写真Ⅶ
写真Ⅵ の続きです
「だって過去のことばかり気にしていたら、浩君はまったく前に進めなくなっちゃうよ」
愛ちゃんに痛いところを突かれた。確かにその通りだと思っている。今の自分には愛ちゃん無しなんてまったく考えられないでいる。
「そうかもしれない。。。」
「だからさ、私とあと残された時間を楽しむことにしようよ」
「どうやって?」
「それを考えるのが浩君、あなたでしょう?」
「分ったよ。。。だけど。。。ん〜、そうだなぁ。。。ちょうど冬季休暇中だから旅行に行こう」
「うん。そうこなくっちゃ」
自分は取り急ぎ実家に帰り、旅行の支度を始めた。
「こんな時間からどこに行くの?」
母親は心配して自分に問いかけてきた。
「突然だけど、今日から明日にかけて旅行に行ってくる」
母親にそう言い残し出掛けた。
「まあ、どこに行くにしても気をつけるんだよ。」
『ごめんね。心配かけて。。。』
母親に向かって、心の中で伝えていた。
「ねえ、どこにいくの?」
愛ちゃんが聞いてきた。
「どこでもいいさ。行き当たりばったりの旅。良いでしょ?」
「もちろんよ」
「車さえあれば、布団を積んで持っていけばどこでも寝泊まりができるもんな」
「それでも、風邪を引かないようにしてよ。冬なんだから。。。」
「あいよ。まかしとき。心配しなくても、自分の頭は良くないから、風邪なんて引かないよ」
「それもそうね。心配した分、損したかなぁ?」
「ずいぶんだなぁ。。。ああ、忘れちゃいけないものがあった」
「忘れちゃいけないものってなあに?」
「それはこのノートパソコンとプリンターと一番必要なのはデジカメだよ。何かの時に愛ちゃんが移動できるように考えておかなくちゃ」
「ありがとう、浩君」
そして自分は愛ちゃんと伊豆に行くことにした。と言っても、愛ちゃんは写真の中にいるのだけど。。。
自分達は河津七滝に行き、温泉旅館に宿泊をすることにした。旅館では最初、夜遅くの到着で、自分がひとり旅をしているのであまり良い顔をしていなかった。それでも、なんとか受け入れてくれたのだった。自分はもし宿泊できなければ、最後の手段で車に宿泊する覚悟をしていたのだが。。。助かった。
そして最後の日を迎えてしまった。
「愛ちゃん、おはよう」
「浩君、おはよう」
「愛ちゃん、なんだかよく眠れなかったよ」
「そぉ?浩君は時折いびきをかいていたよ」
「そっかぁ。だけど時間が過ぎるのは早いよね」
今日で愛ちゃんとお別れになってしまうことを考えていて、そのことが頭から離れられないでいる。
「浩君、今日は何をするの?」
「そうだな。。。ここの滝を巡って帰ろう。そして帰りの途中にどうしても寄りたいところがあるんだ」
「どこに寄りたいの?」
「それは、内緒だよ」
1日の時間もあっという間に過ぎてゆく。。。
「旅行、楽しかったね」
「うん。楽しかった」
「どこが一番楽しかった?」
「それはもちろん温泉かな?」
「貸し切りのお風呂があったから、そこで人目を気にせずに入れたことだよ」
「ン〜。確かにそうだよね。誰にも見られずに、愛ちゃんはお風呂に入れたんだもんね。あんな場所にデジカメを持ち込むのは、勇気がいることだったんだからね。。。」
「そうだよね。あんなところを撮る人なんていないよね」
「愛ちゃんのために、ボーナスをはたいて、ノートパソコンにプリンターとデジカメを購入したんだよ。そのおかげで、部屋に戻ってから印刷できたんだから。。。」
「なんだか恩着せがましい言い方だね」
「ごめん、ごめん。だけど、愛ちゃんが移動してからは、自分は脱衣所で待ちぼうけしていたけど。。。本当は愛ちゃんと一緒にお風呂に入りたかったのになぁ?」
「きゃ〜ぁ!!何考えているの!スケベ。。。エッチィ。。。でも、しょうがなかったじゃない?私にとっては写真が大事なんだもん。もしさぁ、写真が無くなったり、濡れたりでもしたら大変なことになってしまうじゃない?でも浩君が見守ってくれていたお陰で、ゆっくりお風呂につかることができたんだから、感謝していますよ。ありがとうね」
「まあ、良かったよ。愛ちゃんとの楽しい思い出が、またたくさん増えちゃったぁ」
「浩君、私もだよ」
「なんだか、信じられないよ。いつまでも一緒にいられるような気持ちさえするんだけど。。。」
「私だって、いつまでも一緒にいたいよ。だけど。。。。。もう、じきに。。。。あのさ、話し変わるけど、浩君はいつだって自分ひとりで行動できる人じゃん?だから、きっと、ひとりになっても生きて行けると思っているよ。大丈夫だよ。強い人だから、浩君」
(約束)
そして自分がどうしても立ち寄りたかった湘南平に着いた。
自分は車から降りて写真を握りしめながら、そのの中の愛ちゃん見つめて、話しながらテレビ塔に向かってゆっくりと歩いて行く。
ついに別れの時が来てしまった。時間なんてあっという間に過ぎてしまうもんだ。
テレビ塔の上に着いてから空を見つめる。すると、だんだんと空の色が赤から赤紫色に輝き、1つ、2つと光る星が見え始めてきた。そしてついに白く見えていた月が、オレンジ色のまるい月へと変わってしまっている。
「ついにお別れだね。写真は色褪せていくものだけど、あたし達の思い出はいつまでも色濃く残っているよね。今まですごく楽しかったよ。」
自分は愛ちゃんの言葉ひとつひとつを噛み締めて聞いていた。
「楽しいなんてもんじゃなかったよ。幸せがいっぱいだった」
「私も。。。本当に幸せがいっぱいだった。浩君と逢えてこんなに幸せでいられたよ。ありがとうね」
「お礼を言うのはこっちのほうだよ。ありがとう」
「うん」
「。。。。」
自分はここで喉につまって声が出てこない。
「だけどやっぱり今は住む世界が違うんだよね」
「。。。。」
「きっと浩君はこれからもいろんな人との出会いがあると思うんだ。だから、その出会いを大切にして限りある人生を過ごしてね。あの娘だってかわいかったじゃん。付き合ってみたら?」
「何を言ってるんだよ。こんな時に」
「だって浩君にもまだまだ人生があるから。。。」
「そうかもしれないけど、そんなことを言うなよ」
「わかっているけど、浩君にも幸せになって過ごしてもらいたいんだよ」
「自分のことは心配するなって」
「いいよ。とにかくいつでも空から見守っていてあげる。だから自信を持って過ごしてね」
「。。。」
「がんばるんだよ」
「でも正直、自信が無い。いつも一緒にいたから。。。」
「自信なんて誰だって無いもんだよ」
「そうは言っても」
「成るように成る」
「成るように成る?」
「浩君、人間ってね、成るようにしか成らないんだよ。時の流れにその体を預けて何かに向かって、がむしゃらに頑張って生きていけば、何かしら成るようになってしまうんだよ。やっぱり、目標を持つことは大事だよ」
「目標?」
「そう、目標。目標を持っていると、少しづつでも、その目標に向かって近づくことが出来るんだから。目標を持っていなければ、近づく努力もしないで終ってしまうでしょ。だから、何度も言うけど目標を持っていれば、成るように成ってしまうんだよ。もちろん、そのために自分の努力は必要だけどね。。。」
「そういうものかな?わかったよ。これからは、何か目標を捜すことにする」
「先に天国に行ってしまうけど、また会えるのだから、その時まで、『DO YOUR BEST!』(ドゥ ユア ベスト!)だよ」
※ ベストをつくせ! と言う意味です。
「わかったよ。『I will do my BEST.』(アイ ウィル ドゥ マイ ベス
ト。) 」
※『私は、ベストをつくします』 と言う意味です。
「そうだ、さっき途中で購入した『 鍵 』を取り付けよう。。。」
自分はポケットから『 南京錠』を取り出した。
そして、2人の名前を自分が黒マジックで書く。
『 浩 & 愛
いつまでも一緒 』
「自分達はいつまでも、いつまでも、一緒だよ」
自分は愛ちゃんに向かってささやいた。
写真の中で愛ちゃんはぐしょぐしょになって泣いていた。
そして愛ちゃんの隣にはいつの間にか天使様が現れて、左の腕をしっかりとつかんでいる。そして愛ちゃんは天使様と一緒に少しずつ色褪せていった。
「『DO YOUR BEST!』約束だからね」
そう言い残すと。。。ついに、ついに、愛ちゃんの姿が見えなくなってしまった。
そして景色など全てが静止したニュージーランドのクイーンズタウンの写真が自分の手の中に残されていた。
取り残された自分は何とも言えない、ものすごい寂しさに包まれていた。
2度目の辛い別れを味わうことになってしまうとは。。。
でもね、愛ちゃんと約束したんだ。
『I will do my BEST.』(アイ ウィル ドゥ マイ ベスト)
自分はいつも、いつまでも、ベストを尽くして、がんばるよ。
自分は涙をいっぱい溢れさせながら心に誓っていた。
空にはまあるいお月さまが、あたかも微笑んで自分を照らしてくれている。
そして愛ちゃんとの別れた後も、自分は常にこの写真を肌身離さず持ち歩く事にしたのだった。
もちろん自分と愛ちゃんの『 約束 』として。。。
(エピローグ)
そして短い休暇が終ってしまった。
自分はいつものように車で会社に向かう。自分の首周りには愛ちゃんからもらった暖かいマフラーが。。。そして、腕には愛ちゃんとペアルックのあの腕時計。。。
『愛ちゃんからいつも、こんなにいっぱい元気をもらっているよ。』
自分は心の中で、愛ちゃんを思い浮かべながら感謝をしていた。
そして、いつも愛ちゃんと過ごしていた神社を車から横目で眺めながら通り過ぎ、自分が借りている駐車場へ向かう。
燦燦と輝くあさひで、自分の暗かった心はいくぶん明るくなる。
そして、車を置いて歩き出したその時に。。。
どこからともなく自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
『浩君。。。』
「えっ?」
その声はあの時から肌身離さず持っている胸ポケットに入れている写真から。。。。。
「もしかして。。。。。、 愛ちゃん。。。?愛ちゃんなの?」
― F i n ―
あとがき
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
このストーリーの多少(部分的に)でも、皆さんの心の中に『 何か 』を残すことができれば嬉しい限りです。
それでは。。。
※魔法の図書館に投稿したものに加筆、修正を加えております。
By Telebook




