めぢから
誰でも『めぢから』があります。そんな自分の『めぢから』が。。。(私のショート・ショート第79弾です。)作品公開2011/09/05
めぢから
自分のめぢからは誰にも負けない。
自分の目が特別に大きい訳ではないが、力がある。
それに自分自身に魅力があるから、見つめ返されるとも思っていない。
自分のめぢからで、気を引きたいその人の注意を勝手に引き寄せているのだ。
ようするに、自分が見つめれば、相手は必ず自分の視線に気がついて、目を合わせてくれる。
とりたてて、女性に対してのめぢからは100発100中の力を発揮してくれている。
何気なく見つめても、すぐに気付いてくれる。
しかし、自分は照れ屋さんだから、すぐに目をそらしてしまう。
それでも、相手は自分から目を離さない。
再びその女性に目を向けると、まだ見ている。
だから自分のめぢからは、大好きなアーティストのライブで、大活躍してくれる。
もちろん、遠くから見つめていても、必ず気づいてくれ、見つめ返してくれるのだ。
ファンの心理からして、見つめられてもいないのに見つめられていると思い込んでいる訳ではない。きちんと、見てくれているのだ。
そんなある時、外出した際に、電線の上に止まっていたカラスと目が合ってしまった。
すると自分の頭上で、カラスがしきりと鳴きわめいている。何を刺激したのか、カラスに睨まれているではないか。
『えっ?』
あまりにもうるさいので、そのからすに再び目が向くのが自然のなりゆきというもの。
すると、そのカラスと確実に目が合った。
カラスは、ものすごい形相で鳴きわめき始めた。
そんなカラスを気にもせず、通り過ぎようとした時だった。
『ばさ、ばさ、ばさ。』
妙な羽音が聞こえたので振りかえると、至近距離まであのカラスが近づいている。
「カァ、カァ、カァ。。。」
カラスは何を勘違いしているのか、まるで「いちゃもん」を付けられたから襲っているんだと勢い込んでいるようだった。
『うるさいなぁ。勘違いするなって。』
自分がそう思ったところでカラスは納得していないようで、攻撃をしかけてきた。
あんな大きいカラスに襲われるとかなり恐いものだ。
『勘弁してくれ~。』
『でもなんで、大勢いる人の中で自分を選ぶのだろう?』
『確かにそれはそうかもしれない。。。すぐに納得した。自分のめぢからはそれだけ引寄せる力があるのだ。』
しかし、それからというもの、そんな自分のめぢからにも陰りが見え始めた。
自分のめぢからの方向性が見失われてしまったのだ。
最近の自分のめぢからで、どんなに避けたくても、引き付けてしまう人達がいる。
どうしてなのか、今までと違った方向に自分のめぢからが、働いていてしまうのだ。
現に、その人は近づいてきて、恐そうなものすごいめぢからを発揮して、自分を上から睨みつけ始めている。これで、何度目になるのだろう?
「おい、おい、にいさんよ。。。なんか文句でもあるんかい?」
「文句だなんて、とんでもありませんよ。」
「兄さんの目つきが、いちゃもんつけているようにしか見えんからの。」
この人は、凄みの帯びためぢからで自分を見下ろしている。
自分は自分のめぢからをいくら抑えようとしても、はかない努力にすぎず、力を込めて相手を見返してしまっている。
だから、さらにこの自分のめぢからで、この人をかなり刺激してしまうようで。。。
いまにも、このひとの右こぶしが、。。。。。
― F i n ―




