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欲求

誰でもやってみたいことがあるでしょう。。。自分の場合は、。。(私のショート・ショート 第84弾です)2012年12月5日投稿作品


欲求


夕闇迫る薄暗い林の中、風に揺すられた葉の音だけが響き渡っていた。


自分は辺りに目を配った。


決して誰にも見られてはならないのだ。


誰もいないことを確認すると、自分は声を出して呪文を唱え始めた。


間もなくすると、一匹の狐に変身を遂げたのであった。


次にもう一度呪文を唱える。


すると元の姿に戻れたのだった。


『成功だ、成功だ』


先程までの人目のことも忘れ、大声を出して喜んでしまっていた。


ついに呪文を唱えれば、自由に変身できる技を身につけれた。


この技の習得はなかなかできずにいた。


先祖代々受け継がれた技だったのだが、コツを掴むのがなかなか難しく、何度も何度も試みたのだが失敗に終わっていたのだった。


それがついに実現できた。


自分は嬉しくって仕方がなかった。


とにもかくにも、その技とは頭の中で変わりたいものを思い描きつつ、呪文を唱えれば、それに変身することができるのだ。


変身するものは、何でもかまわない。


これがどんなに役立つかはおのずと知れてわかるだろう。


早々自分は、以前からやりたかったことをすることにした。そこで、前に見かけたことのある人物の姿に身を変えた。


これからが、勝負どころだ。


変身後、自分は林を足早に抜け、明かりの灯った通りに出た。それから、前から気になっていた1軒の店に忍び込んだのだった。


この店からの美味そうな香りが、自分を誘惑してやまなかったのだ。


入るとすぐに香りの元であるものが目に飛び込んできた。


『おお、これだ。これ』


自分はよだれをこぼさんばかりに、勝手にそこにあるものに手を伸ばし、遠くから様子を伺っていた時に店主がそうしていたように実践した。


そしてその良い香りの食べものをうっとりとしながら口に運ぼうとした矢先、ここの店主に見つかってしまった。


『こらぁ~。誰だぁ!』


自分は口にすることもなく、慌てふためいて逃げるはめになってしまった。


『嘘だぁ~』


口にできなかったことに、半べそをかきながら、自分は店を勢いよく飛び出し、店の扉を閉めたところで、すぐに頭に思い描きながら呪文を唱えて変身を遂げたのだった。


後から追いかけて出て来た店主は、変身を遂げた自分の姿を見て立ち止まった。


『はて?こんなところにこんなものはなかったはずだが。。。』


自分は変身することにより、危ういところで捕まることもなく危険を回避することができた。


自分はじっとしながら、生きた心地がしなかった。


『早くこの店主は店内に戻らないかなぁ?』


そんな思いもよそに、なかなか店主は戻らない。


自分をぐるりと眺め回し、かなり時間が過ぎた頃、この店主が諦めてようやく店に入って行った。


自分はその様子を見届けた後で、元の自分の姿に戻ろうとした。


早速、頭の中で元の姿を思い描いた。


しかし、思わぬところに呪文の落とし穴があったことに気がついた。


声がまったく出ないのだ。


『ン~ッ』


いくら口先に力を込めても、口は微動だにせず、つぐんだままだった。


そうこうしている内に、何もできずに次の日を迎えてしまった。


それからと言うもの、悔しいことに、何も動けない自分が変身を遂げた場所から引きずられ、忍び込んだ店の前に立たされた。


『せめてほかの生きた動物にでも変身していれば、声を出して呪文を唱えられ、こんな事にならなかったはずだったのに。。。』


それとは反対に、店主は妙に浮き浮きしながら、呟いた。


『見れば見る程なかなか良い代物だ。本当に不思議なこともあるもんだ。なんせ、勝手に食べようとしていたあいつを追いかけて外に出たら、このようなものが、突然あるのだから、。。。きっとこれも何かのご縁なのだろう。

そんなことだから、これからはこの団子屋も繁盛するに間違いない』


反対に自分は、悔し涙を飲んでいた。


『ン~、悔しい。元の姿になるはずが、こんなものに変身してしまうとは、。。。しかもあの美味そうなものを一口も食べれずに逃げ出すはめになり、あいも変わらず美味そうな香りだけをここで嗅ぐだけだなんて、。。。あ~ぁ、辛すぎる。あ~ぁ、悔しい。。。』


しかしそんな自分をよそに店主は言った。


『これからは店が繁盛するように、ここで店先案内を頼むよ』


店主はしゃがみこみ、自分の目線と合わせながら、自分のほほを両手でなでなでして微笑んでいた。


そしてそれから数日経つと、少しばかり変化があった。


それは、右手に酒樽の取っ手が握らされ、頭には編み笠を被らされた。


『まあ編み笠は動けない自分にとって、雨の降ったときに役立ちそうだが。。。』


少なからず、店主の優しさが身に染みた。


『しかし、あの日あの時のことが悔やまれて仕方がない。逃げるのに必死で、焦ってしまわなければ、こんなことにはならなかったはずなのに。。。あの時、元のタヌキの姿を思い浮かべようとしたのに、タヌキの置物を考えてしまったなんて。。。』




― F i n ―

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