むだ神さま
このような神さまがいたら。。。?
むだ神さま
『また無駄なものを買ってしまった』
自分はついつい通販サイトで『ポチッ』とボタンを押してしまった。
どうせあまり読みもしない雑誌だとわかっているのだけど、好きなタレントが掲載されているだけで選んでいた。
それにしても簡単に通販で購入できる世の中になってしまったものだ。
なんでもかんでも、すぐに自分のものにすることができるのだから。
いつしか、自分の物欲を満たさずにいられなくなってしまったのだった。
どうもこの家に『むだ神さま』が住んでしまったようだ。
言い伝えによると、むだ神さまはそこの住人に物欲を増幅させる能力があるらしい。しかも、手当たり次第になんでも目につくものが欲しくなってしまうらしいのだ。
『なんとかしなくては。。。』
従って部屋内は物に溢れかえっている。
そして突然、あまりにも酷いことに気が付き、どうすればこの状態から脱出できるかを考え始めた。
そして、ある占い師に相談することにした。
その占い師によりると、毎日、この言葉を口に出して部屋内で言うと、むだ神さまは退散するだろうと占ってくれた。
自分は半信半疑であったが、毎日、部屋内でいるかどうかわからないむだ神さまに聞こえるように、その言葉を少し大きめな声を出して唱えた。
『足るを知る者は富む』
むだ神さまはその言葉を毎日、耳にする度に寒けをもよおした。
『あまり言わんでくれ。ぞくぞくしてしまう。こいつは要らん言葉を覚えてしまった。むだと思っても、いつかは役に立つことだってあるかも知れないのに。ひとまず退散するとしよう』
それからというもの、自分はあまり物を買うことがなくなってきた。無駄をしないように何にたいしても倹約するようになったのだった。
言わずもがな、みるみるうちに家の中が片付き、きれいになった。
だがある日、ふと以前、口にしていた言葉を思い出し、自然と声に出していた。
『無駄こそ、我の自由なり』
自分で造った言葉だったが、懐かしさにかられていた。
『ん?お呼びかな?』
むだ神さまは、この魔法のような言葉に引き寄せられ、再びこの家に舞い戻された。
すると何故か、自分は以前と同じように、なんでもかんでも欲しくなり始めてしまったのだった。
結果、電気は点けっぱなし、水道は水を出しながら歯を磨いたり、皿洗いをする。煮物を作れば、焦がしてしまい、食べれないこともある。しかも、食べもしない野菜やくだものを買って、冷蔵庫内でしおれて、くたびれてゆく姿を見届けている有様だった。
やはり、この家にむだ神さまが再び住み込んだのだと自分は確信した。
『まあ、いいか。どうせ、このことで人に迷惑をかけている訳でもないのだから、気にすることもない』
自分はひとり納得していた。
それからの自分はというと、毎日、毎日、不要であるものを買い漁ったり、ありとあらゆる無駄を楽しんでいた。
そして、むだ神さまは、。。。
部屋内にどんどん増えてゆくいらない物や、無駄に使い込んでくれている通帳を見ながら、はしゃいでいた。
『やったー。これぞ、我が、むだな役割だ』
それからも、次から次へと部屋はどんどん物で溢れかえってゆく。
『は、は、は、は。これはたまらん。まことに、嬉しい。こやつはこやつの人生において、こんなくだらんことに、こんなにも多大な「無駄な時間」を費やしてくれているのだから、楽しくって、やめられない』
むだ神さまの最大の目標が、ひたすら続いていることで、大喜びだった。
― F i n ―




