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ひとつちょうだい

ちょびっとホラーですみません。

ひとつちょうだい




『ひとつちょうだい』


この言葉は、なんて素朴な響きなのだろう。


ある日、ひとりの娘が辺りの人達に声を掛けていた。


その娘は、まだ幼さの残る年頃のように見える。


ただし、ある特殊な能力を持っているようだ。


『ひとつちょうだい』


すると声をかけられたひとは、必ず何かを差し出していた。


ある大人の女性は、かばんからあめちゃんを取り出し渡していた。


また、ある老人の男性はゲームで取ったであろうぬいぐるみを渡していた。


なんでも手に入れてしまうように思われた。


子供になんでもかんでも与えてしまうなんて教育上悪いのではないかと見ていた自分は思っていた。


この娘は今までにこのように声を掛けて、どんなものを手に入れてきたのだろう。


横目で見つつ通り過ぎようとした矢先、さささっとこの娘は自分の前に立ちはだかり、声を掛けられてしまった。


自分は少々慌ててしまったが、声を低めにして応えた。


『自分に声をかけても、なにもあげれるものなんてないよ』


そう言って通り過ぎようとしても、自分のすぐ前に先回りしてゆくてを塞いだ。


いくら繰り返し行動したところで、この娘は同じ動作を繰り返した。


そして、ジイッと自分を見ていることを止めはしないですぐさまこの娘はまた言う。


『ひとつちょうだい』


繰り返しているうちに、この娘に催眠術でもかけられたかのように、何かをあげたくなる衝動に駆られ始めてしまった。


『ひとつちょうだい』


手の平を上に向け、差し出してくる娘の仕草に、どうしようもない程の気持ちが膨れ上がっていった。


とは言っても、実際に自分は何も持っていなかった。


鞄も財布も携帯もスマホも何もない。


着ている夏服ぐらいだ。


それでもこの娘は言う。


『ひとつちょうだい』


『ゴメンね。本当に何もあげるものがないんだよ』


そう言ってみたところで、この娘は続ける。


しかも、だんだんとこの娘は恐ろしい形相に変わり果て。。。


ついに自分はその場に倒れ込み、この娘に自分の持っていた『?』を渡してしまっていた。


そんな自分は、二度と動くことも、息をすることさえもできないで横たわったままになってしまった。


自分はいわゆる唯一持っていた『魂』をこの娘に渡してしまったのだった。


それからこの娘は、ほかのひとに向かって手の平を出して言うのだった。




『ひとつちょうだい』




ー Fin ー



2015.8.27.投稿作品


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