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ファンデーション

素晴らしいファンデーションを発明、。。。

使ってみない?

ファンデーション



「ついに出来たぞ。」


「博士、ついにやりましたね。」


「おお、これさえあれば、思いのまま。」


ここは、とある研究所。


60歳代後半の博士と40歳半ばの助手で、パウダーの成分を地道に研究し、20年以上を経て、ついに試作品の完成にこぎつけた。


「これが、ファンデーションだ。」


博士は興奮を押さえられずに、たったひとつ出来上がった試作品のファンデーションを持ち上げて叫んでいた。


「画期的な発明ですよね。」


「おお、素晴らしい発明だと自負しておる。」


「しかし博士。これは、どのように使えばよいのでしたっけ?」


「なぬ?君はそんなこともわからずに、この研究に携わってきたのか?」


「お恥かしながら、完全に理解はしておりません。」


「わかった。君に説明してあげよう。」


博士はその平べったい小さなまるい容器に入れられたファンデーションを左手で持ち上げながら、助手に向かって説明を始めた。


「これは、このスポンジに少しつけて、なりたい人の写真などを見ながら、顔にこすりつければよいだけじゃ。ただ、それだけで終りじゃ。」


「ただ、それだけですか?」


「ああ、そうじゃっ。。。だが、そこから、このファンデーションの凄さが発揮されるのじゃよ。そうすれば、その人物と、うりふたつの自分になれるのじゃ。そして、このファンデーションが勝手に剥がれ落ちるまで、その人物と同じ顔でいられる。どうだ、すごいだろう?」


「ええ。だけど、どんな人でもいいんですか?」


「ああ、どんな人でも構わんよ。なりたい人に誰でもなれる。」


「その人物と見分けは、つくのですか?」


「まあ、ほとんど見分けをつけようとしたところで、無理じゃろうな。それに、昔の自分の写真を見ながらだって、よいんじゃぞ。そうすれば、若返りも可能じゃ。ただ、忘れてならないのが、しばらく経ってからの、重ね塗りは絶対に厳禁ということじゃ。」


「それは、どうしてですか?」


「それは、このパウダーが持つ化学成分のせいじゃよ。」


「そうか。。。じゃあ、なりたい人物をあらかじめ決めておかないといけないのですよね?」


「その通りじゃ。」


「これは、間違い無く素晴らしい発明ですね。絶対、皆が欲しがるでしょう。」


「その通りだと思う。ただ、気をつけねばならんことも確かじゃ。」


「それはどういうことですか?」


「君はそんなことも、わからんのか?」


助手はあごに手をあてて、しばらく考え込んでみたものの、思いつかなかった。


「いや〜、やはり、わかりません。」


「それは、悪用されるかもしれないということだ。」


「なるほど。。。確かに、これほど便利なものはありませんよね。」







「そうじゃ。例えば、泥棒をする時に、このファンデーションを塗り、ファンデーションが剥がれ落ちるまで逃げ通せば、元の顔に戻ってしまうのだから、考えるだけでも恐ろしい。」


「確かに、そうですよねぇ。ほかの人になりすまして、悪さが出来ちゃうんですものね。」


「その通りじゃ。まあ、使い方の先のことを考えていても、仕方がない。」


「そうですよ。まず、このファンデーションが確実に出来ているか、試してみなければわからないことですからね。」


「そういうことじゃ。成功してからの話しじゃからな。」


「しかし、博士は偉大ですよ。」


「そんなことは無いぞ。」


博士は誉められて、少しはにかんで照れている。


「そんな、謙遜しないで下さい。そうだぁ。。。。今だから、言わせてください。さすが、博士ですね。えっと、そうだ。ひとつ質問があります。」


「なんじゃ?いまさら、まだ質問とは、。。。」


「それは、このファンデーションは他の化粧品と一緒に使えるのですか?」


「なんだ、そんなことか。。。もちろんだとも。。。それは、人それぞれファッションにこだわりがあるじゃろう?だから、このファンデーションの重ね塗り以外なら、好きなように口紅でも、アイシャドウでもつけ加えることができるように工夫をこらした。」


「なるほど。。。」


「さて、君はこれを使って、試してみる勇気はないかね?」


「いや〜、そんな大それたことは、。。。まず、博士から使ってみて下さい。」


この助手は万が一、失敗した場合を恐れて、こう言ったのだった。


「なんだ、勇気が無いのか?」


博士は冷たい視線を、助手に投げかけていた。


「そうか。じゃあ、仕方が無い。わしが使うとしようか。。。」


そこで、博士は持っていた試作品のファンデーションをもう一度、自分の目の高さに掲げて眺めた。


なんだか、博士のワクワクしている気持が、伝わってくる。


そして、博士は自分の昔の写真を内ポケットから取り出した。


博士の準備の良さに助手は驚いていた。


『なんだ。やはり、博士は自分で試したかったんじゃないの?』


そう思う意外、ほかならなかった。


それから博士はイスに腰掛けて、その写真を眺めながら、そのファンデーションを顔全体に、まんべんなく丁寧に塗り始めた。


私は、博士のことを尊敬しています。」


「そんなに誉めるな。わしは、人々のために貢献する。それが、わしのモットーなだけじゃ。それがあったからこそ、ここまで来ることが出来たのじゃ。」


すると、みるみるうちに博士は、若返り始める。


「博士、すごいですよ。成功ですよ。」


助手は博士の顔を見ながら、興奮を隠せないでいた。


博士自身も肌が艶やかになった感触を、手で頬をさすりながら感じ取っていた。


「おお、なんという肌ざわりじゃ。」


長年親しんだ皺のある頬が、ツルツルに変わっているので、博士はすごく喜んでいた。


しかし、ある程度時間が経つと、助手の博士を見る目つきが変わってきた。


「どうかしたのかね?。。。急におとなしくなって。。。。」


博士から訊かれて、助手は困惑していた。


「あの〜。。。」


「『あの〜。』だけでは、わからん。急に君の様子が変わったから、気になるじゃないか。」


「ええ、そうですよね。それじゃ、ひとつ質問をさせていただきたいのですが?」


「また、質問かぁ。。。君も質問をすることが好きだな?まあ、それが研究熱心に繋がることでもあるのだがね。とにかく、君の質問を聞こうじゃないか。」


「ありがとうございます。それでは、質問をさせていただきますが、博士の手にしている写真は、いつ頃のものなのですか?」

博士はつまらない助手の質問に、うんざりしたような感じで返事を返し始めた。


「ああ、これか?わしが20歳頃の写真じゃが、。。。確かに古いよ。なんて言ったって、この写真は、白黒写真の時代じゃ。今のカラー写真とはちょっとおもむきがちがうだろう?それに、ほら、部分的だがセピア色になってしまっておる。」


博士は助手に写真を見せ、昔の自分を指差しながら話していたが、そこで何かに気付いてしまった。


そして、落ち着いている素振りを見せながら、自分の顔を鏡に映して見るために、研究室の隅にある鏡の前に立った。


すると、その鏡には、白黒の若い博士の顔が映し出されていたのだった。


博士はいるように、鏡の中の自分を覗き込んでいた。


「博士、。。。気を落とさないでくださいよ。ファンデーションの発明は、完璧に成功したのですから。。。。。ところで、このファンデーションは、どの位で剥がれ落ちるのでしたっけ?」


しばらく博士は黙り込んでいたが、小さな声で助手に返事を返した。


「そうだな。。。そりゃあ、出来るだけ早く、このファンデーションに剥がれ落ちてもらいたいのだが、。。。今のところ、それがどの位なのか、さっぱりわからんのだよ。」




― F i n ―



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