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誰でも写真を持っていることでしょう。私が持っている写真は。。。

ちょっとばかり長めのストーリーをお届けします。

最後までお付き合いしていただけると嬉しいです。

(私のショート・ストーリー 以前、魔法の図書館に投稿した作品です。By Telebook)

誰でも写真を持っていることでしょう。私が持っている写真は。。。

ちょっとばかり長めのストーリーをお届けします。

最後までお付き合いしていただけると嬉しいです。

(私のショート・ストーリー 以前、魔法の図書館に投稿した作品です。By Telebook)




写  真


(プロローグ)


自分は32歳になる会社員。もちろん独身男性。自分はどこでもいるような会社員で、鐵工場てっこうじょうでものを造るための管理をしている。この会社に勤めてまだ3年足らず。32歳にもなってまだ3年とはどうしてか?それは簡単なこと、転職をして勤め始めてからまだ3年なんだ。今の会社に就職するきっかけは新聞の折り込みの情報欄で見つけた。前の会社は好きだったんだけど、どうしても海外に行ってみたくて辞めてしまった。そしてニュージーランドに行ってきた。なんとか再就職出来てほっとひと安心している間に月日が早く流れている。


そしてそんな時に、1人の女性社員が入社してきた。彼女も転職してきたのだ。彼女は若干26歳の可愛い娘で、自分の好みのタイプだった。それがいつしかことあるごとに何故か気になる存在になっていて、会社を休むと『どうしたんだろう?』と考えてしまうほどになってしまい。。。彼女が単に有給休暇をとってどこかに出かけていたとしても、『誰とでかけているんだろう?』なんて考えているしまつ。彼女の彼氏でもないのに。。。


ついに自分は自分の気持ちを押さえきれずに猛烈にアタックを開始することにしたのだった。そして会社の帰りに彼女も止めている駐車場で待つことにしたのだった。実は彼女も自分と同じ駐車場を借りているのだ。ストーカーではないが、とにかく『しない後悔よりする後悔』を選んだのだった。うじうじしていても何も始まらないではないか。。。それだったらチャレンジして後悔した方が良いもんだ。


そしてこれからの彼女との出会いがこの物語の始まりになる。。。






(出会い)


自分はここの駐車場でかなり落ちつきなく待っている。


『もう、来ても良い時間なんだけどな?遅いな〜。』


ドキドキする心臓と戦いながら、彼女の来るのを待っていた。


そしてついに彼女が近づいて来る。自分は彼女が通り過ぎる前に、車から飛び出て声をかけた。


「お疲れ様。今日これから一緒にご飯を食べない?」


どぎまぎして震える声で彼女に声をかけたのだった。


「わぁ、びっくりした。どうしたんですか?突然。。。」


自分は一呼吸して、もう一度言った。


「だから自分と一緒にご飯を食べない?」


「えっ?私とですか?」


「そうだよ。君と」


「だけど急すぎますよ。だって親に何にも言ってきてないから驚いてしまうと思いますし。。。もう、ご飯の支度もしているでしょうし。。。」


「ん〜。確かにそうかもしれない」


「だったら今度の金曜日にしません?」


「今度の金曜日か。ま、いいよ」


逆に設定されてしまったが、約束を出来た嬉しさを隠せずにいた。

やはりチャレンジしたかいがあったのだ。


自分は心の中でちいさなガッツポーズをとって喜んでいた。


「でも、誘っていただいて嬉しいです」


「あのさぁ、会社じゃないんだから丁寧な言葉使いしなくていいよ」


「はい、いいですよ」


「またぁ〜。。。。。言葉使いが、変わってないよ」


「分った。じゃあこれからはそうする。それじゃ、金曜日の帰りにここで待ち合わせしましょ」


「良かった。そうこなくっちゃ。ここで待っているからね」


彼女が見えなくなった後で、自分は車に乗り込むとハンドルを両手で握り締めながら『ヤッター』と小さい声で歓声をあげ、おさるさんのように体を揺さ振りながら、はしゃいでいた。


そして待ちに待った金曜日。たった2日間がこれほど、ものすごく長く感じたことはなかっただろう。


なんだか浮き浮きし過ぎて仕事が手に付かないような感じだった。


そしてついに、会社の終了時間を知らせるベルが鳴った。


自分は急いで作業着から普段着に着替えると、駐車場に一目散に向かった。


その途中で彼女が後ろから声をかけてきた。


「早いじゃん」


「そりゃ、いつものことだよ。何をするにしても、早いの」


「うそばっかり。仕事は遅いくせして。。。」


「ばれたか。仕事は遅いですよ〜だ」


「で、どこに行くの?」


彼女に訊ねられてもどこに行くかを考えてもいなかった。なんたる失敗。。。


自分は、頭をかきながら彼女に聞いた。


「どこか行きたいところある?」


「カレー屋さんはどう?」


「カレー屋さんか。。。」


「いやなら、別のところでも良いよ」


「大丈夫だよ。そこにしよう」


自分は何も考えていなかったので、バツが悪かった。そこで彼女の方からすぐにアイデアが出て来てきてくれたことに感謝していた。


「それで、どの辺にあるの?」


「車でたぶん10分くらいのところだよ」


「それじゃ、そこに行こう。それで自分の車で行く?」


「いいよ」


ということで自分の軽自動車のミ○○ルコでカレー屋さんに行くことになったのでした。初めてのデート。自分は凄く緊張をしている。助手席の彼女に目を向けると、いたって落ちついているように見える。結構いろんな人とデート経験をしているんだろうな?それに比べ自分は。。。まあ、とにかく、そのお店までは彼女の口答によるナビで向かったのでした。


『だけど、こんな時って小さい軽自動車は良いよね。だって彼女がすぐ脇にいるんだよ。幸せじゃん。大きい車だったら、助手席も離れているから、ちょっと寂しいだろうにね。きっと、ちょっとどころじゃないだろうな。。。こんなに近くに彼女が座っているんだもん』


自分は心の中でぶつぶつとつぶやいていた。


カレー屋さんに着くと店の前に駐車する。


このお店はあまり大きくなく、こぢんまりとしていて喫茶店の雰囲気を持った感じだった。駐車場には車を5台ほど止めるスペースがあったが、自分の車だけしか止まっていなかった。


『ほかにお客さんはいないようだ』


ほかにお客さんがいないと分ると、自分はにんまりしてしまった。


『まさしく彼女と2人きりのデートだ。。。。』


彼女のためにドアノブを引き、先にお店に入れてあげた。自分達がお店に一歩入るなり元気のよい女子店員の声に出迎えられた。


「いらっしゃいませ。おふたりですか?」


「はい」


応える自分。


『このおふたりですか?なんて響き、とっても良いじゃない?』


我に返り怪訝そうにみている彼女に、自分の様子がばれてしまったかもしれない。


「空いているお好きなお席にどうぞ」


自分達は窓辺の白いレースのカーテンがおしゃれな雰囲気をかもし出している席に向かい合せで座った。


先程の女子店員からメニューとお水とおしぼりをもらう。


「お決りになりましたらお呼びください」


自分はメニューを見ながら悩んでしまった。それもそのはず、カレー専門店は初めてなのだ。


「実はさ、君のためにここのお店を貸し切りにしたんだよ」


「なに言っているの?」


「ははは。ちょっと言ってみたかっただけさ」


あきれちゃうよね。そんなこと言っているから、ほかのお客さんが来ちゃったじゃない。。。」


早速、ダメ点が+1になってしまい、少々落ち込む自分。そんなことにめげずに彼女に向かって次なる話題を切り出す。


「こんなに種類があると迷ってしまうよ。どのカレーがお勧めなの?」


「うんとね。私のお勧めはこのたまごカレーかな」


自分は彼女の勧めるたまごカレーを注文することにした。


「それじゃ、それにする」


「私はこのチーズカレー。どう?ここのお店は?」


彼女から質問され、すぐさまこたえた。


「素敵なお店だと思う」


「どんな風に?」


「君といられるから、どこでも素敵なんだよ」


先程のダメ点を減らそうとしたのだが。。。


『ぷっ』と吹き出す彼女。


「あんまり、きざなことを言っても似合わないよ。そんなことを言うようなタイプの人じゃないんだから。無理しないで良いよ」


「別に無理しているつもりはなかったんだけど」


自分にとってカレーはどうでも良かったのだ。二人でいられる時間をつくること、それ自体が重要だったのだから。。。


それでちょっと言われて恥ずかしくなり、さらにダメ点が加算されていくような感じさえもした。


そうこうしている内に、お互いのカレーが運ばれてきた。


「うわ〜。おいしそうだね」


ご飯とカレーが別々になって、運ばれてきた。自分が知っているカレーはすでにご飯とカレーが一緒になって出てくるものだった。自分は一瞬、戸惑ってしまう。


自分は彼女の様子を伺いながらお皿に載ったご飯の上にカレーをかける。


「うん。ちょっと、たまごカレー食べさせて」


そう言いながら彼女のスプーンを持った手が自分の皿に伸びてきた。


あっけに取られながら、自分も相手の皿に手を伸ばした。


「やっぱり、おいしい。たまごが入っていると、まろやかになるんだよね」


「そうなんだ」


自分はそんなことも知らずに感心してしまう。


「チーズカレーもおいしいよ」


「だって、私、チーズが好きなんだもん」


「ふうん」


「あっ、そうだ。あなたとの相性をみてみたいから、右の親指を見せてくれない?」


急に彼女に言われ、言われるがまま自分の親指以外の指を折り曲げて彼女の目の前に出した。


すると彼女が自分の仕草しぐさを見ながらいきなり笑い出した。そして、


「イエ〜ッ!」


「。。。」


突然のことに自分は呆気にとられてしまった。


「あ〜面白い。引っかかったね」


「えっ?」


「ギャグだよ。ギャグ」


「親父ギャグみたいなことをするんだね」


「いいじゃない。別に」


「それじゃ、自分の番。『ピザ』を10回言ってみて」


今度は自分から彼女に反撃を開始。


「ピザ、ピザ、・・・ピザ。はい、言ったよ」


「じゃあ、ここは」


自分は腕の部分を指差して、彼女に質問した。


「ひざ」


「うわぁ〜。引っかかった〜。ここはひじだよ。ド〜ジ〜」


「きゃはははは。引っかかってあげたんだよ。分ってないなぁ。。。」


「そうなん?」


なんだかんだ言って、彼女のペースに完敗だった。それでもいつしか2人は、仲良く笑っていた。


「ここのカレー、おいしいね」


自分はカレーを口にほおばりながらも感慨深げだった。


「そうでしょ?だからここに連れてきてあげたんだよ」


彼女に言われ、ふとこのままではと思い、言い返す。


「ふふふ。連れてきてあげたのは、自分の車でここに君を連れてきてあげたんだよ」


「うわ〜、やだ〜ぁ。屁理屈おやじ」


「へへんだ。先程までのお返しだい」


自分は笑いながら返事をしていた。


そしてちょっと勇気を振り絞って話しを切り出す。


「これから、あの、君のことを何て呼んだらよいのかな?」


「。。。」


突然の自分の問いかけに、少し戸惑ってしまったようだ。


「愛でいいよ」


「そうか。。。『 愛 』。。。良い響きだね。『 愛 』。。。」


自分は顔をほころばせながら、呟いていた。


「何回も言わないでよ。恥かしいじゃない」


「ごめん。ごめん。なんか呼び捨てするのもいやだから愛ちゃんと呼ばせてもらうね」


「うん、それで良いよ。それじゃあ、○○さんのことは、何て呼んだら良いのかな?」


「浩君でいいよ」


「浩さんね」


「うん、それで良いけど、君付けで呼んでもらえると嬉しいんだけどなぁ。。。?」


「『浩君?』」


「そう、浩君」


「なんだか、歳上の人を君付けして呼びたくないのだけど。。。」


「愛ちゃんは、まじめなんだね」


「私はいつだってまじめですよ」


「そうなんだ。そう見えなかったけどな?」


「いいよ〜だ。これから、不真面目になってあげるから。。。」


「冗談だよ。冗談」


とまあ、そんな感じにお互いの呼び名が決まったのだった。


「だけど会社で浩君なんて呼ばないように気を付けなくちゃね。周りの人がびっくりしてしまうから。。。」


「そうだよね。それだけは、絶対に注意しないといけないよ」


「うん、分った」


さりげない会話なのだけど、その楽しい時間は『あっ』という間に過ぎてしまうものだ。帰りは愛ちゃんを駐車場まで送り、そこで別れることになった。


「今日はありがとう。また来週。会社でね」


愛ちゃんに先に言われてしまい、休みのデートは無しになってしまった。


「こっちこそ、楽しかったよ。また来週。。。そうだ、これから家の前まで、一緒に行くよ」


「なんで?」


「だって、こんなに遅くなっちゃったからさぁ」


「大丈夫だよ。家の前に駐車場があるから」


「わかった。それじゃ、ここで。今度こそ来週ね」


お互いに車のエンジンをかけ、ヘッドランプを点けた。


何とも言えない、むなしい瞬間だ。楽しく時間を過ごした後での、もの静かな空間。自分はこの気持ちをまぎらわすために愛子さんのCDをかけた。






湘南平しょうなんだいら


あっという間に休みが終ってしまって月曜日。会社に行くのは気が重いのだけど、愛ちゃんに会えるのは非常に楽しみ。


「おっ、はよう」


駐車場で愛ちゃんに元気な声をかけられた。


「あ、おはよう」


「先週の金曜日はどうもありがとうございました。楽しかったよ。また、行こうね、浩君」


愛ちゃんからこう言われ、予想もしていなかった言葉を受けて、がぜん急に元気が出て来た。自分は以外と単純なのかも知れない。男はみんな、そんなものなのだろう。


「会社の帰りにどこか行かない?もちろん、自分の仕事が早く終ったらだけど」


「うん。いいよ」


案外すんなり愛ちゃんからO.K.をもらい、今日の仕事もはかどりそうそうだ。


「待ち合わせはどこにしようか?」


「会社の人達に知れるといやだから、裏の道路でどうかなぁ?」


「そうだね。いいよ。じゃあ、そこの道路に自分の車で行くから待っていてね」


「うん。わかった」


愛ちゃんのうるうるしている瞳がすっごく可愛い。これが恋をしている瞬間なんだろうな、きっと。そうこう話していると、あっという間に会社に到着した。


「なんだ今日は二人そろってご出勤かい?仲が良いね」


上司に見られて茶化されてしまった。


「えっ、まあそうですね。たまたま駐車場で会ったもんで」


さあ、仕事だ。


この日の仕事はちょっとばかり上の空だったような感じで作業していたような気がする。


会社のベルが鳴り、帰ろうとする自分に上司が声をかけてきた。


「今日はもう、帰りかい?」


「ええ、帰らせていただこうと思っていますが。」


「そうか。まあ、いいや」


上司は何か言いたげだった。


『だけど、今日の分はしっかり終らせたと思うから、とやかく言われる筋合いはないはずなんだけど。。。』


「それでは、お先に失礼します」


そう言って自分は会社を後にして、車で待ち合わせ場所まで向かった。そして車から降りずに窓を開けながら愛ちゃんに声をかけた。


「お待たせ。誰かと待ち合わせかい、お嬢さん?」


愛ちゃんは先にここの裏の道路で携帯をいじりながら待っていた。


「いいえ。ただ、ここで携帯を見ているだけですよ、お兄さん」


つっけんどんな返答があり、それから愛ちゃんにアッカンベーをされてしまった。


「仕事は終ったの?」


「一応、終ったよ。なんで?」


「いや、別に。浩君の仕事のこなし方は、遅いからさぁ。。。」


「あっそ。まあ、いいや。それじゃ、今日はどこに行こうか?さあ、お乗りになってください、お嬢様」


自分は車に乗ったまま内側からドアノブを軽く引っ張りドアを開けた。


「ありがとう。狭い車だけどしょうがないから乗ってあげる」


「狭い車で悪かったね〜。でも、これがちょうど良いんだよ」


「どうして、ちょうど良いのかな?」


愛ちゃんの聞き返しに、軽自動車の良さのことを思い出していた。


「それで、どこに行く?」


「そうねぇ〜。今、ちょうど桜の時期だから、湘南平しょうなんだいらに行きたい」


「湘南平?実のところ、自分は行ったことがないんだよね。道を教えてくれる?」


「いいよ。私は平塚に住んでいるから良く知っているもん」


「それじゃ、お願いします」


愛ちゃんは平塚に住んでいるので、さすがに道に詳しい。


裏道を教えてもらいながら車を進ませて行くと、あっけなく湘南平に着いてしまった。


「桜の時期だけど、会社が終ってすぐに来たから道がすいていたね。普段ならこの時期は渋滞していて、ここの駐車場もいっぱいだよ」


「そうなんだ」


自分は初めて来た場所なので分らずにいた。


ひとまず駐車場に車を止めた。すでに何台かの車が止っている。


「ここから歩いて行くんだよ。展望台のようなものがあって、海を見渡せるようになっているんだから。。。」


完全に愛ちゃんのぺース。車を降りて歩き始める。すると少し冷んやりとした空気の中で、辺り一面に桜の甘い香りが漂っている。


「うわ〜。良い香りだね」


「今の時期って、良いよね。これから夏を迎える時期って、一番好き」


「うん。自分も。そうだ、折角来たのだから記念に写真を撮ってあげる」


「ええっ?いいよ。恥かしいもん」


「そんな遠慮しなくて良いよ。さあ、そこの桜の木の下に立って」


「しょうがないなぁ。ここで良い?」


「もうちょっと、右。じゃあ撮るよ。1たす1は?」


「2」


そう言った時に自分はシャッターを降ろした。


「古い言い方だよ。まったく。ほかにないの?」


「そうだな。。。自分で考えたものがあるよ。それは、『バケツの水で消すものは?』」


「『 火 』。なんだかあまり変わらないよ」


「まあとにかく、愛ちゃんの素敵な笑顔が撮れたから良しとしてね」


「浩君は写真を撮らないの?」


「自分はいいよ。もし撮るのなら、愛ちゃんと一緒が良いな。。。」


自分はちょっと照れながら愛ちゃんの様子を伺がった。


「別に一緒に撮ってもらってもかまわないけど。誰かに撮ってもらわないと。。。」


「じゃあ、あそこのカップルに頼もう」


そうして一緒に撮った記念すべき最初の写真が出来上がったのだった。それは薄っすらとピンク色に染まった桜の木の下で、二人並んでちゃっかりと寄り添っているものだった。


その後で少し歩いていると他にも何組かのカップルがいて、手をつないで歩いている姿が目に映る。


「あのさ〜。あの〜。手をつながない?」


自分はまたしても少し照れながら、愛ちゃんに訊ねてみた。


「えっ。ずかしいよ」


「いいじゃん。折角だから。お願い」


何が折角なのかわからないけれど、自分は勇気を出して愛ちゃんの手を握った。


「なんかさ。こうやって歩いていると、幸せを感じるんだけど」


手のひらから愛ちゃんのぬくもりが伝わってくる。


愛ちゃんは、うつむいて顔を赤くしている。


「何、桜のように赤くなっているんだよ」


自分は愛ちゃんの顔をのぞき込むようにして話をした。


「そんなことないもん。ちょっと、熱いだけだもん」


「こんなに空気が冷んやりしているのに?」


「いいの。ちょっと、熱いの」


さっきまでの、話し方と全然違ってしまった愛ちゃんにしばらくみとれてしまった。


「何、覗き込んでいるのよ。や〜ねぇ」


そう言われて、愛ちゃんに手を離され、軽く突き飛ばされてしまった。


「いや、いや。正直、ちょっとみとれてしまったんだよ」


「あっ、そう。あそこを登って行くと海が見渡せるんだよ」


話しをそらされてしまい、愛ちゃんの指差す方を見た。


そこをみると、鉄塔らしきものが建っていた。それはテレビ塔だった。


テレビ塔を登って行くと落下防止のための柵に数え切れないほどの『もの』が目についた。


自分は何でこんな所にこのような様々な形の『もの』があるのか疑問だった。


その『もの』とは、『鍵』だったのだ。南京錠なんきんじょうもあれば、チェーン式のものもある。その上、その鍵にはふたりの名前をマジックで書いたものやら、何かでふたりの名前を彫っていたのだった。


「なんで鍵なの?これらのものはどんな意味があるのかなぁ?」


自分は、すぐ脇を歩いている愛ちゃんにすぐさまたずねていた。


愛ちゃんはポカンとした顔で自分を見ている。


「えっ?本当に知らないの?」


「うん、知らない。だから聞いているの」


「そうなんだぁ。。。」


愛ちゃんは少し、がっかりしているような表情をした。


「鍵はね、くっついたら離れないでしょ?だから、いつまでも一緒にいられますようにと願いを込めてカップルがここに取り付けに来てるんだよ」


「へぇ〜、そうなんだぁ。じゃあ、自分達も取り付けにこなくっちゃ」


「そう言うと思っていたよ。だから話したくなかったんだよ」


「そんなぁ〜。鍵を持って、また来ようよ、ねっ?」


自分は愛ちゃんをうながした。


愛ちゃんは微笑みながらおどけている。


「あのね、こんな時に話すことではないんだけど。。。私、前に付き合っていた人とここに来たことがあるの。だけど別れちゃった」


自分は黙ったまま、ただ聞いていた。


『それでも好きになった愛ちゃんだもの。良く考えればそんな大事なことを自分に告白してくれたってことだよ。。。』


自分自身にそう言い聞かせていた。


「だから本当のことを言えばここに来るのが辛かったんだ」


愛ちゃんからの言葉ひとつひとつが心にみ渡ってしまっている。

「だけど、なんでそんな場所に来たいって言ったの?それならば、もうここに来たくないな。そんな場所に来るのは止めようよ」


「私自身に区切りをつけたかったんだ。ごめんね、浩君」


自分は複雑な心境でいた。


『愛ちゃんは本当に前の彼氏を忘れられるのだろうか?』


「でも、もう大丈夫だよ。今の私の瞳には浩君しか映っていないもの」


その言葉を聞いて、いくらか自分の心はなぐさめられた。


「それじゃ、気を取り直して夜景を楽しもう」


自分はいくぶん元気な表情を見せて愛ちゃんを見つめ直す。


テレビ塔の一番上に着き、見下ろすとあちらこちらの電灯が夕暮れの準備を始めている。


「奇麗だね」


「うん」


愛ちゃんの横顔を見つめながら自分はつぶやく。


「心配しなくても、愛ちゃんのことじゃないからね。。。」


「。。。。。 、 いじわる」


「嘘だよ。どんな夜景より愛ちゃんの方がとっても奇麗だよ」


「ぷっ。また、きざな事を言って。。。笑っちゃうから止めてよ」


「なんだよ、き出すなよ。本気で言っているのに。。。」


「浩君には似合わないよ」


「そうかなぁ?」


「そうだよ」


「いつかは、きっと似合うようになってみせるからな」


愛ちゃんは思いっきり笑い出していた。


「それにしても、まだちょっと寒いね」


愛ちゃんはそう言いつつ、少し寒さで震え出している。


自分は着ていたジャケットを脱ぎ、そっと愛ちゃんの肩にかけてあげながら、抱き寄せた。


「自分のこの気持ちで、愛ちゃんを暖めてあげるよ」


愛ちゃんはまたしても自分を見ながら笑いだしている。


それでも、めげずにいる自分は続けて話し続ける。


「いつまでも、こうした時間を一緒に過ごせたら、本当に幸せなんだろうな」


「。。。。。」


愛ちゃんのつぶらな瞳がかすかにうなずいていた。


だが、時間とは時として、無情なものでもあるんだよね。それは後で思い知らされることになってしまうとは、この時は知るよしもなかった。


しばらくして、愛ちゃんに思いついたお願いをすることにした。


「帰りに愛ちゃんの家まで送って行くよ。と言っても、君の車の後について行くよ」


「えっ?なんで。。。」


「その〜。明日から会社に一緒に行かない?」


自分は無我夢中で言葉を絞り出していた。


「会社に?一緒に?どうして?」


愛ちゃんは疑問をいっぱい頭に思い浮かべていたようだった。


「そうだよ。毎日、君の家まで送り迎えするよ」


「うっそ〜?なんで〜?」


「嘘なんかつきませんよ。信じてよ。どうしても、そうしたいんだ」


しばらくの沈黙の後、愛ちゃんは頷いてくれた。


「良いよ。ただ、条件があるの。良いかなぁ?」


愛ちゃんから条件があるなんて言われてしまってドギマギしている。


「何?条件って?」


自分はその条件が気になってすぐさま訊ねていた。


「あのね。一緒に会社まで行くのはあまり良くないと思うの。。。」


自分はそれを聞いて少しがっかりしてしまった。


「だけど、会社の近くで降ろしてくれるのなら良いよ」


今度はその言葉を聞いて、自分はほっと胸をで下ろし、元気をもらっていた。


「なんだ、そんなことか。」


自分達は、それからずっと自然に肩を寄せ合ったまま、ゆっくりと駐車場まで移動した。


そう、自分の右腕はしっかりと愛ちゃんの肩を抱き寄せていた。


『良いな〜。この雰囲気』


自分の気持はすっかり愛ちゃんに溶け込んでしまっていた。


しばらくして、唐突に愛ちゃんがたずねてきた。


「1つ質問して良いかなぁ?」


「何?」


自分はぶっきらぼうに聴き返す。


「何で浩君が左側にいるの?通常、男性は右側にいるもんじゃないの?」


「ははははは。別に右側にいても良いけど、自分の考えは『左側』。それはね、何でだと思う?」


「わからないから、聞いているんじゃない?」


「教えて欲しい?」


「別に教えてもらわなくったって良いけど。。。」


「しょうがないから、教えてあげるよ。単純な事だよ。日本では、歩行者は道路のどちら側を歩くルールになっている?」


「もちろん、右側通行だよ」


「でしょ?と言う事は男が右側を歩いていたら女性が左。つまり車が通る方に近い危ない位置になるでしょ?だから自分は左側で愛ちゃんを守っているんだよ。別に自分は右側を歩いても良いんだけど。。。位置を変える?」


「いや。そう言うことならこのままで良いよ。。。そう言う事だったのね」


「まあね。考えているでしょ?」


「まっ、そうね。。。もう、今日はお別れになっちゃうね」


「しょうがないよ。また、あした会えるんだから」


あっという間に愛車のミ○○ルコに辿たどり着いてしまった。






(愛弁当)


そんなこんなで、次の日から自分は会社に行く日は毎日愛ちゃんの家の近くで待ち合わせをすることになる。そして自分は家を出てから愛ちゃんの家の近くに着いてから朝ご飯を食べる習慣になった。


朝ご飯はコンビニ弁当。愛ちゃんが来るまでの間にいつも急いで食べ終わるようにしていたのだ。そんなこともいつしか愛ちゃんに気付かれてしまった。


「毎日、ありがとう。車の中でコンビニ弁当を食べているんでしょ?」


「まあね。だけど、気にしないでね」


「じゃあさぁ。明日から私がお弁当を作って来てあげる」


「えっ?いいの?無理しなくていいよ」


「ううん。無理なんかしないよ。私の分も作ってくるから、一緒に朝のお弁当を食べない?」


今の会社に就職するきっかけは新聞の折り込みの情報欄で見つけた。前の会社は好きだったんだけど、どうしても海外に行ってみたくて辞めてしまった。そしてニュージーランドに行ってきた。なんとか再就職出来てほっとひと安心している間に月日が早く流れている。


そしてそんな時に、1人の女性社員が入社してきた。彼女も転職してきたのだ。彼女は若干26歳の可愛い娘で、自分の好みのタイプだった。それがいつしかことあるごとに何故か気になる存在になっていて、会社を休むと『どうしたんだろう?』と考えてしまうほどになってしまい。。。彼女が単に有給休暇をとってどこかに出かけていたとしても、『誰とでかけているんだろう?』なんて考えているしまつ。彼女の彼氏でもないのに。。。


ついに自分は自分の気持ちを押さえきれずに猛烈にアタックを開始することにしたのだった。そして会社の帰りに彼女も止めている駐車場で待つことにしたのだった。実は彼女も自分と同じ駐車場を借りているのだ。ストーカーではないが、とにかく『しない後悔よりする後悔』を選んだのだった。うじうじしていても何も始まらないではないか。。。それだったらチャレンジして後悔した方が良いもんだ。


そしてこれからの彼女との出会いがこの物語の始まりになる。。。






(出会い)


自分はここの駐車場でかなり落ちつきなく待っている。


『もう、来ても良い時間なんだけどな?遅いな〜。』


ドキドキする心臓と戦いながら、彼女の来るのを待っていた。


そしてついに彼女が近づいて来る。自分は彼女が通り過ぎる前に、車から飛び出て声をかけた。


「お疲れ様。今日これから一緒にご飯を食べない?」


どぎまぎして震える声で彼女に声をかけたのだった。


「わぁ、びっくりした。どうしたんですか?突然。。。」


自分は一呼吸して、もう一度言った。


「だから自分と一緒にご飯を食べない?」


「えっ?私とですか?」


「そうだよ。君と」


「だけど急すぎますよ。だって親に何にも言ってきてないから驚いてしまうと思いますし。。。もう、ご飯の支度もしているでしょうし。。。」


「ん〜。確かにそうかもしれない」


「だったら今度の金曜日にしません?」


「今度の金曜日か。ま、いいよ」


逆に設定されてしまったが、約束を出来た嬉しさを隠せずにいた。

やはりチャレンジしたかいがあったのだ。


自分は心の中でちいさなガッツポーズをとって喜んでいた。


「でも、誘っていただいて嬉しいです」


「あのさぁ、会社じゃないんだから丁寧な言葉使いしなくていいよ」


「はい、いいですよ」


「またぁ〜。。。。。言葉使いが、変わってないよ」


「分った。じゃあこれからはそうする。それじゃ、金曜日の帰りにここで待ち合わせしましょ」


「良かった。そうこなくっちゃ。ここで待っているからね」


彼女が見えなくなった後で、自分は車に乗り込むとハンドルを両手で握り締めながら『ヤッター』と小さい声で歓声をあげ、おさるさんのように体を揺さ振りながら、はしゃいでいた。


そして待ちに待った金曜日。たった2日間がこれほど、ものすごく長く感じたことはなかっただろう。


なんだか浮き浮きし過ぎて仕事が手に付かないような感じだった。


そしてついに、会社の終了時間を知らせるベルが鳴った。


自分は急いで作業着から普段着に着替えると、駐車場に一目散に向かった。


その途中で彼女が後ろから声をかけてきた。


「早いじゃん」


「そりゃ、いつものことだよ。何をするにしても、早いの」


「うそばっかり。仕事は遅いくせして。。。」


「ばれたか。仕事は遅いですよ〜だ」


「で、どこに行くの?」


彼女に訊ねられてもどこに行くかを考えてもいなかった。なんたる失敗。。。


自分は、頭をかきながら彼女に聞いた。


「どこか行きたいところある?」


「カレー屋さんはどう?」


「カレー屋さんか。。。」


「いやなら、別のところでも良いよ」


「大丈夫だよ。そこにしよう」


自分は何も考えていなかったので、バツが悪かった。そこで彼女の方からすぐにアイデアが出て来てきてくれたことに感謝していた。


「それで、どの辺にあるの?」


「車でたぶん10分くらいのところだよ」


「それじゃ、そこに行こう。それで自分の車で行く?」


「いいよ」


ということで自分の軽自動車のミ○○ルコでカレー屋さんに行くことになったのでした。初めてのデート。自分は凄く緊張をしている。助手席の彼女に目を向けると、いたって落ちついているように見える。結構いろんな人とデート経験をしているんだろうな?それに比べ自分は。。。まあ、とにかく、そのお店までは彼女の口答によるナビで向かったのでした。


『だけど、こんな時って小さい軽自動車は良いよね。だって彼女がすぐ脇にいるんだよ。幸せじゃん。大きい車だったら、助手席も離れているから、ちょっと寂しいだろうにね。きっと、ちょっとどころじゃないだろうな。。。こんなに近くに彼女が座っているんだもん』


自分は心の中でぶつぶつとつぶやいていた。


カレー屋さんに着くと店の前に駐車する。


このお店はあまり大きくなく、こぢんまりとしていて喫茶店の雰囲気を持った感じだった。駐車場には車を5台ほど止めるスペースがあったが、自分の車だけしか止まっていなかった。


『ほかにお客さんはいないようだ』


ほかにお客さんがいないと分ると、自分はにんまりしてしまった。


『まさしく彼女と2人きりのデートだ。。。。』


彼女のためにドアノブを引き、先にお店に入れてあげた。自分達がお店に一歩入るなり元気のよい女子店員の声に出迎えられた。


「いらっしゃいませ。おふたりですか?」


「はい」


応える自分。


『このおふたりですか?なんて響き、とっても良いじゃない?』


我に返り怪訝そうにみている彼女に、自分の様子がばれてしまったかもしれない。


「空いているお好きなお席にどうぞ」


自分達は窓辺の白いレースのカーテンがおしゃれな雰囲気をかもし出している席に向かい合せで座った。


先程の女子店員からメニューとお水とおしぼりをもらう。


「お決りになりましたらお呼びください」


自分はメニューを見ながら悩んでしまった。それもそのはず、カレー専門店は初めてなのだ。


「実はさ、君のためにここのお店を貸し切りにしたんだよ」


「なに言っているの?」


「ははは。ちょっと言ってみたかっただけさ」


あきれちゃうよね。そんなこと言っているから、ほかのお客さんが来ちゃったじゃない。。。」


早速、ダメ点が+1になってしまい、少々落ち込む自分。そんなことにめげずに彼女に向かって次なる話題を切り出す。


「こんなに種類があると迷ってしまうよ。どのカレーがお勧めなの?」


「うんとね。私のお勧めはこのたまごカレーかな」


自分は彼女の勧めるたまごカレーを注文することにした。


「それじゃ、それにする」


「私はこのチーズカレー。どう?ここのお店は?」


彼女から質問され、すぐさまこたえた。


「素敵なお店だと思う」


「どんな風に?」


「君といられるから、どこでも素敵なんだよ」


先程のダメ点を減らそうとしたのだが。。。


『ぷっ』と吹き出す彼女。


「あんまり、きざなことを言っても似合わないよ。そんなことを言うようなタイプの人じゃないんだから。無理しないで良いよ」


「別に無理しているつもりはなかったんだけど」


自分にとってカレーはどうでも良かったのだ。二人でいられる時間をつくること、それ自体が重要だったのだから。。。


それでちょっと言われて恥ずかしくなり、さらにダメ点が加算されていくような感じさえもした。


そうこうしている内に、お互いのカレーが運ばれてきた。


「うわ〜。おいしそうだね」


ご飯とカレーが別々になって、運ばれてきた。自分が知っているカレーはすでにご飯とカレーが一緒になって出てくるものだった。自分は一瞬、戸惑ってしまう。


自分は彼女の様子を伺いながらお皿に載ったご飯の上にカレーをかける。


「うん。ちょっと、たまごカレー食べさせて」


そう言いながら彼女のスプーンを持った手が自分の皿に伸びてきた。


あっけに取られながら、自分も相手の皿に手を伸ばした。


「やっぱり、おいしい。たまごが入っていると、まろやかになるんだよね」


「そうなんだ」


自分はそんなことも知らずに感心してしまう。


「チーズカレーもおいしいよ」


「だって、私、チーズが好きなんだもん」


「ふうん」


「あっ、そうだ。あなたとの相性をみてみたいから、右の親指を見せてくれない?」


急に彼女に言われ、言われるがまま自分の親指以外の指を折り曲げて彼女の目の前に出した。


すると彼女が自分の仕草しぐさを見ながらいきなり笑い出した。そして、


「イエ〜ッ!」


「。。。」


突然のことに自分は呆気にとられてしまった。


「あ〜面白い。引っかかったね」


「えっ?」


「ギャグだよ。ギャグ」


「親父ギャグみたいなことをするんだね」


「いいじゃない。別に」


「それじゃ、自分の番。『ピザ』を10回言ってみて」


今度は自分から彼女に反撃を開始。


「ピザ、ピザ、・・・ピザ。はい、言ったよ」


「じゃあ、ここは」


自分は腕の部分を指差して、彼女に質問した。


「ひざ」


「うわぁ〜。引っかかった〜。ここはひじだよ。ド〜ジ〜」


「きゃはははは。引っかかってあげたんだよ。分ってないなぁ。。。」


「そうなん?」


なんだかんだ言って、彼女のペースに完敗だった。それでもいつしか2人は、仲良く笑っていた。


「ここのカレー、おいしいね」


自分はカレーを口にほおばりながらも感慨深げだった。


「そうでしょ?だからここに連れてきてあげたんだよ」


彼女に言われ、ふとこのままではと思い、言い返す。


「ふふふ。連れてきてあげたのは、自分の車でここに君を連れてきてあげたんだよ」


「うわ〜、やだ〜ぁ。屁理屈おやじ」


「へへんだ。先程までのお返しだい」


自分は笑いながら返事をしていた。


そしてちょっと勇気を振り絞って話しを切り出す。


「これから、あの、君のことを何て呼んだらよいのかな?」


「。。。」


突然の自分の問いかけに、少し戸惑ってしまったようだ。


「愛でいいよ」


「そうか。。。『 愛 』。。。良い響きだね。『 愛 』。。。」


自分は顔をほころばせながら、呟いていた。


「何回も言わないでよ。恥かしいじゃない」


「ごめん。ごめん。なんか呼び捨てするのもいやだから愛ちゃんと呼ばせてもらうね」


「うん、それで良いよ。それじゃあ、○○さんのことは、何て呼んだら良いのかな?」


「浩君でいいよ」


「浩さんね」


「うん、それで良いけど、君付けで呼んでもらえると嬉しいんだけどなぁ。。。?」


「『浩君?』」


「そう、浩君」


「なんだか、歳上の人を君付けして呼びたくないのだけど。。。」


「愛ちゃんは、まじめなんだね」


「私はいつだってまじめですよ」


「そうなんだ。そう見えなかったけどな?」


「いいよ〜だ。これから、不真面目になってあげるから。。。」


「冗談だよ。冗談」


とまあ、そんな感じにお互いの呼び名が決まったのだった。


「だけど会社で浩君なんて呼ばないように気を付けなくちゃね。周りの人がびっくりしてしまうから。。。」


「そうだよね。それだけは、絶対に注意しないといけないよ」


「うん、分った」


さりげない会話なのだけど、その楽しい時間は『あっ』という間に過ぎてしまうものだ。帰りは愛ちゃんを駐車場まで送り、そこで別れることになった。


「今日はありがとう。また来週。会社でね」


愛ちゃんに先に言われてしまい、休みのデートは無しになってしまった。


「こっちこそ、楽しかったよ。また来週。。。そうだ、これから家の前まで、一緒に行くよ」


「なんで?」


「だって、こんなに遅くなっちゃったからさぁ」


「大丈夫だよ。家の前に駐車場があるから」


「わかった。それじゃ、ここで。今度こそ来週ね」


お互いに車のエンジンをかけ、ヘッドランプを点けた。


何とも言えない、むなしい瞬間だ。楽しく時間を過ごした後での、もの静かな空間。自分はこの気持ちをまぎらわすために愛子さんのCDをかけた。






湘南平しょうなんだいら


あっという間に休みが終ってしまって月曜日。会社に行くのは気が重いのだけど、愛ちゃんに会えるのは非常に楽しみ。


「おっ、はよう」


駐車場で愛ちゃんに元気な声をかけられた。


「あ、おはよう」


「先週の金曜日はどうもありがとうございました。楽しかったよ。また、行こうね、浩君」


愛ちゃんからこう言われ、予想もしていなかった言葉を受けて、がぜん急に元気が出て来た。自分は以外と単純なのかも知れない。男はみんな、そんなものなのだろう。


「会社の帰りにどこか行かない?もちろん、自分の仕事が早く終ったらだけど」


「うん。いいよ」


案外すんなり愛ちゃんからO.K.をもらい、今日の仕事もはかどりそうそうだ。


「待ち合わせはどこにしようか?」


「会社の人達に知れるといやだから、裏の道路でどうかなぁ?」


「そうだね。いいよ。じゃあ、そこの道路に自分の車で行くから待っていてね」


「うん。わかった」


愛ちゃんのうるうるしている瞳がすっごく可愛い。これが恋をしている瞬間なんだろうな、きっと。そうこう話していると、あっという間に会社に到着した。


「なんだ今日は二人そろってご出勤かい?仲が良いね」


上司に見られて茶化されてしまった。


「えっ、まあそうですね。たまたま駐車場で会ったもんで」


さあ、仕事だ。


この日の仕事はちょっとばかり上の空だったような感じで作業していたような気がする。


会社のベルが鳴り、帰ろうとする自分に上司が声をかけてきた。


「今日はもう、帰りかい?」


「ええ、帰らせていただこうと思っていますが。」


「そうか。まあ、いいや」


上司は何か言いたげだった。


『だけど、今日の分はしっかり終らせたと思うから、とやかく言われる筋合いはないはずなんだけど。。。』


「それでは、お先に失礼します」


そう言って自分は会社を後にして、車で待ち合わせ場所まで向かった。そして車から降りずに窓を開けながら愛ちゃんに声をかけた。


「お待たせ。誰かと待ち合わせかい、お嬢さん?」


愛ちゃんは先にここの裏の道路で携帯をいじりながら待っていた。


「いいえ。ただ、ここで携帯を見ているだけですよ、お兄さん」


つっけんどんな返答があり、それから愛ちゃんにアッカンベーをされてしまった。


「仕事は終ったの?」


「一応、終ったよ。なんで?」


「いや、別に。浩君の仕事のこなし方は、遅いからさぁ。。。」


「あっそ。まあ、いいや。それじゃ、今日はどこに行こうか?さあ、お乗りになってください、お嬢様」


自分は車に乗ったまま内側からドアノブを軽く引っ張りドアを開けた。


「ありがとう。狭い車だけどしょうがないから乗ってあげる」


「狭い車で悪かったね〜。でも、これがちょうど良いんだよ」


「どうして、ちょうど良いのかな?」


愛ちゃんの聞き返しに、軽自動車の良さのことを思い出していた。


「それで、どこに行く?」


「そうねぇ〜。今、ちょうど桜の時期だから、湘南平しょうなんだいらに行きたい」


「湘南平?実のところ、自分は行ったことがないんだよね。道を教えてくれる?」


「いいよ。私は平塚に住んでいるから良く知っているもん」


「それじゃ、お願いします」


愛ちゃんは平塚に住んでいるので、さすがに道に詳しい。


裏道を教えてもらいながら車を進ませて行くと、あっけなく湘南平に着いてしまった。


「桜の時期だけど、会社が終ってすぐに来たから道がすいていたね。普段ならこの時期は渋滞していて、ここの駐車場もいっぱいだよ」


「そうなんだ」


自分は初めて来た場所なので分らずにいた。


ひとまず駐車場に車を止めた。すでに何台かの車が止っている。


「ここから歩いて行くんだよ。展望台のようなものがあって、海を見渡せるようになっているんだから。。。」


完全に愛ちゃんのぺース。車を降りて歩き始める。すると少し冷んやりとした空気の中で、辺り一面に桜の甘い香りが漂っている。


「うわ〜。良い香りだね」


「今の時期って、良いよね。これから夏を迎える時期って、一番好き」


「うん。自分も。そうだ、折角来たのだから記念に写真を撮ってあげる」


「ええっ?いいよ。恥かしいもん」


「そんな遠慮しなくて良いよ。さあ、そこの桜の木の下に立って」


「しょうがないなぁ。ここで良い?」


「もうちょっと、右。じゃあ撮るよ。1たす1は?」


「2」


そう言った時に自分はシャッターを降ろした。


「古い言い方だよ。まったく。ほかにないの?」


「そうだな。。。自分で考えたものがあるよ。それは、『バケツの水で消すものは?』」


「『 火 』。なんだかあまり変わらないよ」


「まあとにかく、愛ちゃんの素敵な笑顔が撮れたから良しとしてね」


「浩君は写真を撮らないの?」


「自分はいいよ。もし撮るのなら、愛ちゃんと一緒が良いな。。。」


自分はちょっと照れながら愛ちゃんの様子を伺がった。


「別に一緒に撮ってもらってもかまわないけど。誰かに撮ってもらわないと。。。」


「じゃあ、あそこのカップルに頼もう」


そうして一緒に撮った記念すべき最初の写真が出来上がったのだった。それは薄っすらとピンク色に染まった桜の木の下で、二人並んでちゃっかりと寄り添っているものだった。


その後で少し歩いていると他にも何組かのカップルがいて、手をつないで歩いている姿が目に映る。


「あのさ〜。あの〜。手をつながない?」


自分はまたしても少し照れながら、愛ちゃんに訊ねてみた。


「えっ。ずかしいよ」


「いいじゃん。折角だから。お願い」


何が折角なのかわからないけれど、自分は勇気を出して愛ちゃんの手を握った。


「なんかさ。こうやって歩いていると、幸せを感じるんだけど」


手のひらから愛ちゃんのぬくもりが伝わってくる。


愛ちゃんは、うつむいて顔を赤くしている。


「何、桜のように赤くなっているんだよ」


自分は愛ちゃんの顔をのぞき込むようにして話をした。


「そんなことないもん。ちょっと、熱いだけだもん」


「こんなに空気が冷んやりしているのに?」


「いいの。ちょっと、熱いの」


さっきまでの、話し方と全然違ってしまった愛ちゃんにしばらくみとれてしまった。


「何、覗き込んでいるのよ。や〜ねぇ」


そう言われて、愛ちゃんに手を離され、軽く突き飛ばされてしまった。


「いや、いや。正直、ちょっとみとれてしまったんだよ」


「あっ、そう。あそこを登って行くと海が見渡せるんだよ」


話しをそらされてしまい、愛ちゃんの指差す方を見た。


そこをみると、鉄塔らしきものが建っていた。それはテレビ塔だった。


テレビ塔を登って行くと落下防止のための柵に数え切れないほどの『もの』が目についた。


自分は何でこんな所にこのような様々な形の『もの』があるのか疑問だった。


その『もの』とは、『鍵』だったのだ。南京錠なんきんじょうもあれば、チェーン式のものもある。その上、その鍵にはふたりの名前をマジックで書いたものやら、何かでふたりの名前を彫っていたのだった。


「なんで鍵なの?これらのものはどんな意味があるのかなぁ?」


自分は、すぐ脇を歩いている愛ちゃんにすぐさまたずねていた。


愛ちゃんはポカンとした顔で自分を見ている。


「えっ?本当に知らないの?」


「うん、知らない。だから聞いているの」


「そうなんだぁ。。。」


愛ちゃんは少し、がっかりしているような表情をした。


「鍵はね、くっついたら離れないでしょ?だから、いつまでも一緒にいられますようにと願いを込めてカップルがここに取り付けに来てるんだよ」


「へぇ〜、そうなんだぁ。じゃあ、自分達も取り付けにこなくっちゃ」


「そう言うと思っていたよ。だから話したくなかったんだよ」


「そんなぁ〜。鍵を持って、また来ようよ、ねっ?」


自分は愛ちゃんをうながした。


愛ちゃんは微笑みながらおどけている。


「あのね、こんな時に話すことではないんだけど。。。私、前に付き合っていた人とここに来たことがあるの。だけど別れちゃった」


自分は黙ったまま、ただ聞いていた。


『それでも好きになった愛ちゃんだもの。良く考えればそんな大事なことを自分に告白してくれたってことだよ。。。』


自分自身にそう言い聞かせていた。


「だから本当のことを言えばここに来るのが辛かったんだ」


愛ちゃんからの言葉ひとつひとつが心にみ渡ってしまっている。

「だけど、なんでそんな場所に来たいって言ったの?それならば、もうここに来たくないな。そんな場所に来るのは止めようよ」


「私自身に区切りをつけたかったんだ。ごめんね、浩君」


自分は複雑な心境でいた。


『愛ちゃんは本当に前の彼氏を忘れられるのだろうか?』


「でも、もう大丈夫だよ。今の私の瞳には浩君しか映っていないもの」


その言葉を聞いて、いくらか自分の心はなぐさめられた。


「それじゃ、気を取り直して夜景を楽しもう」


自分はいくぶん元気な表情を見せて愛ちゃんを見つめ?%

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