謎解き
それは今まで見かけたものより一回り大きい両開きの扉であった。僕は一呼吸ついてから、その扉を押し開けた。
中にあったのは、ホールのような大きな部屋であった。
「……」
僕は辺りを見回しながら、部屋の奥へと進んだ。
その部屋には、無駄にたくさんの蝋燭が灯されていた。たくさんある蝋燭の灯りは、その空間の不気味さをより一層強いものとした。
部屋の中央には、そこから上方へと伸びる階段があった。その先……この部屋にとっての『二階』にあたる場所には、大きめの両開き扉があった。
僕はその階段へと近づいた。階段の入口の左右には、白い悪魔の像が向かい合うようにして建っていた。
僕はそれを不気味に思いつつも、何とか気をしっかりもって階段を登り始めた。
しかし、階段を登っている途中、僕は思わず足を止めた。目の前に突然紫色の粒子が大量に沸き起こったのだ。
それはやがて一つの形を成した。
「やあやあ、この寂れた城に客人とは……珍しい」
人の形をしながら、角や翼、しっぽを生やした物体はそう言った。顔だけ見たらかなりの美少年であったが、彼は明らかに人ではなかった。
「君は……誰だい?――この城の人だよね?」
僕は確認するようにそう言った。
「僕様は、そうだね……ここの番人といったところかな」
彼は不敵な笑みを浮かべてそう言った。
「番人?」
「そう――番人」
僕は警戒心を最大に尖らせつつ、少年の言葉に一応耳を傾ける。
「僕様の出自とか正体は――まあ一応ちゃんとあるんだけど、めんどくさいから教えなーい」
少年は、人を小馬鹿にするような調子で僕にそう言った。
「それより、僕様は僕様の役目を果たさなくちゃならないんだ。……できれば君にも、僕様のお役目勤めに協力して欲しい」
「僕にできることなら協力するけど……その『お役目』ってのは、一体どんなものなんだい?」
僕は尋ねた。
「僕様はね、ここを通ろうとする者になぞなぞを出す、言わばスフィンクス的な役割を担っているんだ?」
「スフィンクス?」
「知らないのかい?――とある世界にいる、謎解き好きな怪物だよ。……まあスフィンクスの話は置いておいて……」
彼は一瞬目を伏せた後、再び視線を僕に向ける。
「君がここを通ろうとするなら、僕様は君に問題を出さなきゃいけないわけ。その問題に見事正解すれば、君はここを通ることができる。だけど、もし間違えたら……」
「……間違えたら?」
「そしたら――まあ特に何かあるわけでもなく、普通にUターンしてもらうことになるね」
「ここが通行止めになるってこと?」
「そゆことそゆこと」
そこで僕は堪らず、これまで我慢していたセリフをぽっと吐く。
「協力っていうか……これって強制だよね?」
「うーん……まあそうとも言うかなー」
彼は依然、飄々とした口ぶりを崩さないでいる。
「まあここで僕様に挑戦せず引き返すっていう選択肢もあるけど――どうする?」
「それはもちろん――挑戦するよ」
ここで引き返す理由がない。僕は当然、彼へと挑むことにした。
「オーケー……じゃあ――行くよ」
少年は目を伏せ、息を整えた後、なぞなぞを出題した。
「問題――『その実、とっても曖昧なのだけど、あればあるほど死が近くなる。これ、なーんだ?』」
(『曖昧』……『死が近くなる』……?)
なぞなぞとは、基本答えが複数存在する。複数あるが……その中から、出題者の頭の中にある一つを的中させなければならない。
僕は、目の間にいる悪魔的な笑みを浮かべた少年をじっと見つめた。
(羽……角……悪魔……)
この少年はきっと悪魔だ。
(悪魔……悪魔……)
悪魔が出したこの問題――恐らく答えは……
「『罪』――『ギルティ』……かな」
その回答は、僕の口から零れ出るようにして発せられた。
「――ふふっ……正解」
僕の回答を受けて浮かべた少年の笑みは、今までで一番不敵なものだった。
「罪は非常に曖昧なものだけど、多く重ねると死に至る。――他人に気付かれた場合は首切り役人によって首をはねられ、他人に気付かれなかった場合は自ら首を吊る」
少年の、まるで世界の真理を悟り切ったような表情、発言に、僕は思わず息を呑んだ。
「そして僕は――『罪』の権化だ」
その言葉を最期に、彼は紫色の粒子となって空中に霧散した。
「……」
今の一連のできごとは、後々まで僕の心に深く残ることになるのであった。