クリスマスラブ
誰にでもクリスマスの思い出はあるでしょう。私のクリスマスの思い出は、。。。
クリスマスラブ
夕暮れ時、街路樹に綺麗に飾り付けされたアイテムが一斉に輝き出し、賑やかにクリスマスソングが街中に響き渡っている。まさしく、街全体がクリスマス色に染まっている。
『明日はやっと迎えた素敵なクリスマスの日なのよね。そう、私は明日という日を指折り数えて待ち侘びていたのよ』
そんな気持ちで、この通りを歩いているだけで心ときめき、顔が自然とほころんでくる。
『だって遠距離恋愛をしている彼氏に久しぶりに会えるんだもん。年に数回しか会えないなんて、胸の内がものすごっく苦しかった。その想いがずうっと続いていたのよ。だけど、七夕の彦星さんと織姫さんと比べると、数多く会えるからましなのかな』
「あっ、わたしの自己紹介。22歳でアパレルに勤めている女の子。いやいや、もう、立派な女性よ。とは言っても精神年齢だけは、やはり女の子かな。は、は、は。名前はやはり秘密にしとく」
「これでもお店の売り上げには、かなり貢献しているつもりなのよね」
「そして、明日から3日間、店長にお願いして、休みをいただいたの」
『お店から帰ってきて、たった今、お泊まりセットとスキ-セットを持ち出し、この街を歩いているところ。そして今夜、スキ-ツアーに申し込んだ夜行バスに乗って出かけるんだ。うふふ。その夜行バスで久しぶりに会う彼氏と一緒なんだもん。とっても楽しみだな。何ヶ月ぶりだろう。夏に会ったきりだから、。。。』
ワクワク、ドキドキしながら、バスの集合場所に到着。
彼はすでに、バスの集合場所でベンチに座っていた。彼を見つけて忍び寄って後ろから驚かすように声をかける。
「わっ!!。。。びっくりしてくれた?」
「ぜんぜん。びっくりなんかするかよ。いつものことだろ。それより、もしも人違いで驚かしてたらどうしてたんだよ」
「わたしが間違える訳ないじゃない。びっくりしてくれなくて、つまんないの。それでも、久しぶりに会えて嬉しいな。元気にしてた?」
「ああ、いつものように元気にしてるよ」
なんだかそっけない感じの返事が返ってきた。
『まっ、いっか。。。』
待ち時間の間、彼との楽しいお喋りが始まった。
「このツアーはミステリーツアーなんだけど、どこのスキ-場に行くのかしら?」
「どこだろう?苗場スキー場かもね」
「なんだか、心がゾワゾワしてきたわ」
「なんだそのゾワゾワって言う表現は?」
「いいじゃない。わたしなりの表現よ」
そうこうしているうちに時間がきて案内の放送が入り、点呼が始まった。そして、私たちの順番がきて、バスのトランクに荷物を預け、早速、出発。
だけどバスの中は格安ツアーだけあって、本当につまらないの。だって、おしゃべり禁止だし、おまけに外も眺められないようにカ-テンで閉められていて「カ-テンは開けないで下さい」だって。途中2回ほど、パ-キングで身体の凝りをとりながら、この時ばかりは一方的に彼に喋りまくっていた。何時間もバスの振動に耐えながら、はるばる目的地のスキー場に着いた。
『あ〜、眠いし、寒い。まったくと言っていいほど寝れなかった。だけど清々しい朝だわ』
辺りはまだ薄暗かった。それでも月に照らされた雪の反射した明かりで、充分明るく感じられた。その中で新雪によろめきながら、ふたりは宿泊施設に荷物を預けに向かった。
途中の宿の名前を見て、どこのスキ-場かが判明した。
「八方尾根スキー場だったんだね」
スキ-板は置き場に預けて、宿の中に入って行った。
女将さんは慣れたもので私達を部屋まですぐに案内してくれた。
足を伸ばして、温かいお茶をすすると体に染み渡る。
彼は美しいフォームでシュプールを描き、アッと言う間に下って行ってしまった。
『それはもう、かっこよすぎて口をポカンと開けて、後ろ姿に見惚れていたほどよ』
だけど残された私は、ちょっとばかりふてくされていた。
『ふん、なによ。ひとりでスイスイ滑っていっちゃってさ。私のことなんか、これっぽっちも考えてくれていないのよね。せめて、手を取って「教えてあげるよ」なんて言ってくれたっていいじゃない』
すごく期待していた私が情けないし、ここに残された寂しさがシンシンと降る雪の静かさで余計に虚しくさせていた。
『なんで上手に滑れないんだろう』
『せめて、ちょっとだけでも、わたしの手を引っ張って滑ってくれたっていいじゃない。ちょとしたことで、女の子は嬉しいものなんだよ。気がついてよ』
そんなことを思っていても、冷たい風と凍てつくような雪がわたしに容赦なくぶつかってくる。
『うわ〜、寒い』
わたしは転ばないようにしながら、片手で2本のストックを持ち、もう片方の手でポンポンがついた白いニット帽子を耳の下まで被せ直した。
『あとどれくらいで下に辿り着くのかしら?』
なんだか白い世界にただひとりでいて、心細くなるし、不安にもなってきた。
『まさかとは思うけど迷子?いや遭難なんてことになってないわよね?』
しばらくすると、だんだんと雪の降り方が強まってきた感じさえする。それにものすごく寒い。彼がここに居ないだけでも余計に寒さが身にしみる。
ついには、辺りがホワイトアウトのようになってしまい、わたしはどこにいるのかわからなくなってしまった。
『なんとか早く、下まで辿り着かなくっちゃ』
焦る気持ちはあるのだけど,体が思うように動いてくれない。
『なんでよ。なんでよ』
それでもほんの少しづつでも下ることができているみたい。
『もう頑張るしかないんだわ。もう絶対に彼を許さないんだから』
何度も立ち上がっては転びを繰り返しながら頑張っていると、私の目の前に、突然赤い服を着たサンタさんが夢のように現れた。
「おじょうさん、大丈夫ですか?」
聞き覚えのある声。
そう、それは彼だ。
「何してたのよ。ここまで降りてくるの大変だったんだから」
怒る言葉が先について出ていた。
「ごめん。この服を取りに宿まで戻っていたんだよ。そのあと、君を一生懸命探して滑ってたんだから」
「だったら、スマホに連絡してくれたっていいじゃない?それに悪いんだけど、この状態でそんな服どころじゃないでしょ?」
「まあ、そうかもしれないけど、。。。自分としては着たかったんだもん。しょうがないじゃないか」
『なんか子供みたい』
そう思うと自然と笑いが込み上げてきた。
「で、どうしてそんな格好にこだわっていたのよ?」
「えっと、それは、。。。サンタと言えばプレゼントを運んでくるだろ?ちょとした思い出を作りたかったんだよ。それで、自分からのプレゼントを君にあげる」
彼はそう言って、両手をめいいっぱい広げていた。
「何それ?」
「いいよ、飛び込んでおいで」
「ばっかみたい」
次に彼は赤い服の中から小箱を取り出し、箱を開け片膝をついて、真剣に私をみつめながら、。。。
「ぼくと結婚してください」
『えっ?うそ?信じられない』
嬉しさのあまりに一瞬、間を置いてしまっていた。
「答えは、もちろんイエスよ」
そしてすぐに彼の胸に飛び込んでいった。
とは言っても、滑れない私は彼のほうから迎えてくれたのだけど。。。
「君を幸せにするよ」
さっきまであんなに吹雪いていたのが嘘のようにやんでいた。
「さてと、そろそろ戻ろうか。ストックは持ってあげるよ」
彼は右手を差し出して、私はためらうことなく左手で応えていた。
そして2人の左手の薬指には、雪の結晶に負けない輝きを放った指輪がきらめいていた。
それから私は、彼にしがみつく感じで幸せをかみしめながら滑り降りていったのだった。
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