転生
目覚めはまるで、深い闇の底に囚われているような、じめじめとしたものだった。
「……ぁぁ」
視界は安定せず、ぼやけたシルエットだけが目に映る。
「────、──」
大きな肌色が自分を持ち上げて、抱きしめる。
そこで思い出した。
自分はトラックに轢かれた筈だ。
恐怖に身が竦んで動けなくなった数瞬後に感じた痛みを覚えてる。
(いき、てる……?)
現状を考察しようとすると、強い睡魔が襲ってきた。
それに抗えず、意識がどんどん闇に沈んでいく。
(どうなってるんだ……)
◇ ◇ ◇ ◇
「おはよう。フィア、ティア」
目が覚めた俺を優しい微笑みで抱き上げてくれるのは、金髪碧眼の女性、フィリルさん。
整った顔立ちをしているが、何というかキツそうな印象を受ける女性だ。
「二人は本当の姉妹みたいだな」
別の方向から今度は男性が覗いてくる。
この人はアルトさん。
同じく金髪碧眼の、優しそうな目をした人だ。
「あ~~」
俺の横で二人に手を伸ばしている赤ん坊の名前はフィア。
金髪紫眼の女の子。
そして俺はというと──
(こんな事になるなんて……)
フィアと同じく、フィリルさんに抱かれていた。
転生という言葉を、俺は知っていた。
トラックに轢かれて、外国人のような造形の人たちがいる場所で赤ん坊になっている。
転生。今の俺の状況を示す言葉は、これしかないだろう。
◇ ◇ ◇ ◇
「ん、ふぁああ……」
のそりとベッドから起き上がる。
「フィア、朝だよ」
カーテンを開けると、朝の日差しが私に降りかかる。
「後五分〜」
そんな事を言っているフィアを尻目に、服を着替える。
「もう10年経ったんだ……」
そう。私がこの世界に転生して、既に十年という月日が経っていた。
「ほら、起きてフィア。お父さんに怒られるよ」
「は〜〜い」
のそりとベッドから起きたフィアが服を脱ぎ始める。
フィアとお母さんは朝が弱い。
いつも遅くに起きてきて、お父さんと私に怒られるのは日常茶飯事だ。
(男だったのに、もう何も感じなくなっちゃったな)
いや、そもそも十の女の子に性的な感情を抱いたらダメか。
ふと、鏡に自分の顔が写っているのを見つけた。
「よしっ! ティア、朝ごはん食べに行こ!」
「うん」
鏡に写るのは、銀髪の髪を伸ばした女の子だった。
片目は蒼穹のような蒼で、片目は輝く黄金色の瞳の──オッドアイ。
それが私、フィアだ。