邂逅
扉を開けた瞬間、彼女の泣き声がぱたっと止んだ。
「誰ですか!?」
少女は両の手で濡れた瞳を拭い、その涙を誤魔化すように大きな声でそう叫ぶ。
「怪しい者じゃないよ――僕はカザミ。『新天地』から来た、神の『使者』さ」
「『新天地』……『使者』……?」
彼女は訝しげな表情で、その単語を繰り返した。
その部屋は、どうやら少女の自室のようであった。ベッドの傍らに力なく座り込んでいる彼女の顔を、小さな棚の上に置いてある燭台の灯りが照らしている。それが、唯一ある部屋の灯りであった。
「えっと……君がサラだよね?」
僕はそう尋ねる。
「はい……そうですけど……」
サラの表情は、依然として不安の色が濃いままである。彼女は明らかに、突然やって来た見知らぬ訪問者を怖がっていた。
「君にも『招待状』があるんだ――はい、これ」
僕はポケットの中から一枚の封筒を取り出し、サラに手渡す。彼女はその場に立ち上がり、その封筒を手に取る。
サラはその封筒を開け、中に入っている紙を手に取って読んだ。
「……」
彼女は、その手紙を驚いたような表情で読み進めていく。
「これ……どういうことですか?」
その文面に衝撃を受けたらしいサラは、堪らず僕にそう尋ねた。
「書いてある通りだよ。――君達『創造主』は、世界にとって異端的存在なんだ。このまま君がここに居続けたら……遅かれ早かれ、この世界は崩壊してしまう」
「そんな……でも、この世界はお母様が創ったもので……」
「そうだ……君のお母さん――ヘレナさんは?」
僕のその一言によって、彼女の顔はこれまで以上に暗く翳った。
「お母様は……先日……亡くなりました……」
サラの口から発せられた衝撃の事実に、僕はしばし絶句した。
「――そう……だったんだ」
やっと出てきた言葉も、ただそれだけである。
「この城は……この世界は、母の遺した言わば形見のようなものです。それを手放すことは――私には到底できません」
彼女の、亡くなった母を想う気持ちは、痛いほど僕にも伝わった。だが、目の前の少女をこの世界から連れ出すことが僕の任務である。さらに言うと、それは彼女のためでもあるのだ。
「ここを大切に思ってるなら――それこそ君は、『新天地』に行くべきだよ」
僕の言葉を受け、サラは悲しそうに目を伏せた。だがその表情には、何か、とても大切なことを決意したような色が含まれていた。