写真 V
写真 Ⅳ の続きです
そう言い合っているところへ同僚が来た。彼は酔っているように見えた。
「おい。いつまでこんなところにいるんだ?潰れているんじゃないかと思って心配で来たんだぞ」
同僚が心配して自分を見に来てくれたようだ。
「だけどおまえ、またあの写真を見ながら独り言を言っていた?」
自分が写真を持って話しているところを見られてしまったようだ。
「いや。そんなことないよ。飲み過ぎたんじゃない?」
「そ、そっかぁ。飲み過ぎたか」
恐らく彼は気付いていたのだろう。だけど自分が大丈夫だと分ると用を足して出て行った。
「愛ちゃん、あまりここにいると周りの人達が心配するといけないから戻るよ。本当に悪いけど声を出さないようにしていてね」
愛ちゃんにそう言って、写真を胸に入れた。どことなく愛ちゃんはご機嫌斜めのように見えていたが。。。
「大丈夫ですか?戻りが遅いからちょっと心配しちゃいました」
元の席に戻ると先程の娘が自分のことを心配していたようだ。
「自分は大丈夫だよ。それより君は大丈夫なのかい?」
「私?大丈夫ですよ。今日はあんまり飲んでないですから」
「それじゃ、もう少し飲むかい?」
「だったら私、カルアミルクを飲んでみたい」
「カルアミルク?」
「えっ?知らないんですか?」
「あぁ、カルアミルクね」
本当は知らないのに思わず知ったかぶりをしてしまっていた。
お店の人にそれを頼んであげて持ってくるのを待った。
「おまちどうさま。カルアミルクになります」
お店の人から受取り隣の席の娘に渡す。
「飲んでみます?」
「いや、遠慮しとくよ」
「う〜ん。やっぱりおいしい。ちょっとだけ飲んでみればいいのに」
「でも、やめとく」
実は胸の中にいる愛ちゃんの存在が恐くなってきたから必至に断っていたのだ。
『きっと、怒っているんだろうな〜?』
おいしそうに飲む隣の娘。その姿を見ながら自分が生まれて初めて飲んだ、カクテルのことを思い出した。なんだか、その話しをどうしてもしたくなってしまった。
きっと、お酒を飲んでいたせいだろう。そして堰が崩れるように話を始めた。
「自分が生まれて初めて飲んだ時のカクテルを思い出しちゃった」
「何を飲んだのですか?」
「それが『ブルーハワイ』ってやつなんだ。知っている?」
「もちろん、知っていますよ」
「あの綺麗な水色のカクテル」
「あのカクテルは透明感があるようで綺麗ですよね」
「そうなんだよなぁ。家族で食事に行った時の話しなんだけどあの色と香りに騙されちゃったんだよね」
「騙されちゃったって?なんで?」
「あのカクテルはすごく飲みやすくて、自分はいきなり最初に半分位を一気に飲んでしまったんだ」
「すごい。あんなに強いお酒を一気に半分飲むなんて。先輩、強いんですね」
「強くはないんだよ。だからそれがいけなかった。その後なんでだか分らないけど、急になんだか笑いたくなってきて、止らなくなってしまったんだよ。あんなことは初めての経験だったな」
「笑いじょうごってやつですね」
「そう、それも、ふふふから始まって大笑いになってしまったんだよね。それも家族の5人の中で1人だけで騒いでいたんだよね」
「私はそんな経験ないから分らない」
「普通の人はそうなんだろうけど。自分はそれだけで済まなかったんだよ」
「何かしたんですか?」
「別に何もしなかったんだけど次第に笑いが納まってきたかと思ったら、今度は急に悲しくなってきてしまって涙が止らなくなってしまった」
「泣きじょうごってやつですね」
「自分はハンカチも持っていなくてお手拭で涙を拭っていたら、姉がハンカチを出してくれたよ」
「やさしいお姉さんですね」
「そうだよね。だけど本当にすごく不思議な体験をしたよ。ただ、うちの家族はみんな下を向いて恥ずかしがっていたよ。だって他の人達が自分を注視しているのをばっちり感じていたからね。自分ひとりだけが訳もわからず大声で笑ったり、声を出して泣いたりしていたんだから、そりゃ、恥ずかしかっただろうな。いまではいい思い出だけどね」
「きっと先輩は、感情が豊かなんでしょうね」
「それはどうか分らないけど確かに子供のころから泣き虫だったのは間違いないか」
「そうなんですか?」
「そうね〜。例えば中学になっても、まだすごく内気な性格だったんだ。そして給食の時間。牛乳を配るでしょ?その牛乳が自分のところに運悪く運ばれてこなかった。それを見ていた友達が『はい』って言って、その友達のところにあった牛乳を渡してくれたんだよね。それだけのことなんだけれど、ものすごく感動してしまって嬉しくて泣いてしまったんだよね」
「そうなんですか」
「まあ、とにかく泣き虫だったのは間違いないよ。小学校の先生には『ベソ子』なんて愛称を付けられていたくらいだから。自分としては、かわいいあだ名だな、なんて思っていたよね。親しみを感じていたからな。今の小学校の先生だったら、大変だろうな、きっと」
ここまで話をしていたら、急に幹事が終りを告げる挨拶を始めた。
「みなさ〜ん。宴もたけなわですが、この辺でお開きとさせていただきたいと思います。今日はご集りいただき。。。」
恒例の挨拶だ。でも自分はほろ酔い気分で気持が良かった。
「幹事、お疲れ様でした」
幹事に対して社員から声がかかる。
「しめと致しまして、1本じめとさせていただきたいと思います。それではみなさん、ご起立をお願いします」
「それでは、これからのみなさんのご活躍と益々の会社の発展を願いまして1本じめをさせていただきたいと思います。それでは準備はよろしいですか?」
「いいぞ〜!早くせ〜!!」
社員の中から返事が返ってくる。
「『よぅぉお!』で『ぱん』ですからね」
「分っているって」
再び、社員の誰かが叫ぶ。
「それじゃ、いきますよ」
「よぅぉお!」
『ぱん』
「ありがとうございました」
ここでこの宴会はお開きとなった。
「先輩、今日は楽しかったですよ。またいつか一緒に飲みましょうね」
「そうだね」
「それじゃ、失礼します」
ここでその娘と別れた。その後自分はまっすぐに家路についた。
その途中で、あれからずっと黙っていた愛ちゃんがついにしゃべり出した。
「浩君、私も知らないことをあんな娘に話すなんて、ずるいよ。黙って話を聞いていたけど、仲良さそうにいっぱい話をしてさ。本当にずるいよ」
「あれ?どんな話をしていたっけ?」
「カクテルの話だよ」
「あぁ、あのカクテル事件の話をしたことなかったっけ?」
「ないよ。まだ、まだ、浩君のこと知らないことが多いよね」
「そりゃ、自分は愛ちゃんより長く生きていますからね」
「なんだか、こんなことがあると、いつも浩君と一緒にいたくなっちゃうよ」
愛ちゃんの気持ちも分らなくはない。自分だってこんな展開になるとは思いもよらなかったのだから。
「もし自分のことが心配なら、いつも自分の胸のポケットに入れていてあげるよ。自分の体臭に耐えられるならね」
「うわぁ、いやだ〜。何か良い香水でもつけて頂戴よ」
「昔から香水付けたことないの知っているでしょ?」
「まあね。言われなくっても知っているよ」
『だけど、こんな感じででもいいからいつまでも愛ちゃんと一緒に過ごしたいな』
自分は酔っている頭の中でそう願っていた。
(久し振りのデート)
「あ〜ぁ。退屈。浩君、今日は日曜だから会社お休みでしょ?」
「そうだよ。それで?」
「それでって、退屈なのよ、私」
「本当に退屈そうに見えるよね。自分も確かに退屈だったりして」
「だって浩君が会社に行っている間、私はいつもここで1人寂しく会話もしないでいるのだから辛いよ。することも何も無いし」
「それじゃ、また会社に一緒に行ってみる?」
「や〜だぁ。会社に行ったところで黙ってなければいけないし、仕事の状況を見ているだけだって辛すぎだよ。まして、もし浩君がまた上司に怒られていたら、最悪じゃない。そんな姿も見たくないし」
「『上司にまた怒られて』って、どう言う意味だよ?だけど、それもそうだよな。。。」
「まっ、いつかまた行ってあげても良いけど。」
「それじゃ、あした連れて行ってあげるよ。」
「そんな早くなくて良いよ。勘弁して〜。」
「遠慮しなくたってよいのに。。。」
「だけど私の今の状態はご飯を食べたり、寝たりしなくても済むのだけど、ここの写真の中から一歩も出ることが出来ないのだから辛すぎだよ。まさしく『井の中の蛙』状態。なんとかして欲しいな?あぁ、あのニュージーランドが懐かしい。。。」
(愛ちゃんは今、実家の部屋の写真に移動しているのです)
「それじゃ、また行ってみるかい?」
「うん、行ってみた〜い」
「そのうちにね。。。」
「何で?いじわる。。。」
「ほかに何かしようよ。折角、自分のお休みなんだからさ」
「それもそうね」
「そうだよ。それじゃ、たまには外の空気でも吸いに行こうか?」
「わ〜ぁ、賛成。それ良いよ、行く行く。それじゃ、海行きたい。夏だから、海。絶対に海に行こう?」
「海?まあ確かにここは湘南だから海は近いけど」
「いいじゃん。海、海に行こう。海」
「わかったよ。海ねぇ。そうだ、ちょっと待っていてね」
そう言って自分はこの間愛ちゃんの家に行った時に撮った部屋の写真を取り出した。こんなこともあろうかと思って撮ったのだった。
「愛ちゃん、自分の部屋に移動したいでしょ?」
「そりゃ、したいよ」
それじゃ、移動させてあげる。
自分は愛ちゃんをそこに移動させてあげた。
「さて、愛ちゃんも自分の部屋に移動したんだから、自分も今から支度してくるからここで待っていてね」
「待っているしかないんですぅ。ここから出られないんだから」
「そうなんだよね。かわいそうに」
自分は出窓のところに写真を置くと自分の部屋に向かった。
自分はTシャツからサマーセーターに着替えた。
愛ちゃんは写真の中の洋服ダンスから白いワンピースを出して、姿を消して着替えて出て来た。
「折角、海に行くんだもん。ちょっとはオシャレしなくちゃね。帽子もかぶってと」
久し振りに見る愛ちゃんのワンピース姿にちょっとばかり『ドキッ』としてしまった。
「や〜ね〜。なに、じろじろ見ているのよ?いやらしい」
「だって、以外に愛ちゃんが可愛いから、つい見とれてしまったんだよ」
「ほんとう?」
愛ちゃんはくるっと1回転してお披露目してくれた。
「うん、『ぐっ』とくる。それじゃ、出かけようか」
自分と愛ちゃんは久し振りのデートに出かけることになった。
そうは言っても昔のようにとはいかないけれど。
自分は車でCDをかけた。愛ちゃんの好きなアーティストでもあり、自分の好きな愛子さんの曲だ。
「いいね。湘南の海に愛子さんの曲がすごくよく似合うよね」
愛ちゃんは嬉しそうに外の景色を眺めている。
「自分のアイデアいいでしょう?」
「そうね。おかげさまで、普通にドライブを楽しめるんだもんね。だけど、セロテープで写真を助手席の頭の部分に留めるなんて、浩君にしては上出来なアイデアよ」
「風で飛ばされないように窓は少しだけしか開けられないけど、それはそれで、がまんしてね」
「十分よ。これだけ開いていれば。う〜ん、海の香りがする。気持ちいいなぁ〜」
「本当にいい香りだよね。海の香りって好きだな」
「私も大好き」
「どこかの海岸に降りてみる?」
「うん。行ってみたい。江ノ島の近くの鵠沼海岸に行かない?」
「いいよ。だけど他の人から見たら、自分ひとりだし、写真を持ってうろついているように見えて、変な人だと思われないようにしないといけないね」
「そうだよ。気を付けてよね。それじゃなくても怪しい人に見えるんだか
ら。。。」
「何それ。。。いいよ〜だぁ。とにかく、気を付けますよ」
鵠沼海岸までは、車で20分もあれば着いてしまう距離だったので、すぐに到着した。
「よし、着いたよ。って言っても鵠沼海岸の駐車場だけどね」
「以外に道はすいていたね。いつもなら、いっぱいなのに」
「そうだな」
「久し振りに海に来たね」
駐車場から外にでると、ぱっと広がった青い景色に潮の香りが一段と強く感じられた。
「うわ〜、きれい。青い空に青い海。水平線の境がわからないくらいだね」
岸辺では繰り返し穏やかに波が砕けてしぶきがあがっている。
「ほんとうにきれいだ。だけど愛ちゃんほどじゃないけどね」
「何をばかな事言っているのよ」
海岸に出て海を2人で眺めた。やはり他に大勢の人達がいた。
「そうだよな。付き合い始めて2回程来ただけだものね」
「そうだよね。思い出したけど、浩君がここの波うち際で柔道の真似事をして私を倒そうとしたことあったでしょ?忘れないよ。おかげで波のしぶきが、かかってびちょびちょになったんだから」
「そんなこともあったっけ?」
「うん。あったよ」
海でサーフィンを楽しむ若者達。浜辺で砂遊びをする子供達。そしてその子供達を見守る親達。はたまた浜で日焼けのためにシートの上で寝そべっているカップル。
「なんだか、海を見ていると時間がゆっくりと流れていくような感じだね」
「このまったりとしている時間って、すっごく好きだよ」
自分は浜辺に腰を降ろした。胸のポケットから少しはみ出たところで見ている愛ちゃんのつぶらな瞳につい見とれてしまっていた。
「なぁに?」
「いや、その、。。。愛ちゃんが可愛いから、つい見とれてしまったんだよ」
「なに言っているのよ。でもこうしていられるだけでも、私、幸せだよ」
「自分も」
本当は2人で肩を寄せ合って海を眺められたらもっと素適なのだろうけど。
そんなことは口に出して言うことでもなかった。今のこうしていられる時間が大切なのだから。
「だけど愛ちゃん、いつまでこうしていられるのだろうね?」
「分らないよ」
「いつかはきっと、別れる日がくるのだろうな」
「そうよね、きっと。だけど浩君、そんなことは忘れて今の時間を楽しみましょうよ」
「そうだよな。再び与えてくれたチャンスなんだからね。ついでに江ノ島も行ってみる?」
「そうね。折角ここまで来たんだから行ってみましょうよ」
駐車場に戻り、再び134号線を走って、江ノ島の近くの駐車場に車を止めた。
そこから歩いて橋を渡り江ノ島へ向かった。
「ここ江ノ島って、お店がこぢんまりしていて、楽しいね」
「自分は貝殻を集める趣味があるから、余計に楽しいよ。店のあちこちで売っているのを眺めているだけで十分楽しめるよ」
「浩君は変わった趣味を持っているんだよね。普通の人ではそんなものを集めている人は、なかなかいないだろうな、きっと」
「そうかも知れない。それはそうと、ここから階段を登るのか〜」
「そうだよ。頑張って、ファイトだよ」
「横にあるエスカレータに、ついつい目がいくのは以前と変わらないね」
「そう?でも、なんで見たってわかるの?」
「そりゃ、浩君のことだもん。。。まっ、健康のため歩くのが一番だよ」
「はい、はい。頑張ります」
自分は汗をダラダラかきながら頂上に辿り着いた。
「おっ、植物園。懐かしいね〜」
「一度だけ、一緒に入ったことあったよね」
「ここに入らないと、灯台に行けないんだよね。折角だから灯台に登るかい?」
「うん、行きたい」
入場料を払い、真っ先に灯台に向かった。
灯台の上から海を見渡す。すると富士山がきれいに見えた。
「富士山、見える?」
「うん。見えるよ」
海の向こう側に、ぐんじょう色に近い色をした富士山がはっきりと見えた。
「こういう場所に来て思い出しちゃったんだけど。前に湘南平に行ったじゃない?」
「確か、春の桜の時期だったな」
「そう、桜の時期。まあ、その時期はどうでもいいんだけど。あそこでも、登れるところがあって、そこで、恋人どうしで行って、鍵を付けると恋愛が成就するっていうもの。覚えている?」
「ああ」
「浩君に私がここに一緒に来た人と別れちゃったって話したら、もう来るのよそうなんて言っていたよね」
「そうだよ。そんな場所に行ったって、しょうがないじゃん」
「そりゃそうだけど、それでも、みんなはああやって、鍵を付けに行っているんだから」
「自分はあの時、ペンチを使って鍵を取ってやろうかと思ったよ」
「うわ〜。意地悪な人」
「嘘だよ、嘘。嘘に決まっているだろ。でも、なんで鍵を付けるんだっけ?」
「忘れちゃったの?信じられない。忘れっぽい人なんだから。。。また、教えて欲しい?」
「別にどうでもいいけどさ」
「しょうがないから、教えてあげる。南京錠でもなんでも鍵は、くっ付いたら離れないでしょ。だからだよ」
「そう言われるとそうだけどね。でも、悪戯したくなっちゃうな〜。ペンチで。。。バッサリ。そうすれば、離れられるよ」
「まったく信じられない。ロマンチックなムードを壊さないでよ」
「ごめんよ。でも、ここでは、鍵の取り付けは出来ないみたいだね」
「そうね。管理されているから出来ないんじゃない?」
「なんかそういったことを考えれば良いのにね。そうすればもっと観光客が増えるんじゃないかな〜?」
「そうだよね」
心地よい潮風が、無造作に通り抜けて行く。
「気持いいね」
「うん」
しばらくすると空が紅色に変わろうとしていた。
「夕日の沈むのを見てから帰ろうか。。。」
「夕焼けになってきたものね。そうしましょう」
太陽は一日の終りを告げるべく、だんだんと色を変えていった。
空の色は紅色から赤紫色に変わり、全ての景色を惜しんでいるように感じられた。
それから太陽が放つ光が海面に反射さながら、キラキラとこの1日の最後の輝きを見せながら隠れていった。
そしてついに、赤色をした太陽が海の向こう側へと完全に消えた。
それから、あちらこちらのネオンが点き色鮮やかな夜景が太陽に代わって現れ出した。
「自然の美しさと相反する人工の輝きだね」
「それでも、この景色もきれいね」
「そうだな。さあ帰ろうか」
「今日は楽しかったね」
「自分も楽しかったよ」
「ありがとうね」
「こちらこそ、ありがとう」
2人でいっしょに見る海はこれが最後となってしまった。自分はこの日の光景は自分の良い思い出として大切に胸にしまっている。
(自分の試み)
――― その年の冬 ―――
「愛ちゃん、すっかり冬になってしまったから寒いね?」
「ごめんね。私はとくに気にならない。写真の中って思った以上に暖かいんだもん」
「そうかぁ。。。いいなぁ」
いささか愛ちゃんが羨ましく思えた。
「それにさぁ、浩君が私の部屋の写真を撮ってくれたおかげで、いつだって洋服を着替えることが可能になったしさ。良いご身分かしらね?」
「確かに、その通りだよ。いいなぁ。。。」
「それじゃあ、浩君もここの世界にくる?」
「行ってみたいけど、まだ遠慮しておくよ。そのうちに行くから待っていてね」
「そうね。待っているよ。なんて冗談だからね。。。まだ、まだ、そっちの世界で頑張ってもらわなくちゃ」
「まあ、いつのことになるやら。とにかく人生を楽しまなくっちゃ」
「浩君、そうだよ。その通りだよ」
「ところで自分の気持ちとしてどうしても、どうしても、試みてみたいアイデアが頭の中に浮かんでしまっていて、離れないことがあるんだけれど。。。」
「どんなアイデアが離れないでいるの?」
「でも、そうなんだよ。。。」
自分はひとり言のように繰り返して呟いている。
「今度は何が『 そうなんだよ? 』なの?」
「実はね、すごい事を思いついちゃったんだ」
「もったいぶらないで、早く教えてよ」
「分ったよ。それはね、とにかく試したいことがあるんだ」
「だ、か、ら。。。は、や、く。。。それは、な、あ、に?」
愛ちゃんは少し膨れっ面になりながら、まるで子供が親にせがむように訊ねてきた。
「自分の考えが合っているとすれば。。。愛ちゃんは今までに、いろんな写真に移動出来たじゃん?」
「ン〜、確かに移動できた」
「と言うことは、ここの部屋の写真を撮って、ここの部屋の写真に移動してもらったらどうなるんだろう?ってことなんだよ。もしかしたら自分は実物の愛ちゃんに会うことが可能なのではないかと思って。。。」
「まさかぁ。。。そんなこと出来るのかなぁ。。。?」




