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新天地への手引き  作者: 加賀優介
第一章
7/8

決意

「ごめんなさい……本当は私もわかってるんです」


彼女はそう言って、また顔をうつむかせる。


「決めました。――この手紙の通りにします」


サラは顔を上げ、力ない声でそう言った。


「何ていうか……ごめん」


今にも泣き出しそうな顔をしている少女を前にしては、僕もそう謝るしかない。


「どうしてカザミさんが謝るんですか?あなたは何も悪くありません」


サラはそう言ってくれるもの、僕はどうしても、彼女に対しての罪悪感を胸から拭うことができなかった。


「では早速ですが行きましょうか。――あまり長居していても、いいことはないですし……」

「そうだね――そうしよう」


サラの気持ちを察した僕は、その言葉に従うことにした。



僕達はその部屋を出た。……僕はそこで、初めてサラの容姿をはっきりと視認した。


薄い桜色の長髪に、白い肌。それらと対照的な漆黒のドレスのみが唯一、彼女の素性と上手くマッチしていた。


「確か君は――『吸血鬼』なんだよね?」


僕は、予め『主人ウェヌス』様から聞いていた情報を本人に確認してみる。


「はい、そうです」


彼女は首を縦に振る。


「やっぱりさ、『吸血鬼』って魔法とか使えたりするの?」

「他人の血を飲めば可能ですけど……今の状態だと、多分カザミさん以上に普通の人間に近いと思います」

「そうなんだ……」


そう返した後、僕は歩き出す。サラはその一歩後ろに着いて、歩みを進めた。


それからしばらくの間、僕達二人の間には気まずい沈黙が続く。


「えっと……この城って凄く立派だよね。外から見た時は思わずその場に立ち尽くしちゃったよ」


その沈黙から脱するべく、僕は後ろにいるサラに声をかけた。


「ありがとうございます。このお城は……お父様とお母様が力を合わせて作った物なのです」

「へぇ……やっぱり魔法で?」

「ええ、もちろん……二人は大工さんではないので」


サラは肩をすくめつつ、冗談めかした表情でそう言った。


――いつの間にか、僕達は並んで歩いていた。


「昔は、このお城にも活気があったんです」


昔を懐かしむような表情で、彼女は喋り始めた。


「お父様は、身寄りのない人間の子供をよくお城に連れて来ました。――彼ら彼女らはこの城の執事、召使となって私達に尽くしてくれました」

「そっか……人間と一緒に暮らしてた時期があったんだ」

「はい。――あの時はとっても楽しかったです。当時、私には友達と呼べる存在が一切いなくて……彼らが来たことで、全てが変わりました。目に映る世界が色付きました」


彼女の幸せそうな横顔に、僕は思わず見惚れてしまう。――だがその表情も、そう長くは続かない。


「今思えば、お父様が人間の子供達を連れて来たのは、友達のいない私を思っての行動だったのかもしれません。――とにかく、あの時の私は本当に幸せでした」


その時の彼女の表情には、二つの相反する感情が混在していた。それは、人が昔の想い出を話す時に見せる特有の表情であった。

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