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信号機

こんな信号機が欲しかった。。。(私のショート・ショート 第90弾です)

信号機


自分はひょんなきっかけで、その『信号機』を手に入れた。


それはいわゆる信号機の信号部分だけで、手の平に納まるサイズのミニチュアだった。


そのきっかけは、たまたま通りかかった骨董屋のウィンドウに、なにげなく飾られていて、その澄んだ青く点灯したものにまるで一種の催眠術にでもかかったかのように、自然に近づくよう導かれた。


「すごい綺麗な『青』だなぁ」


ウィンドウ越しに眺め入っていると、自分の存在に気づいたここの店主が出てきた。


「いかがですか?この信号機。私が言うのもなんですが、お買い得だと思いますよ」


「う〜ん。ちょっと高いような気もするのですが。。。」


「そう思われるのも仕方ありませんが、この信号機は、ちょっとばかり特殊な力を兼ね備えていますので。。。それにインテリアにちょっとオシャレだと思いませんか?」


「確かに。。。」


自分は店主の言う『特殊な力』と言う言葉に魔法をかけられたように、購入を決めてしまった。


後で店主に特殊な力について質問してみたが、いずれ判ることだからと、教えてもらえなかった。


ただ教えてもらったことがある。お守りに最適であるので持ち歩くとよいそうだ。ただし、くれぐれも落としたり、壊さないように気をつけるようにと付け加えられた。


もしかしたら、店主が売りたいがためにそのようなことを言っていたのかもしれない。


自分は家に持ち帰り、机の上に置いて眺めてみた。


『なかなか綺麗な『青』だなぁ。それにしてもどんな特殊な力があるのか気になる』


部屋の電気を消すと、暗闇の中に光る青がなお一層輝き、部屋を幻想的な雰囲気に仕立ててくれた。


次の日、自分はそれをコートのポケットに入れ、指でそれを触りながら会社に向かった。


途中に国道があり、普通に信号機がある。


「ちぇっ、また信号に引っ掛かっちゃっうよ」


自分は舌打ちした。


横断歩道の2、30メートル手前ですでに『渡れのマーク』が点滅をしだしていた。


思い起こせば、高校生の頃からそうであった。


あの当時、自転車で通学していた。学校までの間にこの国道がある。そしてこの国道の信号が長いのだ。この国道を素直に渡れるか渡れないかで、遅刻が決まってしまう程だった。


余裕を持って家を出れば、何も問題はないのだが。。。


今のこの状態を考えると、走って行って渡るには距離がある。かと言って、信号が変わるのを待つと時間がかかり、間違いなく自分が乗りたい電車に乗れないだろう。


N.Z.(ニュージーランド)にあるような信号機のない※Roundaboutラウンドアバウトの道路であったなら、どうなるかとふっと頭の中をよぎった。(※N.Z.にあるラウンドアバウトとは、信号機のない道路の円形状になったターミナルみたいなもので、左にしか曲がれない。従って右に右折したい場合は、ぐるりと廻るように(270度)して左折する)


その場合、自動車にとっては有効なのだろう。この自動車社会の日本では、これみよがしに途切れることなく自動車の列が出来てしまい、横断どころではなくなってしまうに決まっている。だから、せっかちな日本人にとっては、このような方式は合っていないだろうな。


そんなことを断ち切るために、首を横に振りつつ我に返った。


今は、この道路をいち早く横断したいだけなのだ。


『あ〜ぁ。乗らなきゃならない電車に乗れないや』


そう思っていた矢先、点灯していたはずの渡れの点灯が、再び点滅せずに青く点灯していた。


「あれっれっ?先ほどの点滅は自分の見間違いだったのかなぁ?」


とにかく国道を素直に渡れたおかげで、会社に遅刻せずに済んでしまった。


そして会社での仕事も、遅刻をしなかったので、なんだかスムーズに事が進み。。。さらに、今日は嬉しい出来事にありつけた。


自分が苦労して作りあげた企画書が通ったのだった。


『長い間、苦労したもんなぁ。。。』


会社の帰りに同僚から企画書が通ったお祝いをしようとのことで、飲み屋に誘われた。


この同僚は、ただこじつけで飲むきっかけが欲しいだけなのだが。実は自分も嫌いではないので、喜んで行くことにしていた。


飲み屋でいつものように、些細なことを話ている内に、今日の出来事を思い出し、同僚に話し始めた。


そして、ポケットに手を突っ込み取り出して同僚に見せびらかした。


「昨日、骨董屋でこれを買ったのだけど、いいだろう?」


「なんだ、それ?信号機か?」


「あぁ、そうだよ。ただ不思議なんだよ」


同僚に見せてしばらくすると、あの時の自分もそうであったように、目付きが変わったように見えてきた。


自分はそんな様子を見て、すぐにポケットに仕舞いこんだ。


自分は数日後にある国家資格の試験日に、この信号機をお守りに持って行くことにした。


当日、試験会場の席に着くと試験前にあの美しい『青』を眺めたくてポケットから引っ張り出した。


周りの人達の視線が痛いほど自分に向けられていた。


そんなことなどお構いなしに自分はこの信号機の『青』に見入っていた。


見ているだけで、試験に対する心の準備ができるほど、落ち着いた。


ところが、試験時間が近くなったところでポケットに戻そうとした時に、手から滑って信号機を落としてしまった。


本当に一瞬の出来事だった。


すると、たちまち信号機の色が『赤』に変わってしまった。まるで真っ赤になって怒っているようにも見えた。


『なにが起こるのだろう?』


先ほどの落ち着きが嘘のように、動揺が隠せなくなっていた。


あの店主が言っていたことを思い出さざるを得なかったのだ。


自分はどうしようもない、どんよりとした不安な気持ちに襲われた。


そんな状態で、試験が開始された。


まもなくすると、その思ったことが現実となってしまった。


今まで勉強した簡単なことさえ思い浮かばない。


時間だけ刻々と過ぎていった。


『これは信号機のせい?』


自分は試験どころでなく、ひとつの考えに集中し始めていた。


『どうやって青に変えるのだろう?』


ゆえに試験の結果はさんざんに崩れ去った。


『もういいや。。。くやしいけど、この信号機は手放そう。買い戻しをしてもらおう』


自分は半ばやけになっていた。


試験会場を後にして、あの骨董屋に行くまでにありとあらゆる信号に引っかかった。遠回りしながらも信号機のある横断歩道よりも歩道橋がこんなにも簡便なものだと思いもしなかったほどだった。


かなり遠回りをしたものの、骨董屋に辿り着けた。


少し歩き疲れたが骨董屋に着くと同時に、店主を探した。見つけるとすぐに勢い込んで疑問を投げかけた。


「すみません。この信号機の『赤』を『青』にする方法はあるのですか?判らない場合は買い取りをお願いしたいのですが?」


店主は一呼吸置いて、口を開いた。


「あなたも落としたりしてしまったのですか?」


見透かされた感じに店主に言われてしまった。自分は口ごもりながらも応えた。


「ええ。そうなんです」


「以前のどのお客さんも同じように落としてしまうらしく、ここに戻しに来られるのですよ。運よく壊れはしないものの、信号を『赤』に変えてしまってねぇ。。。この信号機を怒らせなければ、英語で言えばなんでも『passパス』、日本語では言えばいわゆる『通る』ことができたのに。。。道路でも、試験でもなんでもそうなるので、向かうところ敵なしだったものを、実にもったいないことをしましたね」


そんな話を店主から聞いて気になった。


「でもどうやっても、『青』に変える方法はないのですか?」


「さぁてねぇ。。。今までを振り返っても、1度この信号機を怒らせるとその当事者には、2度と青を見せなくなってしまっていましたよ。全く困ったものですよ。けれどそのおかげで、私の店は利益を得られて繁盛しているのですけどね。は、は、は」


「そうですかぁ。。。わかりました。じゃあ、やはり自分は持っていることにします」


「ええっ?いいのですか?先程まで売る気満々だったように思えましたが。。。このままだと何もパスできないし、通れなかったりしますよ」


「ええ。構いません」


自分ははっきりと店主に向かって応えた。店主は腑に落ちない様子で自分を見ていた。


「それならそれで構わないのですが。。。」


店主の少し悔しそうな顔が見てとれた。


自分にある考えが浮かんだのだった。


そう、ほとんどの人が通りたくないものに思い当たったのだった。


少なくともこの信号機を持っていれば、これから先々の苦労はいっさいないのだ。


自分はこの信号機の持つ特殊な力に感謝せざるを得なかった。


「ふ、ふ、ふ。。。これで自分の人生において『いばらの道』だけは全く通らずに済むのだから。。。やったね」




― F i n ―



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