希望玉
『希望玉』
誰もが願うこと。それは、。。。
ここは、まったくひと気のない山奥にある研究室。
あちらこちらのテ-ブルの上に様々な薬品が置かれ、一種独特なツ-ンとする臭いが、この研究室いっぱいに立ち込めていた。
そんな研究室で、ふたりの人物がくたくたになりながらも、研究に勤しんでいた。
「やった〜、出来上がったぞ」
近くにいる助手に向かって、博士は喜びの表情を浮かべ叫んだ。
「これは急いで作り上げる必要性があったのだ」
「博士、完成したんですね」
助手が博士を見つめて、話しかけた。
「うむ。やっとだ。1年かかってしまった。どうしても、これは急いで作り上げる必要性があったのじゃ。なにせ、ばかばかしい戦争をしている国があるから、それを終わらせるためのものが必要だったのじゃよ』
「でも、1年たらずでよくできたと思いますよ」
「そうじゃな。感無量じゃ。わしは、これを『希望玉』と名付けることにした。君に相談せずに名前を決めてしまって悪いのう」
「いえ、いえ、気にしないでください。博士がメインで作り上げたものですから。私はぜんぜん気にしていませんよ。で、どんな効果があるのでしたっけ?」
「それはだな、そこで戦争をしている兵士達のプロパガンダに対抗するために、この『希望玉』により、本当にやりたいことは何かを彼らに思い起こさせるものじゃ。どんな相手に対しても、効果がでるよう様々な薬品を混ぜ込んで、8尺玉の花火を作ったわけじゃが、なぜ『8』にこだわったか君に分かるかい?』
しばらく、助手は考えていたが、答えられずにいた。
「ん〜、何故でしょう?」
「それはじゃな、『8』は古来から末広りに良いことを迎えると言う縁起の良い数字なのじゃよ。だからこそ『8』にこだわったのじゃ」
「なるほど。そうだったのですね」
「それはさておき、花火の重さに関しては、改良を重ねてかなり軽くなっているから打ち上げはさして問題なかろう。そして、これが最も重要なことじゃが、早く戦争などやめて、平和になることを望んで作った渾身の代物なのじゃ」
「博士、それって間違っても生物兵器じゃないですよね?」
「何をぬかす。そんな、どうしようもない、くだらんものと一緒にせんでくれ」
そして、博士は助手にこの『希望玉』をある国に届けるよう依頼した。
「『希望玉』は、ひとつしかないから、くれぐれも、気をつけて運んでくれたまえ」
「任せてください。必ず無事に送り届けます」
通常、飛行機に危険物は乗せることはできないことになっていたが、特別な事情と博士の平和への強い想いから、特別に国の許可が下りたのだった。
そして厳重な梱包がなされ、厳重な警備のもと、助手は『希望玉』と一緒にある国に向かい、無事に届けられたのだった。
その国の大統領から感謝が述べられた。
「よくぞ、来られました。感謝してもしきれません。どのような効果が現れるのか楽しみです」
そしてある夜、夜空に向かってその8尺玉の花火が打ち上げらる瞬間を迎えた。
「司令官、準備が整いました」
「よし、では打ち上げだ」
嵐の前の静けさのような中、皆が固唾を飲んで司令官のカウントダウンに耳を傾けた。
『3、2、1』
ミサイルや爆弾と違い、発射音が微かに響き、敵陣近くの遥か上空を目指して打ち上げられた。
その後、一筋の光が夜空に輝く沢山の星々に近づきながら、カラフルな大輪を広げた後、数え切れない希望の流れ星を見せつけるように敵陣に降り注いでいったのだった。
敵、味方の関係なく、大勢がそれに見とれていた。
「素晴らしい。綺麗だ」
大勢が息をのんで、感動していた。
「博士、無事に打ち上がりました。大成功です」
助手は興奮気味に、日本にいる博士に現地にある立体テレビを通じて連絡をした。
「さて、これからどう変わるか試される時がきたのじゃな」
博士は意外に落ち着いていたが、すぐに次なる研究目標を見つけたようだった。
次の日の朝、敵対相手の姿はその場から忽然と消えていた。
『希望玉』によって先陣にいる兵士達が、没頭する何かをそれぞれ見つけ始めたのだった。ゆえに、戦争で人生を台無しにしている場合でないことに気がついたのだった。
「やった。やったぁ」
味方の陣地から、あちらこちらで歓声の渦が沸き上がっていた。
これで愚かな戦争が完全終結となったのだった。
それからというと、なぜか世界中の人々の誰もかれもが何かやりたいことを見つけ、そのことにそれぞれが没頭し始めた。
例えば、ある者は『畑仕事』。ある者は『物作り』。ある者は『推し活』。などなど。
実は、わざわざ国境を超えて運び入れた『希望玉』だったのだが、風によって流された『希望玉の成分』が希釈されずに、世界をぐるりと一周していたのだった。
このことにより、あちらこちらの無意味な戦争や、人種間のいがみ合いなどが一切無くなった。それにもまして、各国で、めざましい発展を続ける結果を生み出したのだ。ついにはその発展によって、世界全体で貧困が無くなり、潤うことに繋がっていったのだった。
そして、ついに、ついに、人々が待ち望んでいたことが。。。
それは、誰もが遥か昔から願っていたこと。
そう、地球上の全ての人々に、
『平和な世の中』が、ようやく訪れたのだった。
― F i n ―




