交戦
階段を上がったところにあった扉の先には、先程のそれよりも幾分か幅広い廊下が広がっていた。
僕は慎重な足取りで歩みを進めた。何となくだが、嫌な予感がしていたのだ。
……僕が抱いていた嫌な予感は、見事に的中した。
この廊下を歩き進めて二分ほどが経った頃であろうか。僕の前方十メートル辺りの床から、紫色の粒子が沸き起こった。
それはやがて二つに分かれると、双方とも同じ形の物体を形成した。
――それは犬の容貌をした怪物であった。
紫色の怪物二体は、僕に向かって瞬間駆け出した。僕も足を前へ前へと突き動かしながら、背にある刀を抜き払う。
『――アガァッ!』
二体の内の一体が飛びかかってきた。僕は跳躍することで敵の頭上を通過し、その攻撃を回避。また空中で体を回転させ、右の手にある刀を横に振った。
『アギャゥッ!』
胴体を斬られた怪物は、短い悲鳴を上げて地面に倒れ込む。
「――はぁっ!」
さらに僕は、相手の動きに慌てて方向転換したもう一匹の怪物目掛けて刀を振り下ろした。
そいつは悲鳴を上げる間もなく、絶命した。二体の亡骸は、やがて青い炎に包まれ、そして灰となった。
「……」
僕はその光景を最後まで見届けた後、刀を背中の鞘に収めた。
「――ふっ」
一回呼吸を整えてから、僕は再び歩き始める。
それから少しもしないうちに、僕の耳は誰かの啜り泣く声を捉えた。
(これは……どこから?)
僕はその声がする場所を辿って、足を動かした。
段々と啜り泣く声が近くなってくる。……声質からして、泣いているのは女性――少女のようである。
(……ここだ)
僕はとうとう、泣き声の主がいると思われる場所を突き止めた。
そこにあったのは、洒落た紋章の入った両開き扉であった。
――僕はそっと、その扉を押し開けた。