めぐりあわせ
誰にだってめぐりあわせはあるもの。自分の場合は、。。。
めぐりあわせ
自分は以前、かなり弱かった。
弱かったと言う表現から身体が弱かったと思うかもしれないが、そういったことではない。
いわゆる喧嘩が弱かった。そのため男子高校に通う自分は、毎日いじめられて過ごし、卒業までの残りの日数をカウントダウンしているしまつだった。
そう、自分が特殊能力を持つまでは。。。
それはある日の出来ごと、学校に向かう途中でのことだった。
ふとしたことで見知らぬおじいさんを助けることになったのだった。
おじいさんが踏み切りを渡ろうとしていたが、まごついている間に遮断機が降りてしまった。
そんなおじいさんをみていると、よせばよいものをそれから渡ろうとするものだから、電車の近づきつつある音がすぐそこまできてしまっていた。
自分はためらっていたものの助けなければと強い信念に駆られ、すぐさま行動に移していた。
『カン、カン、カン、カン、カン』
耳の中までけたたましく鳴り響く遮断機の音。
その降りた遮断機をくぐり抜け、踏み切り内にいるおじいさんをおぶって、必死にできる限りの速さで渡りきったのだった。
間一髪、事故にならずに済んだ。
『ありがとうのう。本当にありがとうのう』
おじいさんの感謝の言葉を聞いていたが、自分は両方の膝に手をつき、地面を見ながら息切れしていた。
『命の恩人にあげるものが特にないとは、。。。あっ、そうじゃ、ひとつある。そうじゃ、それじゃ、。。。』
おじいさんはひとり納得していた。
少し落ち着きを取り戻した自分は何かをもらおうなど全く考えていなかったので、おじいさんに断りを入れた。
「気にしないでください。ただの通りすがりに出くわして、咄嵯に行動していただけですから。。。それじゃ、学校に遅れますから行きます」
そう言って立ち去ろうとする自分をおじいさんはまだ引き止めようとする。
『おぅ、おぉ。なんと心優しい子じゃ。親の育て方がよいのじゃな。それはさておき、やはりそのような子には、わしの持っている力を授けたい』
「えっ?いや」
自分は頭の中で断りの言葉を探していたがその場にふさわしい言葉がでてこなかった。
すると、おじいさんはおもむろに自分に近づいてきて、肩に触れながら、一声あげた。
『ほれっ』
「えっ、なに?」
一瞬の出来事で自分にしたことが何なのかと思っていると、自分が目にする人逹、いや、目の前のおじいさんでさえ、人の周りになにやら様々な色が重なるように見え始めた。
目をパチパチさせても、目をこすってみてもその状況は変わらなかった。
犬の散歩をしている人の周りには、もやもやっと黄色が多く見受けられ、犬には何故かピンク色が多く見られた。
ほかを見渡してみると、奇麗な色をたくさん持っている人や、なかにはどす黒い色ばかりを持っている人もいた。
自分は再び目をこすって、もう一度辺りを見渡してみた。やはり目をこすってみたところで、周囲の色はなくならなかった。
「おじいさん、なんだか普通に周りの人達が見えなくなってしまったのだけれど、。。。元に戻してはもらえませんか?」
自分は何気なくおじいさんに頼んでみたが、あっけらかんとおじいさんは言った。
『それはもう無理じゃ。その方法は忘れてしまったのじゃ。まあ、それがわしの持っている特殊能力じゃよ。君に分け与えてあげた』
「こう言ってはなんですが、自分には不要だと思いますが、。。。」
『いやぁ、そんなことはない。その内に役に立つはずじゃて。お礼はいらん』
「そう言われても。。。」
この時は何に役立つのかもわからずにいたが、後々このお蔭で人生が変わることになったのだった。
『君にも様々な色が見えていると思うが、それらがその人の得たパワ一の源、いわゆるオーラじゃ。きみに授けた能力とはそのオーラを自由にできるものなのじゃ』
「オーラを自由にできるって、一体どういうことなのですか?」
『ん〜、まどろっこしい。ちょっと見ておれ。近づいて来るおばさんがいるじゃろ。あのおばさんの周りにある赤色をよく見ておくのじゃぞ』
だんだんと近づくおばさんが通り過ぎようとした時に、おじいさんが一瞬触れたかと思うと同時に、赤色のオーラを手にしていた。
おばさんがおじいさんを『なによ』といった感じで振り返った時に、おじいさんはちょっとばかり、おばさんに向かってものを放る仕草をすると赤色のオーラが戻っていた。
『わかってもらえたかな?』
「なんとなくですが。。。」
『オーラは、色でだいたい見当がつくと思うが、良いものになればなるほど明る色、悪くなればなるほど暗い色になる』
「なるほど。。。」
『ただ、気を付けなければならないことがある。それは、心にある隙じゃよ。この能力を他にも持っている者がおる。へたをするとその者に利用されてしまうからのう。充分に注意するのじゃよ。それじゃ、失礼するよ』
そう言われて、おじいさんと別れた。
なんだかよくはわからずにいたが、そんなことはまれのまた、まれ。そんな能力を持った人に遭遇するのも何百万分の1,いや何千万分の1にもならないと思えて気にも止めずにいた。
それからと言うもの、おじいさんの言った通り、この特殊能力のお陰でいろいろと助かった。
先ずはいじめっ子からの解放。彼らが自分に触れたときに、いじめっ子の周りに見えるくすんだ色をさっさと取りあげてしまった。
いじめっ子の様子を見ているとすぐにおとなしくなってしまったのだった。
取りあげたオーラは不要なものなので、それをトイレに行って流して捨てたのだった。
そうしたことで、またたく間に自分をいじめる者は誰もいなくなった。
ただこんなに簡単に人からオーラが取れてしまうと、欲が出てきてしまうものだ。
そこで始めてしまったオーラの色集め。最初のうちこそ人のオーラをいただくことに気が引けていたが、慣れてきてしまうと悪党になってしまったかのように手当たり次第に奇麗な色のオーラをなんの躊躇もなく集めていた。
明るい色を多く持っていればいるほど、心がなごみ、穏やかな気持でいられる。
奇麗な色のオーラが集ってくると自然に彼女ができた。
彼女にはおじいさんとの出来事を話してみた。自分の持っている能力を最初、信じてくれなかったが、時折、自分の見せる行動によって徐々に信じてくれるようになった。
ただ次第に奇麗な色以外のオーラを得るとどうなるのか気になり、色のくすんだものを選ぶようになり集め始めた。
すると暗い色が多くなるにつれ、すさんだ気持を抱くようになった。
間もなくすると彼女に嫌気が差して、どうしても別れたくなってしまったのだった。
長く時間ががかってしまったが、どうにかこうにか別れることができた。
そんなこんなで何年もの間、オーラ集めをしていると、自然にオーラの色の持っている『ちから』の存在が理解できるほどになった。
最近の自分の性格はどうも集めたこれらのオーラで成り立っているように思える。
そう言えば以前、この特殊能力を知り何度となく奪おうとして近づいて来るやつがいた。
が、所詮、無駄なことだった。
相手が自分に近づくとすぐさま相手に触れて、そのくすんだ暗黒色のオーラを取りあげてしまうのだ。
また恐そうな人に近寄られても、その人の持つパワ一の源である色をちょっと触れたときに取っ払ってしまえば、一瞬にして凄みがなくなってしまい、優しい人に変わってしまうのだった。
すると彼等はなにごともなかったかのように立ち去る以外なかった。
彼等から奪ったオーラは誰にとっても不必要なものだから、すぐさまどぶに捨てた。
こうして、数々の困難を切り抜けることができた。
ああそうだ、それだけではない。
ほかに、いい話しもある。
ある時は人助けもしたことがある。
気落ちして今にも自殺をしようとしている人に自分の持つ活力のオーラを分け与えたのだった。
するとたちまち生き甲斐を見つけたかのように元気になりその場を後にしていた。
まだまだ、こんなこともある。
会社で嫌味な上司に出くわしても、ちょっとゴミを取るような仕草をして、嫌味のオーラを取り除いてしまえば、上司だって恐いことなんて全くないのだ。
お陰で大人になった今でも、独身貴族の楽しい人生を過ごしている。
まっ、いわゆる良いところだけを取り入れるといったものなのかもしれない。
おじいさんとの出会い以来、この能力のお陰で世の中を平然と渡り歩くことができている。
オーラを取られた人は少しばかり気の毒かもしれないが、その人が努力すれば、そのオーラは復活するらしいから許して欲しい。
そんなことばかりを考えながら歩道を歩いていると、ふと誰かにぶつかってしまった。
すると自分の持っていたオーラが、その相手ものと混ざり合い、一瞬にして、ひとつのオーラが出来上がってしまった。
なんと、ぶつかった人物は、自分と別れたあの時の彼女だった。
別れるのに相当苦労したことを今さらながら思い出した。
そんな自分の気持と裏腹に、元彼女のすごく喜んでいる様子が、手に取るように自分に伝わってくる。
だが自分にはもうどうすることもできずにいた。
もがけばもがくほど、どんどん自分の持つオーラの色と元彼女の持つオーラの色が絡まって、奇麗なバラ色のオーラがいくつも出来上がってゆくのだ。
なんたること。参った。予想もしていなかった展開にどうすることもできずにいた。
いわゆるいばらのオーラに雁字捌めになって身動きすらできなくなってしまったのだった。自分はなかば諦めた。
元彼女は言う。
『こんなところで私と出会うなんて、やはり、これって運命よね?私、あなたと別れてからあなたの言っていたおじいさんを捜して、あなたと同じ能力をいただいたの。いただくのに苦労したけど、。。。。。あなたのことはどうしても忘れられなかったのよ。これからは、ずうっと、一緒にいられるわ』
ビミョ一な気持でいる自分に、元彼女は自分の身体を寄せ付け、たくさんのいばらを持ったバラ色のオーラをぐるぐると絡ませながら、自分の腕と彼女の腕もぎゅっと絡ませて、なにがなんでも絶対に離そうとしてくれないでいる。
― F i n ―




