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魔の王へと捧ぐ  作者: 日隈一角
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エピローグ

 かくして、魔王は倒された。

 勇者シェヘラが命と引き換えに魔王を打ち滅ぼしたのだ。

 国民は大いに悲しんだ。シェヘラ王子はやはり、英雄だったのだと、誰しもが若き死を悔やんだ。

 魔物の数は通常に戻り、平穏が訪れた。一人の勇者が犠牲になったという、物語を残して。


 

 勇者一行で無事に帰ってきたのは戦士フレンハットのみであった。

 フレンハットは、妙な赤毛の女を連れていた。魔王討伐に協力した人間かと噂されていたが、頑なに口を開かず、誰とも話をしないせいで真偽を確かめられる者はいなかった。結局、いつの間にか姿を消していた。行く先は誰も知らない。



 とある吟遊詩人が出没するようになったのは、魔王討伐以降だ。

 長い杖のような形状を布で丁寧に巻き、いつも持ち歩いている。ひとたび話をすれば、例え初対面の相手でもぴたりと物事を当ててしまうらしい。

 最初は面白がって絡んだ人間も、話せば途端に気味が悪くなり去っていく。

 そうしてだれも見向きもしない道端で、一人、勇者の物語を騙っているのだ。

 それは伝えられたものとは全く違うもので、勇者への侮辱だと、石を投げる者もいた。

 けれど吟遊詩人はものともせず、やがて最後まで歌えば何も言わずその街を後にする。また、別の場所で同じ歌を歌い始める。よほど気に入っている歌なのか、誰かに伝えたいのかは、一般市民にはわからない。人々は基地外と噂した。〈騙り部〉。そうさけずむ者もいた。

 ただ、吟遊詩人は今日も勇者の歌を語っている。


 ――たとえどんな形でも、愛と呼ぶことはお駒がしいでしょうか。

 そう語りかける形で歌は終わる。


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