神の声
右腕を掲げる。
すると、銀色の粒子が集まり形を作っていく。
そして作られたのは銀色の剣。
私はそれを持ち、こちらに向かってくるオークを見る。
(まずはフィアから離れないと)
私はオークに風の弾を打ち、右側へ移動する。
「フゴオオオオ!!」
オークは怒り、私に向かってこん棒を振り下ろしてくる。
「くっ!」
その迫力に恐怖で足が竦みそうになるが、風を操り強引に横に回避する。
(私じゃオークの攻撃は受け止めきれない!)
オークの攻撃をまともに受けてしまったら、私はただの肉塊にされるだろう。
そんな事になれば、フィアの命は無い。
「ふっ!!」
剣をオークに斬りつける。
だが、私の剣はオークの腹を浅く斬っただけだった。
「ゴオオオオ!!」
こん棒を右から左へ薙いでくる。それを風で飛び上がり、何とか回避した。
「どうすれば良いんだ……」
攻撃を受けたら死亡。こちらの攻撃は全くと言っていい程効かない。
騎士達が来るまで耐えるか? いや、騎士達はオークに手間取っている。
「ゴオオオオ!!」
オークが咆哮を上げ、巨大を揺らしながらこちらに向かってくる。
くそっ! せめて決定的な隙があれば……。
◇ ◇ ◇ ◇
今は休憩時間。
休憩時間とは本来休憩するものなんだけど、ティアは騎士さんに剣を教えてもらってる。
そんな事しなくてもティアは強いのに……。
「ん? どうしたの?」
私の前にふわふわした赤いもふもふ──火の精霊さんがやって来た。
「に・げ・ろ? 何で? とりあえずティアに言ってみよっか」
私はティアの所へ行く。すると──
「フゴオオオ!」
緑色の怪物が現れた。確かあれはオークって言う魔物な筈。
ティアは私の方へ来て、手を握ってくれています。そして、一体のオークがこちらに向かって来た。
私は恐くて動けなかった。でも──
「かかってこい!! オーク!!」
ティアはオークに立ち向かった。ティアはとっても優しい子なの。
でも、あんな怪物に勝てるのかな?
(恐い、恐い、恐い。でも、私も何かしなきゃ)
(でも、どうやったら……)
私は戦った事なんて無いからどうすればいいか分からない。
魔法だって少ししか使えないし。魔力量だってティアの方が多分多い。
私にあるのは精霊眼という異能だけ。
(精霊さん、力を貸して。ティアを助けてあげられる力を私に)
その時だった。頭の中に声が響いてきたのは。
『い~よ~、力をあげる。ナイスタイミングでしょ?』
(あなた、誰?)
『ん~? 私は神ってやつだよ』
そんな突拍子も無い事を言ってきた声に、私は応えた。
「神でも何でもいい。私に、ティアを助けられる力を貸して!」
◇ ◇ ◇ ◇
オークの攻撃を避け、薄く切り裂く。
何回も続けた攻防だ。でも、このままだと私の魔力が切れて死ぬ。
そして、大振りの攻撃を避けた瞬間──
「ティア! 避けて!」
私は声に従い風でオークとの距離を取る。
そして、ドンッ! ドンッ! という音がして、どこからともなく飛んできた火球がオークに着弾する。
火球はオークの顔面に当たり、その醜悪な顔を焦がす。
「ゴオオオオ!!」
いきなり乱入者にオークは怒り、辺りを見回す。
「フィア!?」
「えへへ……どう?」
火球を撃ったのはフィアだった。
手をオークに向けた姿勢のまま、息を切らしてこちらを見ている。
「フガアアア!!」
まずい!
オークがフィアを見つけ、叩き潰さんとこん棒を振るった。
くそっ! 間に合え!!
「ガアアアア!!!」
風魔法を全力で使い、何とかフィアを助ける。
「うっ、ぐっ!」
2人で地面を転がり、少しオークから距離を取れた。
「フィア、さっきのあと何発撃てる?」
フィアの魔力量からして、あの威力の魔法はそう連発出来ない筈だ。
撃ち所を間違ってはいけない。
「あと一発かな。ごめんね」
「いや、十分だよ」
オークの殺し方は考えてある。
しかし、実行しようとしても隙が無かった。
でも、フィアが居るなら。
「フッ!」
オークに斬りかかる。だが、薄く切り裂いただけ。そこまでは良い。
そして、オークがまた馬鹿の一つ覚えみたいにこん棒を振り下ろしてきた。
それを右に飛んで避け──
「今!!」
私の合図でオークに火球が撃ち込まれる。
そして、オークの意識はフィアへと向いた。
(ここだ!!)
私は最後の魔力を振り絞り、フィアの方へ意識が向いているオークへと急接近する。
「はあああああ!!」
私とオークの距離は縮まっていき──
「終わりだああああ!!」
グチュッ、とした感触と共に、オークの耳から脳を突き刺す。
「オオオオオオオオ!!」
オークの最後の抵抗で私はオークの腕を受け、そのまま吹き飛んだ。
朦朧とする意識の中、こちらに向かって来ているフィアと、地面に倒れるオークを見た。
「やっ……た。勝っ…た……守れたんだ……」
私の意識はそのまま暗転した。