願い星
誰でも願いを叶えたい事があるでしょう。自分の願い事は、。。。
願い星
『ガラ、ガラ、ガラ、ガラ』
たまに鳴り響く『カラン、カラン、カラン』
自分は社会人になりたてで、早く彼女を作りたいと思っている。
『あ~ぁ、早く彼女が欲しいなぁ』
彼女のいない歴の記録が更新中になってしまっている。
自分はひとりで○〇会社主催のイベントに参加してみたのだ。
出かけていたりすれば、もしかしたら出合いがあるかもしれないと少しばかり期待していたが、結局、何のことはなかった。
当たり前のように、背広を着たむさ苦しい男性や、暇に任せたおばさんばかりが参加していて、列に並んでいる。
このイベント会場で食事をして、その金額に応じてガラポンの券を2枚もらえ、順番のくるのを待っているのだ。
特等賞はこの○〇会社の最新技術による製品になっていて、一等賞はお米券20枚。その他にもいくつかの賞がある。末等はやはり、会社のチラシが入っているティッシュ。当たりさえすれば、かなり豪華な賞品をゲットできる。
『まあ、特等賞なんて、。。。そんなものが当たるわけないよな。。。』
今までも、ガラポンで抽選をした経験があるが、いつもティッシュや飴ちゃんばかりをもらって帰っている。
出合いこそなかったが、その代わりと言っては何だが、今回こそ末等以外のものを当てて帰りたい。
並んでいると自分のわくわくする気持ちを弾ませるように、係員の声とともに『ガラ、ガラ、ガラ』や『カラン、カラン、カラン』のにぎやかな音が近づいてくる。
「券をお持ちの方、このまままっすぐに手を上げているスタッフの前までお進みください」
ようやく自分の番が回ってきた。ガラポンの置いてあるテーブルの前まで進みでて、ついにその時が来たのだ。
「何枚お持ちですか?」
「2枚です」
自分は持っていた券をスタッフに手渡した。
「では、2回まわせます。どうぞ、まわしてください」
自分は早々と末等以外のものが何でもよいから当たれと願いを込めながら、1回まわした。
『ガラガラガラ』
『ポトッ』
出てきた色は『白』だった。
『残念。。。白はダメだよ。でも、もう1回ある。気を取り直して。。。』
「それでは、もう1回まわしてください」
『ガラガラガラ』
『ポトッ』
「うそ?『金』だ。金色だ」
『ついに出た。。。。。!!出てきた色は「金色」だ』
疑心暗鬼の気持ちで目をこすってもう1度、出てきた色を確かめていると、その前にベルの音が聞いたことのある以上に大きく鳴り渡った。
『カラン、カラン、カラン、カラン』
「大当たりがでました。おめでとうございます。特等賞です!」
ベルの音に続いて女性スタッフが大きな声で発表した。
『うそっ???ほんとう???』
いつもと違う展開に、心なしかまだ信じられずにいた。
高らかに響き渡るベルの音を聞いていて我に返ると、こんなことは初めてのことなので、なんだか気恥ずかしくなってしまった。
周りの皆の視線は自分に痛いほど注がれていて、うらやましがる声があちらこちらから聞こえていた。
「それでは、こちらにお越しになって下さい」
ほかの女性スタッフに促されるまま片隅のテーブルまで行き、席に着くと説明を受けることになった。
「おめでとうございます。恐れ入りますが、こちらの用紙に必用事項の記入をお願い致します」
「こちらに記入すればよろしいのですね?」
「はい」
自分は嬉しさのあまり、少しばかり震える手で記入を終えると、女性スタッフがその特等賞なるものを手にとって説明を始めた。
「それでは、特等賞の説明をさせていただきます。こちらの『願い星』をプレゼント致します。これは、わたくしどもの○〇社が開発したものでして、ひとつのこと以外を除いて何でも願いを叶えてくれるものとなっております。この『願い星』の裏側の左側に現在の年月日や時間が表示されていて、右側に願いが叶えられる残り時間の日数と時間が表示されています」
その製品を見ると、手の平サイズの金色をした平べったいお星さまの形をしたものだった。そしてよく見ると、ふたつの時間が表示された間に、小さな銀色のボッチがあるだけだ。
『こんなもので、本当に願いが叶うのだろうか?』
自分は疑いの眼差しでみていたが、女性スタッフは説明を続けた。
「あなただけの使用に許可されたもので、1年の有効時間内にたったひとつだけ望みが叶えられます。先ほど申し上げました通り、その望みはただひとつのこと以外を除いて、何でも構いません」
「そのひとつって何ですか?」
気になってすぐに聞き返した。
「それは、叶えられる願いが増えますように、と言った願い事です」
「なるほど。。。」
「そのような願い事をされますと、たちまち修了してしまいますのでご注意をお願い致します。それでは続きをご説明させていただきます。お望みを叶える方法は、この『願い星』を外で、空に向かって放り投げながら、目を閉じて願いを込めてください。そうすることで、お望みが叶うようになっています。今から開始いたしますが、よろしいですか?何かご質問はありますか?」
「いえ、今の説明で充分です。大丈夫だと思います」
「それでは、ご質問がなければスイッチを入れさせていただきます」
そう言って、女性スタッフが先ほど見た銀色のボッチを操作して『願い星』を作動させた。
「これで、カウントが始まりましたので、有効時間は来年の2月22日の16時20分迄です。また、何かご不明なことがありましたら、こちらの名刺の担当者までご連絡ください」
そう言って、その女性スタッフから1枚の名刺を渡された。
「『願い星』かぁ。なんとも夢のあるものではあるな」
自分はワクワクする気持ちを抱えながら家路についた。
『ただ、ひとつだけの望みとなると考えてしまう』
いざ使おうとすると、なんだかんだ言っても使うのがもったいないような気持ちになってしまうのだ。
たったひとつだけの願いとなると、『有効時間が延びますように』なんて願っても、それだけで終わってしまって何の意味もなさないし、いくつかの願いが叶うのだったらそういった類の願い事をしてもよいのだろう。そのようにできれば、後でまた考えることも可能なのに、それができないもどかしさがある。
そうこうするうちに、1週間が過ぎてしまった。
友達に相談するも、その友達のことでないから、いい加減な返事をもらったりもした。
「その『願い星』で豪遊がしたいって願って、豪遊しようぜ」
確かに、それでも良いのかもしれないが、豪遊なんていつかは飽きてしまうのに無理やり豪遊が続くのも拷問に近いものがあるだろう。
自分は旅行が好きだから、世界中を旅してみたいとも思う。だが待てよ。旅行がしたいと言ったところで、どこにと言っているわけでもないので、近場の旅行となってもつまらない。贅沢でない旅や、ましてや、ひとりでもつまらない』
『考えるだけでも難しい』
あっと言う間に、ひと月が過ぎてしまった。
しかし、まだ残りが11ケ月もある。
そうこうするうちに、ひと月、またひと月と過ぎて行き。。。
ついにその最終日を迎えてしまった。そして有効時間が急ぎ足で迫ってくる。
もったいないなどと、思っている暇など無いのだ。
『あぁ、どうしよう。どうしよう。。。お金が欲しいだけじゃ、ありふれていて納得できないし。。。洋服が欲しい。いやいや。食べ物が欲しい。。。.あぁ~あ。。。決められない。。。。。』
『あと2分で16時20分になって、有効時間が過ぎてしまう』
焦っているせいもあり、『願い星』を握った手から汗がにじみ出てくるのがよくわかった。
『それまでになんとか、願い事を決めなくては、。。。本当に何でもいいのだよね?。。。わかった、決めた』
ついに自分は焦りながら握っていた『願い星』を空に 向かって力いっぱい投げ、目をつぶって願いを込めた。
すぐに目をあけて空を見上げると、『願い星』は小さな花火のようにバッと広がり、眩しいほどのキラキラした金色の輝きを発しながらゆっくりと降ってきた。
地上付近に落ちてきても、細かく分れた『願い星』 が輝き続けている。
その様子に見とれていると、金色の輝きの中から可愛いひとりの女性が現れたのだった。
女性が現れると同時に辺りはいつもの夕闇に戻っていった。
『うわっ。。。本当に夢が叶ったの?やったーっ』
そう、自分の願いは『可愛い彼女ができますように』だった。
すぐに自分の願いが『願い星』によって叶えられていたのだった。内心、嬉しさのあまりに心が踊っているものの、やはり本物の女性なのかどうか半信半疑なので恐る恐る近づく。
街灯に照らされた女性は、にこやかに笑顔を見せて自分を見つめてくれている。
「。。。すごく、会いたかったわ。だけど、。。。」
「だけど。。、。?何?」
自分はすぐに聞き返したのだが、ものありげな言い方をしたその女性は、それだけ言い残すと自分の目の前から突然『バッ』といなくなってしまった。
「えっ?何?どうしたの?何が起こったの?」
訳がわからない自分は、今しがたまで目の前にいた女性の姿を求め、ぐるりと回って辺りを探したが、どこにも見つけだすことができなかった。
『折角のチャンスが、。。。なんだったの?今のは?』
どうあっても諦めがきかず、それからも20分以上、女性の姿を探し続けた。しかし、その女性を見つけ出すことができなかった。
『実は、『願い星』の故障品を渡されたのかも知れない』
自分は勝手にそう決めつけていた。
府に落ちない自分は次の日、以前にもらった名刺の連絡先に苦情の電話をすることにした。
電話をかけれるまでの朝までの時間がやたらに遅いことといったらなかった。
名刺に記載されていた会社の始業時間と同時に電話をかけた。
「○〇会社ですか?」
「はい、そうです」
「○〇さんはいらっしゃいますか?」
「お繋ぎしますので、少々お待ちください」
しばらく待たされたが、担当者が電話にでた。
あっと言う間しか味わえなかった願い事の喜びに対しての怒りが収まっていなかったが、自分は冷静を装って、言いたいことを担当者にぶつけた。
「あの、昨年の御社主催のガラポンで特等賞の『願い星』をいただいた○〇と言いますが、昨日試したところ、あっと言う間に願い事が終わってしまったのですが、これってどういうことなのでしょうか?」
「そうでしたか。。。失礼ですが、2、3お聞きしたいことがあります。よろしいですか?」
担当者は淡々とした口調だった。
「ええ、いいですよ」
こちらとしては対抗して、負けずと強きで応えた。
「それではお聞きします。あなたの『願い星』の有効時間はいつまでとなっていましたでしょうか?」
「昨日の夕方の4時20分ですよ」
「お願い事をされたのはいつですか?」
「昨日、夕方の4時18分だと思いますが、。。。それが何か?」
「あぁ、そうでしたかぁ。。。それは、ずいぶんともったいない使い方をなさいましたね」
「えっ?。。。それって、どう言うことですか?」
「申し上げにくいのですが、我がの製品でしたら間違いなく有効時間内だけは、『願い星』で願い事が叶えられていたはずなのですが?。。。いかがでしょうか?このような勘違いをされているお客様が多くて、対応に追われている状態です。ところで、もし、延長をご希望でしたら、追加料金は、。。。」
ー F i n ー




