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新天地への手引き  作者: 加賀優介
第一章
4/8

謎解き

それは今まで見かけたものより一回り大きい両開きの扉であった。僕は一呼吸ついてから、その扉を押し開けた。


中にあったのは、ホールのような大きな部屋であった。


「……」


僕は辺りを見回しながら、部屋の奥へと進んだ。

その部屋には、無駄にたくさんの蝋燭が灯されていた。たくさんある蝋燭の灯りは、その空間の不気味さをより一層強いものとした。


部屋の中央には、そこから上方へと伸びる階段があった。その先……この部屋にとっての『二階』にあたる場所には、大きめの両開き扉があった。


僕はその階段へと近づいた。階段の入口の左右には、白い悪魔の像が向かい合うようにして建っていた。

僕はそれを不気味に思いつつも、何とか気をしっかりもって階段を登り始めた。


しかし、階段を登っている途中、僕は思わず足を止めた。目の前に突然紫色の粒子が大量に沸き起こったのだ。

それはやがて一つの形を成した。


「やあやあ、この寂れた城に客人とは……珍しい」


人の形をしながら、角や翼、しっぽを生やした物体はそう言った。顔だけ見たらかなりの美少年であったが、彼は明らかに人ではなかった。


「君は……誰だい?――この城の人だよね?」


僕は確認するようにそう言った。


「僕様は、そうだね……ここの番人といったところかな」


彼は不敵な笑みを浮かべてそう言った。


「番人?」

「そう――番人」


僕は警戒心を最大に尖らせつつ、少年の言葉に一応耳を傾ける。


「僕様の出自とか正体は――まあ一応ちゃんとあるんだけど、めんどくさいから教えなーい」


少年は、人を小馬鹿にするような調子で僕にそう言った。


「それより、僕様は僕様の役目を果たさなくちゃならないんだ。……できれば君にも、僕様のお役目勤めに協力して欲しい」

「僕にできることなら協力するけど……その『お役目』ってのは、一体どんなものなんだい?」


僕は尋ねた。


「僕様はね、ここを通ろうとする者になぞなぞを出す、言わばスフィンクス的な役割を担っているんだ?」

「スフィンクス?」

「知らないのかい?――とある世界にいる、謎解き好きな怪物だよ。……まあスフィンクスの話は置いておいて……」


彼は一瞬目を伏せた後、再び視線を僕に向ける。


「君がここを通ろうとするなら、僕様は君に問題を出さなきゃいけないわけ。その問題に見事正解すれば、君はここを通ることができる。だけど、もし間違えたら……」

「……間違えたら?」

「そしたら――まあ特に何かあるわけでもなく、普通にUターンしてもらうことになるね」

「ここが通行止めになるってこと?」

「そゆことそゆこと」


そこで僕は堪らず、これまで我慢していたセリフをぽっと吐く。


「協力っていうか……これって強制だよね?」

「うーん……まあそうとも言うかなー」


彼は依然、飄々とした口ぶりを崩さないでいる。


「まあここで僕様に挑戦せず引き返すっていう選択肢もあるけど――どうする?」

「それはもちろん――挑戦するよ」


ここで引き返す理由がない。僕は当然、彼へと挑むことにした。


「オーケー……じゃあ――行くよ」


少年は目を伏せ、息を整えた後、なぞなぞを出題した。


「問題――『その実、とっても曖昧なのだけど、あればあるほど死が近くなる。これ、なーんだ?』」


(『曖昧』……『死が近くなる』……?)


なぞなぞとは、基本答えが複数存在する。複数あるが……その中から、出題者の頭の中にある一つを的中させなければならない。


僕は、目の間にいる悪魔的な笑みを浮かべた少年しゅつだいしゃをじっと見つめた。


(羽……角……悪魔……)


この少年はきっと悪魔だ。


(悪魔……悪魔……)


悪魔が出したこの問題――恐らく答えは……


「『罪』――『ギルティ』……かな」


その回答は、僕の口から零れ出るようにして発せられた。


「――ふふっ……正解」


僕の回答を受けて浮かべた少年の笑みは、今までで一番不敵なものだった。


「罪は非常に曖昧なものだけど、多く重ねると死に至る。――他人に気付かれた場合は首切り役人によって首をはねられ、他人に気付かれなかった場合は自ら首を吊る」


少年の、まるで世界の真理を悟り切ったような表情、発言に、僕は思わず息を呑んだ。


「そして僕は――『罪』の権化だ」


その言葉を最期に、彼は紫色の粒子となって空中に霧散した。


「……」


今の一連のできごとは、後々まで僕の心に深く残ることになるのであった。

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