どっちがいい?
こんなことって。。。
(どういうこと?の続編です。)
どっちがいい?
「ふふふふふ。」
その声は天井の方から確実に聞こえ出した。その声の持ち主は、女性のようだ。
ふと天井を見上げて見ると、そこに白い羽を背中に付けた女性がいる。その女性は、どちらかというと、年配の方のようだ。
「あなたはだれ?」
「わたしは、天使よ。」
「なんで天使がうちに現われるの?」
「だって、見てられないもの。あんな悪魔にやられっぱなしだなんて。。。あなたもドジだわね。」
「そう言われてもねぇ。」
「だから、わたしが仕返しをしてあげるわ。」
「えっと、。。。どうやって仕返しをするの?」
「そんなの簡単よ。ただ、あなたが望まなければ無理なんだけどね。どうする?」
その天使は、自分の気持をわかっているのに、意地悪そうに、そう訊いたようだった。
「どうするって言われても。。。仕返しをしたいに、決まっているじゃないか。」
「じゃあ、決まりね。一応、この契約書にサインをしてくれる?」
天使は、天井から舞い降りてきて、1枚の契約書と、羽ペンを差出してきた。
「さっきの悪魔と一緒じゃないよね?」
先程の悪魔の存在は忘れていなかったので、すぐに確認をしてしまっていた。
「あのさぁあ、あんな奴と一緒にしないでくれる?」
「ごめんね。人間の習性として、学習能力があるものでね。同じことを繰り返したくないだけなんだよ。」
「まあ、わからなくはないけどね。」
「だけど、天使だってタダで仕事をするわけないよね?」
「そうねぇ。。。まあ、見返りはあなたの純粋なハートかな?」
天使は自分を上から下に向かって見てから応えていた。
「自分のハート?そんなことされたら、自分が冷たい人間になっちゃうじゃないか。。。」
「ふふふ。あなたは本当に、おちゃめね。そんなところが、かわいいわ。」
天使に笑われ、少し自分はむくれていた。
「あなたは、わたしにちょっとだけ、愛をくれればいいのよ。」
「愛をあげる?」
自分は、首をかしげて考え込んでしまった。
『自分が天使にあげられる愛なんて、あるのだろうか?』
「深く考えないでちょうだい。そのあなたの優しい気持で、じゅうぶん。さっ、サインをしてちょうだい。」
なにかわからず、自分はサインを終えてから、気になっていた事を天使に質問をした。
「だけど、どうやって、あの悪魔に仕返しをするの?」
「まあ、見てなさいって。」
「見てなさいって言われても、あの悪魔がどこに行ってしまったかさえも、わからないのじゃない?」
「あなたは本当にわかっていない人よね。こうやって捜すのよ。」
すると、天使は羽からひとにぎりの粉を取り出した。
その粉を自分の部屋の床に撒く。すると、不思議と1本の純白な矢が現われた。
「この矢について行くだけで、あの悪魔のいるところに行けるのよ。」
「そうなんだ。すごいじゃない。」
自分は感心せざるを得なかった。
「あなたも行ってみる?」
「そう言われても、確かにお任せしているだけじゃ、悪魔に仕返しをしたかどうかの確認のしようがない。」
「そうでしょ?不安でしょ?」
天使の誘いは、なかば自分の気持を煽るような言い方だった。とにかく、自分は断る理由など見つけられなかった。
「じゃあ、行く事にする。」
天使は、自分が行くと決めたことに対して、不思議とすごく喜んでいる。それから、天使は自分を抱きかかえ、矢の後をついて行った。
ビルを超え、山を越え、空を超え、見たこともない場所に辿り着いた。
程なくすると、あの悪魔があのカバンを持って、くつろいでいた。
「ん?どうしてここが?」
悪魔はあくまで、ここが見つかるまいと思っていたらしい。
天使は悪魔を見つけるやいなや、自分をすぐさま降ろし、天使の粉を取り出した。
「あなた、この人にそのカバンを返してあげなさいよ。じゃないと。。。この『天使の粉』であなた自身が無くなるのよ。それでも、いい?」
天使は、にぎりこぶしを作って『天使の粉』を悪魔に振り掛ける素振りをみせた。
「わかった。悪かった。これを返すよ。」
あっけなく悪魔は天使に従って、かばんを返してくれた。
「あと、時間を戻して、あげなさいよ。」
悪魔は、どうしてかわからないが、物凄く従順になっていた。
そして、自分にあの時の記憶が甦ったのだった。
天使はさらに手鏡を取り出した。
「あなたは、ちょっと悪さをしたから、この鏡に入っていてもらうからね。」
すると、あっという間にその悪魔はその鏡に引きずり込まれてしまった。
「この鏡の中で10年間、おとなしくしていなさい。10年後、反省していれば、表に出してあげるからね。」
鏡を覗き込むと、悪魔が半べそをかいている。
その様子を見ていた自分は、天使の力の凄さに驚いてばかりいた。
「これで、いい?満足した?」
「もちろん。大満足ですよ。ありがとうございました。」
しかしその後、天使の様子が変わり始めたのを見逃さなかった。
「えっと、。。。ここまでは良かったのだけど。。。ただ、どうしよう?忘れていたことがあったわ。」
なんだか、天使の言い方が白々しい。とりあえず、自分はぶきみな笑顔を見せている天使に向かって、恐る恐る訊いてみる。
「なにを忘れていたのですか?」
「実は、ここに来るまでは、この矢があったから良かったのだけど。。。この矢は、今のところ一本しかないのよ。1ヶ月に1回しか、この矢は出せないのよねぇ。」
「って、どういうこと?」
「あなた、ここまでの来た道を覚えていないわよね?」
「ええっ?覚えてなんて、いるわけないですよ。」
「そうよね。。。だから、都合がいいのよ。こっちの話しだけどね。。。
じゃあ、一応、契約の通りに悪魔には、仕返しをしたんだからね。これでいいでしょ?
あと、たった今、約束通り、あなたのハートを少しもらったわ。だから、どう?」
「どうって、何が?」
自分はなにがなんだか気付けずにいたが、次第に妙な気分に襲われ始めたのだった。
「あなたは、もう、わたしの虜よ。わたしのことスキになったでしょ?」
天使のうつろな眼差しが自分の目に飛び込んできた。そのとたん、急に我を見失ったようになってしまった。
「もちろんですよ。もう、メロメロです。」
自分の言葉とは思えないことを言っている。
「わたしね。。。長い間、ずう〜っと、フリーなの。。。だから、しばらくの間、お付き合いしてね。」
「そんなこと訊く必要なんてないですよ。あなたなしでは、絶対にいられない。」
自分はどうしてなのかわからなまま、ドキドキしていた。
「あれれっ?ちょっとハートを取り過ぎちゃったかなぁ?でも、この言われる感じは、めちゃくちゃたまらないわ。癖になりそう。。。」
天使はものすごく嬉しそうに、呟いていた。
自分はというと、完全に理性を無くしたようになってしまっていた。
「いとしの天使さ〜ん。」
それからというもの。。。自分は、年配の天使の気が済むまで、お付き合いをして過ごしているのです。まったく、訳もわからずに。。。いつ自宅に帰してもらえるのかさえ、わからずに。。。。。
― F i n ―