オッドアイとは
この世界には魔法がある。
体内や周囲の魔力を用いて、望む現象を作り出す。それが魔法。
この世界には異能がある。
異能の行使に魔力は必要ない。だが、使い過ぎると、魔力とは別の、精神力のような物が減っていく。
異能の種類は人によって千差万別だ。
ある者は腕を異形へと変え、ある者は千里を見透すと本に書いてあった。
そしてここからが重要なのだが、異能は本人だけのオリジナルではない。
つまり、同じ異能を持った人が道端で合う事も、天文学的確率だがあり得るということだ。
だが異能が使える人は一握りで、そんな事は多分無いだろう。
それが異能だ。
私とフィアは異能を持っている。
フィアはその紫の瞳が異能だ。
『精霊眼』と呼ばれる異能で、精霊を視認し力を借りる事が出来る常時発動型の異能。
精霊とは意思を持った属性魔力の集合体と呼ばれている。
故に、『精霊眼』を持ったフィアは精霊に力を借りて全属性の魔法を使えるそうな。
全属性の精霊に愛される事は普通無いそうだ。
別に羨ましくなんてない。
そして、私の異能は──
「ティアー時間大丈夫ー?」
「あ! もうそんな時間!?」
私は急いで支度をする。向かうは村に住んでる狩人のランさんの所だ。
◇ ◇ ◇ ◇
突然だが私に魔法の才能は無かった。
私の適性属性が一つしかなかったのだ。
魔法を使うにはまず魔力を属性に変換させなくてはならない。属性は火、水、風、地の基本属性に加えて、更にそこから派生属性、特殊属性と分けられている。
私の適性属性は風だけだった。
魔法の才能とは適性属性の多さで比べられる。
そんな中適性属性が一つの私が才能無しと言われるのは当たり前の事だった。
まぁそんな事言われ慣れてるのでもう何とも思わないが。
「ようティア、今日も早いな」
目的の場所に着くと狩人のランさんが出迎えてくれた。
ランさんは余り表情が出ない黒髪の男性だ。
私がランさんの家に来た目的、それは狩りに連れていってもらう為だ。
5歳児が狩りに行くなど危険だ、と皆やランさんを最初はかなり困らせた。
何故私が狩りに同行するのかと問われれば、体を鍛える為と答える。
魔法の才能が無い私は体を鍛える事にしたのだ。その方が私の異能的にも何かと都合がいい。
「よし、じゃあ行くか」
「はい」
だが5歳児の体力で狩りに付いて行くのは至難の業……と言うか無理だ。なので疲れたら風魔法で浮いている。魔力量の底上げも出来て一石二鳥だ。
その間もランさんはペースを落とさずに進む。
太陽が傾き始めた頃、私達は帰ってきた。
「じゃあな。気を付けて帰るんだぞ」
「はい、今日もありがとうございました」
仕留めた獲物を持って家に帰る。
その道中。コツッと、足元に石ころが投げられた。
「気持ち悪いんだよ!! 悪魔!! 村から出て行け!!」
石ころを投げてきたのは村に住む子供だった。
これが私がこの世界に生まれてきて感じた初めての理不尽。
何故私が悪魔と呼ばれるのかは私の眼が原因だ。
古くからこの世界ではオッドアイは悪魔が取り憑いていると言われていたらしい。
しかしそれだけが原因では無い。500年前、魔王が現れた。
魔王は300年もの間猛威を振るい、突如現れた勇者に討伐された。魔王の爪跡は討伐から200年たった今でも残っており、その影響を私は受けている。
魔王はオッドアイだったそうだ。それだけで、たったそれだけで、私は住む村の人々から毛嫌いされている。
なので私は右眼を瞑り、その上から前髪で右眼を隠している。
村の人々にはばれているが、度々やってくる商人や冒険者の目は騙せるだろう。
私はそのまま家に帰った。
◇ ◇ ◇ ◇
「ティア、大丈夫?」
部屋に入ると、フィアがそんな事を言ってきた。
「うん、大丈夫だよ」
私は大丈夫だ、と言い笑って見せる。
「どうしたの? フィア」
フィアが突然私を抱き締めてきた。
「大丈夫だよ、ティア。私がティアの事守ってあげるからね。私の方がお姉さんだもん」
フィアが優しく言ってくる。
「わ、私の方が……おねえさん……だし」
何故か上手く喋れない。視界も水の中にいるかのようにゆらゆらと揺れている。
「大丈夫だよ。私達、ティアの事大好きだからね」
フィアの優しい声が私を包む。
「う、うぅ……なんで……私が、こんな目に遭うの……?」
感情が爆発する。
際限なく涙が溢れだしてきて、前世は18歳の男が、まだ5歳の女の子の胸でみっともなく泣いてしまった。
「私はなんにもしてないのに……なんで……こんな……」
その後も私は泣き続け。気が付けば泣き疲れて眠ってしまった。
◇ ◇ ◇ ◇
私は12歳になった。
私の住む国では12になったら学園に通う事になっている。
そして今日村に騎士達がやってきて、私達を王都の学園まで護衛してくれるそうだ。
この村で王都の学園に通うのは私とフィアだけだ。王都の学園なだけあって、学費が中々なものらしい。
そんな所に通わせてくれる2人には感謝してもしきれない。
「二人共、忘れ物は無いかい?」
「うん。大丈夫だよ! ママ!」
「天使達。近寄ってくる虫が居ても相手にしないでね。天使達は可愛いから貴族があの手この手を使って取り込もうとしてくるだろうし」
「もう、大袈裟ですよ、父さん」
「気を付けてな」
母さん、父さん、ランさんに見送られながら、私達は王都へ向かったのだった。