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SPRAY

あなたは、使ってみたい?...このSPRAYスプレー

SPRAYスプレー



『 シューッ! 』


居間にいる娘が鏡を見ながら、スプレーのダイヤルを選び、髪型スプレーをかけている。


するとみるまにヘアースタイルが出来上がっていく。


今日選んだヘアースタイルは、ポニーテールのようだ。それから、かわいいシュシュで飾り立てをしている。


スプレーのダイヤルを合わせてふきかけるだけで、好きな髪型ができるのだから大変便利な世の中になったものだ。


次にお化粧用のスプレーで、顔にふきつけている。


すると、メイクアップの完成。睫毛まつげの長さも、アイシャドゥも、ファンデーションも、口紅の色やつやまで設定できるのだから凄過ぎだ。


そして自分が渡した、スプレーを持ち出した。


ラベルをがしておいたので、何のスプレーか、よくわからないはずだ。


大事なデートの時に使いなさいと言って渡したものだった。


『それを持ち出すということは、今日は大事なデートの日なのだろうか?』


使い方は、首や手首に軽くふきかければよいと言っておいた。


それは、香水のようなものだとも言った。


そして、娘はそれを自分の目の前でふきつけたのだった。


ほのかな甘いいちごのような香りが辺り一面に立ち込める。


「これは、香水に間違いないわね。」


娘はひとりごとのようにボソッと、つぶやいた。


それから、娘は彼とのデートに浮足立つようにして出て行ったのだった。


夕方、娘がデートから家に帰ってくるなり、居間の座卓にいる自分の目の前に座わった。


何かを言いたそうだ。


自分は新聞を広げていたが、そんな娘の様子を察して、なんだかそわそわしてしまう。


『きっと、娘は今日の出来事を自分に伝えようとしているのだろう。


今日のことで、娘から恨まれてしまうかも知れない。』


「お父さん、なんだか変よ。。。どうかしたの?」


「ああ、そうか?そんなことはないと思うけど。」


自分は話をはぐらかし、新聞をたたみながら、一番気になることを訊ねた。


「ところで、今日のデートはどうだった?」


「いつもと変わらないわよ。」


「変わらない?お父さんがあげた、あのスプレーをふきつけて出掛けたのにか?」


何気なくあのスプレーの効果を探る。


「あの香水はとっても良い香りだったわよ。彼も気に入ったみたい。」


「そうかぁ。。。気に入ったかぁ。。。えっ?!それは本当か?何もなかったのか?」


「お父さんは、何かほかに期待していたの?」


「いや、その、。。。ほら、だから、。。。」


自分はしどろもどろになりながら、納得できずにいた。


『おかしい。。。娘は自分の目の前であのスプレーをかけていた。だのに、何故?

だったら、そんなことは、ないはずなんだが。。。』


少し間が空いてから、娘は照れながらも自分に白状した。


「えっとぉお、。。。実はそうなんだぁ。。。言うのも恥ずかしいんだけど、あのスプレーのおかげかもしれないけど、いつもより彼氏とより親密になれたように思うわよ。

ありがとう、お父さん。」


「なにぃっ?本当なのか?」


「ええ、本当よ。嘘ついてどうするのよ。」


「ちょっと、待った。それはまずいことになってしまった。」


「はぁあっ?何がまずいの?」


「いや、それはこっちの話だ。なんでもない。。。」


自分の返事に、娘はあっけにとられてしまっていた。


「ちょっと、自分の部屋に行く。」


自分はそう言い残すと、そそくさと居間から出た。


娘はそんな自分の不自然な言動を理解できずにいた。


その後、自分の部屋の机に向かい、ぼんやりと考えていた。


「あの娘に変な虫が付かないようにと思って、あのスプレーを渡したはずなんだが。。。

間違って、彼氏を近づけるフェロモンスプレーを渡してしまったのかな?」


『確かに今の妻とのデートでは、あのフェロモンスプレーが非常に役に立ったのを覚えている。』


フェロモンスプレーは、単純にその人が好むフェロモンを漂わせてくれるものだった。


妻の好むフェロモンを捜すのに一苦労したが、いろいろ試してあのダイヤルで合わせたものが好きだと判明したのだった。


それからというもの、妻とのデートの度にそれをふきつけたおかげで親密になれたのだ。


そんなこんなで、今に至った。


自分はちょっと昔のことを思い出し、ひとりでセンチメンタルになっている。


ふと我に返り、机の上を見つめ直す。


「いや、間違いないぞ。娘に渡したのは間違いなく、あのスプレーだったはずだ。」


机を前にして考え込んでいると、あのスプレーの入っていた箱が転がっているのに気が付いた。その中から、取り扱い説明書を引っ張り出す。


「なに、なにっ?!。。。」


その一部に目が走った。


『使用後、効果のない場合は非常によい相手なので大事に致しましょう。

またとない出会いで、結婚に相応しい相手とも言えるでしょう。

それ以外の場合は、。。。』


「なにぃ〜っ?!そんなことになってしまったのか!あぁ〜あ、。。。娘の相手を確かめる結果になってしまったなんて。。。、」


あの娘の彼氏はあのスプレーによって、変な虫、いわゆる害虫ではないと言うことが判明してしまったのだった。


自分は、思っていたことと裏腹な進展に焦ってしまっていた。


自分としては、かわいい愛娘まなむすめにずっとかたわらにいてもらいたいがためにあの『虫除け予防スプレー』を渡したつもりだったのだ。


『だが仕方のないことなのかも知れない。年頃なのだからなぁ。。。まあ、娘の彼氏が良いらしくて、それこそ良かったと思うしかなかろう。』


ついに自分は観念した。ただ、自分はほかの考えに矛先を変えた。


「そうとなれば、とにかく試す必要がありそうだ。」


そこで自分が、もうひとつ購入しておいた虫よけ予防スプレーを引出しの奥の奥から引っ張り出した。


そして、試してみることにしたのだった。


最初に自分の首や手首にふきつけてみる。


それからスプレーのラベルを剥がし、なんとかごまかして、買い物から帰って居間にいる妻に渡そうとしたのだった。


「あれっ?あなた何か香水をつけてる?」


さすがに妻は、自分のつけたスプレーの香りにすぐに気がついた。


「ああ、わかるかい?」


「わかるわよ。。。ねっ?!」


妻は娘に同意を求めている。


「うん、わかるよ。。。」


「母さんや、これをあげる。」


自分は娘の前で少し照れたふりをしながら妻にそのスプレーを渡したのだった。


「あっ、お母さん、それ私がお父さんからもらったのと一緒だよ。スプレー缶の模様が一緒だもん。」


「あら、あなたもお父さんからもらったの?」


「うん、そうよ。これねぇ、いま香っている甘いいちごのような香水なんだよ。」


娘は完全に香水だと思い込んでいる。


『 シメシメ。。。 』


自分は心の中でほくそ笑んでいた。


「それを私にもくれるの?珍しいこともあるのね。」


なんとか切り抜けた感じで、渡すことに成功した。


「ちょっと、トイレに行ってくる。」


自分は席を立ち、トイレに向かった。


『うん、いける、いける。。。大丈夫だ。自分があのスプレーをふきつけていたにもかかわらず、ふたりに近づいても、なんともなかった。』


自分は嬉しさで胸を躍らせていた。


それから妻が首や手首にふきつけたと見計らった後で、自分は再び居間に戻った。


そして、娘がいるにも関わらず、妻に向かって本当に照れながらも、嬉しさのあまり言い出したのだった。


「なあ、おまえ、最近すごく綺麗になったなぁ。。。」


「どうしたの急に、怪しいわねぇ。」


「ああ、たまには感謝の気持ちを込めて、プレゼントだよ。」


「だけど、なんでラベルを剥がすのよ?」


「だって、わかるだろう?愛情をお金に換算されたくないから、金額をチェックできないように剥がしたんだよ。」


「まあ、それもそうね。安いものでごまかされるのもしゃくだものね。」


そう言った妻をみると、なんだか落ち着きをなくしている。


急にそんなことを娘の前で言われ、すごく困惑しているようにも見える。


自分はそれを見て、さらに嬉しくてしかたがなかった。


だが、そうではなかったのだ。


妻は懇願するように自分に向かって言い始めたのだった。


「ごめんなさい、あなた。。。もうそれ以上、私に近寄らないで。。。

できることなら、もっと、もっと、私から離れてくれない?。。。お願いだから。。。」


この時、娘は母親の不可解な言動も理解出来ずにいた。


しかし、自分は、。。。すぐに理解していた。


『どうも、効果てきめんなスプレーなのだ。だが恐いことに、そのスプレーの中身がなくなるまで、もしかしたら、ずうっと。。。。。この状態が続いてしまうのかもしれない?』


自分からしてみれば、妻がこのスプレーを気に入らないことを願うしかなかった。


「わかったよ。ちょっと、部屋に行ってくる。」


そして、自分は再び部屋に戻り、取り扱い説明書の続きを読んでみた。


『それ以外の場合は、ご想像の通りです。変な虫がつかないように、その人に近づかないように予防してくれます。ですからそのような場合の相手には、別売品の撃退スプレーをご使用して下さい。』


「なぬっ?『撃退スプレー』??そんなものを使われたらどうなってしまうのだろう?」


自分は試さなければよかったと後悔したが、後の祭りだった。それより、このことがバレないような方法を模索していた。


それからしばらくすると、居間にいる妻が、自分に向かって大声で話し掛けてきた。



「ねえ、あなたぁ、。。。これどこで買ってきたの?。。。香りがすごく気に入ったからさぁあっ、。。。今度はもっとたくさん買ってきてくれない?私と娘の分で、予備として置いておこうと思うのよ。。。ねっ、いいでしょ?」


しばらくの沈黙の後、自分は苦し紛れな返事を返すのが精一杯だった。


「あぁ〜。。。、そいつは間違いなく、なんとかしたいんだが。。。」


居間にいる妻と娘の楽し気な声がものすごくねたましく感じられた。




― F i n ―




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こんにちは。

今までの私のショート・ショートにお付き合いしていただきまして、ありがとうございました。

これからも投稿するつもりでいますが、(いつ投稿できるかわかりませんが、。。。f^_^;)どうぞよろしくお願いします。

なお、ほかの作品は、自費出版させていただいた文芸社の『私のショート・ショート』でお読みくださると嬉しいです。(ネットで検索できます)また、魔法の図書館に投稿しているちょっと長めの恋愛小説『写真』&『ねぇ、こっち』もよろしくお願い致します。

私のショート・ショート の著作者、Telebookこと浅野浩道でした。


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