンスターを釣るからいつでも戦えるように準備して」
「分かりました」
「俺たちの相手はどんなモンスターになるかな」
二人は戦いの用意をしながらモンスターの配膳を待つ。
ところがラピスは湖の岸から釣り糸をたらし釣りをはじめる。思わずフィルとジーンは「え?」と声をもらしもう一度よく見て確認する。どう見てもただの釣りだ。
「あのー、ラピスさん。釣るってなにを釣るんですか?」
ひょっとしたら水棲モンスターを釣り上げるのかもしれないとフィルは考えそのねらいを聞く。
「そうね。ピラニアとかねらう予定だけど」
本当の意味での釣りだった。まさかピラニアが俺らの戦う相手ではないだろう。ピラニアを釣るのはサブクエストかなにかだろうか。フィルとジーンは思案する。
「――! 来たわね、釣り上げるから二人とも下がりなさい」
フィルとジーンが後ろに下がるとラピスが獲物を釣り上げる。
釣り上げたのはたしかにピラニアだった。ただし相当デカい。2m以上はある。陸に上げられたピラニアはピチピチと跳ねている。
「これが貴方たちが戦う相手よ」
「「ピラニア」って魚じゃなくてモンスターかよ。紛らわしい」
「こうくるか。魚のピラニアが人間とか食べて異常にデカくなったりしたのがモンスターのピラニアだからな。間違いなくピラニアだ」
ジーンがピラニアについて解説する。
「ピラニアは低級モンスターになるけど、陸に上がった状態なら初級冒険者でも戦える相手になるわ。戦ってみなさい」
得心がいった。水中のモンスターは陸に上がれば雑魚同然。だからラピスは釣りをしたのだ。
「さすがラピスさん。これならオレらでも戦える。見事三枚におろしてやります」
そういってフィルはピラニアに近づく。が、あまりにも不用意だった。ピラニアは近付いてきた人間目掛けて飛び跳ね食らいつく。
フィルは頭にピラニアの帽子をかぶることになってしまった。「ウボァー」と悲鳴を上げながら走り回るが牙が食い込んで外れない。
油断である。
「気を付けなさい。相手は低級モンスター、動きが悪くなっているとはいえ攻撃力は高いわよ」
助言をするラピスだがこの程度では手助けする気はないようだ。
なんとかピラニアを引き離したフィルはジーンに回復してもらう。
「くっそ、いてー。油断してはいかんね。痛いほどわかった。いやマジで」
みだれた髪を元に直しながらフィルは言う。
「相手の攻撃を見きわめ、隙を見てこちらが攻撃。相手が攻撃してきたら守りに入り、隙ができたら攻めにうつる。今回はターン制バトルというわけか」
戦いの趣旨を理解した。こちらが有利な条件ではあるが相手の攻撃は強力、確実に回避しこちらの攻撃を当てていく必要がある。相手の動きの見きわめ、攻撃と回避の切り替えの徹底、はじめてとる戦法だ。いい経験値になるだろう。
「頑張れよフィル。怪我したらいつでも直してやる。そうすれば俺の出番も回ってくる。隙を生じぬ二段構えだな!」
ジーンも張り切りだした。
「何言ってるの? 貴方も戦うのよジーンくん」
ヒーラーにも戦えと言い出すラピス。これにはジーンも驚いた。
「え? でも俺武器持ってませんし」
ジーンはクレリックだがひのきの棒も回復の杖も装備していない。
「気にはなっていたけど何で素手なのよ」
「俺、体術スキルが高いので下手に棒切れ振りまわして戦うより徒手空拳のほうが強いんですよ。乱闘時の最終手段ですがね、組手は」
体術スキルが高いとかヒーラーらしからぬ理由で棒を持たないらしい。
「ふーん。それじゃあ今回はこん棒を使って戦ってスタイルの幅をひろげなさい」
「……こん棒とか持ってないんですけど」
こん棒だって只じゃない。資金によゆうがあれば購入して馬車に置いてくこともできるが、そんなよゆうもない。
「あるじゃない、そこに。さっきリオルさんが倒したトロールが使っていたこん棒が」
盲点だった。倒したモンスターが持っていたアイテムを入手することは可能。いわゆるドロップアイテムだ。
ジーンは「トロールのこん棒」を手に入れた。
「でか! 戦士系じゃない俺には重くて振りまわせないぞ」
「大丈夫だジーン。ちょっと貸してくれ」
フィルはジーンからこん棒を受けとると思い切り岩に叩きつけた。
「おんどりゃー!」
フィルの掛け声とともに岩に叩きつけられたこん棒は二つに裂けた。
「ほらこれでいい感じになった」
二つになったこん棒の持ち手の方をジーンに渡す。
「お前すげーな。このこん棒を叩きわるとか」
「リオルの一撃で切り込みが出来ていたからな。わりと楽だったぜ」
こん棒を簡単に叩きわった理由を説明するフィル。
ラピスも気になり裂けたこん棒の片割れを手に取り見ていた。
「さっきの戦闘でねぇ、よく気が付いたわね。硬い木でも、これなら素手で割れないこともないか」
そういうとラピスはこん棒の片割れを宙に放り投げた。
宙に舞うこん棒の片割れを見つめながらレイピアに手をのばし触れる。そして剣を鞘から引き抜き斬り刻んだ。こん棒の片割れは一瞬のうちに大量の端材へと変化をとげる。
「おー、すげー」
目の前で披露された剣技にフィルとジーンは沸き立つ。
「こんなものか」
歯ごたえのなさに少々落胆しレイピアを鞘に収める。
「それじゃあさっきの続きに戻りなさい」
「よし、やるかジーン。頭はオレが担当するから尾っぽ側をたのむ。ダメージ受けたら回復よろ」
ジーンはヒーラーにつき、いつでも回復できるよう比較的危険が少ない尾ビレの方から攻撃するように部位をわける。
「いい分担だ。じゃあ行くぜ!」
ピラニア戦を再開する。陸に上がってから時間は経っているがまだまだ元気に跳ねていた。モンスター化しているだけのことはある。
ターン制バトルの趣旨を理解した二人だったが、やってみると意外と難しいものだった。攻撃を欲張ると回避にうつるのが遅れ、攻撃の手数をゆるめると大したダメージを与えられない。守りも同じで警戒しすぎると攻撃ターンが減ってしまう。
苦戦の末なんとかピラニアを倒すが一匹倒すのに10分以上もかかってしまった。たった一戦で想像以上の疲労だ。
「じゃ次のピラニア釣るわね」
そんな二人のことなど気にもとめずラピスは追加のピラニアを投下しようとする。
「マジかよ。スタミナもつかな、結構きつー」
「ああ、そしてあの人意外と鬼だな」
ラピスの指導はフィルとジーンが想像していたよりもハードなものだった。
リオルも中級モンスターとチビモードで戦い悪戦苦闘している。今日のクエストは思いの外厳しい様相を呈していくのだった。
フィルがクエストで泣きそうになっていた頃、妹のケイトは劇を観覧し一人泣きそうになっていた。友達とみるはずだったが急遽予定がはいり行けなくなったため一人で観に来たのだ。
劇「LOVELESS SHOCK」は特典をつけて客をつる方法をとっているが、その面白さは折り紙つきで近年稀にみるロングラン公演となっている。
日曜の公演が終わるとファンたちが集まり交流する。主に特典グッズを交換するためだが同じ趣味をもった人間が集まると会話がはずむもので、今ではそういった話をするのが目的で交流に参加するものも多い。「交流会のおかげで彼女ができました」「交流会のおかげで持病の喘息がなおりました」「交流会のおかげでレポートがはかどりません」などという声もきける。
ファンにとっては劇を観れて交流もできるちょっとしたイベントのようなものになっていた。
被ってしまった特典を他の人と交換したいファンは多い、例のあの人もそうだった。レイヴンも劇に魅入っていた。今日は日曜だから客足も伸びている。変わった格好の冒険者がいても気にとめるものはいない。大体のものが劇に夢中でもある。
劇もクライマックス。花形スターがしめの演技にはいる。若いながらに堂にのぼりて室にはいらずといった演技だ。若さゆえの情熱や荒々しさが伝わってくる良い演技に観客は虜になっている。
そして劇は終わりを告げ客席から拍手が送られる。本日も大成功だ。失敗だったことはない。仮に役者が舞台の上から転げおちてもファンはサプライズ的な何かととらえ、逆に盛り上がるほど訓練された客だ。失敗が失敗にならない優しい世界。
劇を見終わった客どもはシアターホールをあとにする。中にはそのまま帰るものもいるが、ファンの多くは交流会に参加する。
グッズ交換のためケイトも参加するつもりでいた。そのつもりだったのだが今日は友達のドタキャンで一人になってしまった。さすがに一人では心細く気がすすまない、今日のところは帰ろうかなと考えていると前を歩いていた人が落とし物をした。
何かと思いきや落ちたのは劇の特典グッズだった。持ち主は自分が落とし物をしたことに気付いていない、交流会に参加してグッズ交換をするつもりなのかもしれない。そう思いケイトは拾い上げ届けることにする。
「あの、すいません。これ落としましたよ」
ケイトは拾い物を渡すため落とし主の男性に声をかける。背後から声を掛けられた男性は立ち止まりケイトの方へと振り返った。
落とし主は黒髪で長髪の大男だ。この辺では見慣れない変わった服を着ている。男は呼び止めた声の主に視線をやる。ただ見ているだけのはずだが睨みつけるかのように鋭い眼光だ。その眼力にあてられたケイトは恐怖を覚える。思わず落とし物をひろい声をかけてしまったがやっぱり止めておけばよかったと思った。今更後悔しても時すでに遅し、こうなってしまった以上用向きを伝えるしかない。
「あ、あの……こ、これ落としました……よ?」
少々声が震えたものの言うべきことは言った。ケイトは落とし物を差し出す。差し出したその手も震えていたわけだが。親切心からとった行動であるがなんとも締まらない。このお人好しとマヌケさは兄ゆずりなのかもしれない。
「あ、あー本当だ、ない。上着のポケットに穴が空いていたのを忘れていた」
落とし主の男もまたマヌケだった。昨日のクエストで上着が破け、ずっとそのままだったにも関わらずその上着に特典グッズを入れてしまったのだ。落とすのは明白、だが仕方ないこの男はあまりにマイペースなのだ。だって人間だもの。
「いやいや、これはすまないね。大事なものなんだ、ありがとう」
貴重品ではないが大事だというものをいともたやすく落とすレイヴン。えげつない。
「……そうなんですか。失くさなくて良かったです」
「これがなくてはグッズ交換もできないからね、本当に助かったよ」
あくまでマイペース。だってれいゔんだもの。
最初こそ怖いと感じたが気さくに話すレイヴンをみてケイトは恐怖心がうすれた。
「交流会に行くってことは「LOVELESS SHOCK」の劇がお好きなんですね」
「そうだね。好きと言わざるを得ないね。作品自体が素晴らしいのは言うまでもなく、数種類の特典商品を付けて何度観ても損をしないシステム。さらに特典はランダムゆえグッズ交換を行いたくなる。だからこそ交流会まで開けるように劇場の一部施設を無料開放する気前の良さ。さらにグッズをコンプリートしやすいようロングラン公演まで行う徹底した配慮っぷり。控えめに言って神かな」
劇が好きかどうか聞かれただけなのにレイヴンは長々と語りだした。普通ならこの上なく迷惑な話だが、今日この場にはその手の連中が集まっているのだ。今だけは許されるだろう。
「そうですよね。私もそう思います」
ケイトも同類につきレイヴンを変人とみなすことなく同調する。
「分かってくれるかい。俺の知り合いには劇が好きな人間がいなくてね、周りの人間と趣味の話もできなければグッズの交換もできないんだ」
「身近に同じ趣味をもった人がいないと辛いですよね。私もいつもなら友人と一緒に劇を観たり交流会に参加したりするんですけど、今日は都合が合わなくなって一人に……居なくなってはじめてその大切さが分かるものですね」
まるで故人の話をするかのように大仰な表現。明日には学校で顔をあわせるのに。
「共通の趣味を持つ友人は大事だね。俺の場合まわりにそんな仲間はいないから交流会でグッズ交換できるのはありがたいんだ。いくらコンプリートしたくても売ってあるのを買うのは論外だからね」
「やっぱり! そう思いますよね。こういうのは自分で集めないとダメですよね」
「そうなんですよ。大変かもしれないけどその方が楽しいからね。でも今日は服を直すために仕立屋に行かなくてはいけなくなったな。本当は朝には済ませていたはずなのだが……仕方ない。交流会はまた次の公演の時に参加しよう」
レイヴンは交流会に参加できずグッズ交換をできないことを口惜しそうにする。
「参加できないのは残念ですね。次の交流会ではぜひグッズの交換をしましょう」
「うん、そうだね。こちらからもお願いするよ」
初対面でありながらすっかり意気投合した。共通の話題をもつことの強みだろう。フィルにも同じ趣味があればレイヴンを仲間にするのに役に立ったかもしれない。その場合は冒険者仲間ではなく同じ趣味の仲間になるが。
「……ところで君は劇団関係者か何かかな? どっかで見たような見ないような」
ケイトの顔や行動に既視感を覚えたレイヴン、どこかで見た気がしてならない。
「いえ劇団に知り合いの人はいません。初対面だと思いますけど」
レイヴンみたいに個性的な人間、一度あったら忘れたりはしないだろう。
「そうか。どこかで見た気がしたが気のせいか……ああ、あいつに似ている気がしたんだ。がよくよく見ると全然似ていないな。あいつはスライムみたいな顔してたし」
なんだか分からないが誰かと勘違いしたらしい。スライムみたいな顔、そんな人間いないだろう、いるとしたらとんでもなく馬鹿みたいな顔しているに違いない。この人の思い違いだろうとケイトも自己完結する。
「ああ、そうだ。ギルドにも一応行っておかねばいけないな。面倒だけど」
スライム顔で思い出したらしい。
「そういえば私も冒険者ギルドに行かなきゃいけなかった。面倒だけど」
ギルドの話で思い出したらしい。
「奇遇だね。君も誰かの帰り待ちなのかい」
「はい。兄の安否の確認に。いつ帰ってくるか分からないので、ただ待つしかないんですけどね」
「家族のためか。いいねぇ、大変そうだけど。ふむ……かくいう私も待ち人が帰ってくるまで待つしかなくてねえ。それまで話し相手になってもらえると助かるのだが」
レイヴンは話し相手がほしいとケイトにお願いする。
「いいですよ。劇の話とかできますし」
「ありがとう。では行こうか。それと俺の名前はレイヴンというんだ。よろしくね」
「私はケイトです。よろしくお願いしますレイヴンさん……ん?」
聞き覚えのある名前だ。昨日兄のフィルが同じ名前の冒険者に助けられたと言っていた。話に聞いていた特徴とも符合する。もしかしてこの人がそうなのではないか。あとで直接聞いてみよう。そう思いケイトはレイヴンと共にギルドへ向かった。
馬車にゆられアケルナルの街へ向かうフィルたち。
行きにくらべ帰りはグロッキー状態だ。今回はさしものリオルにも疲れが見える。そのかいもありリオルは今までで一番経験値を稼げたかもしれない。フィルとジーンもかなりの成果を得られたのだが、フィルはしこりが残る感じだ。
「うーん、もっと上手くカトラス使えないかなー」
短剣より長い剣の扱いにまだなれていないフィル。カトラスとダガーの2本持ちは相性が悪いことはないが、使いこなせない状態では扱いにくさに拍車をかけているだけだ。
「たしかに武器の扱いがなってなかったわね」
今日の戦いぶりを見てラピスもフィルの武器熟練度が低いと感じたようだ。
「ラピスさんもやっぱりそう思います?」
「けっこう空振りしてたからね。今使っている武器のリーチになれてない証拠ね」
ラピスの指摘通りだった。今までに使ったことのある武器は短いダガーか普通の長さの木剣だけなので、その間くらいの長さのカトラスにフィルはまだなれていなかった。
「ですよねー。この剣「エクスカトラス」は使い続けるだろうから早くなれないとなー。そうだラピスさん、オレの剣の師匠になってもらえません?」
「無理ね。私はカトラスは使ったことないし。武器の特性くらいは教えられるけど、今足りていないのは知識じゃなくて熟練だから意味ないし」
「そんなー」
あっさり断られ情けない声をあげるフィル。
「情けない声出さない。……そうね、レイヴンだったら使える武器の幅広いし彼にお願いしてみたらどう?」
さすがに無慈悲に断りすぎたと思ったのか他の方法を提案するラピス。
「レイヴンさんにですか。今日話した感じだとそういうの好きじゃなさそうでしたけど」
冒険者は副業だと言い切っていたレイヴンだ。発明家としての時間をさいてまで剣の稽古をつけてくれるだろうか。何の特にもならないことだ。
「レイヴンがどうでるか分からないわね。案外簡単に引き受ける可能性もあるし言うだけいってみたら?」
「そんなもんですかね。まあ言うだけなら只ですしね。レイヴンさんギルドにきてたらいいなー」
頼んでみないことには始まらない。今のままでは武器の熟練が実戦レベルとは言い難い。また仲間の足を引っ張ることにもなりかねない。フィルはレイヴンに剣の師になってもらうように頼むことを決めた。
ギルドに帰ると珍しい光景を目にした。朝座っていた席にレイヴンは戻ってきていたがなぜか妹のケイトも一緒にいる。そしてもう一人、見知らぬ人物もいた。魔法使いの格好をして察するところ冒険者か。20代後半くらいの男性で長身。レイヴンほどではないがジーン以上の背丈だ。そしてジーンと違ってまっとうな魔法使いの出で立ちをしている。身にまとっている装備を見るかぎり相当なレベルの冒険者だろう。
男はレイヴンと話をしているが席にはついておらず適度な距離をもって接している。
するとレイヴンはフィルたちに気付き手を揚げる。こちらへ来いと呼んでいるのだろう。クエストの完了報告はラピスに任せフィルたちはレイヴンのいるテーブルへ向かい出す。
レイヴンと話していた男は会話を終え、あとにするようだ。去り際にフィルたちとすれ違うと男は会釈し通路をあけてくれた。紳士的な振る舞いにフィルたちも会釈を返した。
「……なあジーン、あの人って」
「ああ、多分そうだと思う。レイヴンさんと話していたな」
レイヴンと会話していた人物にフィルとジーンは心当たりがあった。
「おかえり。ご苦労だったね」
帰ってきたフィルたちに労いの言葉をかけるレイヴン。
「戻ったよレイヴンさん。レッドさんが来てたってことはまた旅団の勧誘?」
トリフェンが挨拶しさきほどの人物の話をする。レイヴンは返答し頷くとレッドさんと呼ばれた男との会話を簡潔に話す。
これまでに勧誘された回数は二桁にいっているとか、旅団『X』は若手が多く自由な活動ができるとか、レイヴンからみてもレッドさんはそれなりの実力者だとか、だがラピスもすぐにあのレベルに達するだろうとかだ。
その話を聞いていたフィルとジーンはさっきすれ違った人物が思った通りこの街でも指折りの冒険者、旅団「X」の旅団長レッドさんだと知り、そんな人物をさして「それなり」だとか勧誘を断るレイヴンは次元が違うだの二人で盛り上がる。
各々が話をはじめる中、リオルは席につき昼寝をはじめていた。ケイトはケイトで何か変なものを縫っている。中々リバティーな空間だ。
「ところでレイヴンさん、そっちの子は?」
見知らぬ少女の存在にふれるルビー。そう言えばそうだ、レッドさんの存在に気を取られ忘れていたが、なぜケイトがレイヴンといるのかと。フィルも気になっていた。
「この子はフィルくんの妹のケイトくん」
またしても簡潔に述べるレイヴン。フィルとしてはなぜケイトがここにいるのか知りたい。
「たしかにそこに座っているのは妹という生物ですね。ですがどうして二人が揃って居るんですか?」
「あれ、さっき言わなかったっけ?」
言ってない。今しがた帰ってきたところなのにいつ言ったというのか。
「その時この場に耳がなかったので間違いなく全員が聞き逃したと思いますね。もう一回説明お願いできますか?」
仕方ないなと言わんばかりにもう一回、いや一回目の説明をするレイヴン。
劇のあとに偶然知り合ったこと、ギルドで帰りを待つ間話し相手になってもらったこと、ついでに上着の破れた箇所を縫い直してもらっていること、などの経緯をレイヴンが説明した。
ケイトが縫っていた変な何かはレイヴンの上着だった。
「今度グッズの交換をする約束もしたの」
羨ましいでしょうという表情を見せつけるケイト。別に羨ましくねぇよ、劇はお前の趣味であってオレの趣味じゃないとフィルはツッコミたくなった。
だが今のレイヴンは趣味の仲間を見つけて上機嫌。剣の稽古、頼めばやってくれるかもしれない。ガードがゆるくなっている今がチャンス。ラピスもやるなら今しかないと合図を送っている。むしろ殺れと言っている気がしないでもない。とにかくフィルは言ってみる。さり気なく言ってみる。
「ところでレイヴンさん。オレ今、剣の師匠を探しているんですけどレイヴンさんなってもらえませんか?」
「剣? んー、そのカトラスの扱いが上手くなりたいから稽古をつけてくれということかな? 剣の扱いが下手だとカトラスとダガーの2本持ちは逆に辛いからね」
さり気なく言い、何気なく「うん」と言ってもらう算段だったがみなまで言うことなく、現状を読み解かれてしまった。完全に主旨がバレている。
「えーっと、そうですね。ひらたく言えば」
ごまかす言葉が思いつかず白状する。
レイヴンはうなり考えている。ラピスもフォローしようと考えているようだが先程のレイヴンの反応からすると期待できそうにない。リオルは寝てるし、ジーンはまだグロッキー状態から回復できていない。孤立無援だ。
「……ま、いっか。いいよ、剣の稽古引き受けても。君の妹には世話になったし」
「マジっすか。いいんですか」
「いいよ。そんな大変なことでもないし」
「良かったじゃないフィル。このレベルの指導者は早々見つからないわよ。責任持って教えてくれると思うわ」
レイヴンの気が変わらないうちに確約させて会話を終わらせようとするラピス。
「そうですね。それではレイヴンさん、よろしくお願いします」
「ああ、それじゃ明日から始めようか」
「はい。やったー!」
無事指南役を受け持ってもらえることになりフィルはテンションが上がる。クエストの疲れも吹き飛ぶかのようだ。
ラピスに礼を言い、一役買ってくれたケイトにも感謝する。今朝レイヴンを仲間に誘った時には剣の師になってもらえるなど考えてもみなかった。
仲間にこそなってもらえなかったがリオルに興味を持ってもらえた。ここで直接稽古をつけてもらえるのは大きい。レイヴンを仲間にする計画はまだ進行中だ。ここからさきはフィル次第、チーム結成の行く末はフィルに託された。




