決意
「ごめんなさい……本当は私もわかってるんです」
彼女はそう言って、また顔をうつむかせる。
「決めました。――この手紙の通りにします」
サラは顔を上げ、力ない声でそう言った。
「何ていうか……ごめん」
今にも泣き出しそうな顔をしている少女を前にしては、僕もそう謝るしかない。
「どうしてカザミさんが謝るんですか?あなたは何も悪くありません」
サラはそう言ってくれるもの、僕はどうしても、彼女に対しての罪悪感を胸から拭うことができなかった。
「では早速ですが行きましょうか。――あまり長居していても、いいことはないですし……」
「そうだね――そうしよう」
サラの気持ちを察した僕は、その言葉に従うことにした。
僕達はその部屋を出た。……僕はそこで、初めてサラの容姿をはっきりと視認した。
薄い桜色の長髪に、白い肌。それらと対照的な漆黒のドレスのみが唯一、彼女の素性と上手くマッチしていた。
「確か君は――『吸血鬼』なんだよね?」
僕は、予め『主人』様から聞いていた情報を本人に確認してみる。
「はい、そうです」
彼女は首を縦に振る。
「やっぱりさ、『吸血鬼』って魔法とか使えたりするの?」
「他人の血を飲めば可能ですけど……今の状態だと、多分カザミさん以上に普通の人間に近いと思います」
「そうなんだ……」
そう返した後、僕は歩き出す。サラはその一歩後ろに着いて、歩みを進めた。
それからしばらくの間、僕達二人の間には気まずい沈黙が続く。
「えっと……この城って凄く立派だよね。外から見た時は思わずその場に立ち尽くしちゃったよ」
その沈黙から脱するべく、僕は後ろにいるサラに声をかけた。
「ありがとうございます。このお城は……お父様とお母様が力を合わせて作った物なのです」
「へぇ……やっぱり魔法で?」
「ええ、もちろん……二人は大工さんではないので」
サラは肩をすくめつつ、冗談めかした表情でそう言った。
――いつの間にか、僕達は並んで歩いていた。
「昔は、このお城にも活気があったんです」
昔を懐かしむような表情で、彼女は喋り始めた。
「お父様は、身寄りのない人間の子供をよくお城に連れて来ました。――彼ら彼女らはこの城の執事、召使となって私達に尽くしてくれました」
「そっか……人間と一緒に暮らしてた時期があったんだ」
「はい。――あの時はとっても楽しかったです。当時、私には友達と呼べる存在が一切いなくて……彼らが来たことで、全てが変わりました。目に映る世界が色付きました」
彼女の幸せそうな横顔に、僕は思わず見惚れてしまう。――だがその表情も、そう長くは続かない。
「今思えば、お父様が人間の子供達を連れて来たのは、友達のいない私を思っての行動だったのかもしれません。――とにかく、あの時の私は本当に幸せでした」
その時の彼女の表情には、二つの相反する感情が混在していた。それは、人が昔の想い出を話す時に見せる特有の表情であった。